第1部 『鬼の少女』と『傭兵』と
出会い
とある昼下がり
穏やかな陽がさし、生命の
「う〜ん! 今日も
こんな日に食う団子もなかなか美味であるな!」
見た目は15ぐらいだろうか。まだあどけない表情を浮かべる少女は、しかしながら、普通の人とは明らかな違いがあった。
よく見ると、
「それにしても退屈じゃ。ただ
だが、帰っても何か特別なことが起こるわけもなく、だからこそ
「……う〜む。やはり退屈なのじゃ」
団子も食べ終えてしまい、特にすることもなく、さてどうしたものか、と物思いにふける異形の少女。
そして1つの考えに
「そうじゃ! わらわも人の子らに
「む? あれは……、誰かがこちらに向かっておる。ちょうど良い。あの者に話しかけて見ようか。
おーい! そこな人間様〜!」
髪を短く
20代半ばくらいに見えるその男は、
さらに、腰から下に目を移すと、先を
だが、その中でも特に目を引く物が、その背に掛かっている武器である。一見、普通の長い
そんな彼は今しがた、1つの仕事を終えたばかりなのか、ゆったりとした動きで歩みを進めていた。
「ったく、ちゃんと仕事はしたんだから文句言うなっての。なんだよ人に頼っといて、あの態度。
……チッ、むしゃくしゃすんな。次の仕事までまだ時間もあるし、
前の仕事先で嫌なことでもあったらしく、軽く頭の後ろを
「おーい! 人間様〜!」
「はあ、うるせえな。せっかく人がゆっくりしようとしてんのに」
「おーい! 人間様〜!」
「ったく、なんだよ頼むから静かにしてくれ」
「おーい! 人間様〜!」
「ああもう! なんなんだようるせえな! 少しは静か、……。なんだてめえは」
見上げた傭兵の視線の先には、少女というには、あまりにも普通とかけ離れた姿のモノがいた。
「お! ようやく気がついたか!
全く、何度も呼んでおるのに、
「うるせえな。こっちは
『ガキ』と呼ばれた少女は、ムキになって言い返す。
「な! ガキではないわ!」
傭兵は、少女の
「あと、なんでガキのくせに塀の上なんか
「だから、ガキではない!」
「うるせえ! 大声で
「わらわは鬼じゃ!」
「……は? 何言ってんだ、お前」
唐突に少女が
傭兵が
「じゃから、わらわは鬼じゃというておる」
やはり、理解出来なかったのだろう。傭兵は腰に手を当て、やれやれといった感じに首を横に振る。
「……はあ。あのな、その
てめえのごっこ遊びに、人を巻き込むなっての」
先程から、傭兵が全く話を聞かない様子なので、『鬼』の少女は、ついにしびれを切らし出した。
「む……。さてはぬし、わらわを見くびっておるな。良いとも、ならばわらわの力を見せてやろうぞ!」
「は? 何言って、」
「『
すると、傭兵の前にあった桜の木は『鬼』の少女から
急に起きた、
「んなっ! てめえ、何しやがる!」
「どうじゃ、すごいじゃろ〜? これでわらわが鬼であると、」
自分が見せた技に胸を張る『鬼』の少女。
だが、それを見た傭兵の反応は、少女が予想していたものとは少し違っていた。
「ふざけんなよてめえ! なんで人が休もうとしてた場所を焼き
あれか! お前嫌がらせをするつもりか!
そう言いながら、傭兵は『鬼』の少女がいる
それを見て、
「な、な、なんでそうなるのじゃ!
わらわは鬼であることを、ぬしに見せつけてやったまでなのじゃぞ!
ありがたく思われこそすれ、文句を言われる
あっ、やめんか! お、落ちるー! 」
どんがらがっしゃん。
「痛たたた……。何するんじゃ! って、」
したたかに腰を打ち、そこへ手をあてがって痛みを確認する『鬼』の少女の前に、薙刀の刃が突きつけられていた。
その武器の
「はあ、そうかよ。人の
けどな、てめえのその力が本物だってんなら、
「な、なぜじゃ!?
