第10話 交戦
「
「うわっ!
こいつ、人の動きじゃあ、ありゃしませんぜ!」
「気をつけろ! 回り込まれるぞ!」
「娘の護衛達! しっかりと準備しておけ!
娘も距離を置け! 巻き込まれるな!」
「うおおぉ!」
「落ち着け!
血みどろの男との戦闘が始まり、
ある傭兵の槍の突きが
男は、それを腰が
そこへ
が、男は難なくその矢をつかみ取り、川へと投げ捨てる。
「ハァッ!」
衛実の
「ちっ、浅いか! おい! そっち行くぞ!」
「任せてくだせえ!」
衛実の攻撃を、後ろに飛び
「せりゃ!」
「グゥッ!」
男は
「くそっ!
相変わらず、人間離れした動きでさあ!」
「山の方に逃げるぞ! 追え!」
「ダメでさあ! もう距離を離されてる!」
「チッ!」
負傷した男は人間では不可能な
山に逃げられては発見が遅れ、討伐が困難になる。
衛実達は何としてでもそれを防ごうと、弓などで攻撃をしたが、男の身体能力は
衛実達は一旦、追撃を
「しかし、あれだけの動きをする者が、我々の中におったとはな」
「俺も初めてでさあ。というか、ありゃあ人というより
傭兵達がそれぞれ思い思いの感想をこぼしている中、一人座り込んだ衛実は、先程の戦闘から、
(……あれは、なんだったんだ?)
思い出すのは、男が自分達に向かって襲い掛かって来る場面。
(あの時、男の体が急に大きくなった? いや、それとも
そんな風に
「うわっ!?
って、お前か朱音。驚かせんな」
驚いて、思わず後ろに
「な、なんじゃ!?
それはこちらのセリフじゃ。それより、一体どうしたのじゃ衛実。その様に
気を持ち直した衛実は、朱音の問いかけに再び視線を下に向け、
「先の戦闘で少し、な」
「やはり、ぬしも
朱音の言葉に疑問を抱いた衛実は、顔を上げて、彼女の方に視線を向ける。
「……どういう事だ?」
「む? 気づかなかったのか?
ぬしなら、とうに
「待て。確かに普通じゃないとは感じたが、まさか、あれが?」
「うむ。ほぼ断言しても良い。あれは『鬼』じゃ」
朱音の断定に一呼吸、間を置いてから衛実は口を開いた。
「……そうか。あれが、か。なるほど、それならあの動きにも納得がいく。
にしても、あいつの動き、お前よりも早いんじゃねえか?
それとも、あれが『鬼』本来の速さなのか?」
「前に、わらわが鬼の力について話したのを
わらわのような『
つまりは、
衛実の問いに答えた所で、朱音は先に戦った男について何か思う所があったのか、しきりに首を
「それにしてもあの姿、前にどこかで見た気が……。そうじゃ!」
何かを思い出した様子の朱音に、衛実は興味を示した。
「どうしたいきなり。何か気づいた事でもあんのか?」
「昨日、衛実と弥助の店に訪れる前に出くわした
朱音に言われて、昨日の出来事を思い出し始める衛実。そしてすぐに彼女が言っていたことに思い当たった。
「ああ、あれか。何だ? もしかして、あの中にさっきのヤツがいたって言うのか?」
「そうじゃ、あの時に囲まれていた男がそれじゃ。
昨日、この橋ですれ違った時も『この男、どこかで……』とは思っておったのじゃが、今ようやく思い出したのじゃ」
「あの時もだってのか? 雰囲気変わりすぎだろ」
あまりの男の変わりっぷりに、
「ん……? にしては、数が合わないな。
あの時、やつを囲んでた人数は5人以上はいた。だが今回の事件で見つかった死体は2つ。
じゃあ、残りは……?」
そこで衛実は朱音の方を向き、ふと思い立った事を
「なあ朱音、鬼の力って言うのは強くなったりするもんなのか?」
「む?
