第5話 京の街 参
「なんか面白いものでもあったか?」
同じく手持ち無沙汰で、店の壁にもたれかかっていた
中に花びらのような物が入った
「そうじゃな……、この店に並んでいる品は
「俺も弥助とは長い付き合いだが、
ま、ちょっとした
「おぉ〜い。人の売り物をひやかすのはやめてくれよぉ〜。たまには買っていけぇ」
そこに、店の奥から大きな荷を持った弥助が不満をたらしながら戻ってきた。
「買ったって、何に使うか分かんなかったら、ただのゴミだろうが」
「ゴミなんかじゃぁないって言ってるだろう! これを見ろぉ、これを。
ここがこう動いてこうなるんだぁ。どうだぁ、
「なるほど、
「なぁああんでだぁよぉ!」
商品に全く興味を示さない衛実の態度に、
そんな2人のやり取りに
「その、衛実と弥助殿は、一体どんな風に知り合ったのじゃ?」
納得がいかず、不満顔で見てくる弥助の視線を受け流しながら、衛実は朱音の質問に答えた。
「弥助、でいいぞ朱音。
さっきの屋敷でも話したが、前の
ちょうどそんぐらいの時に、俺は弥助と知り合ったんだ」
「あの時はまだ素直に仕事をしてくれてたのになぁ。今はいちいち
腕を組んで思い出に
そんな彼を衛実は目を細めて
「だったらいい
とまあ、こんな感じで、弥助は俺の仕事相手って所だ。
仕事はクソだが、報酬は良い。しかもちゃんと払われるから、他の所よりはマシだな」
「そうそう。だから日頃の感謝を込めて、ここの商品を買っていけぇ?」
「それとこれとは話は別だ」
流れるような衛実と弥助のやり取りが、今に始まったことではなく、その
「なるほどな。つまり、2人は
「どっちかって言うと
衛実は、朱音の下した判断に少しばかり不満を感じつつも、取り敢えず流して、弥助に今回の仕事内容についての確認を取った。
彼の問いに
「そうだよぉ。朱音ちゃんって言ったかい?
彼女にも出来るような仕事ということで、荷物運びだよぉ。
ちょうど今、この荷を届けて欲しい所があってねぇ。だから今回はこれを頼もうかなぁ」
弥助から任された仕事が思いのほか簡単だったため、朱音は思わずキョトン、とした表情を浮かべる。
「荷物を届けるだけで
朱音が追加の仕事を求めようとするのを、衛実は
「まあそう
いきなり本格的な仕事をしても、そう簡単には上手くいかねえから。今日は慣れってことで少しずつ
「うんうん。衛実の言う通りだぁ。焦らないで少しずつやっていこぉ。
でもそのやる気は大切だからねぇ。頑張っていこうねぇ」
衛実と弥助に言いくるめられた朱音は、まだ納得しきれていない様子を見せつつも、黙って2人の助言を聞き入れることにした。
「ふむ……、分かったのじゃ」
「よし。それじゃ、行くぞ」
準備を
「あ、今日は朱音ちゃんの初仕事ということで、報酬を
それで衛実に町を案内してもらいなぁ」
いつになく景気の良いようなことを言う弥助に、衛実は普段の自分との
「
「女の子には優しくしないとだぞぉ、衛実」
ニヤニヤしながら言い返してくる弥助にうんざりした表情を浮かべながら、衛実はこれ以上彼の方に意識を向けまいと、特に意味もなく朱音に出発の確認を取るかのように話しかけた。
「余計なお世話だっての。朱音、行けるか?」
「うむ! いつでも行けるぞ。弥助、ありがとうなのじゃ!」
「うん、気をつけるんだぞぉ」
弥助に見送られて、衛実と朱音は店を出発し、目的の場所へと荷物を届けに向かった。
「弥助という者は、とても気さくで優しそうであったな!」
弥助に対して、
一方、衛実の方はと言うと、
「
衛実があながち
「む……、そこまで言うなら、考えておくとするかの」
そんな会話をしながら、やがて2人は目的の店へと
「やあ店主、2日ぶりくらいか? 頼まれてた荷物、持ってきたぜ」
「お〜! これはこれは、弥助さんの所の
衛実とは顔見知りらしく、すっかり受け入れ体制に入っている店主は、彼の後ろについて来ている朱音に気づいて、彼女が何者なのか問いかけて来た。
ごくごく当たり前の反応をする店主に対して、衛実は朱音の姿が見えやすいように立ち位置を調整しながら、彼女を紹介した。
「紹介しよう。今度から俺と一緒に仕事をしていくことになった朱音だ。仕事をすんのはこれが初めてらしいから、色々と
