第3話 復讐

「は、はあ...!?」


「ど、どういうこと...?」


アームヘッドが嫌いなら、何故アームヘッドに乗る仕事に就くのか。


その場にいた全員がそんな違和感を抱いていた。


「俺には、やらなきゃならないことがある」


「なんだよ、それって...」


「お前たちに言う必要はない、分かったら関わってくるな...」


憤りも感じさせるような言い方で英一たちを制したあと、その場を去っていった。


「何なの?あいつーっ!」


「でも、きっと訳があるんだよ、教えてくれたらいいけど...」


(あいつ...一体何を...?)


英一も班長と同感だった。


疾都を"変な奴"というレッテルで括って放っておくこともできた。


今までもそうしてきた。


でも、英一は何故か、そうすべきではないと思った。


何かが彼の中で引っかかっていた。


「17時に、なりました。17時に、なりました。...」


そのとき、終業のチャイムが鳴った。


「...じゃあ、今回はとりあえず解散しようか」


「賛成~っ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


英一は宝のことも気掛かりだった。


宝はアームヘッドが好きだと言っていた。


しかし、疾都は宝の目の前で「アームヘッドが嫌い」と言い放った。


自分が否定された訳ではないにしろ、自分の好きなものが目の前で否定されるのはやや辛いものがあるだろうと思ったのだ。


そこで、ちょうど広間で宝が本を読んでいたので、話しかけてみることにした。


「...よう、隣、いいか?」


「!!」


英一は宝の隣に座りこんだ。


そのとき、宝の肩が若干強張るのを感じた。


英一は宝が読んでいる本に目を向けた。


"世界のアームヘッド特集"と題されたその本に、さっきまで夢中になっていたので、やはり彼はアームヘッドが好きなんだと改めて思った。


これで心配はなさそうだとは思ったが、念の為例のことを聞いておくことにした。


「さっきのこと...大丈夫か?」


「う、うん...」


宝は小さな声で答えた。


「でもあいつ、目の前で"嫌い"って...」


「いや、気にしてない...


そういう人も、いるから...


皆が同じ意見なわけ、ないからね...」


「まあな...じゃあ、何で宝はアームヘッドが好きなんだ?」


「えっ?えっと......」


暫くの沈黙のあと、宝の口が開いた。


「見た目のかっこよさと、それに...


ヒーローなんだ、僕にとって」


「なるほど...」


宝は、小声ながらもしっかり自分の意見を述べた。


「俺らも、そうなれるよう頑張らないとな」


「...!」


「いきなり話しかけて悪かったな、じゃ」


「うん...」


はじめ、英一は正直、宝を軟弱そうだと思っていたが、どうやら違うかもしれないと、考えを改めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


エッグス部隊がいつもの場所に集められた。


いよいよ明日は、初任務の日だ。


「各自で話し合いも進んでいるだろうと思うが、明日は諸君が初めて臨む任務がある。


無論、失敗は許すべきではない訳だが、我々もそこまで鬼ではない。


こちらからも適宜指示は出すし、しばらくの間は自律行動モードのチャレンジャーを数体行かせる。


今回の任務は、諸君が任務に必要なスキルを存分に吸収できるチャンスだから、気を引き締めて臨んでくれ。」


「了解!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


深夜になり、体も疲れているはずだが、英一は眠れていなかった。


明日は戦闘用アームヘッドに乗って挑む初めての仕事で、今までは実感がなかったが、最近は疑似戦闘訓練を頻繁に行っているため、少しずつ実感が出てきていた。


それどころか、(自分は学んだことをしっかり実践できるだろうか?)みたいな不安が湧き、それも眠れぬ一因だった。


それに班のメンバーのこともあるし、満足に作戦も立てられていない気がする。


(でもまあなんとかなるだろう)と、英一はぱっちり開いた目を無理やり閉じた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


朝が来て、早速任務の準備に入った一行。


英一は、案の定全く眠れていなかった。


戦闘用スーツに着替え終わり、顔を合わせる第一小隊のメンバー。


「みんな、昨日は満足に打ち合わせできなかったけど...でも、指示は一応出るみたいだし、できることをしっかりやってこう」


「........」


「お、おう」


班長の声掛けにもまるで応じない。それで結局英一が気のない相槌を打つことになる。


英一は周りの不甲斐なさにもだいぶ慣れてきていた。


すると...彼らのいる格納庫が、突然大きく揺れだした!!!


「きゃっ!...な、何~っ!?」


「ははは!諸君安心したまえ」


胡散臭い笑い声と共に現れたのは、以前会った男、催馬 柳市だった。


「これはただの格納庫じゃあない。空母"エッグパッケージ"だ。


いくらアームヘッドといえど広いエリアを駆けるのは大変だからね、これで目的地まで飛ばすという算段さ」


(スケールでけぇな......)