そうじゃな、人と同じで鬼も成長する。
何か言いにくいことでもあるのか、朱音が口を
「どうした?」
「……その、わらわ達が強くなるのにはもっと手っ取り早い方法があるのじゃ」
「それはなんだ?」
衛実は
「それが、他の生物の魂、『
とりわけ、人の心ノ臓は鬼にとって簡単に強くなれる価値のある
じゃから、
朱音が答えると、その場を流れていた空気が一気に
その中で、朱音から得た答えをゆっくりと
その目に
だが、ほんの一瞬だけで、衛実はその怒りを表には出さず、落ち着いた声で話し出す。
「……そうか。それならあの
だが、あそこまで人を傷つけるのは何でだ?」
そこで衛実は立ち上がり、他の傭兵達に声を掛けに行く。
「おい
先の戦闘で男の
「おや? どうかしたんですかい?」
「少し気になる事があってな。あの死体をちょっと見に行かないか?」
「ほんとですかい? あんな死体、調べても
それよか、さっさとあいつを倒しに行った方が早いでさあ」
「いや、もしかすると、今の人数や装備では、対応が出来なくなるかもしれないんだ。
だから、頼む」
「まあ、そこまで言うんでしたらいいですよ。でも俺からしたら、別に気にすることないって思いますがね」
もちろん、彼らは『鬼』という生き物を知らない。衛実も
彼らにしてみれば、『ちょっと人間離れした力を持った人間』程度にしか思っていないのだから、『いちいちそんなことで時間を無駄にするより、さっさと討伐してしまった方が早い』と考えるのは当然の
だが一応、依頼主である衛実からの申し出なので断ることはせず、一同は男が連れてきた死体を見に行く。
取り残された死体を見ると、身体中に付けられた
傭兵の1人が声をあげる。
「全く、あの男はただ殺すのに
もはや獣よりも
「ここまで
他の傭兵達もそれぞれ似たような感情を抱いて死体を
「
じきにここも、人通りが多くなりやすし、こんなの街中で見せられたら、たまったもんじゃないでしょ。
衛実さんよ、まだ調べるのかい?」
「ああ、もう充分だ。
手間を取らせて悪かった。それじゃ、片付けるのを手伝ってくれ」
橋に着くなり、山へと向かおうとする
「
「今度はなんです?」
「さっきの死体を調べたんだが、やっぱりここは一度引いて、装備を
衛実の言葉に、今度は不満の
今回の任務で衛実とよく会話をしていた傭兵が真っ先に声をあげる。
「なんでですかい? 確かに今回の敵はちっとばかし
それとも、そう思う程の何か理由でもあるって言うんですかい?」
衛実は言うか言わないか少し迷っていたが、やがてすぐに心を決めて口を開く。
「ああ、そうだ。さっきの死体、腕や足が無くなっていただろ? そして、あの男の身体能力。
俺は
「そりゃ、食わないと力はつかんでしょう。『腹が減っては戦はできぬ』なんて言葉もありますし、そんな飯食うだけで簡単にさっきよりも上の動きが出来るなんて話、あるわけないでしょう?」
「いや、その可能性は否定できぬな」
突然、朱音が話し出したので、周りにいた傭兵達は驚く。
「おいお嬢ちゃん、
どうして人が強くなる為に人を食う必要があるんだ?
あまり
「
『
周りから
そして今回の一行の中で誰よりも歳のいった老兵がここで口を挟んだ。
「う〜む……。確かに衛実殿のような考えも無きにしも
衛実殿やお嬢さんの言う理由に確証があるわけでもなく、もしその通りであるとするなら、今こうしている時間もヤツは力をつけているのではないか?
それならば
それとも衛実殿は、儂らの力を見くびっておられるのか?」
ここまで言われると
衛実は説得を諦めて、討伐に行くか、と腹を決める。
「……分かりました。
別にあなた方の
でも、今俺が話した可能性についてもどうか頭の
「分かりましたよ。要するに、さっきよりも気合い入れて討伐しろって話でしょう?
俺達なら楽勝でさあ!」
そんな訳で一行は、鬼が逃げた山へと歩みを進めていった。その中で衛実と朱音だけは、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます