第44話 果てに至る境界
その教会は僕の住んでいた赤嶺教会よりも少しこじんまりとした場所だった。小さいだけならまだしも、壁や窓は老朽化の影がちらほらと見え隠れしており、経営困難を体現したかのような惨状だった。
中から子供の声がちらほら聞こえてくる事から、僕たち以外にも教会に住んでいることがわかる。僕も昔は孤児だったみたいだから親近感湧くなー。
「さて、ここが教会です。
いや、拒否するよ。知らない人がいきなり来たら子供が驚くでしょうが。そんな淡々と話を進めるなよ。
「はい、わかりました」
「ちょ、九寺さん!」
「?」
もう無理。ポンコツだわ、九寺さん。
「では後ほど」
スタスタとマイルストンはどこかへ消えてしまった。ああ、僕知らない人と話すの苦手なんだよ。どうすんのさ。
ヒカリの苦悩と裏腹に九寺は教会の扉を開ける。そこには、確かに教会の内部と思しきガラスの窓に、教壇。そして、礼拝者が座るであろう長椅子がずらりと並んでいた。経年劣化でボロボロになった設備の中で、三人の子供たちが走り回っていることに気づく。子供達もその視線に気づいたのか。こちらの方を見つめていた。
「こんにちは。私は九寺魅音と言います。しばらくの間、この教会に住まわせていただきたいのですが大丈夫ですか?」
「し、新人だーー!」
「女の人だーー!」
「変な鎧の兄ちゃんもいるー!」
誰が変な鎧じゃ。でも、九寺さんが先頭に立ってくれたおかげで何とかなった。年齢は小学生くらいだろうか。男子二人に女子一人。こんな子供がなんで教会なんかに……
「僕は九寺ヒカリ。厄介になるけどいいかな?」
「うーん、どうしよっかなぁー」
「ちょっとー、ハリウスに決める権利ないでしょー?」
「ユーリにもないけどね」
「ベインにもないじゃん」
どうやら男の子二人はハリウスとベインで女の子はユーリというらしい。名前が外国風なのは教会にいるからなのだろうか。
「おやおや、私めがいない間に賑やかそうですね」
戻ってきたマイルストンが嬉しそうに笑う。戻るの早いな、おい。
「マイルストン。この人達はー?」
「山奥で暮らそうとしていたので神岡教会へ誘ったのです。あなた方は先輩ですので優しくするのですよ?」
「うん! ユーリは先輩だから優しくするー!」
「俺が先輩だぞぉー!」
「僕だよー!」
俺君がハリウスで僕君がべインね。はいはい、把握把握。
「じゃあ私が教会を案内するわね。付いてきて!」
「俺も行くー!」
「あなた達はダメよ。中の掃除をしていて頂戴」
「僕嫌だよー」
「だーめ!ちゃんとしないと晩御飯抜きよ!」
どうやらこの三人の中で一番権力があるのがユーリらしい。ぶつくさ文句を言いながらもハリウスとべインがいう事を聞いているのがその証拠だ。あのくらいの女の子でもしっかりしてるんだなー。
「じゃあ案内するわね」
「私も行きましょう」
気を取り直したユーリとマイルストンは教会の案内をする。案内と言っても、設備がほとんどなかったさっきの礼拝堂に、台所らしき場所。寝室。そして、外には露天風呂と思しき木で作った簡易的な風呂場があるのみ。幸いにも、井戸がすぐ横にあるので水を汲むのは楽そうだ。
外で周囲を見回しながらマイルストンに聞く。
「ここには教会以外に何もないですけど、誰もいないんですか?」
「少し行けば村があります。
「そうですか。でもなんでこんな辺鄙な場所に教会が?それに子供たちまで」
「あの子たちは……戦争孤児というものです」
「戦争孤児?」
どうやら、マイルストンさんは粛清隊として活動しながら旅をしていたようなのだが、その過程で仲間を失っていったそうだ。そして、自分も死ぬまで粛清隊として生き続けようとしたところで三人の子供が道端で行き倒れていたところを拾い、再度旅を続けていたところ、この場所に行きついたらしい。
「私めは思ったのです。私めは今まで悪人や妖怪を退治することが普通の人々の安寧につながると信じて粛清隊を続けてきました。しかし、私めは殺すことにしか目がいかず、助けることをしてきませんでした。それで何が守ると言えるのでしょうか。私めは人を、人々を救いたかった。この乱世の時代に人の安寧をもたらしたかった。だから、道中見つけたこのユーリやハリウスとべインを育てることに決めたのです」
「…………」
