第2話 総長と団長’sと酒席

 「いいかっ!今日は総長と団長たちによる交流会がある。団長たちといっても全員ではない王都守護を主要とする第一から第三までだから計四人だ。それにお前も加われ。」


 先日の初最重要特別任務から一週間後。

 本日の勤めも無事に修了し帰ろうかと思えば個人的にアレク団長から呼び出しをくらい執務室を尋ねた第一声がこれであった。騎士なのだから挨拶は他所より大切にすべきだと思うもその鬼気迫る言い方は前回の指導騎士を思い出させる。


 「団長たちの交流会なのに新人の僕が行ってもいいんですか~?」


 「前回の任務同様に総長に酒を飲ませないためにお前が必要だ。既に総長のお許しは得ている。お前に断る権利は無いから大人しく来い。だが、お前……その気の抜けた話し方はどうにかならんのか?」


 別に予定もなかったので断るつもりはない。寧ろまた美味しい者を飲み食いできるのであればこちらとしては大人しくどころかスキップしてついていきたいぐらいだ。


 「あ~、これ何回も言ってますが僕も何度も直そうとしたんですけど先祖代々このしゃべり方なんでどうしようもないんですよね~?アレク団長なんかいい方法知ってますか~?」


 「はぁ~。まぁ、とりあえず今日は他の団の団長や総長がいるんだから気をつけておけ!俺も気をつける!!」


 「わかりました~。アレク団長も口調からはとても貴族とは思えませんもんね~。」


 「やかましいわっ!」


 「でも僕そんな気さくな口調のアレク団長好きですよ~。」


 「男から言われても嬉しくないわっ!お前、新人のくせにその態度で大丈夫なのか?」


 「心配してくれるんですか~?大丈夫ですよ~。しゃべり方で注意を受けるはずないので~。」


 「はぁ~。お前それでよく今年度の主席合格者になったな。」


 「ですよね~。自分でも驚きましたよ~。でも、主席合格者は一つだけ願い事を言っていいという話を耳にした時は何が何でも頑張ろうと思いましたよ~。」


 「それも許される範囲内ではあるけどな大抵の奴は断るぞ。それに思ってても簡単になれるもんじゃない。だが、まさか『入団後このしゃべり方で怒られたくない』というバカな願いをいうバカがいるなんて俺は思わなかったわ。」


 「バカ、バカ言うなんて酷いですよ~。でも、実は僕も実技試験でもう駄目だと思っていたんですよね~。そしたら爺さまが我が家の家宝を渡してくれて無事合格したんですよ~。驚きですよね~。でもお蔭で念願叶って助かりましたよ~。」


 「お、なんだそのおもしろそうな話!?今日の酒のつまみにいけるんじゃないか?って、ヤバッ!もう時間だ!!行くぞ。」


 言われるがまま執務室を後にし目的地についていくとそこは団長たち専用の娯楽室だった。下っ端の自分がまさかそんな敷居が高い場所に入れるなんて思ってもいなかったが室内がどうなっているのか好奇心を押さえられない。

 中に入ると意外と質素で以前訪れた友人貴族の応接室とそう変わらないような気もした。


 既にメンバーは揃っており、うち団長二名はサイドテーブルでチェスを指し総長はそれを眺めていた。いち早く僕たちに気づいた総長はにこやかに手招きをされたので、アルク団長と軽く礼をとる。


 「時間には間に合っている。勤務外だから礼はいい。今日は無礼講だ。」


 王女らしからぬ言葉使いであるはずだが、さっぱりとした話し方は似合っていて違和感を持つことなく自然と受け入れていた。

 前を歩いていたアルク団長が促されるまま王女の隣に腰掛けようとしたが直前で僕に座るよう指示してきた。さっきまでの元気そうな顔とは一変し顔色が青白くなっているのはこの短時間の間に何か体調を崩すような物でも食べていたのだろうか?


 結局、総長と僕とで二人掛けソファーに。対面に二人の団長が一人用のソファーに。アレク団長が総長の正面横に座る形となり食事が次々運ばれてきた。

 テーブルに料理が並べられるまでチェスに夢中だった団長二人は総長に怒られてからやっと盤から目を離した。

 挨拶をしようとしたが総長がそれぞれの名を言って終わった。本当にこれでいいのかと思ったが『先程も言ったが今日は無礼講だ。そこのチェスバカ二人組みは空気だと思え』と言われればどうすべきか判断ができない。しかも、その言葉を合図にしたかのように料理が次々と持ち込まれてきた。


