第12話「ミノタウロスの眷属」
《櫻羽舞香視点》
手に持つグレイブなる槍を一回転させてから、回り込むようにミノタウロスの側面に移動すると私の意図を読み取ったのか三体のオークファイターがこちらへと向かってくるのが見えます。
このオークファイターは複数である上に一体一体が通常の個体よりも強いようですね。ですが、修司様に任された以上は役目を果たさなければなりません。
「来なさい」
私の言葉が理解できるのか挑発するようにそう言うと、三体纏めて私に向かって来ました。
同時に私へと振られる三つの両刃斧を全て弾きます。弾くと言うよりも逸らすと言う方が正しいかもしれません。数で劣っている以上は動作は最小限に。相手の攻撃の流れをズラし、勢いを利用してそのまま全ての攻撃も逸らしてから三体全てに【火炎刃】を発動させたグレイヴで反撃。血飛沫が舞いますが、思ったよりも浅い。
「堅い……」
【火炎刃】で強化された状態で攻撃して尚、鎧も皮膚もどちらも堅い。そう簡単に倒すわけにはいかないようですね、これは。
『ブゥオ!』
すると、私の事を油断ならぬ敵と見たのかオークファイターの一体が手を振って仲間に指示を出すと、他の二体が私を囲むように広がりました。
なるほど。数の利を活かし包囲して叩こうという気ですか。ですが、それくらいはこちらも想定内です。オークの時点である程度考えて動いている節は見受けられましたからね。
本来は囲まれないように速攻で一体倒したり、もしくは速度を活かして囲みから脱出したりする方が良いのですが、ここは敢えてこの状況に付き合いましょうか。
こいつ等は私の事を油断できない敵と見て、戦法を切り替えてきた。つまり、この状況に付き合えば持っている手札の全てをここで注ぎ込んででも仕留めに来る筈です。その手札を早目に確認しておきたいというのが本音です。
囲いをどんどん狭めていき、ある程度したところでオークファイター達は加速の能力を使って一気に間合いを詰めて来ました。その能力はもう知っていますので、それで不意を突かれたりする事はありません。
斧の刃が私の身体を喰い散らかそうと風を切って迫る。それをひたすらに逸らす。
頭上から降ってくるのを刃で逸らす。胴体を狙ったものをステップで避ける。腕を裂こうとするもの柄で弾く。身体を躍らせて舞うようにそれを幾度も繰り返し、その合間に攻撃を返します。
二体が私から見て重なるように動いたかと思えば、前側にいるオークファイターが攻撃してきたタイミングで、それに合わせて別の個体が斧を前の個体の影から投擲してきます。
そんな手もとってくるとは、やはり化け物のような見た目をしていても個体によっては高い知性を持っているかもしれないと考えた方が良いようですね。
前側のオークファイターの攻撃を逸らすと同時に身体を回転させて投擲された斧を避けます。
『ゴァガアアッ!』
今のでも私にダメージを与える事ができなかったからか明らかに苛立ったような咆哮。両手で握り締めて降り抜かれた両刃斧を同じように逸ら……せないっ!?
くっ、重いっ。何とか辛うじて弾く事には成功しましたが、上手く衝撃を逃がす事ができずにバランスが崩れたところで焦った表情を浮かべれば、他のオークファイター達が嬉々として狙ってきます。
「くっ!」
最初の追撃も先程と同じように重い一撃。それもまた防御こそ何とか間に合いましたが真っ向から受け止めざるを得ず、完全に態勢を崩されたところに三体目による攻撃が襲い掛かってきました。
ですが――
『……ガァ?』
間の抜けたオークファイターの声。手応えがない事でそんな声が出てしまったのでしょう。
呆けてがら空きになった背中に上段からの一撃を入れ、その上で今の私に使用可能なもう一つの【火炎術】である【火炎弾】を撃ち込みます。
バレーボール程度の大きさの炎の塊が高速で射出され、オークファイターの背中に着弾したかと思うとその全身を炎に包みました。
「ふぅ」
一息吐くと炎に包まれたまま前のめりに倒れ行くオークファイター。地面に横たわると直ぐに光の粒子になって消え去っていきました。これで後は二体ですね。しかも今までに確認していなかった手札も確認できました。
恐らくあの状況であの重い一撃しか使ってこなかった以上は他には能力はないと見て良いでしょう。加速する能力に斧を投擲して手に戻す能力と重い一撃を打つ能力。どれも悪くはない能力でしょうが、全て対処はできます。しかも相手は一体減りましたので、油断さえしなければ問題ないでしょう。
向こうとしては囲んだ状態であの重い一撃を起点に崩して、攻撃を入れるというのが狙いだったのでしょう。確かにアレは知らなければ崩される場合が多いでしょうし、悪くない手です。ただ、こちらにもまだ見せていない手札があったわけですが。
【幻術】の一つである【空身】。自分の幻を作る能力ですが、その幻は自分で操作する事ができます。実は戦闘中にずっと発動させており、身体に重ねるように動かして、あの三体目の攻撃が来る瞬間に幻を前に出してその影に隠れてオークファイターの攻撃と視界から逃れたというわけです。
と、そこで強大な力が膨れ上がって弾けるのを感じました。
「っ、これはっ!?」
ミノタウロスを中心とした場所に突き立つ炎の柱。それはまるで空をも焦がそうとしているかのよう。
あの炎の柱から感じる力はあまりにも大きい。私が使う炎とは根本が違う。そんな気がします。
「修司様っ!?」
今も尚、突き立つあの炎の柱の中に修司様が巻き込まれた! まだ眷属としての繋がりが切れていない以上は生きているのは間違いないけれど、状況はけして良くない筈です。
助けにいった方が良いのでは? そんな迷いを突くようにして金属の斧が上から襲いかかってきました。気を取られている間に、加速の能力を使って接近してきていましたかっ。
そして、更にもう一体までもが加勢しにやって来るのが見える。私の動揺を感じ取っているのか、向こうは逆に戦意を漲らせている。
どうする。どうする。焦るな、焦るな。まだ修司様は生きている。助けに向かえば間に合う。いえ、でもこいつ等を放置していくわけにはいきません。ならば、こいつ等を早く始末していけば良い!
(舞香、大丈夫だから)
「えっ?」
……今のは、修司様の声? 空耳ではない。確かに修司様の声です。
大丈夫……。そう、そうですか。修司様がそう言うのであれば信じましょう。私は自らの目的の為、この心を焼く願いを果たす為に彼を利用し、頼る事を決めました。会って間もないあの人に。だから、対価としてこれからの全てを彼に託したのです。私は彼の全てを信じます。それが私にできる事ですから。
「はぁっ!」
何もかもを吹き飛ばすようにオークファイターの斧を強く強く弾きます。
大きく息を吸って吐く。そして、グレイブを一回転させて構える。さぁ、いきましょうか。
触手使いの現代ファンタジー ペンダグラム @vierte4
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