6.宇宙げっちゅーお着換え中

 いつも通り一仕事終えたシグレニ一行は、しばらくその惑星に留まって休暇を満喫することにした。

 時雨とレニは大抵、外で休むときは別々に過ごす。宇宙船の中では常に一緒にいるから離れられるときくらい別々にいようという狙いだ。ということを師匠に話したら長続きするカップルの秘訣か何かかと笑われた。余計なお世話だ。

 とにかく、普段ならレニ一人で街をぶらつく所だが、今回はソレイユが一緒だ。衣料品量販店から大荷物と共に出て来たレニは、伸びをしてから隣のソレイユに話しかけた。

「ん~。取り合えず私の必要な物は買ったかな。ソレイユは何か欲しいものある?」

「いえ。私は特に。それにしても、同じ物を沢山買うのですね」

 レニの持つ袋の中には、同じデザインのワイシャツとデニムのショートパンツが幾枚ずつかほど重ねて入っている。シグレニ丸内で過ごす時は大抵その恰好。特にこだわりがあるわけではない。ただ楽だから。船内は快適な気温に保たれているし、どうせ誰もいないのだから裸でもいいのだが、それは流石に時雨に怒られた。ま、当然だが。

「安心しました。ずっと同じ見た目の服を着ているので、同じ物を着続けているのだと」

「そんなわけないじゃない。ちゃんと毎日着替えてるわよ」

「申し訳ありません。しかし、下着は身に着けるべきかと」

「いいじゃない。船の中には時雨君とあなたしかいないんだし。外に出るときはちゃんとつけてるし」

「見た目だけでなく、衛生的また身体的にも影響が……」

「分かった分かった。善処するから」

 後になって聞いてみれば、ソレイユにこのお小言を吹き込んだのは時雨だということだ。デリカシーがあるんだかないんだか分からん奴め。

「時雨君と言えば、あの子もよく分からない服着てるわよね」

「文字が書かれた服ですか」

「そうそう」

 時雨も船内では代わり映えのしないラフな服装が多い。そのほとんどはなにやら格言のような言葉が達筆で書かれたTシャツが主。しかし、その言葉はことわざでもなく、偉人の名言でもなく、とにかくよく意味の分からない言葉なのだ。

「あんなのどこで買ってくるのかしら。売ってるの見たことないけど。まさか、自分で作ってるとか? あの子結構手先器用だし」

「時雨は書道の段位も持っています。その可能性は大いにあるかと」

「なるほどねえ……」

 服装にこだわりがあるんだかないんだかよく分からん奴め。そもそもあいつの趣味はあまり詳しくない。まさかおかしな服を作ることが趣味だとでもいうのだろうか。今度問い詰めてみよう。

「服と言えば、あなたが持ってる服ってそれ一着だけ?」

「もう一着だけ同じデザインの物があります。しっかり洗っています」

「あ、そう。でも、他の服もあった方がいいでしょうね。外歩くのにメイド服ばっかってのもあれだし」

 ソレイユは長身の美女。ただでさえ目立つうえにメイド服なんてものを着ていては好奇の目に晒されるのも無理はない。隣を歩いていて惨めになるほどに。

「でも……、なんか普通の服を着ているのも想像できないかも。いつも着ている物が着ている物だから、コスプレっぽいのの方が似合うかも。チャイナドレスとか」

「御随意に」

 隣を歩くソレイユに、頭の中で試着させてみる。確かに、似合う。似合うのだが……。それでは今と状況が変わらない。むしろ悪目立ちしかねない。改めて考えると、ソレイユにはこのメイド服が一番似合うのかもしれない。人には人の似合う服があるのだろう。

「それは身内以外に見られない船内だからと言ってだらしない格好をする理由にはなりません」

「ぐ……」

 ぐうの音も出ない正論。せっかくはぐらかせたと思ったのに。こうなったら、強引に話題を変えに行く。

「そ、それはそれとして、ソレイユは髪が伸びたりはしないの?」

 ソレイユの髪は腰までのびたサラサラの黒髪。風呂に入っても特に手入れはしていないようだが、実に綺麗に保たれている。

「します。伸びたら切る必要があります。自分でもできますが」

 ロボットの髪が伸びる。それだけを聞いたら、まるで呪いの日本人形のようだ。実際には生体パーツの領分なのだろうが。

「へー。綺麗でいいわよね~。私のは中々強情で困っちゃうけど」

 レニの髪は軽くウェーブのかかった深い茶髪。今はセミロングにしているが、あまりアレンジが効かない髪質。精々時たま一つにまとめる程度。元々おしゃれには無頓着な方ではあるのだが、流石にソレイユの髪を見ると羨ましいものがある。

「もうちょっといじりやすいといいんだけどネー」

「それでは、私のヒートアームを用いてはどうでしょうか」

「ああ。あの熱くなる奴。……、って、使うか! ヘアアイロンくらい家にもあるから! そんな得体の知れない兵装を使う気にはならないわ」

「申し訳ありません」

「……。ちょっと待って。時雨君で試してみるってのは悪くないかも」

 時雨の髪は短く整えてはいるが、少し伸ばすとすぐにうねんうねんと巻かれ出す。あれに効くのであれば、レニの使用も吝かでない。

「寝てる間に試してみましょうか」

「イエス、マスター」


 明くる朝。鏡を眺めた時雨がパンチパーマ染みて焼け焦げた自身の頭髪を見て卒倒しかけたことはわざわざ記すまでもないだろう。

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