第2話「目覚めと邂逅」

「……は?」


 何だこれ? 何がどうなっている? 歩道や道路はひび割れたり陥没していて、建物の壁には穴が開いたり妙な爪痕のようなものがついていて、窓はガラスが割れたりしている。それに道路には幾つもの車が誰も乗っていない状態で放置されているし、中には炎上したのか黒焦げになっているのもあるな。

 さっきまで確かに普通だった筈だ。沢山の人が歩く中を俺も同じように歩いていて、道路には沢山の車が走っていた。なのに、気付いたら何故かこんな事に。

 一体、何があったんだ? ただの事故とかそういうレベルではないのは分かる。だけど、どんなに規模の大きな災害が起ころうとも全く人がいないというのはおかしい。だって、これじゃあまるで俺だけ時間が飛んでしまったみたいだ。

 そうだ。スマホで誰かに連絡してみよう。って、ダメだ。電波が立ってない。……ん? 二月十七日だって? 馬鹿な、そんな筈はない。今日は二月の十日の筈だ。まさか本当に日にちが飛んでいるって言うのか?


「……こうして疑問点を考えても意味はないな。危険かもしれないけど人を探すしかない」


 疑問は幾らでも浮かび上がるけど、その答えは考えても出る事はない。だから、誰か他の人を探す必要がある。

 そこで初めて気付いた。考えるのを止めて周囲に意識を回したからだろうか。誰かの声らしきものが聞こえる事に。何か叫んでいるようにも聞こえ、正直とても怪しいがそれでも正体を確かめないわけにはいかない。




 声の主を見つけるのはそう難しくはなかった。ただ、やはり状況は普通ではなかった。


「おいおい……」


 少し離れたところで二人の男が下半身丸出しで何かに覆いかぶさっている。その二人の陰から見えているのは恐らくは女性のものと思われる腕。こっちに全く意識を向けずに腰を動かしている事から何をしているのかは誰でも分かる。


「うひぃひぃ! いいぞぉ、いいぞぉっ!」


 こいつら、完全に狂ってやがるな。僅かに女性の顔が見えたが、明らかに光が消えている。と言うのに、そんな事気にもせずにしているのだ。

 その姿に嫌悪感を感じ、この世から消したいという感情が湧き出る。自分でも違和感を感じる程に自然に出て来た感情に戸惑っていると足元から突然赤い触手が生えて来た。は? 何だこの触手。

 驚く間もなく触手は男達を背中から一瞬にして貫く。


「あ、あがががが?」


 まるで狩った獲物を誇示するように、貫いたまま持ち上げる触手。男達は暫く手足をバタバタさせて意味不明な言葉を口にしていたが、次第に動かなくなった。

 死体をまるで汚いもののように捨てた触手はそのまま地面へと戻っていく。

 何ていうか十八歳未満禁止のゲームなんかに出てくるようなエロい触手じゃなくて、ガチでやばい触手だ、あれ。だって滅茶苦茶太かった上に見た目からして危険なものであるのが分かる。


『クカカ、ようやく覚醒したか、如月修司よ』


 声っ!? それも凄い近く……って、目の前かっ!

 それは言うなれば人の形をした黒い靄。そうとしか言いようがない何かがそこにいた。


「あんた、どこのどなた?」

『俺はディトアグル。理の外に存在せし観測者の一人だ』

「理の外……?」

『簡単に言えば地球人を含む星に住む人間に比べると高次の存在という事だ。お前達の常識の外にあると言っても良いだろう。実際、何らかの事情によりお前達と遭遇した際には俺達の事を神と呼んだ。とは言えども、全知全能というわけではないしできない事も多いがな』


 本当に神というわけではないけど、それに近いくらいには俺達の常識から外れた存在だって事かな。


「で、その神様が一体何の用で?」

『現状の説明と勧誘だな』

「……なるほど。じゃあ、お願いしようかな」

『うむ。まず、現状だが地球はかなりまずい状態にある。原因は俺達の同類の愚か者のせいだ』


 ディトアグルと名乗った存在には顔なんてないので表情は分からないけど、何となく怒っているのが理解できた。それもかなり頭にきているようだ。言葉からしてその愚か者とやらに対してのものなのだろう。