粛清隊だからといって悪人だと思っていた自分が恥ずかしい。思えば、普通の人々の暮らしを守る、という信条自体は全く持って悪いことではないのだから。
「あなた方のような強そうな方がいればこの教会は安泰です。どうか、いつまでもここにいてください」
「す、すいません。僕たちには目的がありまして……」
「目的? 行き場がなかったのではなかったですか?」
「そうなんですけど……まぁ色々と事情があるんです。いつこの場を離れるかわかりませんけど」
「そうですか……。詮索は致しません。人にはそれぞれ事情がございますから。ですが、何かあればいつでも頼ってください。私めは出来うる限りの事は致しますので」
「はい、ありがとうございます」
どこまでも優しい人だなぁ。僕の知っている粛清隊とは全然違う。いや、もしかしたら、僕らが只人だからこんなに優しいのかも。それでも……僕はこんな子供たちを保護する優しい人とは敵対したくはないな。
「ねぇねぇ、おねえちゃんたちお風呂入りなよ」
「え、お風呂ですか?まだ早いですよ?」
「でも、暗くなる前に入っておかないと苦労するよぉー?」
もうすぐ夕方とという時間だから外は全然明るい。しかし、この場所に電気とかは来てなさそうだから、暗くなったら確かに何もできないだろう。
「ではいただきますね」
「いた……だく……?」
「ええ。お風呂を貸してもらう時にはそう言うのです」
「おねえちゃん物知りだねー!じゃあ入ろうか!」
「え?」
この流れは……
「じゃあハリウスとべイン呼んで来るねー!」
「あ、ちょっと!」
九寺さんが呼び止めようとするが間に合わなかった。九寺さんが振り返って僕を見る。うぅ、僕は悪くないよ……
「友禅さん。今のうちに体を隠す用のタオルを出していただけませんか?」
「ほらよ」
すると、僕の右目の眼帯から真っ白なタオルが出てくる。傍から見たら目からタオルが出ているみたいで気持ち悪い。それにしても、友禅は色々なものを吸収しすぎではないだろうか。今度、吸収したものを検める必要がありそうだな。
露天風呂で九寺さんの胸がハリウスに触られるというハプニングがありながらも、何とか体を清めることに成功する。清めるといっても沸かしたお湯に浸かっただけなので、微妙に残った汗が不快感を残す。まぁ、お湯に浸かれるだけでもうれしいけどね。
マイルストンさんはお風呂には入らず、いつも井戸の水を直接浴びることで体を清めているのだとか。修行のようなものらしいので、気にしないで欲しいとのこと。粛清隊というよりは何かの修行僧だね。
そして、現在。待ちに待った夕食だが……
「芋煮ですか」
九寺さんの表情がひきつっている。芋と少しの肉が入っただけの芋煮。どうやら、昨日村長の所で食べたものは本当に豪勢だったらしい。
「おいしいねー!」
「もうすぐお肉無くなるから、味わって食べないとな!」
子供たちは喜んでいる。それを見てマイルストンも微笑ましい笑顔になっている。が、しかし、現代っ子の僕らにはこのメニューと量は我慢できない。ここはひとつ……
「友禅」
「わかってる。だが、お前たちにとっては当たり前だが、この時代の人間にとっては未知の食べ物だ。詮索されるぞ?」
「で、でも……」
九寺さんが上目遣いでこちらの方を見つめてくる。この人はほんとにもう……
「友禅。頼む」
「…………仕方がない。では少し席を外せ。目から食べ物が出てきたらこいつらが驚くだろ」
「ありがとう、友禅」
そうしてトイレに行く振りをして僕は友禅が出す食料を持っていく。
「すいません、実は僕たちも食べ物を持っていまして……よかったらどうぞ」
それはインスタントな麺。現代人が絶対一度は口にする長期保存がきく例のアレだ。それらを食卓に広げる。
「これは……なんですかな?私めは見たことがありませんが……」
「僕の故郷の食べ物なんです。この中にお湯を入れて三分すれば出来上がります」
「?」
訝し気にカップラーメンを見ながらも、できたのをマイルストンに渡すと、目を見開いてその感動をあらわにする。
「こ、これはおいしいです!」
「わ、私も食べるー!」
「俺も!」
「僕も!」
ズズズと、カップラーメンをすする音だけが部屋に響く。ふふふ、地球は青いのだよ、君達。
「ひ、ヒカリさんありがとうございます」
「いいよ、九寺さんがポンコツなのはわかってたし」
「!?」
それを黙って見つめているユーリちゃん。どうしたのかな?
