大学デビューはそんなに甘くない。

 桜が満開に咲いている中で、入学式はつつがなく行われた。学長の挨拶や、テレビで見たことのある有名人が大学は入ってからが大事なんですよみたいな話をしていたが、俺の頭の中はこの後のガイダンス、と言うよりそのガイダンスに一緒に行く約束、それも女子と行くことで頭がいっぱいだった。

 高校時代、コミュ障で部活以外に女子と話す機会がほぼ皆無(部活でも事務連絡でしか話さなかったが)だった俺は、大学では変わってやると決意し受験勉強の合間に某メンタリストが書いた「女子が君に夢中になる雑談力」や、動画サイトで「コミュ障が離せない理由とその改善策」などを見て自分なりに陽キャになるために頑張った。髪も染めた。メガネからコンタクトにもした。これなら行ける、もう大学ではインキャなんて呼ばせないぞ!!わはは!


 そんないかにもインキャみたいなことを考えているうちに入学式終了を告げる式辞で式は終わった。

 俺はDMで言われた通り、会場のホールの横にある自動販売機の前で待ち合わせのために早歩きで会場を出た。まだ約束の時間まで15分ほどあるが、もしかしてもういるかもしれない、そんな淡い期待をしていたが、生憎まだ誰もいなかった。


「待ち合わせの場所につきました!ゆっくりで大丈夫ですよ!」とDMで送って自動販売機で緑茶を買った。いつだったかカテキンには口臭予防の効果があるとネットに書いてあったからだ。話す前に口が臭うから嫌われるのはごめんだと思い500mlを一気に飲み干す。ふう、トイレに行きてえ。

 慌ててトイレにかけこみ用を足して鏡で髪型をチェック、準備万端万事OK!もう待ち合わせの時間だしいるだろうと待ち合わせの場所に行くと、まだいない。もしかして場所わからないのかな?そう思いDMを開くと彼女から「ごめんなさい!あとちょっとで着くので待っててください!」と返信が来ていた。

 なんだ、良かった。音楽でも聴いて待ってよう、と安心した。

 しかし、10分待っても30分待っても待ち人は来なかった、ガイダンスまでまだ時間はあるが、流石に不安になってきて、何かあったのだろうか、とメッセージを送ろうと思った瞬間、とてつもなく違和感がした。それが嫌な感覚で過去に味わった物だと気づくのに時間がかかった。大学でまだ知り合いのいない俺は、注目されることを想定していなかった。それも悪い意味で。


 周りの視線が痛い。自分を見て大勢の奴らがヒソヒソ笑いながら話している。DMの通知音が鳴った。開くとこない待ち人だった。

 その時鈍感ではない俺はもう気付いていた。名も知らない彼女に、確証がないのに出身地が同じと言う彼女に、ネットという希薄な繋がりで知り合った彼女に。

 嵌められたと言うことを。


 おくられたDMには、「ライブ放送!Twitterで釣った大学デビューしたインキャの姿www」と言うリンクが、そこにはリアルタイムでの俺の姿が写っていた。

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