『我々はとある理由から、宇宙にある様々な星を勢力下に置く争いをしている。争いといってもガチでやり合うと色々と大変なのでルールを制定しゲームのような形になっているがな』

「そんな事が行われてるなんて聞いた事もないけど……」

『それはそうだろう。お前達では俺達を感知する事ができぬし、これをするのにお前達の許可もいらん。それに誰かが地球を勢力下に置いても地球が何かが変わるわけでもないからこちらから接触し、俺達の存在を教える事もない』

「つまり、俺に限らず地球人は誰も知らない?」

『うむ』


 自分の星を勝手に賭け事の景品にされてるような気分になるけど、この人の言う事が正しいのならば明らかに格下である地球人の機嫌を伺うなんて必要もないならするわけもないか。

 そもそも感覚も俺達とはかけ離れてる可能性も高いし、そこは気にしても仕方ない。


『でだ、そのゲームは順調に進行していたのだが、ゲームに脱落した愚か者が思わぬ事をしでかした。地球に自らの欠片を落とし侵食し、地球と言う星を改変しおったのだ。それによって今や地球はお前達が見知らぬ化け物が闊歩するようになってしまっておる』


 化け物が闊歩ってマジで? だから街があの有様なのか?


「もしかして今の連中も?」

『今のは元人間だな。今の地球では地球人が死んだ場合、化け物として蘇る事があるようになっておるのだ。人間達はアレをゾンビと呼んでおるようだぞ』

「ゾンビ……」


 あいつらは腐敗はしているようには見えなかったが、死んで蘇るという点で言えば確かにそれっぽいかもしれない。それにどことなく動きもそれっぽかったし。


『既にこの事態を起こした愚か者は俺達の手で制裁をした。その為、これ以上の改変はなく化け物共も組織だった活動はしなくなり今までよりは被害が減ろう。だが、化け物共は地球の兵器では倒す事が出来ん奴の方が多い。このままでは地球が滅びてしまう可能性は高い。お前とてまだ死にたくはなかろう?』

「そりゃそうだけど」

『ならば俺に手を貸せ』

「手を貸せって言われても、俺は極普通の大学生なんだけど?」


 兵器で倒せないような奴等をどうにかする力なんて俺にはないし、例え何かしらの武器を手に入れても多分あっさり死ぬよ?