 コースメニューではなくテーブルには様々な料理が置かれている。

 好きな物を取って食べていいというスタイルは空腹の身としては大変嬉しい。これだと作法を気にせず食べることができる。

 前回の酒と桃も美味しかった。しかし、今はお腹に溜まる物が欲しかったので今回の食事は嬉しかった。

 一口、二口、三口と様々な料理を楽しんでいると総長が僕をニコニコと眺めて団長たちに酒を勧めた。


 「今日はお前たちに特別な酒を用意したぞ。グイッと一気に飲んでくれ。」


 もっとわいわいとしたものを想像していたが団長たちは無言だった。――――というよりテンションが極めて低い気がする。酒のある席の温度ではありえない状態だ。ここは自分も空気を読んで無言を貫いたほうがいいだろう。

 渡された酒を疑うように眺め、舐めようとした正面の二名は総長から怒られ『最低でも一口飲め』と脅されているようだった。

 さすがにマナーが悪いと自覚していたのか素直に言うことを聞いた結果、即効性の猛毒でも仕込んであったのかというほどの速さで倒れた。

 害のある物ではないとわかるのは酔っ払いの特徴に当てはまっていたためであるが、酒に弱いのに付き合うのって大変だなと心底思った。ふと、アレク団長を見ると顔が赤くカクカクと首が動いている。正直、怖い。


 「あ~~、なりゅほどぉ~。そ~~~~~、きみゃしたかぁ。これ~どにょくらい~~薄めてますぅぅぅう?」


 なるほど。アレク団長は酔うと動きが不気味に話し方が可愛らしくなるタイプらしい。


 「ふふっ。気づいたか。半分だ。」


 「こりょすきれすかぁぁぁぁぁ~~~。」


 会話の内容はよく分からなかったが、その叫びを最後にアレク団長はパタリと倒れた。

 団長三名皆脱落。なんて早すぎるんだ。こんなに酒に弱い人たちだったとは自分が総長と最後まで一対一で付き合うしかないではないか。


 「まったく不甲斐ない奴らだな。だが予定通りだ。」


 総長は呆れていた顔を一変し、にこやかにこちらを見るとまたしても桃を勧めてきた。食べてしまうと、もう一個と次々渡され食した数は計五個。前回とは異なり酒を一滴も勧めないが更に桃を勧めてくるので思わず話しかけてしまった。


 「酒は飲まなくていいんですか~?」


 「ん?酒か?なるほど。これはおいしくないか?」


 「凄くおいしい桃で嬉しいんですが、酒を飲ませるために今回僕を参加させたのではないのかと疑問に思ったんですが~」


 「なるほどな。おいしい桃か。身体に異常はないか?」


 「異常?そういわれれば……少し身体を動かしたくなってきましたね~。」


 「やはり私の勘は正しかったか。よし、私もこの桃を食べるぞ!」


 「総長も桃お好きなんですか~?おいしいですよね~。」



 そんな会話をして桃を更に三つ平らげたところまでは覚えている。

 だが、しかし、それからどうやって現在に至るまで展開したのかは不明であるし理解も出来ない。


 「何故、僕は、総長とこんな魔物の屍の山にいるんだ~~~~!!」


 隣にいる総長はぐっすり眠っていてその寝顔を不可抗力で見てしまったが、大変可愛らしかった。しかし顔から下は赤黒く染まっており、髪も所々血を浴びたような色をしている。いや、「ような」ではなく実際に浴びたということは周辺に倒れている魔物たちから察することはできる。まさに屍の山という頂上にいる訳だが、健康そうに寝ている総長が怪我をしているようには到底見えない。


 その下にいる魔物って僕の記憶が正しければ災害級ではありませんかね。しかも、この数の魔物討伐任務ってどのくらいの騎士で任務にあたるものなんですか。

災害級抜きにしても騎士300人では足りないと思うのは気のせいですかね。

 そして、ここはどこなんですかね?


 助けに求める視線に気づいたのか総長はパチリと目を覚まして背伸びをした――――かと思えば、襟首を摑まれ空中に投げられた。

 ぶざまな悲鳴を上げつつ内心、これ死ぬな!?と覚悟したのに思った痛みは感じられず恐る恐る目を開ければ総長にお姫様抱っこされていた。


 なんだコレ!ハズイ!!とにかくハズイ!!!

 美女にお姫様抱っこされる成人男性の図なんて見る側もダメージを受けるだろうが、される側はそれ以上の精神的ダメージを味わうことを理解してほしい。


 とりあえず下ろしてもらうおうとした次の瞬間にはまたしても視界一杯に青空が広がった。それを最後に僕の意識はプツリと途絶えた。 

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