第1ページ「ライトノベル」

 自分のやりたい事を見つけることすら出来ず、俺はただ日常を過ごしてきて、今日、高校二年になった。

「なあ風間、始業式終わったら遊んでかね?」

「ん、ああ、いいぞ。どこ行く」

 始業式の途中、校長の長話が開始され数分。後ろから声をかけてきたのは友人A的存在の素野田そのだ 紫苑しおん。高校に入ってからの友人という関係にあたる。こいつのおかげで俺の学校生活は充実してる、と言ってもいい。まぁ、親友とかいうやつだ。

「カラオケとか行くか?」

「悪くねえ」

「おっしゃきまり、誰連れてくよ」

「誰でもいいんじゃねーか?お前大体の人と仲いいだろ?」

「ま、そだな」

「じゃあまかせた」

「了解」

 俺達の会話が終了して、校長の話に耳を傾けると、桜がどうとか言っていた。どうでもいいし、長いので寝た。

 校長の長話も終わり、始業式は終わった。

 教室に戻り自分の席に座ると、すぐに素野田が近寄ってきた。

「なあ、あのこめっちゃ可愛くないか?」

 何を言うかと思えばそんな事かよ、凄いどうでもいいわ。

 そう思いながらも素野田の指さす方向を見る。

「めっちゃ可愛いじゃん。誰」

 すごく可愛かった。ロングの黒髪で顔はどこかつまらなさげで、まるでクールという言葉を擬人化したような人だった。

 見とれていると、後ろから素野田とは違う声が俺を呼んだ。

「ああ、あの子。白井雪さんって言うんだけど、頭も良くて運動もできて、ルックスまでいいって事で色んな男子が声をかけていたけど、何を理由に声をかけても正論しか言ってこない頭が固い女の子って言われてる子だよ」

 急に現れてあの綺麗な女の子(白井と言うらしい)の説明をしてくれたのは俺の友人B的存在、澤野さわの まこと。めっちゃ良い奴。とにかく良い奴。容姿も良ければ頭もいい、その上運動もできるという完璧超人のモテ男だ。腹立つ。白井とキャラ被りじゃねえか。

「そんなの関係ないっしょ、俺ちょっとカラオケ誘ってくるわ」

「やめておいた方がいいと思うよ」

「そうだ、やめておけ。モテない俺らにとって澤野神は絶対だ。正論言われて折れるぞ。精神が」

「大丈夫だって、俺の精神は硬いガラス出てきてる!」

「すぐ割れるじゃねぇか」

 そんなツッコミにも耳を向けず白井の元へと歩いていった素野田。

 最初のうちは楽しそうに一人で喋っていたが、途中から攻守交替。元気に喋っていた素野田がなんか頭を下げて謝ってる。あれ、なんか目拭き始めた。

「あいつ泣いてね」

「泣いてるねぇ」

 色々と言われ終わったのかぐすぐすと鼻をすすりながらこっちへと帰ってきた負け犬素野田。可哀想に……

「誘えたか?」

「見て分かれよ!わざとか!」

「わざとだよ」

 鼻で笑いながら俺は素野田をからかう。

「いやさ、今日親睦を深めるために何人か誘ってカラオケ行かない?って言ったらさ、

『お誘いありがとうございます。ですが、今日が始業式で何も無いからと言って浮かれすぎではありませんか?今日が始業式であると同時に私達は二年生になりました、つまりもう受験が迫っているという事です。分かりますか?人生の分岐点と言われる高校二年生です。ここで頑張るか頑張らないかで自分の人生が良い方にも悪い方にも変わってきます。別にあなたの人生なんて知った事じゃないですが、確信ではないですが貴方が私を誘うにあたり私はその時間分の人生を無駄にする事になるかもしれません。それに、私のようなものが行っても誰も喜ばないでしょう?あなたはあなたの人生を生きなさい、私は私の人生を生きます』って言われた……」

「随分と言われたな、てか頭かった」

「みたいだね」

 最後なんか聖母っぽくなってるけど気にしないことにしよう。

 でもなんて言うか見た目通りだな。真面目で、勤勉で……。少しくらい弱点とかないのかな。

 しかし、そんな事すぐにどうでも良くなった俺は心に深い傷を負い騒ぎ始めた素野田を慰め始めた。

「どーどー、騒ぐな。変な目で見られるだろ。ばか」

「いいえ、騒いでなんていませんよ、私は私の人生を生きようと思います。なのであなたもカラオケなんて言ってないで勉強しなさい」

「悟り始めてんじゃねぇよ。それにお前馬鹿だから今から勉強しても遅いよ」

 たしか成績オール2じゃなかったか?どうでもいいけど。

「うるせぇ!カラオケ行くぞ!カラオケ!澤野も行くぞ!」

「悟りきれなかったな、哀れ」

「今日は部活ないからいいよ」

「はーん!歌いまくってやるわ聞け!俺のGo○ k○ows!」

 エアギターをしながら自分の席へと戻り、そのタイミングで教室に入ってきた担任の話を大人しく聞き、HRを終えた。

 HRを終え、学校が終わった俺たちは真っ先にカラオケ店へと向かい、五時間ぶっ通しで歌い続けた。

「俺らのカラオケは、国歌に始まり、国歌に終わる……それが大和の心よ!」

「それが大和か分からんがなんか国歌は分かるぞ」

 五時間散々騒ぎ立てたのにも関わらず未だ元気な素野田がラストの国歌を歌い、二、三回テンポのズレた結果68点というくそみたいな結果で終わった。

 その帰り道、澤野は弟たちの面倒を見ないといけないという理由で先に帰って行った。ほんとに良い奴だ。勉強もでき、料理もでき、周りにちょっとした気遣いまで出来る。あいつはいいお嫁さんになる。