『この事態をどうにかする力は俺が与えてやる。お前はただ、俺の眷属としてこの事態を解決してくれれば良いのだ』

「あんた等で直接どうにかする事はできないのか? 元はと言えばそっちが原因なんだろ?」

『それができればとっくにやっておる。俺達には直接手を下せないルールがあるのだ。あの愚か者は後先考えずにルール破りをしたようだがな』


 直接手は出せないって事ね。でも、だからってそれで俺を指名されてもなぁ。


『言っておくが、ここで断れば高確率でお前は死ぬぞ?』

「何でさ」

『ここら一帯にはさっきみたいな奴が歩き回っているからな。今、倒す事ができたのは仮初に俺の力を貸したからだ。だが、契約をしないのであればその力はなくなる』

「マジか……」


 そうなると正直、選択肢はないじゃないか。


「一体、何でこんな回りくどい事を?」

『ゲームのルールが変更されたのだ。地球人から眷属を選び、その眷属にこの事態を起こしている原因である愚か者の欠片を排除させた者の勝ちとな』

「なるほど……。だから、だから眷属になるしかない状況を作り上げているって事ね」

『その通りだ』


 俺からすればはた迷惑な事だが、それだけ必死だと言う事なのだろう。


『中には面倒だと降りた奴もいるが、俺としては地球は是非とも抑えておきたい。もし、勝者となった暁には余所に影響が出ない範囲でお前の願いを叶えてやろう』

「何かそう言われると、日本人としては逆に怪しく感じてくるんだけど」


 主に魔王の台詞的な意味で。しかもディトアグルの見た目がそっちに近い上に手を広げるポーズをしたせいでますますそんな雰囲気になる。


『何? だが、ルールで現地の者に協力をして貰った時は相応の対価を払うと決まっているからな。その説明も事前にするように決まっているから言わんわけにはいかないのだ』


 人の形をした黒い靄なのに案外感情豊かだな。手振り身振りでその感情が結構伝わって来る。

 うーん。とりあえず、断るという選択肢はなし、かなぁ。まだちゃんと自分の目で見たわけではないけど、あの男共の様子や街の様子を見る限りやばい事が起きてるのは間違いない。


「眷属になって事態を解決したとして、地球はどうなるんだ?」

『どうにもならんさ。星として元の状態に戻る。ただ、人間の文明の復興はお前達自身でやって貰う必要があるがな』


 なるほど。あくまでも今の異常事態の解決であって、良く漫画やアニメであるように不思議な力で全て元通りとはならないってわけか。

 だけど、それは仕方ない。願いを叶えると言ってた時も影響が出ない範囲でとも言っていたし、恐らく彼等にも制限があるのだろう。逆にそういう制限が見える方がまだ信用できる。


「じゃあ、もう一つ。契約を結んだ後に契約に沿う行動をしなかった場合はどうなる?」

『勿論ペナルティがある。ずっと行動をしなければその内死ぬ事になるだろう。あぁ、ただ勘違いするなよ。失敗の場合はペナルティにはならんからな』

「ちゃんと契約内容に沿う行動をして失敗した場合は、ペナルティはつかないって事だな?」

『そうだ』


 うーん、そうか。ペナルティがあると教えてくれるならまだ信用できるか。

 状況的に教えても問題ないと判断しているだけかもしれないけどな。


「分かった。あんたの眷属とやらになるよ」

『よし、契約成立だ』


 人の形をした黒い靄が片手を俺の方へと翳す。すると、頭の中に『<無限に連なりし柱の王>と契約をした事により、種族が<無限に連なりし柱の王>の眷属に変化しました』と言う言葉が響く。

 それ以外には特に何かしらの変化が起きる事はない。てっきり魔法陣的なものが出たりするのかと思ったけどそう言うわけではないようで残念。

 <無限に連なりし柱の王>というのはディトアグルの事だろう。一体どういう存在なのか分からないけど、聞いても分からい気がするのでスルーする事にしよう。


『これでお前は俺の眷属となった。能力を得たと思うが、その使い方は自然と理解出来る筈だ。能力を使用するのに消費するものはあるが、俺の眷属の場合そこは気にせんで良い。無尽蔵みたいなものだからな』


 あぁ、確かに自分の中に今までとは違う何かがあるのが確認できる。その使い方も思い浮かぶ事ができた。これなら何とかなるか?


「それで、俺は何をすれば良い?」

『うむ。最終目標は<アークスターの落とし子>を殲滅する事だ』

「<アークスターの落とし子>?」

『アークスターとは件の愚か者の事。奴によって落とされた欠片こそが<アークスターの落とし子>だ。アークスターの眷属でもあり分身でもあるこいつらが地球の改変の元凶。全部で四体いるこいつらを倒せば化け物共も消え失せる』

「そいつらが地球を蝕んでる病原菌の大元って事ね」

『だが、今のお前ではまだこいつらを倒す事は難しいだろう。まずは落とし子が産み出している化け物共……エネミーとでも呼んでおくか。エネミーを倒す事で眷属としての責務を果たし眷属としての能力の位階を上げ、力を強化するが良い』

「ふむふむ」


 ゲームで言うところの経験値稼ぎみたいなものかな。もしかしてレベルみたいなのもあったりするんだろうか。


『それとお前自身の眷属を作る事もオススメしておく。お前には眷属を新たに作る毎に自分自身の力が強化されるという能力があるからな』

「へぇ。眷属とやらはどうやって作るんだ?」

『それはもう知っている筈だ』

「は?」


 って、何だこれ。頭の中に知らない筈の情報が浮かんでくる。まるで頭の中に本があるみたいだ。


『俺の眷属になった事で得た全ての力の使い方は既にお前の魂に刻んである。故に教えられなくとも使い方は分かる筈だ』

「何とも便利な事で……」


 えーと、眷属を作るには女性の下腹部に眷属紋を刻んだ後に子宮に……って、なんじゃこりゃ!?


