第68話 我、忍ぶ③



 千堂真賀里まがり。ウッドペッカー。里の中でも特異性の中の特異性を貫いている変わり者。


 昔、真賀里は里の周囲に生えている木という木に穴を開けまくるという奇行に走ったことからウッドペッカーというあだ名がつけられた。

 何故そのようなことをしたのか、どんな意図があるのか。多くの千堂は悩んだが、まぁ別に害は無いしよくね?と、楽観視されたため大事にすらなってないが、普通の人から見たら異常である。

 なにせ、万を超えるほどの木に穴を開け、そして、塞ぐという行為を一週間でやり遂げてしまったからだ。


 彼が変わっているのはその行為だけでなく、"奇跡"も変わっている。緑色の刻印を持つ彼は鎌の使い手であるにも関わらず、その能力は鎌どころか、どの色にも該当しない、レアなものだったからである。稀に、そういった能力の発現が認められることもあるにはあるが、その中でも彼の能力は他とは一線を引いているのが現状だ。


 そして今、何故か忍者の隠れ家であるこの場所で羅刹と再会することになったのだが、この出会いに一体なんの意味があるのだろうか……。


「いや、これがまったくの偶然なんよねぇー。寧ろ、こっちが聞いてみたいくらいやわぁ」

「? どうしたの? 真賀里」

「こっちの話なんよ。で、そっちはなんでここにいるん?」


 訓練場の端に寄った羅刹、白菊、真賀里は近くの丸太に腰かけて話をすることにした。さっきの取り巻き連中は真賀里の「余計なことはしてほしくないからなぁ。ほら、俺だよ、俺存在誤認。だから騒がないでね?」という一声でどこかへしまった。羅刹はその行為の意味を理解していたが、白菊はチンプンカンプンだった。


