第3話「オークと少女」
さて。まずは能力の確認をしなくちゃな。最初は能力の位階とかいうのから。どうやらこれは俺が保有している様々な能力がどれくらいの強度で発揮されるかというものを示したもののようだ。
例えるならば、能力そのものが弾丸で能力の位階が銃本体みたいなものだろうか。位階のスタートは一からのようだ。
そして、弾丸に当たる能力だが今の俺にあるのは【三色の柱】と言う三種類の触手を創り出し操る能力とそれに付随しているもののみだ。
まず、一つ目は赤色の触手。こちらは攻撃用の触手で単純に力が強く攻撃力が高く、攻撃可能範囲も結構広い。【浸蝕する澱み】という複数の状態異常付与能力で攻撃する度に状態異常をプレゼント。また【再生】がある為にある程度の傷は簡単に修復されるらしい。
二つ目は黒色の触手。防御とそれ以外にも様々な用途を持っている。兎に角、硬い上に傷ついても【再生】で再生する上に防御のついでに相手に触れるとやはり状態異常をプレゼント。しかもこの触手は【守護の光】という能力で俺を守るバリアを張っているようで、この触手をどうにかしない限りは攻撃は届かないらしい。
仮に届いたとしても【再生】の効果は身体にもあるので、そうそう簡単には死なないけど。しかも【全状態異常耐性】もあるので毒みたいな物を通じない。
更に黒い方は【超感覚】による索敵や危険感知的な能力もあったりしてとても便利な触手である。
この二種類の触手の太さはどちらも俺の腕の二倍以上あり、とても凶悪な見た目をしていて周囲の空間や足元などから生えてくる。絵面を想像すると、地獄の悪魔とかそんな感じにしか見えないような気がするけど大丈夫だろうか。大丈夫じゃない気もする。
三つ目は皆大好きエロ触手。見た目は濁った白色で赤や黒に比べれ随分と細い。
この触手はある程度形や大きさを変える事ができるし、何だったら感覚や機能も繋げる事ができる。多分、そう言う目的用だからだろうな。
それからもう一つ。弛緩剤や媚薬などを出す事が出来る【儀式薬】という能力がある。内容に反して名前は随分仰々しいな。
うーむ、それにしても触手プレイは好きというわけではないんだけど、何故こうなった。
「今現在同時に出せるのは赤が四本と黒が六本」
腕を二本操るのと比べたら随分と増えるな。けど、手数は増えれば増えるだけ良い。後は何とか慣れるしかない。
因みに白も四本らしいよ。つまりやろうと思えば男性器も実質四本増える事になるな。
「ん? この触手、オートとマニュアルの操作が可能なのか……」
オート操作にするか、マニュアル操作にするか。多分、あのゾンビを攻撃したのはオート操作によるもの……いや、もしかしてディトアグルがやったのだろうか?
む、オート操作とマニュアル操作の同時使用もできるな。それなら赤触手は全部マニュアルにして、黒触手は半々に別けよう。で、防御のオート操作は攻撃を仕掛けて来た場合に反応するようにと。後、感知系の能力は常時発動にしておいて、危険を感知した場合にも防御用触手で防御するようにすれば良しと。
これでマニュアルでも捜査すれば、マニュアルの方で対応し切れなかった場合に対する保険になる筈。できるだけ安全対策はしておかないとな。
「これで良しと。さて、どうするかな」
この辺は人の気配がないからなぁ……。あ、そうだ。スマホってどうなってるんだ?
えーと……。電源は切れてないけど電波が入ってないな。あ、だけど、何日か前のニュースは見れる。ふむ、二十三区東部、北部、副都心に大量の化け物出現か。これ以降のニュースがないからどうなったか不明と。
今いるここは副都心の区なのでとりあえず、都心の方を目指してみるか。
都心の方を目指して歩いてみると時折ゾンビがいるにはいるけど、思ったよりは数が少ないな。触手の操作に慣れる為の練習相手として丁度良いからもう少しいてくれても良いのだけど。
それにしてもこの触手は色々と凄い。何が凄いのかと言うと俺の近くの空間から出て来てるんだけど、俺が移動してもそのまま空間から出た状態で着いて来るのだ。一体これ、どうなってるんだろうか?