これまで生きてきた世界とかけ離れた現実に、英一はついていくので精一杯だった。


「そういえば、狩矢くんは?」


「そういえば見かけないけど...どーせウチらといるのが嫌なんでしょっ」


「...とりあえず俺が見てくる」


「ありがとう、朔間くん」





見当のつく場所を考えて、更衣室に入った英一が見たのは、俯いて座り込む疾都だった。


どうやらその手には写真のようなものを持っていた。


「おい、狩矢...」


「!...何の用だ」


「もう集合だけど...ってか、その写真は?」


「お前には関係ない」


「いや、ある。見せてくれ」


「お前が見ていい物じゃあない」


「...見せたくないんならいい。でも昨日のこと...何であんなこと言ったんだ?その写真とお前の"やらなきゃいけないこと"って、関係あるのか?」


「しつこいぞ!関係ないんだよ」


「関係なくない!チームとして、このままお前を放っておくわけにはいかない!それに、班長もお前を放っとかないだろ」


「あいつに気があるのか?」


「!...それは.......」


"まもなく目的地、まもなく目的地。エッグス部隊は至急集合せよ。エッグス部隊は至急集合せよ。"


「邪魔だ、どけ」


疾都は英一を押しのけて、更衣室を後にしていった。


「..........」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「諸君、全員揃ったな」


「第一小隊、全員確認しました」


「第二小隊、全員確認しました」


集合した先では、財前が任務前最後の確認をしようとしているところだった。


「改めて確認するが、今回の任務は二足獣型アームビーストの討伐。現時点でARM社の調査班により3体の個体が確認されているが、油断は禁物だ。


今回は小隊ごとに分かれて行動してもらう。ファントム機体を同行させるほかこちらからも適当に指示は出すが、君たちのチームワークが大事だ、いいな?


それでは全員、整列!」


「「「はい!!!」」」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


"エッグスシステム搭載アームヘッド 搭乗・発進時のプロセス"


1.コックピットに乗り込む。


ハッチが閉じると、ディスプレイが表示されるとともに


「ようこそ。○○隊員」


というような音声が女性の声で流れる。


2.コックピットがアームによって持ち上げられ、機体に装着される。


レーンに配置された後続のコックピットが、1個分動く。


3.格納庫のハッチが開く。


機体が180度回転し、機体の操作が可能になる。


降りると、レーンに配置された後続の機体が1個分動く。


また1.に戻る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「全員、ポイントCに到着しました。


異常はありません」


「わかった。ポイントDへ向かえ」


「了解」


(全然出てこねえな...何でこんな雑用やらされんだ)


エッグス部隊は誰もいない市街地に降り立ち、決められたポイントからポイントへ歩き続けていた。


「ポイントD、異常なし...」


「待って。この川の色、変じゃないっ?」


「その川は、原因は不明だがプロトデルミス濃度が高い。


動物の突然変異に何か関係がある可能性がある。


じゃあ、その川を上流に向かって進んでくれ。


ここで川を挟んで一・二小隊で分かれてもらう」


「了解!」





木をかき分けながら山を登っていく第一小隊だったが、少し遠くに大きな物陰を見つけた。


「こちら芒、対象1体確認しました」


「1体だけか?」


「はい、こちらの方を向いてますが、まだ気づいてないみたいです」


「そうか、あくまで油断はするなよ」


「了解。じゃああのアームビーストが向こうを向いた隙に狩矢くんと一宮くんが横に回り込んで、朔間くんは正面から攻撃して!


私と帆霞ちゃんはここで何かあった時のために準備ね!」


返事はしないものの、各自言われたとおりに動いていく。


しかし、その時だった。


ガサガサガサッ!


木をなぎ倒す音がした!宝の機体からだった。


「あっ.....」


木に機体の肩がぶつかり、木が折れてしまっていた。


「まずい.......」


アームビーストもこちらに気付いた!


「UGRRRAAAAAAAAAHHHHHHH!!!!!!!」


威嚇するような激しい鳴き声を発するビースト!


「ごっごごごごごごめん!!!」


「いいから撃って!!!」


「はっはいぃ!」


激しく銃を乱射する宝の機体!


だが当たらないばかりか、仲間に当たってしまっていた!


「ちょっこっち撃つなって!...っておわっ!?」


アームビーストは猛突進して英一の機体を弾き倒すと、由利の機体に掴みかかった!


「きゃあっ!ちょっと...!」


「なんなのぉこれっ........」


帆霞は初めてみるものへの恐怖に固まっていた。


赤くゾウのような質感で、ところどころ金属質に変異した皮膚、巨大な身体、耳をつんざく鳴き声、そしてアームヘッドを凌ぐパワー。


彼らが恐怖するのも当然だった。


「くっ......!」


疾都もすかさず由利のもとへ向かうと、持っていた手裏剣でビーストの硬そうな皮膚を刺した!


飛び散る鮮血、しかしビーストは由利を離すと腕を振り回し疾都の機体の頭に強烈な殴打!


「ぐあっ!」


「UGAAAAAAAAAAA!!!!!」


ふたたび威嚇するビーストに、背後から飛んできたファントム機体のクローが直撃!


