第4話 約束

「何だあの体たらくは!訓練を忘れたのか!!!」


「...申し訳ございません.......」


先の任務を終えて、由利は任務の結果のために財前から厳しい叱責を受けていた。


「いくら初めてとはいえ、ファントムがいなければ今頃全滅だった...


隊員全員の命を預かっているのを忘れるな!」


「はい...」


「...もういい、行け!.......」


「はい、失礼しました.........」





「はあ...」


「どうした財前、君らしくないではないか」


「はっ!...司令、お見苦しいところを」


「いやいい、あの子らへの期待ゆえだろう?」


「ええ、勿論です...」


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広間に戻ってきた由利は、顔を覆いながら帆霞と共に部屋に戻ろうとしていた。


「うっ...うう.......」


「ごめん由利ちゃんっ、ウチもビビってたかも.....」


横にいた英一は、自分の責任も感じつつやりきれない気分だったが、その時突然帆霞が


「あーあ!誰かが木に引っかからなければなー!」


と大きな声で言った。


「ねえ、そこでコソコソしてないで一言くらい謝った方がいいと思うよ」


「!......ご、ごごご、ごめん....なさぃ.......」


「はあ....こんくらいでキョドっちゃってさあ......」


「おい、人のこと言えねーだろ」


「はあ!?そんな陰キャと一緒にしないでっ!」


「........」


「もういいよ帆霞ちゃん、ごめんね.....」


「いいんだよ由利ちゃん!ほら行こっ」





「宝、大丈夫か?」


「う、うん...」


「気にすんなよ、皆初めてだったしさ」


「...ごめん......」


...「何だ、やかましいな」


「おう、狩矢」


「俺がいなきゃ全滅だったからな、お前らの連帯責任だろ。


それにお前、どもってないで何か言い返したらどうなんだ?」


「狩矢お前なあ......」


「ふん....」


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「じゃあねっ、由利ちゃん」


「うん、ありがとう...」





部屋に戻った由利は、自分の不甲斐ない現状を嘆いていた。


それと同時に、かつての震災のころを思い出していた。


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6年前。


由利には幼馴染がいた。


彼女はしっかり者として近所や学校でも有名であり、積極的にリーダーシップをとるような性格だった。


そんな彼女に、由利はいつも助けられていた。





その時だった。


世界を大災害が襲った。


由利の家族は幸いにも無事だったが、幼馴染は逃げることができなかった。


遺体は発見され、彼女と自分の家族と共に最期の別れを告げに行った。


いつも通っている学校の体育館に、他の無数の遺体とともに、シーツにくるまれて並べられる彼女。


そばで泣き崩れる彼女の両親を見て、由利も"幼馴染の命が消えた"という無慈悲な現実を直視せざるを得なかった。


気付けば由利も、彼女の両親からもらい泣きしてしまっていた。


しかし、涙を流しながらも、由利は幼馴染の亡骸の前で誓いを立てた。


「自分が彼女の代わりになる」と。


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「ではこれより、エッグス部隊作戦会議を開始する」


会議室にエッグス部隊が集められた。


「調査班から、BエリアポイントC2付近に未知の巨大生物を発見したとの報告があった。


我々はそれを、トカゲとの類似性から"爬虫類型"のアームビーストと呼称することにした。


そこでお前たちには、そのビーストの駆除任務を行ってもらう。」


調査班が捉えた映像には、確かに形こそトカゲに似ているものの、以前見たような赤く筋肉質の肌を持つ獣が映されていた。


(キモイな...ゲームの敵みたいだ)


こんな生き物が現実に存在しているとは、一度目の当たりにしてもなかなか信じられない英一だった。


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食堂で夕食をとっている時の出来事。


英一と疾都は隣り合って食事をしていた。


「狩矢お前さ、親のために"復讐"とか何とか言ってたんだろ?」


「....それがどうした」


「いや、お前って意外と、親思いなのかなって」


「!?...ゴホッゴホッ、わけわからん事言うな!」


「図星かよ?まあ無理ねえよな...


俺も、母さんは入院してるし、父さんも俺が小さい頃から帰ってこねえし...


金は入れてくれてるから、生きてはいるみたいだけど」


「ふん.....」


疾都は食べ終わって、席を立った。


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夕食と風呂を終えて自室でくつろいでいた英一だったが、その時支給された携帯に着信が鳴った。


"格納庫の裏に来てくれませんか"


"2人で話がしたいです"


由利からだった。


(人目のつかないところで...2人きり.......?)


