第3話 王女様とめでたしめでたし
色とりどりの花畑は花一つ一つが輝いているようで綺麗だ。
その間を澄んだ川が流れており、言葉では表現しきれない美とは何とももどかしいものだと思う。
川の奥から手を振っている懐かしい人物。あれは祖母だ。
「おばあちゃ~~ん。」
手を振り返し大声で叫ぶも、何ともいえない違和感がある。
自分の口が動いている。声が聞こえる。
そんなこと当たり前なのにどうしてこんなに――――。
もう一度試してみる。
「おばあちゃ~~~~ん。」
やはり変だ。もう一度。
「おばあちゃ~~~~~~~ん。」
もう一度。
「おばあちゃ~~~「いい加減にしろ!!どこのババコンだ!!!」
言葉と共に頭にダメージを受け目を開ければそこにはアレク団長の顔があった。
「いった!?――――え?夢??」
「夢だろうな!だが、ばあちゃんと大声で連呼する夢ってなんだ!?突然、寝ながら叫び出すからビビったぞ!お前ババコンだったのか?」
「え?いえ、綺麗な花畑の川の向こうに幼い頃に亡くなった祖母がいたので声を掛けていたんですが…………まさか、現実と繋がっているなんて。あはははははは~。」
「あ~~~~。それなんか聞いたことあるぞ。死の国へと向かう途中にこの世のものとは思えないほど綺麗な花畑があるって………………。お疲れ様。」
「え?あ、はい。…………あの、どこまでが夢でどこまでが現実なのか理解できていないんですが、とりあえずこのゴージャスな部屋がどこなのか教えてもらっていいですか~。」
「…………。お前の部屋だ。」
「はぁ~~~~!?何いってるんですかあ~~~~!!?」
「まぁ、落ち着け。俺から言えることは一つだ。ご愁傷様。そしてもう一度いうがここは王城のお前の部屋だ。」
視線を逸らし爆弾発言をする上司は冗談をいっている様子はない。
「いいか。俺が知っている範囲で得た情報も含めて説明してやる。これは全て現実の話だから落ち着いて聞いていろ。」
それから話されたのは事前に注意されていてもとても信じられる内容ではなかった。
まず総長、三名の団長たち、僕の酒席で振舞われた桃。
あれは総長の無敵の最終兵器だった。
あれは仙桃といい一つ泉に投げ込めば丸ごと美酒にしてしまうというとんでもない品物で、食べ方を間違えたら恐怖しかないものだという。どんな酒豪もあれで潰してきたそうだ。
え、何、その恐怖の食べ物。でも、あれ、本当においしい桃だったんで間違って普通の桃渡されたんじゃないかな~と団長に言ったら「それはない」と断言された。
前回の酒席で同じことを思った騎士たちは総長退席時に渡された品を食べ倒れていったそうだ。少し気になっていたあの騒ぎがそういうことだったのかと納得した。
団長たちが飲んだのはそれを薄めた酒だったそうだ。
決して俺たちが酒に弱い訳じゃないと力説されたが、それは別にどうでもいいと思ったのを口にしなかったのはとりあえず情報がほしかったためである。
団長たちを酔い潰すと総長も仙桃を食べ、例のごとく身体を動かしたくなり魔物が増量している森に討伐に向かった。
僕を一緒に連れて行ったのは団長たちも予想外で驚いたらしいが、それ以上に帰ってきた時は驚愕してしまったそうだ。総長が騎士をお姫様抱っこして王城の庭に戻ってきたなんて今は王城のあらゆる所で噂になっているなど知りたくなかった。
「まさか、お前が総長の仲間だったなんてな。」
「それどういう意味ですか~?」
「酒を飲むべきでない人間という意味だよ。お前が眠っている間に色々確認したが、入団実技試験のこと覚えてるか?」
「その話、関係ありますか?」
「あるから聞いてるんだ。さっさっと白状しろ。」
「そんな事情聴取のようにいわなくても……。そうですね。実技試験のことは覚えていないですね~。」
「どこまで覚えてる?」
「え~と、実技試験前に飲めと言われ渡された家宝の壷に入った果実水を飲んだ所までは覚えてますね~。」
「果実水……なるほど。あのな、お前の爺様に確認しに行ったら……あれは「神殺し」なんていうとんでもない品だったぞ。」
「爺様?どうしたんですかアレク団長?って、え、神殺し?何ですか、その物騒な名前~。」
「お前が飲んだ果実水だと思っている飲み物だ。あれは「神をも酔わせ殺す」という美酒の名前だ。」
「え~?そんなバカな!?甘くて美味しかったのに~!!?」
「黙れ!味覚バカ!!」
「酷い!!!でもなんでそんな酒を貴族でもない僕の家が持っているんですか~?」
「お前、自分の一族のこと知らないだろ!?」
「え?」
「お前の爺様だが、50年前大陸中を脅かした魔物を討伐した英雄だ。俺の憧れのお方でもある!」
「あ~、だから様呼びなんですね~。」
「当たり前だろ!名前など軽々しく呼べないほど俺の中で神格化している御仁だぞ。当時の褒美として地位より永遠に美酒が沸く壷が欲しいという願いから手に入れた品が今の家宝だそうだ。だがな、聞けば他の血縁者たちも様々な物語に登場する英雄たちじゃないか。しかもだ、物語に無い裏話を聞いてしまった。皆、地位より酒を求めたそうだ。凄いな!凄いよな!!」
「へ~~~。そうなんですね~。すごいですね~。」
「他人事!?何故、この話を聞いて熱くならない!!?」
「いや、他所の一族と勘違いしていと思うんですよね~。」
「それはないから安心しろ。お前の一族は酒を飲めば飲むほど強くなるそうだ!」
「ほら、俺に当てはまらないじゃないですか~。」
「爺様が言うにはお前は「酒を飲んでも酔うタイプじゃいが一定量を超えると戦闘狂になり、その時のことは忘れてしまう幸せ戦闘狂タイプ」だそうだ。」
「え?爺さん、可愛い孫を戦闘狂なんて言ったんですか~。酷い~。」
「突っ込むところはそこなんだな…………。まぁ、俺としてはお前がいつも通りで安心できる。早い話が総長はそんなお前を直感で仲間だと察し共に魔物討伐に向かい屍の山を作ってきたという訳だ。」
「え、総長と俺の二人でですか~?」
「あぁ、魔術師長が密かに追跡し一部始終見ていたからと間違いない。戦闘時の様子も映像で記録していて一緒に報告していたぞ。いや~、俺もあれ見るまで半信半疑だったわ。お前、酒飲むと総長より酷いな。勿論、その後の片付けは継続中だ。大変だが、お前はとりあえず今後に備えろ。」
「なんかグサグサ刺してくるけど『今後』という言葉に一番引っかかるのは何でかな~?」
「それは、お前。総長と同じで直感が鋭いからじゃないか?」
そんなこと初めて言われた。
変な顔してないかな?