「ちょ、ちょっと待った!」

『どうした、眷属よ』

「いや、この眷属の作り方、何?」

『む? ただ女とセックスをすれば良いだけだろう?』


 心底不思議そうな声色。童貞どころか恋人がいた事もない人間にはかなり高いハードルなんだよ!


『お前が眷属を作る手段は幾つかあったが、これが一番強い眷属を楽に作れる手段なのだ。他は脳みそと心臓を食べなければいけなかったりと普通の人間には少々難しいと思うのだがな』

「……それは確かにキツイ」

『色々と考えた結果、俺の眷属は今回お前一人だ。その分だけ他の連中の眷属よりも持っている力は大きいが、どうしても数の不利は出てくる。それを補う為にも眷属は増やした方が良いぞ。生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。セックスするくらいどうと言う事もあるまい』


 うん、確かに正論ではある。だけど、だからといってできるかと言われれば難しい。何せ相手がいる事だからなぁ。


『今のお前が見れば眷属として相性が良い女は直ぐに分かる。眷属にするには相性の良さは重要だからな。見つけたら即眷属にするのが一番だが、人間は見た目の良し悪しや性格の相性も重要だろう。最終的にどうするかはお前に一任するが、もし眷属としての相性も良くお前個人としても良いと見たら多少無理やりにでもやってしまえ。その為の力もある事は分かる筈だ』


 え? あ、あー……これか。強力な媚薬を生成できる能力。これを投与しろって事? エロゲーか何かかな?


『俺の経験則で言えばこんな世界ならば自分を守ってくれる存在に靡く女も多い筈だ。お前が思っているよりも難しくはないだろう。それに我が眷属になった事で多少なりとも精神構造に影響も出ている筈だしな』

「……精神構造に影響?」

『別に狂ったりはせん。だが、戦いに忌避感を持たれても面倒なだけだからその辺のタガのようなものは外してある』

「何か凄い怖い事言ってない?」


 うん、何だかやっぱり少し早まった気がしてきた。もう後戻りはできないから腹を括るしかないけど。


『さて、お前の能力は……ふむ、やはり今の段階ではまだ取得能力は少ないな』

「今の段階ではって事はその内増えたりするとか?」

『お前が役目を果たしていき、能力の位階が上がれば新たな能力を得る事もあるだろう』


 つまりエネミーを倒して、<アークスターの落とし子>を討伐していけば強くなれるって事か。


「そう言えば気になったんだけど、<アークスターの落とし子>とかいうのが四体いるんだったら、あんたらのゲームの勝利条件ってどうなってるの? 最後の一体を倒した人の勝ち?」

『いや。<アークスターの落とし子>を倒した数を競う。もし同列であった場合は話し合いになるだろう』

「なるほど。じゃあ、他の眷属を妨害するのはあり?」

『ありだ。故にエネミーだけでなく他の眷属の動向も気にしなければならない。ただ、中には俺と協力関係を結んでいる奴の眷属もいる。早目にそいつらを探して協力し合うというのも手だぞ』

「その人が協力関係を結んでいる眷属だと判断する方法は?」

『識別ができるようになっている。見た時に色が付いた靄が見える筈だ。黒い靄が身体から出ている奴はエネミー。暗い赤い靄が出ている奴は完全敵対対象の眷属。明るい赤い靄が出ている奴は完全敵対こそしていないが敵対対象と見て良い奴。青い靄が出ている奴は協力関係にある眷属だ』

「ふぅむ……。眷属って俺みたいに眷属が眷属を作ったパターンの時は?」

『それも赤か青で判別される。結局は大元が誰かが重要だからな』


 なるほどなるほど。

 これだと俺と敵対している勢力で徒党を組んでいる可能性があるわけか。そうなると確かに早目に人数は揃えたいところではあるなぁ。

 そう言えば眷属はどれくらいいるんだろう?


