ARMHEAD:EGGS

長ネギさん太郎

第1章 邂逅

第1話 崩壊

それまで当たり前にあったものが、呆気なく砕け散る体験をしただろうか。


誰しもが、このまま平和な日常がずっと続くのだと信じて疑わなかった。



「非常に強い揺れです!!!命を守る行動をとってください!!!」


鳴り響くサイレン。


人々は未だ、何が起きているのか理解できず、ただ恐怖し、涙していた。



「この地震で、死者・行方不明者は数百人に及ぶとみられています…」


「世界中で同時多発的に起きたこの地震は、戦後最大規模と言われており…」


テレビの報道が、残酷にも人々に現実を直視させる。


その崩壊は、波のように人々の安寧を、名誉を、生きがいを奪い去っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「おーい、英一!コーヒー飲む?」


「おう…サンキュー」


英一と呼ばれているこの少年は、未だ瓦礫の残る町と、澱んだ曇り空を見つめていた。


彼らはアームヘッド「コントローラー」に乗って瓦礫の撤去活動をしている。


「…今日は帰るか」


砂埃にまみれ、冬の風で冷えた体を缶コーヒーで温めると、機体に乗り込んで帰り支度をした。



英一が寮の部屋に戻ると、一通の手紙が置いてあった。


「身体検査…?なんだそれ」


今更なぜ?と思ったが、呼ばれたからには向かわねばならないので、行くことにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



当日、身体検査の会場に行くと、謎の機械に乗せられた。


卵のような機械の中には椅子があり、そこに座ると手足を固定された。


(な、何すんだ…?いきなり拘束しやがって)


「それでは始めるので楽にしててくださーい」


(な、何を…?)と思っていると、機械が閉まり、急に眩暈がした。



「なんだよこれ…頭が…!」


まるで永遠に続く真っ白な空間、一言で表すなら「無」のような空間かと思えば、次は声が聞こえだした。


「英一…」「エイイチ………」


「おまえは…」


「おれが…何なんだよ…!」


「身を…委ねろ…」「身を………」


先ほどの空間から、今度は炎が広がる戦場のような景色に変わった。


何者かが炎の中でうろたえている。


「ど…どうして……」


「あれは、俺……?」


翼の生えた悪魔のようなものがそこに見えた。


その悪魔がこちらに寄って来る。


「英一…おまえは…」


「く、来るな…!」



「うわあ!!!」


目が覚めた英一はまるで疲れ果てていた。


「夢…?」


英一は職員の肩を借りながらその場を後にした。



“辞令 朔間 英一 殿

 エッグス部隊への出向を命ずる”


「なんだこりゃあ???」


あまりに突然の知らせだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



英一は会議室のような場所に呼び出された。


既に、他に呼ばれたと思われる人々が座っていた。


(何か重苦しい雰囲気…苦手だなあ)


すると壮年の白髪の男、そしてその男と比べるとやや若めのスーツ姿の男が現れた。


スーツ姿の男が話した。


「私は財前 充成。君たちを指導する、この部隊の副司令官だ。」


(このおっさんたちが俺の上司…)


次に壮年の男が話し始めた。


「私はエッグス部隊総司令官の久我 衛慈である。」


(怖そ…というかどこかで会ったような...偉い人だし見たことあるかも)


「キミたちが何故ここに呼ばれたか、気になるところだろう。


なぜかと言えば、君たちは"選ばれし者"だからだ」


"選ばれし者"。


英一たちには、それが突拍子もないようなことに思えた。


「これは命がけの戦いになるかもしれない。


それでも君たちは戦わねばならん。


家族、友人、そして祖国のためにだ。


いきなりこのようなことを言われて戸惑っているかも知らんが、いずれ嫌でもこの事実を痛感するだろう。


キミたちの選ばれし者たり得る”素質”を活かし戦いたまえ。


健闘を祈る。」


(いきなり、何言ってんだ…?)


