不思議部のクリスマス

 不思議部でクリスマス会をすることになった。

 言い出したのはもちろん、ミサキさんである。

 そして、寒い冬の朝に駅前にいるわけは、ソラ先輩が「プレゼント買いに行きましょ~」と言ったからである。

 現在午前九時十分。約束の時間は午前九時。ソラ先輩は急用ができて遅れるとのことだったので、それはいい。けど男子先輩二人が来ないのである。スマホとにらめっこをしているとダイチ先輩からメッセージが届く。


『寝坊した』


 と一言。私頑張って起きたのに、とスマホを握りしめながらプルプルと震えていると、カイト先輩からもメッセージが届く。


『わりぃ、寝てたわ、今まで』


 だそうな。微塵も悪く思っていなさそうな物言いに、プチンと何かが切れた。


『バーカ』


 そして連投した。それでもムカついて一人はなんだか怖くて、寂しくて、目頭が熱くなる。

 ポンと、誰かが頭に手をのせる。俯いていた顔をあげると、目の前に息を切らしたダイチ先輩がいた。


「悪い、待たせて……リョウ? 調子悪いのか? やっぱ、寒かったよたな。本当ごめんな」


 いつになく優しい先輩に、溢れそうになる涙を見られたくはなくて、俯き何度も頭を軽くぶつける。


「寒かったです。調子は悪くないです。怖かったです。寂しかったです」

 言葉を並べ頭をグリグリと押し付ける。


「ごめんな……というか、痛い。マジで痛いから、そろそろやめろ。ほら、ファミレス行こうぜ。寒いし」


 ゆっくりと頭を撫でる先輩に姉を重ねた。実際してもらった経験はないからわからないが、こんな感じなのだろう。

 結局、二人が来たのは午前十時。約束の一時間後だった。カイト先輩はソラ先輩に怒られたのか、疲れているようだった。


「待たせてごめんね、二人とも。早速だけど行きましょ」


 今にもスキップしそうな勢いで、街を歩くソラ先輩。あらかじめお店を決めていたようで、足取りに迷いがない。

 華やかに彩られた店をいくつも通り過ぎ、控えめに飾り付けされた店の前で足を止める。


「ここにしようと思うんだけど、いいかしら?」


 問題なしの返事を聞き、一段とうれしそうだ。


「じゃあみんな、人のプレゼントは見ちゃダメよ~。れっつご~」


 ソラ先輩のゆる~い掛け声とともにみんな散っていく。

 私はマグカップの陳列されている棚に足を向ける。カラフルなものやシンプルなもの、可愛い動物柄のものなどたくさんあった。そのなかから、シンプルな配色のノルディック柄のものを選んだ。いつもお世話になってるソラ先輩、親友のアキちゃん。それぞれのものを選んでいく。



 みんながプレゼントを買い終えると、近くのデパートのなかへ入る。男子先輩二人がトイレに行っている間ソラ先輩は私の隣へ移動してきた。


「リョウちゃん、ダイチ君にはなにかあげないの?」


 突然の突飛な質問にびっくりしながら、何も買ってないと言う。あからさまに残念そうな表情でため息をつき、私へ向き直る。


「いつも迷惑かけてるわけだし、何かプレゼントしてあげたら?」


 そう言われてみればそうである。

 迷惑はかけまくっているはずだ。同じ魔法使いとして、よく魔法の使い方も教えてくれる。


「わかりました。プレゼント、します!」


 そう言うと、うれしそうにするソラ先輩を不思議に思いつつ、私たちは男子先輩二人にメッセージを入れ、雑貨のコーナーに行った。

 買い物が終わり、日も暮れかかる頃、私たちはようやく帰路に着いた。


「プレゼント、忘れないでね~」


 明日が楽しみだ。



 当日、一番張り切っていたのはミサキさんであった。部室は綺麗に飾り付けられ、ミサキさんは仁王立ちで待ち構えていた。一人でいるところを見るとこの飾りつけは一人でやったのだろう。

 プレゼントは、くじ引きで行われることとなった。それぞれのプレゼントに番号をつけ、くじを引く。

 ミサキさんは私の選んだマグカップだったようで、喜んでくれていた。私はカイト先輩の選んだメモ帳だった。案外普通のものだなーと失礼なことを考える。ダイチ先輩にはミサキさんの超でかいクッションが当たっていた。可愛らしいカバーのそれをダイチ先輩が使うところを想像し、思わず笑みがこぼれる。ソラ先輩はダイチ先輩が選んだペンケース。カイト先輩はソラ先輩の選んだブックカバーとみんな自分のモノは当たらなかった様である。