そこで豪快に扉開ける音が響いた。
「後は私が引き継ごう。」
颯爽と現れたのはドレス姿の総長改め、今は王女の立場なのだろう。いつもの凛とした美しさに加え女性らしい魅惑的な雰囲気から目が離せない。
「全て終わったんですね。それでは俺は失礼します。」
意味不明な言葉を残しアレク団長はその場を後にした。
「具合はどうだ?気分が悪いということはないか?」
「え?はい、大丈夫です~。」
「では、話の続きをしよう。さて、どの話を聞いた?仙桃や魔物退治の話は聞いたか?」
「はい、それは聞きました~。あと一族のことを聞いたくらいですね~。」
「そうか。ならば、帰宅後のことを話そう。あの時フェーバーは気絶していたからな。」
まさかの名前呼びに驚いたが、別に不快ではない。
「え、あ、ご迷惑おかけしました~?」
あの、その赤面にはどういう意味があるのかお聞きしてもいいのでしょうか?
両手でパタパタと顔を扇いで熱をとろうとしているのは分かるが……美女だけど、仕草が可愛いって最強だと思うな。
「いや、慣れていないと気を失うのが普通だからな。問題ない。さて、話を続ける。帰宅後だが私は父上と話合うことになった。」
「あの~、父上って王様ですよね~?」
「そうだな。王様だな。」
「すみません。当たり前のことを聞いて。」
「気にするな。まっ、結論から言えば私と結婚し王城に住むことになった。」
「……………………………。あの~王女様と誰が結婚するんでしょうか~?」
「フェーバー以外にいないだろう。それと私のことはエーリカと呼べ。」
「えっと~、ちょっと話の流れについていけなくてですね~。すみません。……エーリカ様。」
呼んでほしそうにチラチラ見る様は近所の猫がかまってほしい時にする動きと酷似していた。猫と重なって名を呼んだといえば怒られるだろうか?…………言わないでおこう。
「夫婦となるのだから敬称はいらん。報告ではそんな相手はいないと聞いているが一応確認しておく。現在密かに想いを寄せている令嬢等はいるのか?」
「いえ、それはいませんが~。エーリカ的には問題ないんですか~?」
「問題?何がだ?」
凄くキョトンとされた顔に驚きを隠せなかった。
貴族女性なら突然の結婚も当たり前なのか?
婚約期間とか手順とか色々とあるよね?
身分とか身分とか身分も問題あるよね?
「身分とか~?」
「身分は個人的には気にしないが、フェーバーの一族は英雄の血筋だから問題ないぞ。そもそも父上達は私を他所に嫁がせ武力を持たせることを避けるたがっているからな。数年前から入り婿を探していたこともあってフェーバーの話をした時、父上や兄上達はたいへん喜んでいたぞ。」
あれ?寝てる間に外堀埋められていってないかな!?
「さらなる武力と入り婿ゲットの一石二鳥だとウハウハしておられた。」
あれ?なんか嬉しくない喜ばれ方なのに王女様がウハウハなんて言葉を使う方がダメージが高いってどういうことだろう?
「式を挙げたら離宮に住むが、それまでは王城で生活をする予定だ。」
「あの~、エーリカはこの結婚が嫌ではないんですか~?」
「嫌?何故だ?私が父上に結婚したい相手ができたから結婚させろと話たんだぞ。ちなみにフェーバーの実家にも行ってきてお孫さんを下さいとちゃんと言ってきたぞ。お爺様も一緒に暮らすことになったから安心して身一つで嫁いでくれ。」
あ、もう、完全に埋められてる?......というか、さっきからずっと思っていましたが凄い男前な言動されますね。いや、嫌いではないですが――――。
「ちなみに拒否権はないから安心しろ!」
逞しいというのか横暴というのかわからないが、一方的に言っているにも関わらず嫌悪を抱かないのが自分の答えなのだろう。
とりあえず返事を求められてなくてもこれだけは言っておこう。
「まぁ、そう言われて流れに身を任せても悪い気はしないですね~。」
瞬間、頬を染め笑顔を向けてくる彼女が可愛くて仕方なかった。
こうして二人は様々な困難を乗り越え結婚した。
後に多くの魔物を倒し英雄夫婦と呼ばれるようになった彼らは多くの人から愛され、歴史にも名を残す。――――が、酒を飲むたびに様々な伝説をつくっていたことは記録には一切残っていない余談である。
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