「こっちの白菊って子と森で話してたら流れで?」

「そうなんかぁ。うんうん、僕が言うのもなんだけど、意味がわかんないね」

「お互い様だよ。で、そっちは?」

「僕はほら、曲がりなりにも千堂だから。みんなの為にできる事を僕はしているんよ」

「意味わかんない」

「えへへ。まぁ、僕達は似た者同士だからなぁ」


 変わり者に似た者同士と呼ばれるのは変な気分ではあったが、悪い気はしない。彼は彼なりに家族の事を大事にしてくれている。変わり者だけど、悪い奴では決してないのだ。


「ねぇねぇ。この人の事が全然わからないんだけど……」

「うーん、どう言えばいいんだろうか」


 白菊には色々と嘘をついているから話しにくい。羅刹の困っている様子を見ていた真賀里が助け船を出すように話し始める。


「そっかぁ。僕と羅刹の関係が知りたいの?」

「ま、まぁそうなるわね」

「じゃあ簡単だ。まず、僕は千堂真賀里。つまり、千堂羅刹と同じ名前だ。つまり、同じ家族だ存在証明A

「う、うん」


 始まった、と羅刹は心の中で呟く。彼の"奇跡"はこういう時に便利だと言わざるを得ない。


「だから、僕は羅刹と会えば仲良く話すし、別におかしい所もないし、寧ろ、自然だともいえる存在証明B

「う、うん」


 何度見てもめちゃくちゃだなぁ、とは思いつつも、羅刹は真賀里の"奇跡"の手際に没頭する。これで二十八の鎌最低のランクだからなぁー、と不思議な気分になってくる。


「つまりさ、、この事実は絶対に変わらないんだ。全ての事象はこの事実に収束する存在証明C。だから、これは普通でしょ存在証明ABC?」

「そうね、よくわかったわ」


 雑な説明にどう考えてもおかしい事を言ってるのに、証明されちゃうんだよなぁー。うん、意味わかんない。


「じゃまぁそういうわけなんよ。僕はここにもう用はないからなぁ。そろそろ里に帰るつもりだけど、羅刹はどうするん?」

「一週間はいるつもりだよ。それからまた修行の旅に出るよ」

「そうやなぁ。うーん、寂しくなるなぁ。里の近くに寄ったら顔を見せに来てな?」

「うん、わかった。そっちも気を付けてね」

「勿論。それじゃあねぇ~」


 軽快な足取りで真賀里は近くの崖をジャンプしながら去っていった。それを見送った羅刹は白菊に向き合って再度話をしようと声をかける。


「ごめんごめん。白菊の事、放っておいて悪かったね」

「いいのよ。だって、。そりゃあそっちを優先した方がいいに決まってるでしょ?」

「はははは……。ほんと、これでランクが最底辺なんだから笑っちゃうよね」

「?」


 どんな事実も真賀里にかかれば異常も異常と感じなくなる。敵にしてみれば悪夢そのものだろう。だって、どんな事実も事象も、言葉通りに捻じ曲げ、都合のいいように解釈されてしまうのだから。


 というか、彼は本当に何しに来たのだろうか。意味わかんない事をする奴ではあるが、意味のない事は絶対にしないのが彼である。こんな滅亡間際の忍者達の隠れ家に、千堂に関係するものがあるとは到底思えなかった。


「ふぅ、もうこんな時間になってしまっちゃったわね。そろそろ家に戻らない?」

「そうしようか。そろそろ、君のお母さんとその他諸々が起きる頃だろうし」

「その他諸々って何よー。変な羅刹ぅー」


 それは勿論、君の家にいた不審者さん達だよ。一応君、忍びの長の娘なんだろう? 忍びが忍ばれたらダメじゃない?









 羅刹達が家に戻ると、弁天、乱菊の他に三人のラフな格好をした人達が庵を囲んで神妙な面持ちで何かを話し合っていた。


「ただいまー。どうしたの? みんなして」


 白菊の発言に弁天が難しい顔をしながらも歯切れの悪い返答をする。


「そうだなぁ……。白菊ももうこっちの世界では成人だし、話すべきことか……。いや、しかし……」

「あなた、お客様もいらっしゃるのよ? これはこれは。先ほどは失礼いたしました。破村乱菊と申します。あなた様に無礼を働いた罰を、どうか私めに命じてくださいまし」

「お、お母様!?」


 どうして羅刹に会う人はみんなかしこまっちゃうの!? 会う前はみんな邪魔者扱いする勢いだったのに!! という白菊の心の声が聞こえてくる羅刹ではあったのだが、白菊には自分の一族の事を知ってほしくはなかった。

 彼女だって忍びであることに間違いはないのだ。上下関係の厳しい世界では力の差を明確にしてしまうと今までの関係性が崩れてしまうような、そんな気がするのだ。だから、彼女には知ってほしくない。せめて、別れの日までは。


「やだなぁ。乱菊さんがどんな勘違いをしているのかはわかりませんが、俺はただの旅人ですよ。そんなに気を遣わないでください余計な事言ったら殺す

「……!! そ、そうですね。すいません、さっきめまいがして倒れちゃったから気が動転しているみたい。じゃあ羅刹さん、でいいかしら?」

「はい、しばらくお世話になります」

「白菊? 彼とは仲良くしなさいね」

「な、なんか怪しい……」


 自分で千堂の正体を乱菊にバラしておいてなんだが、口止めはしっかりするという我がままぶりを発揮していると自分でも思う羅刹だったが、細かい事は気にしないことにした。


 弁天は未だに何かを迷っていたようだが、意を決したように話し始める。


「白菊、今から大事な話がある。それと、羅刹も」

「う、うん。わかったわ、お父様」


 言われるとおりに白菊と羅刹は弁天と乱菊の隣に座る。こうしてみると、円卓会議のように思えなくもない。雰囲気はこの国独自のものだけどさ。


「ゴホン、それでは話すが……。今この隠れ家に吸血鬼どもが攻め入ろうとしている」

「きゅ、吸血鬼!? なんで!?」

「こら、白菊。長が話しているでしょう? 静かに最後まで聞きなさい」

 

 弁天は気にせず話を続ける。


「奴らの目的はこの場所にある"生命の雫"だろう。知らん者もいるだろうから説明するが、この"生命の雫"はこの家の地下にある秘宝中の秘宝。我らが先祖の破村仁三郎が遺した万能薬だ」


