第14話4月8日 (3)

 満月に溶け込むような甘い音。風にたてつく強い声。観客席も、スポットライトもない。それでもここは舞台の上。俺とハルの2人だけの秘密の舞台。


 俺達の第一歩には丁度いいだろ?

 なぁハル?


視線が合うと同時にハルはなんの迷いもなく歌を紡ぎ始めた。


 君は夜 檻の中で泣いていますか?

 僕は朝 扉開けて踏み出してます

 oh baby 鍵はとっくに

 壊れて錆び付いているよ

 うつむく君に道しるべを


 みんなと違う歩幅が不気味だと

 笑う大人に歌を送ろう

 壊れかかった玩具を抱きしめて

 叫ぶ子供に愛を送ろう

 枯れる花に気づかない世界なら

 僕が敵になり壊し続けよう

 目覚める君を待っています。


 君は冬 寒さに凍えてるんですか?

 僕は春 両手広げ君を待ってます

 oh baby 早くしないと

 桜が散ってしまうよ

 色付く君は愛に変わる


 声になれない叫びがあるんだと

 嘆く大人に愛を送ろう

 ダチと喧嘩して謝れずにいる

 しょげた子供に歌を送ろう

 勇気と愛に溢れる世界なら

 僕が神になり祈り続けよう

 夢みる君に微笑みを


 君のそばで君を慰めるのは

 僕じゃないかもしれない

 君の横で君と笑い合うのは

 僕じゃないかもしれない

 それでも君は笑っていて


 みんなと違う歩幅が不気味だと

 笑う大人に歌を送ろう

 壊れかかった玩具を抱きしめて

 叫ぶ子供に愛を送ろう

 枯れる花に気づかない世界なら

 僕が敵になり壊し続けよう

 いつか見れる君は笑っている?

 


 ハルは満月を見ながら楽しそうに歌を歌う。そんな彼とは逆に、俺は涙がまた止まらなくなってしまった。


 なんなんだよ、この歌は。愛が詰まっているのにそこにはハルがいない。そんな悲しい歌を歌って欲しかったわけじゃない!


「なんで、、なんでこんな歌詞をつけたんだ!」


「薄々分かってただろ。俺はもうすぐハルカの身体から消えていくだろう。トビの曲に歌詞をつけれた。俺はそれで十分だよ。ありがとな。」


「嫌だ!ハルとまた離れるなんて、それに曲に歌詞をつけるのは1曲って決まってた訳じゃないだろ!これからも俺の隣で歌っててくれよ!」


「トビ、よく聴いてほしい。俺はいつだって、トビと共にいる。たとえ形として見えなくても曲に、歌に、俺がいる。だがらこれからどんなに困難で辛い道になろうとも音楽を続けて欲しい。」


「ふざけんな。俺1人じゃ音楽なんて出来ない。ハルが隣にいて欲しい。ずっとずっと隣にいてくれよ。俺はそう簡単に分かったなんて言えない。俺はそんなに強くない。」


 月が雲に隠れて辺りは暗闇に包まれる。急に光を奪われた。諦めるつもりでいた音楽にハルが希望をくれた。それなのにハルは希望だけ残して消えると言う。それを簡単に受け入れられるはずなんてない。


「ゆっくり考えてみてくれ。寒くなってきたし、家に帰ろうか。」


 先に沈黙を破ったのはハルの方だった。俺達はそれ以上何も会話をする事はなく家路についた。


「トビ、おやすみ。」


 学校での事を気にしているのか、気まずそうに笑っていた。


「1人でも音楽を続けていくか、まだ答えは出ないけど、ちゃんと考えてみるから。」

「そうか。」


「あと、宇佐木に伝えて欲しい。俺はお前を親友だと思ってる。お前は両親を殺したって言ってたけど何か理由があるんじゃないのか?俺にしてられる事なんてないかも知れないけど、宇佐木が話してくれるのを信じて待ってるから。」

「、、分かった。伝えておくよ。ありがとう。」


 そう言って自室に入ったいくハルを見送ったのが最後だった。



 翌日、昼前に起きリビングへ向かうと一枚の紙が置いてあった。

  

      『ごめんなさい。』


 それだけ書かれた紙をみて慌てて宇佐木の部屋に押し入った。しかし、そこに彼の姿はなく、荷物すら無かった。

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