衛実の紹介に合わせて頭を下げる朱音に、店主は人の良さそうな顔をして、『これからよろしくね』と気さくに声をかけた。その様子を一安心といった顔で見届けた衛実は、ふと店の中を見渡して、気になったことを口にした。
「ところでなんだが、店主、なんか今日の
衛実の問いかけに、店主は肩をすくめて、『やれやれ』といった表情を浮かべながらため息をついて答える。
「分かるかい? 実は最近、ここを訪れる
「そうか。まあきっと、このご
「かもね。ああ嫌だ嫌だ。これだから戦ってやつは……。ホントにもう
「
「うんともさ。2人のことなら、いつでも歓迎するよ」
こうして店主に別れを告げて、無事に弥助の店へと戻ってきた2人を弥助が迎える。
「朱音ちゃん、今日はお疲れ様ぁ。はい、これは今日の報酬」
「ありがとうなのじゃ。
そうじゃ! 弥助、ここの店のおすすめとかはあるか?」
「買ってくれるのかい? 優しい子だねぇ。よし、今回は安くしとくよぉ。
そうだねぇ、この
「まあ、そうだな。いいんじゃねえか?」
衛実に『似合っている』と言われたのが嬉しかったのか、朱音は彼の言葉を聞くと
「そうか? ならばこれを頂こう!」
「
「それじゃ、俺は弥助と少し仕事の話をするから、朱音はここで待っててくれ。すぐに終わらせるからな」
「分かったのじゃ」
そう言って、買ったばかりの首飾りを色んな所から眺めて楽しんでいる朱音を店に残し、衛実と弥助は店の奥へと向かった。
朱音と
「それで、衛実。あの子は一体どうしたんだい? 言葉遣いとか、その辺にいる子供達とは全く違う感じがするけどぉ?」
まさか素直に『鬼の少女だ』とは言えない衛実は、取り敢えず適当に、それっぽい感じの作り話をし始める。
「まあ、そこら辺はお
その、なんだ……、ここじゃない所で受けた仕事先で、とある
あの子はその
それで、少なからず
「地方に親族っていってたけど、そっちに帰る
「言いにくい所だから、そこら辺は察してくれ」
「あぁ、そうだよねぇ。今じゃ、安心して暮らせる所なんて、どこにもないもんねぇ」
衛実の言い訳というのは、決して誰もが納得できるようなものではなかった。
だが、こんな嘘のような話でも、弥助が納得してしまうほど、今の世の中は
弥助が特に疑問を抱いた様子がないのを見た衛実は、心の
「まあ、そんな具合で、これからも俺と一緒に行動することが多いと思う。
場合によっちゃ、お前に預けたいと思ってるんだが、引き受けてくれねえか? 金は払うからよ」
「タダでいいよぉ。朱音ちゃんはいい子だし、あっしにとっても、ちょうどいい話相手になりそうだからねぇ」
「『タダで』なんてお前、もしかして何か当てでもあんのか?
「それは秘密だよぉ」
そう言ってどことなく
「お前、まさかとは思うけど、変な商売とかしてねえよな?
さすがに聞き捨てならないことであったらしい。衛実の言葉に盛大なため息をついて首を振る弥助は、あからさまに不機嫌そうな顔を作った。
「衛実………、いくらなんでもそんな人の道を
「そりゃあ、表で
衛実のとぼけた返答に、
「も〜り〜ざ〜ねぇ〜? さっきの約束、無かったことにしようかぁ〜?」
「悪かったよ、言い過ぎたって。頼むから朱音のことだけは
もちろん、その謝り方に心がこもっていないことをすぐに見破った弥助は、
「……な〜んか、その言い方にも
「そうか、助かるぜ。
それじゃ、今日はここら辺で失礼させてもらうぜ。じゃあな、弥助」
「うん、じゃあねぇ」
そうして弥助と別れた衛実は、店の
「朱音、待たせたな」
「おお、衛実。話はもう
そういう朱音の手元には、これまたよく分からない形のカラクリのような物があり、朱音はどうやら、ずっとそれをいじっていたようであった。
衛実も特に気にとめず、早速、朱音に京の街の案内をすることにした。
「ああ、もう済んだ。それより、まだ宿に戻るには時間がある。弥助も
「他にはどこにゆくのじゃ?」
「
「楽しみじゃ」
立ち上がった朱音は、手にしていた物を元の所へと戻していき、奥にいる店の主に一言、別れの
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