 羅刹はその話を同じ千堂の誰かから聞いた覚えがあった。"生命の雫"。飲めば一生分の栄養源の摂取を必要としなくなるらしい。要は食事をしなくても生きていけるという事だ。それを吸血鬼が欲しているとなれば、すなわち、血を吸わなくてもいいという事。

 奴らからしてみれば喉から手が出るほど欲しい一品だろう。


「この"生命の雫"は仁三郎様がとある誰かの為に用意したものであったが、受け取ってもらえずに家宝にしたという逸話がある。我が一族の家宝にして秘宝を吸血鬼どもにくれてやる必要はない。しかし……」


 その先が言いにくそうだ。流れ的に吸血鬼の方が強いのだろう。それも当然と言えば当然。忍者といえども、彼らは人の域を超える事はできない。どんなに強かろうが、人には人の限界というものがある。しかし、吸血鬼には人を越えた身体能力に"呪い"という異能がある。兵の質が根本から違う。


「あなた……。ここはもうこの場所を離れるか、秘宝を渡すしか……」

「ならん。この場を離れても奴らに追われれば見つかる可能性は高い。それに、秘宝を素直に渡したところで、我らを襲わないという保証もない」

「それでも……戦って全滅するよりはまだ希望が……」

「それは……そうなのだが……」


 深刻そうな空気。重い。


「あ、あのさ。俺がここにいる理由って……何?」

「…………」

 

 全員の視線が羅刹に集まる。そして、察した。ああ、千堂ならば異端である吸血鬼を狩ってくれる。そう思っているのだろう。確かに、異端狩りの名は伊達ではない。見つけ次第大抵は殺す。だが、他者にそれを求められるものでもない。あくまで、狩りたいから狩る。それだけの事なのだ。


 やっぱりこんなところに来るんじゃなかった。いや、千堂であることをバラしたのが悪かったか、と今更ながらに後悔した羅刹は、今さっき出ていった真賀里に"奇跡"を使ってもらおうかと席を立とうとした。だが。


「ちょ、ちょっと!! まさか羅刹を戦わせるつもり?」

「…………」


 白菊が声高らかに叫ぶ。場は再度無言になる。それはどうしようもなく、白菊の発言に肯定しているに他ならなかった。


「嘘でしょ? ねぇ、みんな。私と変わらないくらいの歳なんだよ?」

「だ、だが、羅刹は……その……」

「強いから? だから破村の問題を手伝えって? そんなの絶対におかしいわ! 私達はどんなに廃れても忍者、誇りと矜持だけは昔も今も変わらないって言ってたじゃない!」

「それは……そうだな……。だが、これは私だけでなく、破村全員の命がかかっていて……」

「もういい! 行こう! 羅刹!」

「う、うん……」


 よくわからないが白菊に圧倒された羅刹は手を引かれて家を飛び出した。女の子に手を引かれるなんて経験を始めてした羅刹は、戸惑いつつも流れに身を任せることに決めた。家を出て、森に入り、そして、白菊と最初に出会ったあの場所まで戻って来てしまった。


 何故だかわからないが、追ってくる者は一人もいない。誰かに追わせるものだとは思っていたが、実際に追手がいないという事は彼らも彼らで思うところがあるのだろう。なんとまぁ……情けない。


 川のそばに膨れた様子の白菊は羅刹に向かって突如、とんでもない事を言い出した。


「決めた! 私、忍者やめるわ!」

「嘘だろ……」

 

 とんでもない事をしたので、とんでもない事を言い出すんだろうなー、と思っていたので心の準備は出来てはいたのだが、それでも実際に言われると、うへぇ、と言いたくなってくる。というか、言わせて。


