第4話 ダイエット・ケーキ
ママがパパと結婚したのは18歳の時。
あたしはその2年後に産まれた。
ちなみにマーサのところは5人兄弟で、一番上のお姉さんと末っ子の弟は16歳差らしい。
それからすると、12歳下の兄弟というのはそれほど不思議ではないだろう。
今月中には新しい家族が増える。
弟か妹かは産まれるまで分からないけど、妹だったら3人で一緒にお菓子作りをするのが楽しみだ。
弟だったらエリックみたいな感じかな。
エリックといえば、最近気になっていることがある。
朝食の準備をしていると荷馬車の近づいてくる音が聞こえてたので、あたしは玄関の扉を開けて外へ出た。
春はもうそこまで来ているというのに、朝の空気はまだ冷たくて、吐く息が白い。
足元には霜が降りていた。
そして案の定、うちの前には牛乳配達のエリックがいた。
最近は荷馬車の扱いにも慣れたもので、近場の配達はエリック1人に任されている。
まあ、荷馬車と言っても馬じゃなくてロバなんだけど。
「おっはよう。エミリー」
お日様のような笑顔で挨拶してくれるエリック。
そう。お日様のような、真ん丸な顔で。
ちょっと前までそんなに丸くなかったはずだけど、あたしのお菓子作りの理想への追求が過ぎて、試作品を彼に食べさせ過ぎてしまったのである。
エリックは見事にジェシカおばさんの体質を継いでいたようだ。
当然体も丸くなって、ますますひよこっぽくなっていた。
エリックを見るたびに罪悪感に苛まれる。
「あら。おはよう、エリック。いつもご苦労様」
後ろから声がして振り返ると、ママがいた。
ママの体もすっかり丸くなった。
そりゃあ、ママのお腹には赤ちゃんがいるのだから丸くなるのは当然なんだけど。
それにしても丸くなった。
本人も「エミリーの時はそうでもなかったのに」と気にしている。
妊娠中は体質が変わるってママやマーサのお母さんたちが言っていた。
人によって様々で、好きな物が食べられなくなるなんてのはよくあることで、同じ物しか受け付けなくなったり、何にも食べられなくなったりする人もいるらしい。
そしてママの場合は、とにかく食べたくてしょうがないのだそうだ。
気が付くと食べている。
お腹の子を守るために体に肉が付くのは普通だけど、これ以上太りすぎると却って危険だよ、と主治医のハンソン先生ががママに言っていた。
ママとエリックをこれ以上太らせないためにはどうすればいいか。
最近のお菓子作りは、美味しさに加えてそれも課題となった。
学校で太らないお菓子を作りたいという話をしたら、女の子たちが乗り気で聞いてくれて、協力してくれることになった。
「でも甘くないのは嫌だなあ」
「お砂糖より蜂蜜の方が太らないんだって」
「いや、蜂蜜も太るらしいわよ」
みんながわあわあと自分の意見や知識を話してくれて、お昼休みの教室は賑やかになった。
「バターも太るっていうぜ」
「ナッツ類がいいって聞いたことがあるぞ」
「美味い物が食べたいけど、止まらなくなるのが困るんだよな」
時々学校にもお菓子を作って持ってきていたから、男子たちも試作品を期待して話に加わってきた。
どれが正解か分からないからとりあえず全部メモをしておいて、放課後、先生やお店の人にも訊いて確かめていった。
ママのお気に入りのパン屋さんへ翌朝用のパンを買いに行った時にもこの話をしたら、「ライ麦なんていいんだぞ」と勧めてくれた。
その上「よかったらパンも作ってみるか」なんて言われて、次の休みの日にライ麦パン作りを体験させてもらって、ライ麦粉が買えるお店も教えてくれた。
パンとお菓子は似ているけど、作ってみると全然違っていた。
いつかまた作ってみたいけど、ひとりでは難しいかな。
ライ麦粉は買ってみたので、まずはこれで思いついた物から焼いてみることにしてみた。
パウンド・ケーキ。
シフォン・ケーキ。
マフィン。
クッキー。
ライ麦粉だけだとうまくいかなくて、薄力粉や強力粉を混ぜたり、卵や牛乳を入れたり入れなかったりして、試行錯誤を繰り返した。
週末は、今年最後の大雪となった。
風も強く吹雪いていて、村人全員に外出禁止令が出された。
うちには食料や材料となる物がたくさんあったから、あたしは気にすることなくダイエットに適したお菓子を目指して作り続けていた。
ママに食べてもらった結果、ドライフルーツ入りのライ麦のパウンド・ケーキが一番気に入ったようだ。
しかも後を引きにくいらしく、
「美味しいのにいつものように食べるのをやめられない状態にはならない」
と喜んでくれた。
でもこれは甘さ控えめの大人の味だから、学校の友達やエリックにはどうかなーと心配だった。
ライ麦粉のお菓子とは別に作ったピーナッツ・バターのマフィン。
これなら喜んでくれるかな。
そうはいっても、どれも本当に効果があるのかについては、まだ結果が出たわけではない。
ママの産後に期待しよう。
今までお菓子作りって美味しさだけを考えていたけど、栄養のことまで考えるのもこんなに面白いんだ。
赤ちゃんが産まれて、離乳食を食べれるようになったら、その子のことも考えていろいろ作ってあげたいな。
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