「眷属って総数はどれくらいいるとかは分からないのか? それと後は内訳とかも」

『不明だ。愚か者のせいでごたついたからな。地球を狙っている同胞がどの程度残っているかも把握し切れていないのだ』

「そっか」


 そいつは困ったなぁ。住むところや食料とかもどうにかしなきゃいけないから、結構大変だな、これ。


『それとお前達人間は食事や睡眠を必要としているだろう。その為に必要なものはこちらで揃える事ができる』

「え、そうなの?」

『ただし、無料というわけにはいかん。エネミーを倒す事で得れるポイントがある。それと交換だ。交換できる物は多岐に渡るが当然価値が高い物ほど必要ポイント数は高い。頑張って稼ぐが良い』


 それは助かる。そうなるとするべき事はエネミーを倒しつつ仲間を探すって事になるのか。


『ポイントは頭の中で念じればいつでも何ポイントあるかはいつでも確認できる筈だ』


 あ、本当だ。今は二百ポイントか。という事はあのゾンビ達は一体百ポイントって事になるな。これが高いのか低いのかは分からないけど、強さ的に低いのだろう。


『今のゾンビは多少強化されているとは言え、やはりポイントはそんなものか。連中は地球の銃でも対処が可能な程度であるし仕方あるまい』


 うん、やはり低いみたいだ。ワンパンだし仕方ないね。


「あ、そうだ。<アークスターの落とし子>はどこにいるんだ?」

『分からん。というか、知っていても教える事ができん。恐らくどこかに潜伏している筈だ』

「えぇ?」


 もしかして、探すところからしなければいけないって事? でも、確か地球全体でこの事態は起こってるらしい事を言っていたよな。地球全部探すとか何年かかるんだって話になるんだけど。


『問題はない。お前が探すのはお前が住んでいる国だけで良いようになっている。良いか、まずは二十三の街中にある歪を探せ。その歪の先に鍵を持つエネミーがいる』

「なるほど、了解」

『むっ、そろそろ制限時間か……。仕方ないとは言え制限があるというのは面倒な事だ』


 どうやらこうして話せる時間に制限があったようだ。ルールがあると言っていたし、これもまたルールの一つなのだろう。


『最後にもう一つだけ。地球人についてだ。<アークスターの落とし子>は地球人にも影響を与えている。影響度合いを大別すると三つ。ほぼ影響がないか、少し影響があるか、大きく影響があるか。ほぼ影響がない者に関してはそのままだ。少し影響がある者は死んだ場合、その者はエネミーとして蘇る。そして、お前に一番関係してくるのは最後の場合。大きく影響を受けている場合、生物として変質して俺達に近くなっているだろう。とは言え、持っている力や能力は観測者の眷属に及ぶものではない。しかし、それでも一応は留意しておけ。【超感覚】の反応には常に気を付けおく事だ』

「了解。死んだ人がエネミーになるかどうかって判別する事は?」

『エネミーになる場合は、直ぐに黒い靄が確認できる筈だ』

「あぁ、なるほどね」

『それと、エネミーにならぬ者がエネミーに殺された場合は死後一分もすれば死体は消え失せる。残しておくと何かしらの種になりかねんからな』

「え、そうなの?」


 そう言われて気付いた。あの女性の死体が消え失せている事に。

 つまり誰か親しい人が死んでも死体を残すという事はできないのか。いや、大量に死者が出ただろうから寧ろその方が良いのだろうか?

 ……止めよう。この悩みは良くない気がする。


『もう質問はないな? 制限の関係で話せる機会は下手をすればこれが最後だ。頼んだぞ』


 その言葉を最後に、黒い靄が人の形を取ったかのようなディトアグルの姿が消え失せた。

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