第4ページ「白井家訪問(前編)」
その日の放課後、俺はアニ○イトに行き
「既刊は……と。あ」
「あ…」
少し低めの声でとても嫌そうな顔をする少女がそこにはいた。先日同様帽子をかぶり微妙な変装のような私服のようなスタイルの
手に持っているのは『かわいも』の新刊とよく分からない可愛い女の子の描かれたグッズだった。
この前もあったけどすげぇ気まづいな。なんか言ってくれると助かるんだけど……。
沈黙が数秒。何か言わないとと俺は適当に話を振った。
「よ、よう白井。また会ったな。よくここ来るのか?」
「この間、喋りかけないで下さいって言いましたよね」
ですよねー!
突き刺すような鋭い目で俺を
「それ、かわいもだよね。俺も最近友達に勧められて読んでるんだ。面白いよね」
「はい、休み時間の際聞いていました。かわいもの話と同時に貴方が
「お、おう……」
なんださっきまで冷たかったのに急に熱が入ったというかなんかとにかく語ってる。素野田みたいだ。まさか今日で二回も呼び捨てする事について怒られてしまうとは、そこまで罪なのだろうか俺は……。
がくりと体に出して落ち込む俺を見て、
「素野田さんの言うとうりですよくどくどくど」
と俺に説教するが、俺の顔を見てハッとなにかに気づいた白井は、急に顔を真っ赤にして手で覆い隠した。
「さっきの話なしにしてください。聞かなかったことにしてください」
急に大人しくなった。いつもは何にも興味無さそうな目をしてるのに少し話題を『かわいも』の話にしたら目を輝かせて話してくれた。普段クールで好きなものに対してはラフと言うか熱心。いつもとは違う表情、なるほど。これがギャップというやつなのか。素晴らしい。不覚にもドキドキしてる。それに加え、この間とは違って相手してくれている嬉しさと恥ずかしがってる白井を見て、頬が勝手に上へとあがり、止められない。
「ははっ、白井もそんな風な顔するんだな。いつも教科書とにらめっこして無表情だから表情筋死んでるのかと思ってたよ」
「な、何笑ってるのよ。それに学校では勉強をする事がメインでしょう。教科書を見ているのは当たり前じゃない」
少し頬を赤らめながら俺の言葉に反論する。
「それに、表情筋死んでるってそれは失礼じゃないかしら?笑いながら勉強する人なんていないでしょう」
「まぁ、確かにそうだけどさ…はは、本当に唇ひとつ動かさないからさ。お人形さんみたいだったからさ、なんかそう思えちゃってさ。それに口調敬語じゃないんだね」
「口調くらい私の自由じゃない、初めて喋る人には敬語なんて当たり前でしょう?失礼とは思わないのかしら」
「同級生だからな」
頭が固いって言ってたけど喋ってみると全然普通だな。頭は確かに固い所あるけど、普通に女の子って言うか。礼儀正しくて学校と放課後でしっかりメリハリができるって。
学校でもこんな風に喋れたらいいのに。それにもう少し、白井と喋ってみたいな。と、少しだけ欲が出た。
「良かったらさ、この後もう少しだけ喋らない?あんまし喋る機会無いからさ、白井の事教えてくれよ」
失敗だった。さっきまでの表情は無くなり、いつものようなクールな表情に戻っていた。
「すみません、私は家に帰ってする事があるので先に帰りますね。後、この事は学校の人に内緒でお願いします」
そう言ってレジに向かっていった。
何か気に触れてしまったのか、そうだよな、普通初めて喋った男子に誘われたら拒否するよな!内緒って言われたけどさすがに謝ろう。悪い事したのは事実だし……。モヤモヤしたまま過ごすのも嫌だからな。
白井がレジを済ませるのを見送ったあと、俺は既刊が置かれる棚にある『かわいも』の既刊五巻と最新巻をもってレジに並んだ。この間のも合わせてポイントがまた溜まるよっしゃ。
レジを済ませ、外に出ると意外と暗くなっていた。
「もうそんな時間か、早く家帰って飯作らないとな」
時計を見ると五時半を回っていた。俺はアニ○イトを後にし、帰路へと向かった。
***
今日は朝チュンの回避に成功した。買った本を一冊一冊小鍋に入れて魔封波しておいたのが良かったな。寝れないという恐怖に負け一冊ですんだぜ。
二日ばかり徹夜していたからかすぐに寝てしまい目覚めはスッキリしてるし、最高の朝とはこの事だな。雨降ってるけど。
学校に着くやいなや、俺は昨日の事を謝ろうと白井の席に行こうとしたが、そこに白井の姿はなかった。
「
「確かに今日は見てないね、休みなんじゃないかな?」
「……そうか」
昨日のことが原因なんてあるわけないと分かってはいるが何となく気が滅入る。
「よう!かーざま!」
両肩にばんっ!と押し込まれる衝撃を受ける。犯人はもちろん。