 そして、俺達はカラオケを終えたあと本屋に行き、素野田の欲しいと言っていた新刊を買いに行った。よく分からないが『ラノベ』と言うらしい。

「欲しいの買えたかー?」

「おうよ!今巻も表紙最高だし楽しみだわー!」

「そうか」

「風間も読むか?『無能少女』面白いぞ」

「いや、別にいいよ」

「いいから読めって!騙されたと思って!ほら!まだ売って、完売してるじゃん!」

「じゃあしょうがない、また今度な」

 興味のない俺は素野田の話を軽く流し、出口へと向かった。

 しかし、どうしても読ませたいのか素野田は俺の前に立ちはだかり、店から出させない鬱陶しい作戦に出た。

「邪魔だよ」

「ほんと、面白いから一回読んでくれって」

 右へ行けば右へ、左へ行けば左へ、俺の進行を何度も阻む素野田に呆れ、俺は諦めてそれを受け入れた。

「分かったよ、また今度買うからそこどけ」

「いいや、今日じゃないとダメだ!」

「でも売り切れてんじゃん」

「ふっ、甘いな少年」

 こいつちょいちょい鬱陶しいな。

「この辺りをスーって真っ直ぐ行けばアニ○イトと言うアニメやラノベ、その他もろもろのグッズや本が売ってる専門店があるんだ!そこに行け!」

「随分と雑な説明だな」

 溜息をつき、俺は「わかった」と言いながらやっと開かれた出口へと足を向けた。

 アニ○イトか、聞いたことはあるけど行ったことないな。行ったことない場所はなんとなく心が踊る。なんでだろう。なんでもいいか。

「おい素野田、早く案内してくれよ」

「あぁ、悪ぃ。俺今日晩飯の当番だから先帰るわ。場所はググッたらすぐ出るから。じゃーな。明日までに見て感想聞かせろよ」

「は、ちょ、待てよおいって足はや!」

 自分で進めたくせにあとは俺任せって、なんて素野田だよ。まったく。

 別に、素野田もいない事だし帰ってもいいのだが、あそこまで勧められると買わないと悪い気がする。

 俺は深い溜息をつきながら、グーグルで検索すると、場所はすぐに出た。

「あ?これって」

 そう、アニ○イトがあったのは、今俺がいる本屋の真後ろに建っていた。

「真後ろに建ってんなら言ってけよあのカスめ」

 何キロも離れてるもんならやめておこうと思ったがこうもお誂え向きにあっては行かないわけにも行かない。

 ということで、さっさと買って帰ろうとアニ○イトへ入店した。

「えーと、なんだっけ、『無能少女』だっけか……あ、これか」

 入ってすぐ、新刊と大きく書かれたスペースに『無能少女』の二巻が置かれていた。

 二巻っておい、二冊買わないとダメなのか。まぁいいけど。

「えー、既刊既刊……」

 俺は前も見ずに『無能少女』の一巻を探していると、これまた前を向いていなかった女性とぶつかってしまい、バサバサと、女性の手から本が数冊こぼれ落ちた。

「あ、すみません。大丈夫ですか?」

 ぶつかった拍子に落ちてしまった本を拾いながら一緒に落ちたであろう帽子も拾い、ぶつかってしまった女性に渡す……が。

「あれ、白井……さん?」

「へ?」

 名前を呼ぶと、腑抜けた声が白井から漏れた。

「え、あ、人違いじゃないですか!?」

 何故か慌てながら拾った帽子をはらい深くかぶる。

 帽子と一緒に拾った本を見ると『へたれ勇者の龍殺譚』や『兄と妹事情』と言った、いわゆるラノベと言うものだった。

「白井もこういうの読むんだな、意外」

「だから私は白井ではないと言ってるじゃないですか!風間くんは馬鹿なんですか?」

「はは、名前知ってんじゃん。よく覚えてるね」

 ちょっとしたミスを指摘すると、むーっとした顔で俺を睨みつけ、拾った本を奪い去るように取って行った。

「嫌な人ですね…。ここで会ったことは誰にも言わず忘れて下さい。分かりましたね」

 そう告げて白井はレジへと向かった。

 俺も『無能少女』の一巻を見つけ、レジへ向かった。

 すると前には白井がいた。あれ、さっきもっと前にいなかったっけ。

「なんかごめんな」

「喋りかけないでください」

 あんなことを言ったすぐにこうだ。少しだけ耳が赤くなっていた。

 レジを終えた後白井はそそくさと逃げるように帰って行った。

「俺、嫌われたかな」

 俺もレジを済ませ、言われた通りの『無能少女』一巻と二巻を購入し、帰路へと向かった。

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