急にフィクションのようなセリフを聞いて、英一は困惑した。


軍に入ってから確かに大変な生活を送っているものの、命を懸けるだとか戦うとかそんなことを考えたことはなかった。


しかし、前に卵の機械の中で見た光景が脳裏をよぎった。


あれは戦場のようだった。



ぼーっとしていると、財前が話し始めた。


「君たちには今までと違う任務に従事してもらう。


まず、搭乗する機体が今までと変わる。


以前は作業用だったが、これからは戦闘用に設計されたアームヘッドに搭乗してもらうことになる。


我々はこの機体を”エッグスシステム”、そしてこの部隊を”エッグス部隊”と呼んでいる。


どの機体に乗るかは後で案内を行う。」


英一は“戦闘用”の響きに違和感を覚えた。


確かに軍なのだから兵器などを扱うのは当たり前なのだが、今までしていたのは瓦礫の撤去だったりがほとんどだったので、自分がこれから戦闘用のアームヘッドに乗るイメージが湧かなかった。


「そして、数チームに分かれて任務に従事してもらう。


チームのメンバーは目の前にある紙を見て、この集会のあとに顔合わせを行ってくれ。」


紙を見ると、確かに自分の名前があった。


(俺は第一小隊か…)


「続いて任務の内容を解説する。


まずこれを見てくれ。」


スクリーンに怪物のようなものが映った。


(なんだよこれ…)


「我々はこの生物を”アームビースト”と呼んでいる。


特徴は体内に高濃度のプロトデルミス粒子を含有し、体表も一部がプロトデルミスにより硬質化している。


また、近隣に高濃度プロトデルミス粒子による汚染をもたらし、闘争心が強くやたらに暴れ回るのも特徴だ。


こいつが生まれた原因としては、何らかの異常により元居た生物が突然変異を起こしたものと考えられる。」


英一はこの怪物をおぞましいと思った。


(プロトデルミス…学校で聞いたことはあるけど、こんなになるのか…こんなのが空気に…)


「こいつらにより近隣の住民は自分たちの家を離れ、避難を強いられている。


キミたちの役目は、こいつらを”駆除”し、平和を取り戻すことだ」


“駆除”という言葉で、この仕事の本質が分かった気がした。


(要するに、武器を持ってこいつらを”掃除”すればいいんだろ?今までみたいに…)


「いいか、この任務は非常に危険が伴う。


だが、君たちにしか頼めない仕事だ。理解してくれ」


英一は、”選ばれし者”とか”君たちにしか頼めない”と言われて、悪い気はしなかった。


また、戦闘用アームヘッドと聞いて、アニメのロボットを想像して少しワクワクしていた。


なので、少しこの仕事に乗り気になっていた。



集会が終わり、隊員はそれぞれの場所へ向かった。


英一が向かった第一小隊の部屋には、既に4人の男女が集まっていた。


すると、そこにいた真面目そうな女子が話した。


「あ、これで全員…かな」


英一が席に着くと、


「じゃあ、自己紹介から始めようか。

私は芒 由利。みんなと力を合わせられるよう頑張ります。よろしくね」


早速自己紹介が始まった。


すると横にいた活発そうな女子も


「私は綾瀬 帆霞でーす!よろしく?」


と、やはり活発そうな感じで続けた。


英一も、


「俺は朔間 英一。頑張ります、よろしく…」


と、やる気なさそうに自己紹介した。


「それで、あとは…」


残りは2人。


すると暗い感じの男子が、3人の視線を見かねてか


「ぼ、ぼ、僕は、一宮 宝です……」


と、どもりながら名前を話した。


残るは1人だが、その男子は見るからに接しづらそうな雰囲気だった。


関わらないでくれと言わんばかりの態度で、気安く話そうものなら大変なことになりそうな目つきをしていた。


その男子は


「狩矢 疾都だ、二度は言わん」


と言うなり、またそっぽを向いた。

「…うん、じゃあ全員名前が分かったと思うし、係決めしようか。


まず班長なんだけど、やりたい人、いる…?」


いないだろうな~とでも言いたげな感じで班員に問うが、やはりその通りで、立候補する者はいなかった。


「由利ちゃんやりなよ!会った時から"班長"って感じがする!」


「うーん、じゃあ私が班長ってことで、いいかな?」


「賛成~~!」


あっさり決まった。


「じゃあ次に副班長だけど…」


「私はやだよ、セキニンとかキライだし~~」


やはり誰もいなさそうだ。


長引くのも面倒だし、副班長ならやることもそんなに多くないだろうと踏んで、英一は思い切って立候補することにした。


「じゃあ、俺やるよ」


「本当!?皆、朔間くんが副班長でいい?」


「おっけ~~」


「決まり!朔間くん、よろしくね」


「あ、ああ」


いざ決まると、本当に引き受けて良かったのか?と思う。


まあ俺がやらなかったら一生終わらないしいいか、と英一は思うことにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



寮が変わるので、荷物を移動していると、ふと隣の部屋に目が止まった。


「一宮」と名前が書かれていた。


(あのオタクっぽいやつの部屋か)と思い、実際その通りで、既に壁中何かのロボットのポスターや模型で覆い尽くされていた。


だが英一は、その光景にただ圧倒されていた。


(よくこんなに集めたな...というかどうやって持ってきたんだ?)