「素野田ぁ…。それ意外と痛いぞ」
「んぁ、すまん」
素野田のイタズラの後、すぐにチャイムが鳴りHRが始まった。そこで白井は風邪だということを担任が言った。
放課後、担任に呼び出された俺は職員室にいた。
「なんでしょうか」
「ああ、今日白井休みだろ。住所がお前の家のマンションに近くてな。この書類明日までに提出なんだが届けてくれないか」
えぇ、めんどくさいな。今日は何も無いから家に帰って昨日買った『かわいも』の続き読もうとしたのに。
でもまぁ白井の家か……ありだな。行こう。
「分かりました。届けるんで住所教えてください」
「おう、これだ。分かるか?」
「ええ、わかりますよ……ってこれうちの真ん前じゃないすか。こんな近かったんすね」
「お前学校来るの遅いめだから白井に会わないんだろ。まぁ、宜しく頼むよ」
「りょーかい」
渡された書類をカバンに入れ、その日は白井の家に行った。
昨日の事もあるし、丁度良かったな。届けるついでに謝ろう。
「ほんとにうちのマンションの目の前だな。逆に近すぎて驚きだわ」
外観は結構大きめの家……で、表札には”白井”と書いてある。よし、間違いじゃないな。なんでこう人の家のチャイム鳴らす時って時間かかるんだろう。既について三分くらい経ってるからもう少しで不審者なんだよな。
そして、思い切って白井家のチャイムを押すと、出てきたのは白井の母親だった。
「はい、なんでしょうか」
「あ、白井さん……じゃない、担任に頼まれて雪さんに書類を届けに来ました風間です」
「そうですか、ありがとございます。少し待っててください」
「あ、はい」
電話とかチャイム鳴らした時とかってなんかこう「あ」とか最初に入れちゃうよな。なんでだろう。緊張してるからかな。
会話が終わって少しあと、ガチャ、と鍵の開く音がした。
「初めまして、雪の母です。いつもお世話になっております…」
「あ、いえこちらこそ。これ、書類です。あと、雪さん大丈夫ですか?これ、書類を持ってくるついでにお見舞いをと……」
渡したのは近くのケーキ屋に置かれている普通に美味しいプリンだ。
「まぁ、ありがとうございますこんなものまでいただいて。お茶を出すので少し上がっていってください」
「え、あ、大丈夫ですよ」
「そうですか、雪ったらあんなだから友達がいるかいないかも分からなくて。同級生の子が来てくれた少し舞い上がってしまいました」
「あ、では、一杯だけ……」
そんなの言われたらずるいじゃないか!確かに友達と喋ってるってイメージは全くないけど!家でもあんな無愛想なのか?お母さんを安心させてやれよ……。
言われるがままに俺は白井(母)に家に通された。内装も綺麗で、何となく。白井の匂いがする。あぁ!
お茶を一杯置かれると、白井(母)は溜息をつきながら一言言った。
「実はあの子、風邪ひいてないんです……」
「…………へ?」
いやいや馬鹿な。あんな勉強熱心な白井&雪さんがずるな休みをとるわけなかろうもんと驚きの表情を見せる。
「驚かれるのも無理ありませんよね、学校ではずっと教科書とにらめっこしてるような子ですから……」
「まぁ、否定はしません。というか風邪じゃないならなぜお休みを…?」
まったく、気になるよねぇ~。あの優等生に相応しい白井がズル休みなんてあるわけないと考えるも現実とは意外とその通りだったりする。
「ゲームしてるんです……」
「げー、む……ですか」
「はい、ガールズなんとかパーティとか言う」
「なるほどお母さん。題名はそこで終わりにしましょう」
そんな超大作のゲーム名出したら終わる。ネットの中の一つの作品とはいえ著作権がどうとかする。
「とりあえず雪に会いますか?」
「え、あー、少し言いたかった事もあるのでお願いできますか?」
「案内します」
「お願いします」
そうだった。そもそもこのために来たんだった。忘れて帰るところだった。玄関に白井が来るとばかり思い込んでた。そうか、こんなパターンもあるのか。気をつけよう。
ニ階に上がって目の前の部屋が白井の部屋らしい。白井(母)がノックをする。
「雪、ちょっといい?」
「なにーママー……今忙しいんだけど」
と、「ゆき」と可愛く書かれたプレートが開いていく。
「もう、今日イベント回るからほっといてねっていっ、たで、しょ…………」
俺の顔を見て動揺したのかちょっと
「は、はろーって、その顔まずい!ヒロイン的に女子的に!」
そして、白井は壮絶な不機嫌顔を俺に向けてきた。
いやほんと、どうなるんだよ……。助けてマッマ(白井)
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