第2話 邂逅

開始の号令と同時に10機のアームヘッドが飛び出す。


広大な練習場には、ホログラムの的があちこちに用意されている。


英一は事前の作戦通り左側から向かったが、疾都はそんなものを気にする様子もなく、別のルートから進んでいる。


(ったく、あいつ…!)


制限時間は10分間。


こちらの武装はブラスターと鉤爪。


「焦らず、1個1個確実に処理してね。点差は小さいし、勝ち目は十分にある」


「了解!」


班長からの無線に、言い慣れない返事で応じる。


しっかり的の位置を確認しつつ、一旦呼吸を整える。


(今のところ上手くいってる…しっかり、この調子で)



「きゃあっ!」


帆霞の叫び声が無線に響いた!


「帆霞ちゃん、どうしたの!?」


「ま、的が…撃ってきたんですけど~~~」


「相手の動きをよく見て、しっかり防御して!」


「り、りょうかいぃ~~」


機体にはライフがあり、3回攻撃されると動かなくなる。


それを防ぐため、左腕にシールドが装備されている。


すると、英一も何者かに攻撃を受けた!


「うわっ!」


(まずい…あと2点だ)


ライフカウンターが英一を焦らせるように点滅する。


一体何に攻撃されたか分からず困惑していると、再び何かが襲ってきた!


「やべっ!」


後方からの攻撃で反応が遅れ、当たってしまったかと思われたが、そこには仲間の機体の姿があった。


「ボサッとするな!」


疾都だった。


「う、うるせぇ!」


「背中合わせだ!」


「わかってらぁ!」


訓練の際に習った戦法だ。


背中をお互い預け、目の前に神経を研ぎ澄ませる。


「そこだっ!」


疾都のクロ―が敵にヒットした!

しかし仕留めるには至らなかった。


(な、何があった…?)


困惑しつつも警戒し続ける。


すると目の前で何かが動いた!


すかさずクローを突き出す!


「今だ!!!」



英一の攻撃は当たり、的も消滅した。


「ふう…あぶねえ」


「こっちも何とか倒せた!」


「みんなお疲れ!残り3分、ラストスパートだよ!」


その時だった。


敵チームの方からブラスターを連射する音が鳴り響いた!


「うっ!?」


「由利ちゃん、大丈夫!?」


班長も被弾したようだ。


「だ…私は大丈夫、みんな、物陰に隠れて!」


班長のライフが一つ減っている。


敵チームの攻撃でもライフが減るようだ。

「こんなのありかよ…!」


敵の攻撃をやり過ごそうとしている間にも、敵のスコアは増えていく。


(セコい奴らだ…!)


「みんなよく聞いて。相手5人のうち、撃ってきてるのは3人。


さっきみたいに2手に分かれて、2対1で戦って。


私は大丈夫、相手も一騎打ちは避けるだろうから」


「り、了解!」


班長を一人にするのが若干不安だったが、言う通りにすることにした。


また左に出て、敵の銃撃を捌きつつ近づいていく。


今度は疾都も一緒に来ている。


「くらえっ!」


英一が勢いよくクローを振り下ろす!が、防がれてしまった。


疾都も攻撃に加わり、2人で1人を追い詰めていく。


相手も素早く動いているが、先ほどのような余裕はなかった。


「はぁっ!!!」


ついにクローが命中した!



頭を攻撃された機体はけたたましいブザーと同時に膝から崩れ落ち、ホーンがアームコアの形状に戻った。


(ちょっと汚い気もするが…喧嘩売ってきたのはそっちだぜ)


「みんないい感じだよ!このまま押し切ろう!」


班長の勝利を確信した声が響く中、英一は異変に気付いた。


敵機が1機、班長の方向へ猛突進してきていた!


「な...なんか来てる!」


「え!?」


「おい朔間どうした!?」


英一もすかさずその機体めがけて急発進する!


「敵の一人が由利ちゃんの方に突っ込んできてるよ~~~!」


(最後の悪あがきか…!?)


