4-3.end

 次の日。予定通りに目的の惑星についたシグレニは、宇宙便利屋の仕事を終えて休みに入った。かなりの時間を宇宙船内で過ごす宇宙便利屋稼業。星に足をつけて休める時間は貴重だ。いつもは大抵二人別々に休みを満喫する。しかし、今回はレニのたっての希望で、時雨とソレイユも彼女の指示で駅前の広場に集められた。

 時雨が待ち合わせ場所にたどり着くとそこには、ハンバーガーショップと大きく屋根に書かれた屋台。その中に、ありがちなファストフード店風の制服を来たレニとソレイユの二人がいた。

「何やってるんですか。バイトですか。ご苦労ですね。手伝いませんよ」

「ちっちっち。バイトなんてちゃちなもんじゃないわ。これは私の屋台よ。ソレイユにハンバーガーを作ってもらって売るの」

「売るのって。食べ物を作って売るのって免許がいるんですよ」

「だからあなたを呼んだんじゃないの。時雨君、調理師免許持ってるでしょ」

「ひえ~。巻き込まれてる~」

 明らかに悪事の片棒を担がされようとしている。今すぐにでも逃げだしたいが、レニはともかく、ソレイユは置いていけない。

「あの、どんな材料でハンバーガーを作るおつもりですか」

「よくぞ聞いてくれました。用意したのはまずバンズ部分が工業用のお米。小麦粉なんかよりよっぽど安くついた。パテにはミ……、おっと、飼料用の肉。それも廃棄寸前の物。レタスにはその辺の雑草でも使いましょ」

「な!? どう考えても売り物……、いや、人間の食べ物じゃない……!」

「ソレイユが作ればレシピ通りの美味しいものが出来上がるんでしょ? 材料なんて似てればいいって」

 米がどうとか、卵がどうとかの次元ではない。ほとんど食べ物ではない。たとえ形がそうなるからって、客に食わせていいものではない。

「ソレイユ。早速作ってちょうだい」

「イエス、マスター」

 時雨が止める間もなく、ソレイユは調理工程に入ってしまった。目にも止まらぬ早業で、米はバンズに、肉はパテに、雑草はレタスに姿を変えられていく。何がレシピ通りか。

「さあ、ドンドン売るわよ~」

 こうなったらもう止まらない。




 しばらく経って、屋台のカウンターには山のようにハンバーガーが積み上げられていくが、客は一人たりとも来ない。むしろ、駅前だというのに屋台の周りは避けるように通行人が一人もいない。

「ど、どういうこと。こんなに美味しそうなのに」

 在庫の山の前で、レニは冷や汗を流す。いくら安く材料を手に入れたからと言って、タダではない。一個も売れなければ大赤字もいいところだ。

「あの、レニさん。昨日から言いそびれていたことなんですが」

 時雨は鼻をつまみながら屋台に近づいた。

「あのハンバーガー。確かに美味しかったんですが、それは『ライス卵漬物バーガー』として美味しかっただけなんです」

「へ?」

「あくまで形がハンバーガーなだけで、味や香りは材料そのものなんですよ。昨日のはたまたま相性がいい材料が残っていたから美味しかった。でも、今回のは……。匂い、自分で気づかないんですか?」

「へ?」

 混乱のまま、レニは鼻から息を思いきり吸い込む。が、寸分も持たずに思いきり咳き込んだ。

 なんだこの匂いは。饐えたような、甘ったるいような、とにかくひどく臭い! ずっと発生源にいたから気付かなかった!

「ま、まさか。材料がそのままってことは、私が作ったのはクズ米ミ……、クズ肉雑草バーガーだったってこと!?」

「まさしく。はあ。ちょっと考えれば分かるでしょう。そんなうまい話があるわけないって」

 確かにソレイユの手際は見事かつ超常的ではあるが、見た目はともかく味まで変わるわけがないのだ。

 それに気づいたレニは、地面に崩れ落ちた。

「わ、私の計画が、うはうはが……」

 そこに、遠くからガスマスクをつけた人達が近づいてきた。なにやら物々しい。

 その内の一人が、くぐもった声を出す。

「警察だ! 異臭がすると通報があったんだが」

「ひえ!」

「あなたが責任者ですね。署までご同行願います」

「あわわわ……」

 今にも泣きだしそうなレニを、屈強な警察官が両脇から抱えて連れ去った。

 なるべくしてなった事だ。時雨は哀れみも覚えなかった。

「……。ソレイユ、料理本でも買って帰ろうか」

「イエス、時雨」

「後、レニさんが君の力を借りて悪事を働きそうなときは、僕に話を通してね」

「承知いたしました。善処します」

 そもそもレニが悪いことを考えなければいいのだが。しかし、それはもしかしたら太陽を再び灯すより難しいかもしれない。

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