第12話 追想
帝国軍陸部 未確認害獣対策及新型武頭兵器試験運用部隊(通称 エッグス部隊)
任務報告
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第一小隊 綾瀬 帆霞
第二小隊 襟立 鎧
以上二名の死亡を確認。
第二小隊 柱田 頑汰
以上一名が任務中に負傷、診察の結果今後の任務への参加は困難と判断。
第一小隊 朔間 英一
以上一名に任務中の覚醒値異常を確認、保護観察の必要ありと判断。
任務中、またあいつの、あの悪魔の声が聴こえた。
そこからの記憶はなくて、気付いたらこのベッドの上だった。
身の回りでは、得体の知れない器具やケーブルが俺を取り囲んでいる。
手首からも何かの管がのびて、何処かに繋がっているようだった。
...何で、俺がこんな風にならなきゃいけないんだろう。
親父は物心ついたころには居なくなっていた。
母さんは病気がちで、姉貴は働いている。
将来について一緒に考えてくれる人はいなかった。
...ただ、何となく高校に行くのは嫌だった。
勉強でも部活でも、周りにどんどん追い越されていく。
そんなプレッシャーや焦りから逃げられる、と思った。
それで軍に入った。
今から軍に入って金を稼げば、周りより立派になれる気がした。
それからしばらくして、俺はこの部隊...エッグス部隊に異動になった。
今から6年前。
世界中を災害が襲った。
建物は崩れ、人は流され、今までの平穏な暮らしは炎の中に消えた。
順調に進まない復興を見かねた政府は、「特別復興プログラム」を発表。
戦闘行為に参加しないことを条件に、多数の少年兵を募った。
そこに俺は参加した。
そんな折、俺のもとに一通の辞令が届いた。
異動先は『エッグス部隊』。
入隊に際して、改めての身体検査が行われた。
そこで初めて聴いたんだ......あの悪魔の声を。
エッグス部隊に入り、いくつかの訓練を終えた俺たちは、学んだことが身についているかの試験も兼ねて模擬戦に臨むことになった。
対戦カードは俺の所属する第一小隊と、隣の第二小隊。
俺は第二小隊の襟立 鎧(えりたて がい)にやたらと突っかかられるが、皆の協力で何とか試験を乗り越えることができた。
『その襟立 鎧は 。』
(そんな....嘘だ)
『嘘ではない』
俺たちエッグス部隊の任務は、災害を機に現れるようになった謎の怪物『アームビースト』を駆除すること。
その任務に向けた作戦会議の途中、第一小隊のメンバーである狩矢 疾都(かりや はやと)はこのようなことを言い放った。
「俺はアームヘッドを滅ぼすためにここに来た」と。
それなのに軍に志願しアームヘッドに乗るという矛盾。
疾都の冷たい態度に睨みつけるような眼差しはメンバーの反感を買うのに十分なものだったが、どこか放っておけない自分がいた。
強がってるような、無理して一人ぼっちでいようとしてるような感じがしたんだ。
俺の機体、『ヤイバ』の武器でピンチに陥っていた疾都を助けると、疾都の機体『ハイド・シーク』は紫の電撃を纏い、ビーストを一掃した。
その任務の後、俺は疾都の動機を聞かせてもらった。
疾都の両親が、俺たちの機体を製造する『Archetype Mechanics(ARM)社』の研究の最中に行方をくらましたことを。
俺たちのチームの班長、芒 由利(すすき ゆり)はとても真面目だ。
だがその真面目さが空回りしてしまうこともあるようで、ある日俺は、自信を無くした彼女に班長を代わるように頼まれた。
どうやら彼女の強い責任感の根底には、災害で亡くなった幼馴染の影響があるようだ。
何とか自信を取り戻した班長は、『サクラフブキ』と超人的な索敵能力で、姿の見えないビーストを一掃したのだった。
一ノ宮 宝(いちのみや たから)。
俺たちの仲間で、見た目や性格的には...正直、頼りない。
どうやらアームヘッドの熱心なマニアらしく、憧れているようだった。
その憧れの気持ちは生半可なものではなかったようで、普段の訓練にも人一倍頑張って取り組み、任務の時には『フルスキャナー』の正確な射撃で何度も窮地を脱した。
...そういえば、最近はチームメイトの綾瀬 帆霞(あやせ ほのか)と話しているところをよく見かける。
『綾瀬 帆霞...その女も した』
(...嘘言うなよ、何でそんなこと)
『嘘なものか、貴様も見ていたんだろう.....ずっと』
(俺は見てない.....何も知らない)
やったのは俺じゃない。
何で俺がそんなこと。
違う、全部、全部......!
気が付くと、俺の周りを囲むケーブルは無くなり、自由に動けるようになっていた。
背後に迫る悪魔から逃げ出すため、俺は一心不乱に走り出した。
『また逃げるのか』
『誰かのせいにするのか』
(違う....そんなんじゃない)
俺は目の前の扉を開け、その中に飛び込んだ。
「あんたらは.....!」
見覚えのある面々。
よく共同で任務にあたることの多い、第二小隊のメンバーだ。
班長は海原 陽(かいばら よう)。島生まれで、男勝りな性格だ。
大きな槍を持ち、水を操るアームヘッド『ストーミィ・シー』に搭乗する。
副班長の柱田 頑汰(はしらだ がんた)は兄弟想いの優しい性格で、最近は俺たちの班長とよく一緒にいるのを見る。
乗る機体は救助用アームヘッドの『RQ(れすきゅー)ハウンド』。
移井 ナナ(うつろい-)は魔法使いのような『コンタクター』のパイロット。疾都とARM社のラボに出入りしているらしい。
泉 亜季(いずみ あき)は車に変形する『4WDヘッド』のパイロットで、鎧の幼馴染。
.....何か変だ。
柱田さん、杖なんかついてたっけか?足も片方様子が変だ。
それに何で『エッグスシステム』のコックピットが?
(俺たちの乗る機体は『エッグスシステム』が搭載されており、機体とコックピットを簡単に分離できる。そのコックピット部分だけが置いてあるのだ)
しかも、よく見たら正面のガラス部分がひび割れていて、そこから赤い液体が滴っている。
「.....何で」
「え?」
「何で、鎧が死んだかわかるか」
「....もしかして、それって」
「お前が何も自分で選ばなかったからだ。自分の責任で、決断しなかったからだ」
亜季が冷たく言い放つ言葉が、俺の胸を刺すようだった。
そして、その痛みで悟った。
このコックピットは、鎧のものだってことを。
「違う、俺じゃない....信じてくれよ」
『違わないよ』
その声に振り返ると、第一小隊のメンバーがそこに並んでいた。
「朔間くんが、綾瀬さんを殺したんじゃないか」
宝が、軽蔑の眼差しで俺を見る。
「だから、違うんだよ...っ」
「力を手に入れておいて、いざとなれば人のせいにする....都合の良い奴だな」
「疾都、お前.....!」
「人殺しはここにいちゃいけないんだよ.....?」
「班長.....!?」
「だから、 さよなら」
目の前が次第に暗くなる。
頭上には冷たい機械の手が、俺に覆いかぶさろうとしていた。
「やめろ.....うわああああああ!!!!!!!」
ガシャン!と、機材が地面に倒れる音で、俺は目を覚ました。
衝撃のせいか、機械はエラーの発生を知らせる。
そして、その音が示すように、病室の入り口に目を向けると、
「朔間、くん.....?」
そこには、班長が立っていた。
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