英一は咄嗟に舵を切り、敵機の方に飛び出した!


「朔間くん!!!!!」


2機のスピードはお互い急上昇している!


「うおおおおっ!!!!!」



2機は衝突し、強い衝撃が英一の体に走った!


吹き飛んだ機体は火花を上げ、煙を吐きながら地面を滑った。


意識があやふやになりかけたが、そのとき強い痛みを感じた。


「さ…くん!…」


「だ…ょうぶ!?…」


無線も壊れてしまっているようだ。

痛みをこらえながらゆっくり体を起こすと、終了の合図が出た。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「いてて…」


「朔間くん…大丈夫?」


「あぁ…うん」


英一は試験のあと医務室に運ばれていた。


軽い打撲と捻挫だった。


「どう?もう戻れそう?」


「全然平気だよ…たぶん」


「もうみんな戻ってるし、部屋行こっか」


迎えに来た班長と共に自分の部屋に戻ろうとすると、「おい」と呼びとめられた。


どうやらさっきぶつかってきた相手チームのメンバーのようだ。


その男はしばらく英一を睨みつけると、


「…覚えてろよ」


と言い放った。


「……」


「朔間くん、どうかした?」


「いや...なんでもない」


微妙な空気が漂う中、英一たちは医務室を後にした。



班長と2人で部屋に向かう英一だったが、やけに道のりが長く感じた。


すると、班長が口を開いた。


「さっきはありがとう。それに、この前も私のこと庇ってくれてたし」


「いや、それは一瞬の気の迷いというか…」


思い出して急に恥ずかしくなる。


「私、つい自分が皆を引っ張らなくちゃと思って、いつも空回りしちゃうんだよね…


やっぱり私、人の上に立つの向いてないのかな」


非常に返答に困る話だったが、何とか言葉を振り絞り


「いや、あんたはよく頑張ってる方だと思うけど…」


と返した。


「そ、そうかな…?」


「俺はそう思うけど…それに見た感じ、俺たちを引っ張れるのあんたくらいしかいなさそうだし」


「そ、そっか……って、こんな話してごめん」


「いやいいけど…とりあえず、これからもよろしくな、班長」


「…うん」


由利は俯きながらも微笑んだ。


英一もそれを見て、少しほっとした。


思えば彼女のこんな顔を見たのは初めてかもしれない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しばらく経ったころ、第一小隊のメンバー全員に呼び出しがかかった。


行先は、「アーキタイプ・メカニクス」という企業のラボだそうだ。


到着すると、白衣を着たやせ型の男が立っていた。


「やあやあ!優秀なエッグス部隊の諸君、待っていたよ。


私はこのラボの主任を担当している催馬 柳市という者だ」


その男は陽気に語った。


「キミたちの試験での活躍は聞いているよ。


これまでの量産機では、君たちの実力を持て余してしまうようだからね、我々がとっておきを用意してあるんだ。さあ案内して」


「では朔間隊員、こちらへどうぞ」


「あっはい」


スーツの女性に案内されるままついていくと、大きな格納庫に辿り着いた。


「どうぞ中へ」


格納庫の中には、赤色の鎧武者のようなアームヘッドが立っていた。


「す、すげー…」


思わず感嘆の声を漏らす英一の前に、再び先ほどの男が現れた。


「やあ朔間くん、初対面の第一印象は?」


「かっこいい…です」


「だろう?」

“ARM-E001 ヤイバ”


「わが社の威信をかけて開発した”エッグスシステム”、その第一号だ。


刀とブラスターを持ち、機動力にも優れている。


キミの実力なら使いこなせるだろう。


そうだ、早速乗ってみないか?」


「えっ、いいんですか?」


「ああ」



「ここに入ってくれ」


「あっ、はい」


卵のような機械に乗り込むと、前面が閉まり、さらに大きく動き始めた!


「なんだ!?」


「ようこそ、朔間 英一隊員」


「うおっ」


その機械はヤイバの胴体部に嵌め込まれ一体化した。


「おお…!」



「素晴らしいな…しっかりデータをとっておけ」


「はい」


催馬はラボの研究員に命令した。


一方、英一はしばらくコックピットからの眺めを堪能していた。


すると、


「おい、貴様…」


謎の声がしたので、英一は驚いた!