もしかして...と変な妄想もしたが、ひとまず行ってみることにした。





「あっ、朔間くん」


「班長...どうしたの?」


「ごめんね、こんな時間に...消灯もうすぐだから、すぐ終わるね」


「いいけど......」


「あのね.......えっと、実は......」





しばし沈黙が続いた。





「実は、朔間くんに班長を代わってほしいの!...」


「えっ.....俺に??」


「うん...私が不甲斐ないせいで狩矢くんや皆に危ない目に合わせちゃったし...


あの時朔間くんが助けてくれなかったら、きっと私たち全滅だった。


だから...」


「でも、俺らは班長が引っ張ってくれてるおかげで助かってるし...


しっかりしなきゃいけないのは、俺らのほうだよ」


「そんなことないよ、私、いっつもこんな感じで......」


由利は少し俯いたあと、英一に背中を向けた。


「ううっ...ごめん...少し......」


由利のすすり泣く声が聞こえた。


英一は慌てた。


(おいおい困るぞ!?こんな時どうすれば...)





何を思ったか、英一はさっき帆霞がやったように由利の肩を抱いた。


柔肌の感触と彼女の体温を感じた時、英一はこの行動は間違っていると悟った。


「(あーもうヤケだ!)少し、座ろうか」


「うん...うっ.....」


ひとまず由利の肩を抱えてグラウンドのベンチに座ることにした。





「...落ち着いた?」


「うん、ありがとうね....あっ」


「あっ...悪い」


「いや、平気...」


英一は咄嗟に肩から手を離した。


「あのさ...ここで言うのも何だけどさ、やっぱ、まだ班長やっててくんない?」


「えっ?」


「いや!...嫌なんじゃなくて、ほら俺って班長ってタイプじゃないし、それに皆のために涙を流せるの、きっとあんたしかいないからさ...って変な意味じゃなくって!」


「!.....うん」


「俺でよければ話し相手になるからさ...」


「...ありがと、じゃあ部屋に戻るまでの間、少し話していいかな?」


「お、おう.....」





由利は歩きながら、震災で幼馴染を亡くしたことや、色々なことを英一に話した。


「ごめんね、一人で話しちゃって!でも、スッキリした」


「なら良かった...でも思うんだけどさ、班長、"その子になろう"って思ってるんじゃないか?」


「え?...どういうこと?」


「いや...人それぞれペースは違うんだから、"自分は自分にしかなれない"わけで。


だから、あんたなりにリーダーシップをとっていけばいいって思うんだ」


「そっか......」


「悪いな、柄にもねーこと言って」


「そんなことないよ」


気付けば部屋の前まで来ていた。


「ごめんね朔間くん、じゃあまた」


「おう...明日、頑張ろうな」


「うん!...今度、朔間くんのことも、教えてね」


「おう....えっ」


ドアが閉まった。


英一は、しばし立ち尽くした。





"まもなく、消灯時刻。隊員は速やかに部屋に戻ること。"


「やべっ」


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"ようこそ、朔間 英一隊員"


機械的な女性の声。


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「みんな、今回の敵はまだ対策が分かってないみたいだから、気を付けて。


とりあえず、私の指示を聞くこと。


それに....周りをよく見ること!」


「......」


「じゃあ、第一小隊、出撃!」


「「「「了解!」」」」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


"エッグスシステム 装着完了"


"アームヘッド ヤイバ 準備完了"


「朔間、出撃します!」


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目的地は長い川の中流の辺りだった。


恐らく、前回の任務で訪れた川と上流の方で繋がっているのだろう。


「ここにはいないようです」


班長の通信。


「反対側もしっかり探せ」


橋を渡り向こう岸へ。


周りをくまなく見渡す。


(いないな....)





第一小隊は、しばらく辺りを探し回っていた。


しかし、それに夢中で、徐々にそれぞれはぐれかけていた。


そのころ、相手はすでに異変に気付いていた......





「!?」


疾都からだ!


「狩矢くん!?」


「足をとられたッ!」


コア反応がどんどん遠のいていく!


「みんな、急いで!」


コア反応を追いかける残りの4人!しかし!


「きゃっ!」


「わーっ!」


「帆霞ちゃん!?」


「宝!」


彼らの機体の先に待ち構える者たち!奴らだ!


"ヤイバ ヒナワブラスター 生成します"


"サクラフブキ 退禍刀・禅 生成します"


「はあっ!!」


英一のヤイバは炎で、由利のサクラフブキは刀で応戦!


「KISYAAAAAAAAAAAA!!!!!!」


宝と帆霞の機体からビーストを追い払う!


"ハイド・シーク サイカ 起動します"


疾都のハイド・シークも、つま先から暗器の刃を出し、触手を切断!


どうやら彼らに巻き付いていた触手は、ビーストの舌であるようだった。


「GRRRRRRRRSSSHHHHHH.......」


曇天で薄暗い中でもはっきり見えた。


ビーストの切断された舌が、再生されるのを!


