第9話「初めての眷属化」

「あの……本当に良いのですか? 勝手に入ってしまって」


 俺の後を着いてきながらもそう言う櫻羽さん。

 今、俺達は愛光園から少し離れたところにあるホテルに入っているのだ。エントラスの自動ドアは電源が入りっぱなしなのか普通に開いたので中に入るのは難しくなかったが、当然ながら無人である。

 だが、幾ら無人とは言え勝手にホテル内に入っているわけで櫻羽さんが罪悪感を感じているのは真っ当な感性と言えるだろう。


「良いとは言い切れないけど、流石にエネミーが来るかもしれない外で休憩するのはね。波塔区近くの安全地帯ならエネミーは気にしなくて良いけど、話す事が話す事なんで万が一を考えたら誰にも聞かれたくないし」


 自衛隊の三角さんは外で別の作戦を展開していると言っていた。つまりただ閉じこもっているだけでなく、能力者達を外に向かわせているのだ。

 安全地帯の建物の内部を逐一調べるような事はしないとは思うが、それでも万が一という事はある。


「この部屋にするか」


 六階のエレベータからは程遠い部屋。そこを休憩所とする事にした。

 俺の後ろではきっと櫻羽さんが不思議な顔をしている事だろう。俺達はホテルに入ってから真っすぐにここに来ており鍵なんて持っていない。なのに、どうやって入るのだろうかと。

 答えは少しだけ忘れかけていたポイント交換だ。エネミーを倒す事で得れるポイントで交換できる眷属専用ポイント交換は実のところ、交換できる品々が結構多岐に渡っていて中には普通ではない物もあったりする。例えば、一回だけどんな鍵でも開ける事ができる使い捨ての万能開錠アイテムとかね。

 目の前に出て来た空間投影ディスプレイを操作して万能開錠アイテムを選択。櫻羽さんにはこのディスプレイ見えてないだろうから、何か変な事してるとか思われてるだろうか。


「これをこうすれば……よし、開いた」

「え、えっ? 何でですか?」

「まぁまぁ。とりあえず中に入ろうよ」


 目を見開いて驚いている櫻羽さんの背を押して部屋の中へと入ってみる。おぉ、ここのホテルは結構良いところだって聞いていたけど確かに中々に良い部屋だ。って、ベッドがダブルだ!? いや、ここに来た理由は休憩であって泊まる為ではないから変な意味には取られないと思うけどまさかダブルとは。

 ……気にしてないフリしよう。えーと、ポイント使って一応使い捨てのフィールドをホテルに張っておくか。これで誰かが中に入ってきたら直ぐに分かる。【超感覚】があるから不意打ちはまずは受けないとは思うけど。これで良しと。

 椅子とかあるけど座るのはベッドで良いか。ベッドの端に腰をかけると櫻羽さんも少し離れたところに腰を落ち着けた。


「さてと、それじゃ何から話そうか」

「私が気になっているのは、やはり私と如月さんの力の差異です」

「あぁ、それね。要は俺と櫻羽さんじゃどこから力を得たかが違うんだよ」

「どういう事ですか?」


 そこから俺は櫻羽さんに<観測者>という存在とその内の一人であるアークスターとか言う奴の所為で地球がこんな事になっているという事、櫻羽さんや紀江さんはそいつが地球に落とした<アークスターの落とし子>の影響を受けて能力を得る事となり、俺は別の観測者の眷属となって能力を得た事を説明した。


「ここからは俺の推測だけど、能力の差は直接か間接かで出ているんじゃないのかな」

「観測者と直接契約を交わして眷属になった如月さんと影響を受けただけの私達、という事ですね?」

「あくまでも推測だけどね」


 ここまでの説明を聞いて櫻羽さんは真剣な表情で考え込んでいる。一体、何を考えているのかは分からないが随分と真剣だな。


「私がその眷属と言うのになる方法はないのですか?」

「櫻羽さんが? んー……何でそんな事を?」


 この話の流れだと力が欲しいんとしか思えない。けど、短い時間の関係性ではあるけどあまり力を誇示するようなタイプには見えず、つまり力を求めるには何かしらの理由があるような気がする。