「うへぇ……」

「なんでそんなに羅刹が嫌そうなの?」

「次に続く言葉が予想できるからだよ……。え、何? 俺について来るの?」

「そうよ! よくわかったわね!」


 それじゃあ結局君もあの人達と同じじゃん……、という言葉は言わないでおいた。この子には一切の悪意がない。ただ純粋なのだろう。純粋に……考えが足りない。


「あのさぁ、忍者をやめるって事は両親と縁を切るってことだよ? もう会えない覚悟をするってことだよ?」

「う、それは……そうね……」

「会えないだけならまだしも、あのままじゃあ君の両親は一か月も生き延びられないよ。捉えようによっては家族を見捨てるってことだよ?」

「…………それは嫌……だわ……」


 今にも泣きそうになる白菊。慌てて宥めにかかる羅刹。


「で、でもさっきは嬉しかったよ! ほ、ほら、白菊が俺の事を気遣ってくれたから。ありがとう、気持ちだけは素直に感謝するよ」

「気持ち……だけ?」


 上目遣いで羅刹をそっと見る白菊。なるほど……案外余裕あるようだな。いい度胸だ。男を弄ぶ女はすべからく敵認定しよう。


「じゃあ君を本当にさらってもいいんだね?」

「……え?」

「君が望んだんだ。俺と一緒に行きたいって。だったら本当にすべてを投げ捨てて俺について来てもらう。一生ね」

「い、一生!? それはつまり……?」

「つまり……どういう事なんでしょう」

「あ、そこははっきり言わないのね……」


 冗談を真に受けられても困る。最後まで言ってしまえば本当に責任を取らないといけなくなるからね。まぁ、言わなくてももう言ってるようなもんだけど。


「とまぁ、こんな風になるから、白菊は家に帰った方がいい」

「羅刹はどうするの?」

「別にどうもしない。こうなったら最初の予定通り、ここでちょっと過ごしたらまた次の場所へ移動する。ただそれだけだよ」

「そう……じゃあ、私がここに来たらまたお話してくれる?」

「勿論。それも、最初に俺が言い始めたことだしね。だから、約束は守るよ。君は本当に家に帰った方がいい」


 これからの事もあるだろう。存分に悩んで、決断すればいい。その結果、彼らが滅ぶならそれは仕方のない事だろう。それが彼らの運命だったというだけ。まぁ、それでも、白菊一人だけならこの場にのみおいてだけ助けてやらないこともない。少しとはいえ、彼女の事を気に入ってはしまっているのだから。


「そうね……。うん、お父様とお母様の事は結構嫌いだけど、死んでほしいとまでは思わないしね。じゃあまた明日ねー!」

「う、うん。またねー……」


 最後に結構きつめの事を言ってのける白菊に若干引きながらも、やっぱり面白いなー、と思わざるを得ない羅刹なのであった。










 それからの数日はあっという間だった。昼前くらいに白菊が羅刹の所に来て昼食を一緒に食べ、夕方まで遊んだ後、暗くなる前に彼女が家に帰る。その繰り返しだった。

 日に日に元気がなくなっている白菊を見ていた羅刹は、ああ、話し合いが上手くいってないんだな、と肌で感じてはいたのだが、あえて何も言わなかった。言ったところでどうしようもない事であるし、言われたところで自身の方針は曲げない。何もしないのであれば、何も言うべきではないという事だ。


 そして、そろそろ旅立とうかと考え始めた羅刹は、白菊にとうとう別れを切り出すことに決めた。


「ねぇ、白菊」

「あははは! うん、なあに?」


 白菊は川に入って魚を捕まえようと躍起になっている最中だった。しかし、言うべきことは言わなければならない。


「もうそろそろ俺は行こうかと思ってる」

「…………そう、もうそんなに経っちゃったんだ」

「うん。この辺の狩りはもう済んじゃったから。これ以上いてもどうしようもないしね」


 白菊の中では、この辺の動物を狩り過ぎた、という意味合いに捉えていたのだが、羅刹の中ではこの辺の妖魔を狩りつくした、という意味合いだった。微妙な勘違いをしてはいるものの、結果的には会話として成立している。


「それは仕方がない……わね。今日行くの?」

「いや、もう日が落ちるから。明日の朝出発しようと思う」

「そっか……お別れだね」


 いつかこの時間も終わる覚悟をしていた白菊だったが、実際にそう言われると堪えたのだろう。目に涙が浮かんできている。


「今までありがとう。ちょっとの間だけだったけど、俺は本当に楽しかった」

「うん……。いつか会えたら、その時はまた仲良くしてね」

「当然だよ」

 