「だ、誰だ!?…?気のせいか?」


さっき会った人たちとは違う、おどろおどろしい声だった。



「朔間くん、乗ってみてどうだったかな?」


「あ、はい、まあ…」


「どうやらキミは彼と”仲良し”のようだ。


だが、浮かれていてはいけないよ?


キミはこれから彼と共に命がけの任務に挑むのだからね」


「は、はい」


(アームヘッドを人間みたいに扱ってて、何か変なの…)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


エッグス部隊が再び集められた。


ついにこの部隊に配属されてからの初任務だ。


財前が現れ、会議室のスクリーンの横に立った。


「もう機体との"顔合わせ"は済んだことだろう。


先日のテストも皆、十分な成績だった。」


すると、班長が手を上げた。


「はい」


「どうした、芒」


班長が立ち上がって、話し始めた。


「テストの件ですが、第2小隊はこちらへの射撃や高速での追突などの妨害行為が見られました。何か罰則などはないのですか?」


「あれは私としては妨害ではなく、勝利のための機転であると認識し、評価をしている。戦場に出るのに、言われたことしかできない奴だと困るからな。それと壊れた機体についてはこちらで処理する、安心しろ」


「で、ですが...」


「話は済んだ、座れ」


班長は俯きながら座った。


班長を批判されているような気がして、さらに自分まで粗末に扱われているような気もして、英一は苛立ったが、ひとまず話を聞くことにした。


「今回の目的地は北東部、指定危険区域Aエリアだ。


この周辺には"二足歩行獣型"のアームビーストの目撃情報がある。


現状、被害報告などはないが、活動範囲が住宅エリアまで近づいているそうだ。


そこまで獰猛ではないため君たちでも大丈夫だとは思うが、資料を渡しておくので操縦シミュレーションや作戦会議など各自でしておくように」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「じゃあ、第一小隊作戦会議を始めます」


「始めよ始めよ~」


円卓にはメンバーが揃っていた。


立って話す班長、その横で話を聞いてるのか聞いてないのかよく分からない素振りを見せるのは帆霞、辺りをキョロキョロ見回す英一に、ずっと俯いて大人しくしている宝、そして参加したくないと言わんばかりに離れて座っているのが疾都。


前回と特に変わらない様子だ。


「今回のアームビーストは"二足歩行獣型"らしいけど...見た目的には二足歩行の犬みたいな感じかな?でもかなり大きいみたい」


「"手先も器用で、物を掴むことができる"、だって!」


「"アームビーストには共通して、金属製の角や金属光沢の見られる皮膚の変異が見られる""これはプロトデルミスの過剰摂取により変異した体の一部が露出しているものだと考えられる"だって、この銀色のところが弱点なのかも」


「じゃあ、そこを狙えるように作戦を立ててみるか」


班長と帆霞だけに任せるわけにもいかないので、英一も頑張って話に加わろうとする。


そこで、まるでこちらを気にする気配もない疾都にも会議に参加するよう話すことにした。


「...おい、疾都。お前も少しは話に加わってもらわないと、困るんだけど」


「...なんだと?」


ようやくこちらに目を向ける疾都。


しかし、疾都は前のようにこちらを睨みつけながら


「呼び捨てを許した覚えはない。それに、同じことをそこの根暗にも言ってやればどうだ?」


と言い放った。


英一は、宝の肩が一瞬震えたのに気付いたあと、


「根暗ってなんだよ。お前も大概だろ」


と反論するも、疾都はさらにこう言い返した。


「そいつアームヘッドが好きとか言ってたが、アームヘッドは戦争ごっこの道具じゃないんだよ。俺は、アームヘッドを滅ぼすためにここに来た」


「は、はあ...!?」


疾都の強い言い方に場は静まり返り、緊張した空気が英一たちを包んでいた。




第二話 終

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