思わず英一は、部屋に入り置いてあった本を手に取った。


「アームヘッド図鑑…?」


ページをめくると、確かに世界中で使われている様々なアームヘッドが載っていた。


すると宝が部屋に戻ってきた。


「あっ!な、なんで…」


「あ、悪い、ごめん…」


「いっいや、いいけど…」


英一はバツが悪くなったように本を置いた。


「いや、ただすげーなって…こういうの好きなんだ」


「ま、まあ」


「だから、パイロットになろうと…?」


「まあ……」


いまいちよくわからない奴だと思った。


口数は少ないし、顔も常にうつむいたままだ。(英一も人のことを言えるわけではないが)


「ごめんな、じゃあこれで」


「うん……」



部屋を出ると、誰かと肩がぶつかった。


「いてっ!」


「ちょっと~邪魔~~~!」


帆霞と由利が荷物を運んでいるところだった。


「わ、悪い…」


「いや朔間くん、こっちこそごめんね…」


後を追って自分の部屋に戻ろうとすると、また誰かとぶつかった。


「いってっ!」


「チッ…邪魔」


疾都だった。


(感じの悪いやつだな…”邪魔”って)



(なんか散々だな…)


英一は部屋に着くなりため息をついた。


すると、置いていた携帯が鳴った。


姉からだった。


「何かあったみたいだけど、元気してるか?」


姉は少々がさつだが面倒見がいい。


父親もおらず、数年前に母親が入院してから、仕事の傍ら英一の世話をしてきた。


「今のところ何ともなく進んでるよ」と送り返すと、可愛らしい「OK」のスタンプが来た。


そして後ろを見ると、まだ段ボール箱が1箱残っていた。


(やっべ…忘れてた、片付けなきゃ)



それからは、今まで以上に過酷な訓練が続いた。


英一は、これまでとの生活の変わりぶりに自分でも驚いていた。


毎日あちこちが痛く、覚えることも多いので頭が回りそうな思いだった。


そしてある日、アームヘッドの操縦訓練の際にこう告げられた。


「次回は、どれだけ操縦法を習得したか確かめるためテストを行う。


2つの班で同時に行い、的を破壊した点数によって成績を決める。


成績の悪かったチームについては、追試を実施する。


各自、作戦会議など行っておくように」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「・・・てことで、第一小隊でも作戦会議を始めます!真剣にやろうね!」


「追試なんて絶対やだし~」


机には、先ほど配られた的の配置を示した紙が置かれている。


「朔間くん、狩矢くんは左、一宮くん、帆霞ちゃんは右からお願い」


「はーい!」


すると、疾都がどこかを睨みながら


「俺に指図するな、俺の好きなようにやらせてもらう」


と、きつく言い放った。


「で、でも...それは困るの、纏まらないといい点は獲れないよ」


「お前らが足手纏いにならなければ、な」


由利は困惑した表情で立ち竦んでいた。


英一も、チームをまとめようとしている由利を突き放す疾都の態度に怒りを抑えきれなくなり、立ち上がって


「おいお前、そういう言い方ないだろ。


お前のためにも色々考えてくれてんのに」


と言ったが、


「そういうの”余計なお世話”って言うんだ。馬鹿が」


と言うなりその場を去ってしまった。


あっさり言い返されて、怒りや悔しさを感じながら呆然と疾都の背中を見つめていた。

「…悪い」


「いや、私こそ…ごめん」


その後なんとか作戦会議が終わったが、英一にはモヤモヤした感情が残り続けた。



「今日は前回伝えたように、操縦技術のテストを行う。


まずは第一・二小隊、前に出ろ」


「はい!」


各自準備を終えると、由利が


「みんな、作戦は覚えてるよね。頑張るよ!」


と全員に改めて声をかけた。


それぞれ自分の機体に乗り込むと、ディスプレイが起動した。


「認証完了…ようこそ、朔間 英一隊員」


英一の操縦桿を握る手にも汗がにじむ。


(とりあえず、できる範囲で頑張ろう)


呼吸を整えていると、カウントが始まった。


「位置について。3…2……1………」



「始め!!!」




第一話 終


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