あぁ、そう言えばゾンビとは違うエネミーも発見した。ゾンビが縦横両方に肥大化したような奴で、こいつはラージゾンビと名付けておいた。
肥大化した身体はどうも全部筋肉のようで、中々見た目がよろしくない上にゾンビと違って走って来るので脅威度はゾンビよりも上なのだろう。
ただ、どちらにしろ攻撃用触手で一発なので、ただの経験値アンドポイントである。
気になるのはラージゾンビが真正面から走って来ても何も感じない点だ。ホラーは得意でも苦手でもなかったが、流石にあんなのが走ってきたら驚いていた筈なのだ。恐らくこれが精神構造が変わった事による影響なのだろう。
困った事に今の俺にはこれが普通になってしまっているので、特に危機感とかを感じる事はない。ディトアグルの説明の感じ、段々とおかしくなるという事はない筈なのだ大丈夫だとは思うけど。……多分。
「おっと、またゾンビか」
物陰から出て来たゾンビ三体が赤い触手に貫かれてグッバイ。
こいつらはゾンビというネーミングそのままに動きが遅いので、本当にただの的である。攻撃さえ通じるならば誰でも倒せるだろう。
ラージゾンビの方は普通に走ってくるので、普通の人には中々大変かもしれない。あの滅茶苦茶太い腕によるパンチなんて普通の人が喰らったら死んでしまいそうだ。俺の場合はどちらにしろ赤い触手君が簡単に始末するけど。
「ん?」
黒触手君が何か感知した。これは危険感知ではないな。人間サイズの反応が動いてて、それをそれよりも大きい何かが三つ追ってる。そして、一番大きい反応がその後から来ているな。人間サイズの方はもうすぐそこにいる。
「くっ!」
おぉ、派手な登場。雑居ビルのガラスをぶち破ってやってきたのはグレイブや薙刀と呼ばれるタイプの槍を手にした絹のように綺麗な長い黒髪を翻した女の子。俺より若干年しただと思うけど、キリッとした眼差しが良いね。躍動感ある動きをしているけど、その度に中々に大きな胸が震えて視線が釘つけになりそうだ。それにそんなアクロバットな動きをするのに下がスカートなのも気になる。
しかし、その胸と同じくらいに目を引くのが頭の上にある獣耳と腰辺りから伸びている尻尾だ。もしかして獣人って奴か? 靄らしきものは確認できないから、眷属ではないのかな。
「えっ、ひ、と?」
お、こっちに気付いて驚いてる。これは人がいた事に驚いたけど、その人の周囲に触手が生えてて二度驚いたってところかな。うん、そりゃ驚くよね。
……あれ? 何だろう、この感じ。何と言うか、お腹が凄く空いた状態でとびっきりの好物を目の前にしたような感覚だ。
いや、今はその事を深く考えるのは止そう。まずは対処をするのが先だ。
「そこの人、逃げて……っ!?」
俺に向かって言葉を言おうとして途中で途切れる。追手が追いついてきて彼女に飛びかかろうとしているのに気付いたからだ。だが、俺に気を取らせたせいで反応が若干遅れている。そのままでは防御も回避も間に合わないだろう。
『ブギッ!?』
ただ、気付いていないのは彼女だけだ。俺の方は黒触手の【超感覚】で捉えたままなので来るのは分かっている。女の子を避けて赤触手で弾き飛ばしておいた。
飛びかかって来たのは一匹だけか。後の二匹は雑居ビルから出て来たところで赤触手に驚いたのか足を止めているようだ。
それにしても何だこいつら。身体から黒い靄が出ているのは確認できたからエネミーなのは間違いないみたいだけど。
緑色の肌に太った身体、長い耳に豚を醜悪にしたような顔。何と言うかオークとゴブリンを混ぜたような感じに見える。とりあえず、豚顔ではあるしオークとしておくか。
【超感覚】によるとラージゾンビよりもだいぶ強いみたいだ。手に片手剣や片手斧を持っているし、もしかしたら何かしらの能力もあるのかもしれない。
先手必勝! いけ、赤触手君! で、同時に白触手で女の子をこちらに引き寄せておこう。
「えっ……きゃっ!?」
……身体に巻き付けて引き寄せたけど、絵面的にちょっとアレだったかな。まぁ、良いか。
オークの方は特に問題なし。ゾンビみたいに一撃で倒せはしないけど、それでもそれなりのダメージにはなるようで怯んだところに別の触手が追撃を入れて沈黙させる。
三匹目が慌てて逃げようとするけど、もう遅い。計四本の触手でその背中を叩いて吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「大丈夫?」
「え、あ、はい……って、違う! いけない、早く離れないと!」
「あぁ、うん。分かってるよ」
引き寄せた女の子を片手で抱きとめて安否を確認する。見たところ怪我はなさそうだったし、これだけ元気に話せるなら大丈夫だろう。
この子が何に対して慌てているのかは分かる。この子と三体のオークを後ろから追いかけていた奴が追いついて来たのだ。
「おっと」
女の子とオーク達が出て来た雑居ビルの奥から何かが飛んできたので、黒触手で弾く。クルクルと回転しているそれは明らかに物理法則を無視した軌道を描いて雑居ビルの奥へと消えて行く。
雑居ビルの奥から出てきたのは、先程のオークと比べると二回り以上は大きいと思われるオークだ。しかもあの三体は素っ裸だったのにこいつは皮素材らしき鎧を着ている。三匹のオークが持っていた物よりも随分とゴツイ両刃斧を片手に持っているな。恐らくこれがさっき投げつけてきた物の正体か。この斧を持つ姿も如何にも戦士といった風に様になっているし、オークファイターと言ったところかな。
【超感覚】が伝えてくるこいつの気配はオークと比べても明らかに違う。どうやら強敵と遭遇してしまったようだ。
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