「やはり若いうちのクリスマスは楽しいな!」


 ケーキを頬張りながら楽しそうに笑うミサキさんを見ていると、どうしても年下に見えてしまう。雰囲気が子供っぽいのだろう。

 私が言えたものではないが。

 ソラ先輩が入れてくれた紅茶を飲みながら、部屋を見渡す。ふわりとキラキラとした雰囲気が部屋を包んでいる。

 こんなに賑やかなクリスマスは初めてだなと思いつつ、ミサキさんと先輩たちに負けじとたくさん食べた。



 解散になったのは、午後五時頃。日も暮れ、辺りは暗い。

 駅の付近は様々なイルミネーションで彩られ、とても明るいだろうが、私たちの家は駅とは反対方向の小高い丘になっている、閑静な住宅地。そこは、特別な力を持っている家が集まるところ。

 家が向かい合わせなダイチ先輩と並んで歩く。ソラ先輩とカイト先輩はそのままデートへ行ったので今はいない。

 今日のことを話しながらゆっくりと歩く。いつプレゼントを渡そうかと悶々としながら。


「公園、行かね?」

「いいですよ~。というか、ダイチ先輩好きですね、あの公園」

「だって綺麗だろー、あそこからの景色」


 パーティで余ったお菓子を食べつつ「そうですね~」とかえす。

 公園には人っ子一人おらず、ガラリとしていた。


「な、綺麗じゃん!」

「久しぶりだとこんなに綺麗に見えるんですね~!」


 キャッキャッとはしゃぐ私は子供っぽい。きっと生暖かい目で見られているだろう。そこで私は我にかえる。こんな事をしている場合ではない。ダイチ先輩にプレゼントを渡さねば!


「先輩」「リョウ」


 声が被る。けれど、先輩に続きを促す。


「ん、これ。やるよ。クリスマスプレゼント」


 そう言って差し出されたのは文庫本サイズの紙袋。


「え!? いいんですか?」


 もちろん、と笑う先輩はなんだか嬉しそうで、自分の目的を忘れかける。


「じ、じゃあ、先輩、 私からもクリスマスプレゼントです!」

「俺に?  明日は雪でも降りそうだな、こりゃ」

「要らないなら、返してください」


 ジト目で睨む私に「嫌だねー」なんてかえす先輩はいつもと違う雰囲気を纏ってる。


「同時に開けよーぜ。せーの!」


 紙袋の中には水玉模様のブックカバーと、プレゼントを買いに行った雑貨屋で私が見ていたネックレスだった。


「あ、ありがとうございます」


 見られていたのか、と恥ずかしくなり思わず俯く。


「こっちこそ。ハンカチ新しいやつ欲しかったんだよなー。この前、誰かさんに貸したヤツ戻ってきてないし」


 ニヤリと笑みを浮かべる先輩はこんな時でも意地の悪いやつでやる。ハンカチを返していない、私も悪いのだが。


「冬休み開けたら返しますよ」


 ムキになって言い返し、先に公園を出る。その後を先輩はクスクスと笑いながら追いかけてくる。


「ダイチ先輩はやっぱり意地が悪いですね」

「なんだよいきなり。優しーだろが」

「自分で言っちゃダメですよ、それ」

「お前しかいないからいいんだよ」

「昔からそーですね、ダイちゃんは」

「リョウちゃんも昔から素直じゃないよね」



 リョウが家の中へ入るのを見送り、空を見上げる。分厚い雲が空を覆い今にも雨が降りそうだ。雪になってくれればいいのに。重い気分を抱えたまま一人ごちる。


「あー、なんで言えねぇかな……俺の意気地無し」


 苦笑いを浮かべつつ最後の会話を思い出す。


「『ダイちゃん』は不意打ち過ぎるだろ、あいつ。心臓飛び出るかと思ったー」

「意気地無し~」「意気地無しー」


 後ろからの声に思わずビクリと肩を揺らす。振り返れば、予想通りの姿を認め抗議する。


「驚かすなんて酷いですよー、お二人さん」


 ニヤニヤと笑みをたたえ立っている二人の先輩に抗議する。


「あいつあんなんだけど、最近、モテ始めてるらしーぜ。アキが言ってたぞー」

「早くしないと誰かに取られちゃうわよ~。頑張ってね~」


 不安を煽る言葉を残し二人は去っていく。

 アキちゃんに詳しいことを聞かないとな。そう思い、玄関のドアを開けた。


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