 そうして、白菊はいつもと同じ時間に家に帰っていった。

 これでいい。俺が決めたことなんだ。だから、別に思いつめる事なんてない。でも、なんだかすっきりしない……。

 

 白菊が帰った後、羅刹は胸にもやもやしたものが渦巻いていたため、しばらく動くことができなかった。すると、突然何者かがこちらに近づいてくる気配を察知した。警戒しようとしたが、すぐにやめた。なぜなら……。


「……お久しぶり~。というほどじゃないかなぁ。俺だよ、俺存在不確定。覚えてる?」

「いちいち能力使わないでよ……。紛らわしいよ?」

「えへへへ。でも、仕掛けも理解されてて、何度も食らえば、この能力って効果が薄くなるんよねぇ」


 千堂真賀里。何の用でこっちに来ていたのかわからないが、再び羅刹の前に姿を現す。


「で、何の用?」

「用っていうか、羅刹が気になったんよ、純粋に。こっちの用事は終わったからさ。でも、まだいたんやね」

「まぁね。明日の朝にまた旅に出ようかと思ってたところさ」

「そうなんや。方角的には北へ行くん?」

「ああ。北へ……行けるところまで行ったら引き返して、一度里に戻るつもり」

「えへへ、そしたら少しはまた遊べるね」

「だね」


 今までの旅にかけてきた時間を考えると数年かかることではあるが、それでも帰りを待っていてくれている友達がいるというだけでかなり嬉しいものだった。本当の所、帰ろうと思えば数日で帰れる距離ではあるのだが。


「ま、せっかく会ったんだしさぁ。少しは色々と話をさせてよ」

「まぁいいよ。俺もちょうど誰かと色々話してみたいと思ってたから」

「……へぇ」


 意味深な顔で真賀里が羅刹を見つめる。それを不思議がりながらも、真賀里に白菊と会った時の事。それから何を話し、何をしてきたかを簡単に説明していった。それを真賀里は時折頷いたり、相槌をうったりしながらも、真剣に聞いてくれたことが羅刹は素直に嬉しかった。


「と、まぁこれが俺の話の全てかな。そろそろ真賀里の話を聞かせてよ」

「うん……、まぁそうなんやけどさぁ。僕の方から少しだけ言わせてもらってもいい?」

「? うん」


 羅刹はきょとんとした顔で真賀里を見ながらも首を少し傾げる。。


「僕はさ、羅刹にが聞きたかったんだ。だが、君が話した内容はここ数日での、その少女の話ばかり」

「…………確かに、そう言われるとそうだ」


 白菊と出会う前にも少なからず色々な経験をしてきた。様々な種類の異端を狩ったし、妖魔だけでなく、粛清隊や魔女とも遭遇したことさえあった。しかし、それを差し置いてまず白菊とのことを自然と真賀里に話していた。自分でも、言われてみてハッと気づかされる。


「極論なんやけど、君のこれまでの旅での出来事で一番印象に残っていたのが、その白菊との事。勿論、最近の出来事だったからっていう事もあるとは思うけど、それでもあまり話をしたがらない、自分の話をなかなか人に話したがらない君が僕に話をしたいほど、君の中で白菊って子の事が大半を占めているって考えてしまうんよ」

「…………」


 そこまで言われては言い返す言葉が見当たらない。反論をしたいところではあるが、それはただのごまかしだ。自分の気持ちを偽る詭弁になってしまう。それくらいの事は、今の羅刹にもわかることだった。


「証明しなくても、君の中でもう結論は導き出されてるんだろう?」


 茶化すわけでも無く、面白がるわけでも無く、純粋に友の、家族の、仲間の。その感情を祝福するように真賀里は羅刹を見守る。


 ああ、なんか最初から変な気持ちがするとは思ったんだ。自分でも訳のわからない行動をしてるって自覚はあったから。でも、この想いがそうだというのであれば、それはそういう事なのだろう。





「そうだ。俺は……、俺はきっと白菊に初恋をしていると思う」







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