 俺のその問いを受けて向けられたその瞳には、前にみたあの氷の刃が宿っていた。


「どうしても力が必要なんです。今の私では届かないから……」

「誰に?」

「家族の、仇です」


 なるほどね。紀江さんの考えは当たっていたというわけか。紀江さんは喜ばないだろうけどな。


「私は父と母、兄の四人家族で桟端区に住んでいました。あの日、大勢の人がパニックになっていて私達もどうしたら良いか分からなくなって、ただ逃げ惑っていました。そして、気付けばあの男達がいたんです」


 あの男達。その言葉には全てを燃やし尽くすようなそれでいて全てを凍らせ尽くすような、それ程の憎しみが篭められていた。けして激高していない。声を荒げてすらいない。だけど、だからこそ感じる。強い怒りを。


「あいつ等が如月さんと同じように眷属なのか、それとも私と同じような形で能力を得たのかは分かりません。ただ、あいつ等は逃げ惑う人々を能力を使って傷付けて甚振って楽しんでいたんです」


 なるほど。今までにない力を得てそれを人に向けたか。中にはそういう奴もいるだろうなとは思っていた。


「笑いながら人々を傷付けていた連中は次の標的として私達を選びました。どうやらあいつ等の中の一人が私の事を知っていたようです」

「櫻羽さんの方は?」

「いえ、見覚えはありませんでした」


 つまり逆恨みとかそういう理由でなくて、ただ単純に見知っていたから狙った……いやでも、道行く人すらも攻撃しているのだから結局のところ対象は誰でも良かったのか。


「一人が糸のようなものを出して私達を縛り上げて逃がさないようにして、そこから徐々に甚振る。そんな算段だったようですが、そこにアレが現れました」

「アレ?」

「はい。黒い巨大な犬のような化け物です。全長は五、六メートルはあったと思います。丸くて見ていると不安になる赤い瞳が全部で八つと大きく裂けた口の中には鋭い牙が沢山並んでいました」


 何だそりゃ。オークとかオークファイターはまだ化け物というよりも見た事のない生物と言う印象だったけどそいつは完全に怪物や化け物と言うのが相応しそうだ。


「最初、あいつ等はその化け物を倒そうとしましたが攻撃は一切通じずに逆に一人殺されたところであっさりと逃げていきました。ですが、私達はあいつ等に縛り上げられていた為に逃げる事ができなくて……目の前で沢山の人が食べられていきました。悲鳴を上げても何をしても一切許されずに、ただ食べられていく。そして、私の家族も……。私の記憶はそこで途切れていて、一体どうやって逃げたのかは分かりません。気付いた時には愛光園で寝ていて、この耳と尻尾が生えていました」


 俺の顔を目を真っすぐと見ているけど果たしてこれは俺を見ているんだろうか。それとも俺の向こう側にいる仇を見ているんだろうか。

 強い憎しみ以外の感情が宿っていない黒い瞳。それは星光のない夜空に似ていた。


「ねぇ、如月さん」

「……何?」

「私ってあなたにとってどうですか?」

「どうとは?」

「時折私の胸を見ていますよね。過去にも色々な人の視線を感じた事があるんです。つまりそれだけコレに魅力を感じてるって事ですよね」

「それは……」


 櫻羽さんが自らの胸を持ち上げるように強調する。元々彼女の胸はかなりの大きさなのにそんな事をされれば目が離せなくなってしまう。


「良いんですよ、自由にして下さっても。いえ、胸だけじゃありません。私の身体全部あなたに捧げても構いません。その代わり――」

「その代わり?」

「その代わりに私の復讐に手を貸して下さい。私はどうしてもあいつ等に復讐したい。八つ裂きにしてやりたいっ!」


 きっと、今の櫻羽さんは正常じゃない。愛光園では正常に見えていたけど、きっとそれは上手く隠しているだけ。紀江さんの言う通りだ。櫻羽さんはきっと止まらない。

 櫻羽さんの想いは彼女だけのものだ。それがどれだけ深く暗いものだったとしても。それにそもそも場合によっては能力で作った媚薬で半ば強制的に眷属にしようとしていた俺にどうこう言う資格は有りはしない。