(マジかよ...やっぱキモい)


「みんな丸く固まって!背中合わせになって!」


某ヒーロー映画めいて輪になって集まるアームヘッド。


アームビーストと、お互いの様子をうかがっている。


......


沈黙を破り、数匹のビーストが飛び込んできた!





"ヤイバ カタナブレイカー"


"ハイド・シーク フウマ"


"フルスキャナー ライフル全弾装填"





「今!」


英一たちもタイミングよく反撃!これを退けた!


どさり、どさりと地面に投げ飛ばされていくビーストたち。


そのうち2体ほどは絶命した様子だった。


「倒せた!これならいける!」


一気にビーストに攻勢をかけようとした、その時だった。


「AOHHHHHHH!!!!!!」


「AHHHH!!!!!」


虚空に向かって叫び始めたビーストたち!


「な、なんだ...?」


すると...ビーストの間から割って現れた、新たな4体のビーストたち。


形状こそそれまでいたビーストに似ているものの、一回り大きいうえに極彩色のトサカめいた突起がついていた。上位種だろうか?


「なにこいつら~っ!?....」


(さながらリーダー、って感じだな...)


睨み合うアームヘッドとビーストたち。


そして!


「EHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!」


嘔吐音のような不快なうなり声と同時に、何かを吐き出してきた!


「ゲロじゃんっ!きも~~~っ!!」


「みんな油断しないで!何なのかわからない」


その液体は徐々に機体の足元へ広がっていく。


わずかに湯気が昇り、またぶくぶくと泡立っていた。


(これは...はっ、まさか!)


"足にダメージあり"


「みんな!これ酸だ!離れて!」


移動しようとするも、子分ビーストに阻まれできない!


「ぐあっ!」


英一のコックピットに衝撃!


すでに胴体を舌で捕まれている!


(まずい...)「班長!」


「朔間くん!?.......みんな!!!」


気付けば由利の周りには誰もいなかった。


「そんな....」


周りは湯気で霧ができて何も見えない。


さらにこの強烈な酸が蒸発して機体にダメージを与えているらしく、生体反応・コア反応センサーも機能しなくなってしまった。


装甲も溶け始めている。


強酸の池の中、立ち尽くす由利の機体。


「もう...だめ....」


「また、守れなかった.....」


「やっぱり、私.........ちゃんのようには.........」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


絶望と後悔の中、立ち尽くす由利。


彼女の脳内には、走馬灯のようなものが流れ始めていた。


家族や友達と、楽しく遊んだ記憶。


学校で、家で。夏休みに、春休みに.......


その中で、幼馴染とのことも思い出した。


彼女が自分を引っ張って、色々な場所へ連れて行ってくれたこと。


彼女の亡骸の前で、誓いを立てたこと。


「私が.......ちゃんの代わりになる」


そして、最近のことも思い出した。


気持ちを抑えきれず、英一に介抱されたこと。


「でも思うんだけどさ、班長、"その子になろう"って思ってるんじゃないか?」


「"自分は自分にしかなれない"」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「私は私にしかなれない.......」


「それなら.....誇れる自分でありたい......」


「ここで、諦めるわけにはいかない!!!!!!!!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ようやく気付いたんだね、由利ちゃん」


「その声......もしかして!」


「どんな時も諦めない由利ちゃんが、大好きだよ。


ずっとそばで見てるからね」


「..........」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はっ!」


「ずっとそばで、見てる.......?」


「見てる........!"視え"る........!聞こえる.........!」


強酸の霧の中でも、ビーストや他の機体がはっきりと見えた。


そしてビーストの息遣い、他の隊員の声もはっきり聞こえた。


「今なら、狙える.....!」


"サクラフブキ 破邪弓・烈 生成します"


.............


.............


.............


「..........そこっ!!!!!!!!」


弦を弾き、エネルギー弾を撃ち出す!!!!


「GYAAAAAAGHHHHHHHH!!!!!!!!!!」


バシッ、バシッ、バシッ、全弾命中!!!!!


ビーストと捕まっていた機体が地面に落ちる!


「.....や、やったーっ!」


「班長、こっちへ!」


英一が由利の手を引く。


「.......こちら第一小隊、目標駆除、完了しました」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「いや~由利ちゃんすごかった~っ、どうやったの?」


「いや、私にもよくわかんない、っていうか」


「おう班長、流石だったよ、助けてくれてサンキューな」


「うん!....私らしい私、少しはなれたかな?」


「え?......お、おう」


英一も由利も、わずかに赤面しながら話す。


「え~っ二人とも、もしかしてデキてるの~~~っ!?」


「んなわけないだろ!!!」


「んなわけないでしょ!!!」




第四話 終

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