4-1.欲求の行方

「ごめんね、ソレイユ。こんな夜中に。でも、相談できるのが君しかいなくて」

「イエス、時雨。なんなりと」

 真夜中のシグレニ号。フロアランプだけがぼんやりと薄明るく照らす居間に、時雨とソレイユはいた。

 時雨の表情は、この部屋と同じように薄暗く、思い詰めている。

「この時間。夜中になると、やっぱり、欲求が湧き上がってきちゃうんだよね。僕も男だしさ」

「今まではどうなさっていたのですか?」

「そりゃあ、我慢するしかなかったよ。流石に隣の席でレニさんが寝てるとさ。でも、人間の三大欲求、って言うのかな。我慢には限界があるって言うか。って言っても、君には分からないんだっけ?」

「確かに欲求と言うものはありません。が、知識としては知っています」

「そっか。そうだよね。じゃあ。じゃあさ」

 生唾が、ごくりと音を立てて喉を落ちていく。ほんの少し、時間が止まった。

「君って、その、できる……、の?」

 ソレイユの顔が歪んだ。いや、彼女の表情はこんな簡単な事で揺らがない。歪んでいるのは、時雨の心だ。性根だ。

 そもそもこうして二人がソファに並んで座ってから時雨が話を切り出すまで、優に三十分はたっぷり黙ったまま時間を使っている。それも、ここ三日ほど毎日。

 人一倍相手に気を遣う時雨がそんな待たせるようなことをするのも、相手がソレイユだから、断らないと知っているから。これが例えば、相手がレニだったら十分も黙ったままなら即、キレて時雨の頭にこぶが増えるだけ。ソレイユの優しさに甘えているのだ。

 いや、だからこそ、時雨にはソレイユの顔が歪んで見えたのだ。こんな事を言えば、相手がどう思うかなど知れている。軽蔑か、嫌悪か、はたまた憤怒か。表情が変わらないからこそ、その奥の感情を邪推してしまう。

 それでも、時雨には我慢ならなかった。この長い宇宙船生活。一度星を離れて星系間宙域に入れば、相当な時間を船内のみで過ごすことになる。前の恒星帆船に比べればましだが、この船もキッチン付きの居間と、寝室、それからバスルームしかない。ストレスも、溜まる。

「もちろん、可能です。この外装は人間と同じように作られていますので、人間にできることはほとんどできます」

 ソレイユは淡々と事実を述べる。予想していた、ある意味聞きたくなかった事を。否定してもらえれば、そこで終わっていたのに。

 だが、いや、だから、もう後戻りはできない。進むだけだ。時雨は彼女の耳元に口を近づけて静かに囁いた。

「それじゃあ、始めようか」

 その瞬間。天井の照明が閃いた。すっかり暗がりに慣れていた目に光が刺さる。

「あんたら、何やってんの」

「げ、レニさん……」

 まずい。今までの話を聞かれていたか。

 いつの間にか寝室から出て来ていたレニが、何とも言えない表情でこちらを見つめている。


 箸を片手に、茶碗の前に座る二人を。

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