第2話 旅立ち

 それからまた時間は進み僕は成人を迎えた。

 この数年のうちに沢山のことがあった、仲の良かった友達とは小さな学び舎を出てからは次第に疎遠になっていったし、物知りだったおじいさんは、今では父の元で医者を目指す僕のほうが物知りだ。

 それでもこの村の良いところはまだあるし、このまま父を継いで医者になるのも悪くないさと自分の気持ちにけじめをつけていた。


(本当に?)


 ある晩、また夢を見た。

 しばらく見ることがなくて、どこか薄れ気味になっていた僕の生まれた街の夢だった。


(本当に?)


 目の前にいるのは幼い頃の僕だ。

 純粋な目でこちらをのぞき込み、心に問いかけてくる。


(本当に君はそれを望んでいるのかい?)


 子供の体をした僕は厭に大人ぶった話し方で問いかけてくる。


(僕は君だよ、確かに存在した在りし日の僕だ。思い出してごらん、僕もこの街も

いつでも君を待っている。だからほら、自分の気持ちに素直になって)


 そこで僕の目は覚めた。

 いつからだったろうか、自分の気持ちに素直になれなくなったのは。

 この村にきてから? 医者を目指すために友達と会うことやめた日から? いや、本当はもっとずっと昔のこの世界に生まれたときからかもしれない。

 だから僕はもうやめることにするよ。

 自分の気持ちに嘘をつき続けることをやめるよ。


(そっか、良かった)


 そう言って、もう一人の僕が微笑んでくれた気がした。

 それからの僕の行動は早かった。

 次の日にはもう両親と話をつけ、久々に友達に手紙を出した。

 物知りなおじいさんにあいさつに行った後、村中の人たちとささやかなパーティを開いた。

 みんな僕の旅立ちを祝ってくれていた。

 僕は本当は気づいていなかったのかもしれない、こんなにもこの村は確かな温もりと優しさが詰まった村だったってことに。

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