すかさずファントムがビーストの額の角を何度も叩き、折った!


するとビーストは暴れるのをやめ、力なく倒れた。


「た、助かった~~~っ」


「倒したの...?」


「奴らはアームヘッド同様角が弱点だ。破壊されると活動を停止する」


ファントムに助けられ安堵した一同。


しかしそれもつかの間だった。


どこからか、こちらに近づいてくる物音がする。


「班長、何か聴こえるぞ!」


「わかってる、こっちに来る...!」


森の向こうに目を凝らす一同、音はどんどん大きくなってくる。


しかもそれは、まるで電車が頭上を通る時のような、ガタゴトガタゴト...といった轟音であった。


「これって、もしかして...っ」





「UGAAAAAAHHHHHH!!!!!!!!!」


「URRRGAAAAAAAAA!!!!!!!!」


そこから現れたのは、5,6匹は居ようかというビーストの群れだった!


「嘘だろ嘘だろ嘘だろ!?」


「いやあああああっ!!」


「みんなとにかく攻撃を!!」


各自、持てる力のすべてを出して攻撃するが、まるで歯が立たない!


目の前まで接近してきたビーストに難なく薙ぎ倒されてしまう英一たち。


援護するはずのファントムも、


バキッ!バキバキッ!


と、複数体がかりで破壊されてしまった!


「そ、そんな......!」


「うちら終わったっ......」


しかし、疾都はなおもめげずに立ち上がった。


「ケダモノが.....!」


「狩矢!無茶だ!!!」


「もう逃げて!!」


「うおおおおおおっ!!!!!」


ハイド・シークの得意の機動力で次々ダメージを与えていく、だが数の暴力で取り囲まれてしまう!


「ぐっ.....!」


「こんな...こんなこと.....」


(俺たち、もう駄目なのか....?)





"小僧、もう終わりか?"


諦めかけて、意識も失いかけていた英一の頭に、謎の声がよぎる。


"怖気づいて、奴を見捨てるのか?"


(いや、そんなこと、したくない.........


俺はあいつを、放っておけない.......!)





いつの間にか英一は無意識に機体を操縦していた!


「朔間くん!?」


「うおおおお!!!!」


"カタナブレイカー・生成します"


"発火システム・起動します"


「お前ら!!!こっちだ!!!来い!!!!!」


英一が放った火に誘われて、ビーストが一斉に飛び込んでくる!


「狩矢....今のうちに....!」


「お前.....!」


引っ掻き、殴り続けるビーストたち!


"装甲の総耐久力65%低下、フレームに到達します"


英一の機体はかなりボロボロになっていた。


勿論、疾都の機体も装甲が取れかかるほどダメージを負っていた。


「朔間.....!」


「言ったろ、お前を放っとかないって.....」





「はぁ、はぁ、はぁ.......!」


その時、疾都の機体が紫電を纏い始めていた...!


「あれは....?」


「おおおおおおおおっ!!!!!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「狩矢隊員のコア適応率が急上昇しています!」


「..."調和能力"の発現がこんなに早いとはな........」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おおおおおおおおっ!!!!!!」


「きゃっ!」


「うおっ!」


落雷のような激しい光を放つ疾都!


「UGRRRRAAAGHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」


ビーストも反応して激しいうなり声を上げる!


「くらえ!!!!!!!」


疾都が手裏剣を投げると、紫電を纏いながら凄まじい速さでビーストたちの間を飛んで行った!


ブーメランのように疾都の手に手裏剣が戻る!


「やったの....?」





しばらく間を置いた後、


ボンッ、ボンッ、ボンッ!


ビーストたちの頭部が紫色に爆発した!


次々倒れていくビーストたち。


「終わったのか...?」


「動かない....?」





「勝った、勝ったよ....!」


「やった~~~~~~~~っ!」


何秒しても起き上がらないビーストたちを見て、ようやく勝利を確信した一同。


彼らの心に達成感と開放感が湧き始めていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「...おい」


「ん?....狩矢か」


「なぜ俺を助けた?」


「なんでって....ほっとけないからだよ」


「だから、それが何故だと聞いてる」


「いや、何となく...だよ。


もうダメかと思ってたけど、何か変な声が聞こえてさ」


「声だと?ふん...まあ借りを返すつもりで教えてやる、さっきの写真のこと」


写真を差し出す疾都。


そこには幼い疾都と思わしき少年とその両親が写っていた。


「これは...?」


「俺の両親はアームヘッドのせいで死んだ」


「!?」


「両親は科学者だったが、ARM社と何かの調査をしている最中に行方不明になった。


それが何かはわからんが、ここでそれを突き止め、復讐するのが俺の目的だ」


「復讐って....!?」


「これで借りは返しただろ、じゃあな」


「お、おい.......」


初任務を終えて疲れた英一の心に、疾都の目的と謎の声の不思議が重くのしかかっていった。


第三話 終

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