わらわは、ぬしに
突然の展開に
その少女に向かって、なおも冷たい
「今はな。だがこの後はどうなる?
それに俺だけじゃねえ。他の人々を襲わないなんて、誰が信じる?」
「なぜそこまでわらわを信じぬ?」
『鬼』の少女の疑問に、傭兵は
「決まっている。それはお前が鬼だからだ」
「鬼、だから、」
「そうだ。人を襲い、
そんなクソ野郎を、今殺さないなんて理由があるか」
傭兵の話す事に違和感を覚えた『鬼』の少女は、
「待ってくれ。なんじゃそれは。
わらわは、いやわらわ達は、その様な事をした
確かに、生きるために鹿や兎などを食らいもしたが、
「……俺の家族は、てめえら鬼に喰い殺されたんだよ!」
「えっ………………」
「俺の
全て、全て、てめえら鬼が喰らい尽くした!
そう言いながら、傭兵は自分が
それは、今より13年ほど前。琵琶湖を望むとある1つの小さな村で起きた
鬼によって荒らされた後の村は、火の海に
さらに父は、何者かとの戦いで右脚をもっていかれ、その他にも無数の切り傷を負って地に倒れていた。
当時の様子を
そして、その様子をただ
絶望に打ちひしがられ、生きる気力を失いかけている彼の視線の
「チッ……」
過去の記憶を思い起こした傭兵は、当時の自分の弱小さと無力さに歯ぎしりし、無意識のうちに、
「そ、それでも、わらわや父上、母上、いや村の皆たちは人を食ったことはないのだ!」
必死に
「ああ、そうかよ。勝手に言ってろ。
……もういい、殺す気も起きなくなった。さっさとこっから
そう言うと傭兵は歩きだし、次の仕事をやりに行こうとするが、
「……なんでついてくんだてめえ。さっきから
突き放したはずの『鬼』の少女が、傭兵の後をつけていた。
「ついてゆく。ぬしがわらわを信じてくれるまで。どこへでも」
あまりのしつこさに、
「てめえ、いい加減に、」
「信じてくれ! わらわは、ぬしの誤解を解きたいのじゃ!
確かに人を喰らう鬼もおる! じゃが、それでもわらわは喰わぬ! これからもそうであると
じゃから、お願いだ。わらわもついてゆかせてくれ」
『鬼』の少女の真剣さに、
「……なんでそこまでして人についてこようとする?」
「わらわは知りたいのじゃ。
人間様達の
「そんなら、別に俺じゃなくてもいいだろうが。他のやつに当たれ」
「ぬしでなくてはならぬのじゃ!」
「はあ?」
「ぬしが我ら鬼に
謝罪が必要であれば、わらわが
「別にお前が謝ることじゃ、」
「それでも、わらわ達、鬼がただ人を襲うだけではないこと、わらわが鬼としてぬしを幸せにできることがあることを、ぬしが見ている前で示したい。
それに、ぬしは……」
『鬼』の少女は意を決して、傭兵の心の底にあるものを口にする。
「ぬしは、心優しき者じゃ」
「……!」
「わらわが
「ちっ……」
「いつでも殺せるはずであったのに、そうはしなかった。
わらわが落とされた時も、わらわの話を聞かずに殺せたであろうにそうはしなかった」
「………」
「じゃから、優しきぬしに、わらわがしてやれることをしたい。過去、我ら鬼によって、
お願いじゃ。わらわを連れていってはくれぬか?」
『鬼』の少女の不安が入り
それから
「……はあ、もう、勝手にしろ」
傭兵の許可を受けた『鬼』の少女の表情は、にわかに明るくなった。
「分かったのじゃ! これからよろしく頼む、人間様! そういえば、わらわの名をいっておらなかったな。
わらわはあかね。
「……
「衛実……。良い名じゃな。うむ、覚えたぞ! これからよろしくな衛実!」
こうして
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