再会は甘くない。

 激しい嫌悪感が身体中を駆け回った。これがトラウマ、これがフラッシュバックというものか。高校時代のことが頭をよぎる。自分を見て笑う声、知らない大勢から向けられる冷たい視線。空気という物は酷く恐ろしい物だ。そこに面白そうなものがあれば人は集まり、それは瞬く間に広がっていく。

ライブ放送と銘打った動画のコメント欄が目に入った。「やば、いかにも大学デビューって感じじゃんww」

「こいつの大学生活終わったなwww」「俺Twitterで繋がり求めなくてよかったわ」「俺だったら明日から大学来ねえww」匿名って便利だな。名前も顔もわかんねえしなんでも言い放題だな。お前らが俺の立場だったらどうすんだよ、相手の嫌がることしちゃいけませんって親に言われなかったのか?

 そんなこと言い返せるわけもなく、頭が真っ白になりつつも、まずこの場を去ろうと思った。ここで晒し者になるよりは幾分マシだと、そうして歩き出したその時だった。


「や、中学以来だね。」


振り返るとそこには見知らぬ女性。

「どちら様?」思わずそう返してしまった。

「いいから合わせなさいよ」小さい声でそう言った彼女は大声で、まるで俺を見ていた大勢の奴らに言うように、「ごめんね!髪型チェックしてたら遅れちゃった!」と舌を出した。可愛い。思わずそういいそうだったのを飲み込み、「いや、全然大丈夫」


「よかったー!もうガイダンスでしょ!早くいこっ!」彼女はそう言って俺の手をひいて歩き出した。去り際、「ちっ、ぼっちじゃねえじゃん。」「あの動画嘘だったのかよ。リア充うざ」なんて言ってるのが聞こえた。無事ホールを抜け出した時俺はとにかくお礼を言おうと思って、「さっきはありがとう。本当に助かった。」だが、さっきまでの彼女の態度とはどことなく、それも悪い方向に違うと感じた。これは怒ってる?コミュ障特有の空気を読んで相手の感情を読むのが得意なおかげなのか(別に欲しくはなかったが)気づいた。少し経ってからようやく彼女の口が開いた。


「私のこと、本当に覚えてないの?蒼太。」


「・・・陽菜?」

そこにはかつての面影はない、幼馴染の姿があった。

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