 だから、俺は俺が思うようにしよう。


「良いよ。櫻羽さんのその願い、叶えてあげる。だから、俺の眷属となれ」

「如月さんの、眷属?」

「そう。俺にはやらなきゃいけない事がある。その為には一人でも多くの眷属が必要なんだ」

「どうすれば……あなたの眷属になれるんですか?」

「眷属紋を刻んだ後に君を抱いて生命の大元と共に力を注ぐ。ただし、眷属となったら文字通り君は俺のものとなる。制約だって受けるし、俺の意思に反する事はできなくなるよ」


 どうする? 止めるなら今の内だけどと言う意味を込めて櫻羽さんに手を差し出す。しかし、悩む事などないと言わんばかりのノータイム。


「言ったでしょう? 私の全てを捧げると」

「騙されている可能性とかは考えないわけ?」

「何を馬鹿な事を。如月さんならそんな回りくどい事をせずとも私一人どうとでもできるでしょう? それくらいには力の差がある事は分かっていますから」


 そう言って笑みを浮かべる櫻羽さん。

 復讐を考えているだけあってもしかしたら力という物のに対して敏感になっているのかもしれないな。


「なるほど……ってぇ!?」

「どうかしましたか?」


 きょとんとした顔をして服を脱ぐ手を止める。既に一番上のジャケットを脱いでその下のシャツのボタンに手をかけており、肌蹴たところからストライプのTシャツが見えている。


「いやいやっ!? 何をしてるのっ!?」

「服を脱いでいるだけですけど。服を汚すわけにはいきませんから」

「いや、確かにここでやるつもりではあったけども……」

「そんな事を言いながらこっちをジッと見ていたら説得力がありませんよ?」


 そして、櫻羽さんは何でもないように再び服を脱ぎ始める。それはその通りなのだが一枚一枚薄皮を剥く様にして前人未踏の美景が出てくる様を見ないなんて出来るわけもない。特にTシャツを脱ぐ時なんてあの巨峰が揺れたのだ。見逃していたら大変だった。

 下着は黒か。尖がっている黒い獣耳とフサッとした尻尾にスラッと長い手足にその下着は良く似合っている。それにしても一枚脱いでは畳んでいるところが几帳面な性格を表しているな。

 そうして次に下着に手がかかる。……素晴らしい。瑞々しいその胸に今すぐにでも飛びつきたくなる。美の女神ここに顕現せり。

 一切手で身体を隠さずに堂々としているようでいて、尻尾が不安そうに揺れているのもポイントが高い。さっさとこちらの準備もしてしまう事にしよう。


「それは何を?」

「あ、これ? これは俺独自の媚薬だよ。交わる際にできるだけ快感を与えた方が良いらしいからね」


 白い触手を出してその先端からどろっとした粘液を出す。感触としては飲むゼリーに近いから口に入れても詰まったりはしない筈だ。


「櫻羽さん、おいで」

「……はい」


 その粘液を両手で受け止めてから櫻羽さんを呼ぶ。恐らく俺が何をしようとしているのか想像がついたか顔を赤くしてこちらに来る。

 覚悟はしていてもそりゃ恥ずかしいものは恥ずかしいよね。だけど、俺は容赦は一切しない。何せこれだけの素晴らしいものが目の前にあるのだから!


「んぅ……」


 肩からゆっくりと全身に粘液を擦りつけていく。首や肋骨、お腹、太ももなどもやるが、特にその大きな胸は時間をかけて堪能させて貰った。その際にちょっと妖しい吐息が漏れていたようだが気にしない。

 そして、最後に飲ませるように口に入れたら、下腹部を触りながら眷属紋を刻む。その綺麗な肌に薄い紅色の紋様が浮かぶ様は淫靡としか言いようがない。


「これで準備はできた」

「はい……」


 既に汗を浮かべ熱の篭った吐息を漏らしながら櫻羽さんが返事をする。そこで我慢の糸がプツンと切れた。

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