「ねぇねぇ、魅音ー」
「どうしたの?」
「ヒカリさんと結婚してるんだよね?だったらなんで名前で呼ばないの?」
ピキーーーーーーーーン
擬音にすると、そんな感じだろうか。僕と九寺さんの体感時間が止まる。小さい子供が『赤ちゃんってどういう風に産まれるの?』という質問を聞かれた夫婦のようなものだろうか。そのくらいの衝撃がこの場に走る。
「え、ええっとね。私とヒカリさんはほら……新婚だから」
「でもさんづけっておかしくない?よそよそしいよー」
全員の視線が僕と九寺さんに集まる。嘘だろ、僕高校二年生だよ、夫婦の真似事なんてできるわけないじゃん。
「私めもそれは思っていました。この際、お互いを呼び捨てで呼んでみてはいかがですか?」
「わ、私は別に……」
「魅音ー。私、仲良くないと嫌だな」
「ユーリちゃん……」
「私のお母さんとお父さんね、いつも私の事で喧嘩してたの。食べ物がないせいでイライラしててね、毎晩怒鳴りあってた」
「…………」
「そしたら遂にね。私、売られちゃったの。その売られた場所でも私は邪魔者扱いされて、そして……、それから……」
ユーリは涙ぐむ。きっとその後マイルストンに拾われたのだろう。
「だからね。私、二人には仲良くなってほしい。私の……お母さんと……お父さんじゃないけど……二人には……仲良く……」
おっっっっっっっっっっもいなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「わ、わかった。わかったからユーリちゃん!ほら、ヒカリも!」
「う、うん!魅音!ほら、これでいい?」
すると、ぱぁっ!っと満面の笑みになったユーリは嬉しそうに頷く。
「うん!もうこれからはずっと名前で呼んでね!」
「え、ええ……」
「指切りげんまんして!」
どこまで僕たちの心を痛めつければ気が済むのだろうか。たどたどしくも僕と九寺さんは指切りげんまんする。
「絶対だからね!破ったら地の果てまで追いかけるから!」
「え、ええ……勿論よ……」
「う、うん……当然さ……」
誰だ!この子にそんな言葉を教えたのは!絶対に訴えてやる!
ふふふ、あははという子供たちの笑い声とマイルストンの苦笑が教会に響き渡る。どうやら時代が変わっても教会が敵地というのは変わらないらしい。アーメン。
一夜が明け、僕は冷静に今の状況を整理するために外の空気を吸いながら考えに没頭する。このままでは本当にまずい。九寺さんはなんだかんだでポンコツで使えない事がはっきりしたくらいだ。現状は何も変わっていない。
「友禅」
「なんだ?」
「僕たちはどうすればいいんだろう……」
「さぁな。だが思い出したことがある」
「え、何を?」
「リンエイの言葉だ」
『フハハハハハ! 間に合うわけないヨ! さぁさぁ! 君たちには過去最高の悪夢をお届けしよウ!』
『行ってらっしゃい、お前タチ。帰ってこれるかは君達シダイ。魂の強さを僕に見せてヨ』
「奴はこう言っていた」
どういう事だ?過去最高の悪夢。それは過去に飛ばすという事だろうか。そして、帰ってこれるかは僕たち次第?だとすれば帰る方法があるという事だ。そして、魂の強さ……意味が分からない。でも何か引っかかる……
「結局、具体的な方法は皆無だね」
「そうだな。だが、帰れることはわかったんだ。今は地道にこの時代の事を探っていくしかないだろうな」
本当にどうしよう。途方に暮れていると、巫女姿の九寺さんが出てきた。
「おはようございます。その……ヒカリ……」
「うん、おはよう……魅音……」
九寺さんが顔を赤らめて俯く。そ、そんな表情しないでよね……
「貴様ら本当は付き合ってんじゃねぇのか……?まぁいい。とりあえず今日はどうする?あの森で小娘を探すのか?」
「あ、そういえば安城さんを探すんだったね。と、あれ……?なんか山が動いてない?」
日が昇りかけの山の頂上付近。そこで何かが動いているような気がした。
「え、私には見えませんけど……」
「くで……魅音は見えないだろうけど、僕は千堂だからね。遠くのものも見えるんだけど……くそう、よく見えないなぁ……」
「バカ道、ほら」
「うん?」
友禅が眼帯から何かを出す。それは双眼鏡だった。何であるんだよ。でも、今はそんなことはどうでもいい。双眼鏡を使ってそこを見ると、何やら人が戦っているようだった。
「あれは……巫女装束?」
「!! 安城! 安城ね!」
「あ、ちょっと、くで……もう、魅音!待ってよ!」
ヒカリは全力疾走で山へと向かう九寺を追いかける。余程安城の事が気になっていたのだろう。ヒカリの足の速さと同じくらいの速さで九寺は走る。
そして、二分後。
九寺を背負ったヒカリの姿がそこにはあった。
「もうほんと魅音はポンコツ!」
「ご、ごめんなさい……ヒカリ……」
持久力がないくせに全力疾走しないで欲しい。戦場なら命取りだよ、まったく。
そして、ようやくその山の付近へと近づいていくと、戦闘音らしきものが聞こえてくる。それにこの声……
「!! 安城!」
「! 九寺! それにヒカリさん!」
満身創痍の安城あかりが妖魔の集団を戦っていた。巫女服は所々が破れており、髪はボサボサで土と血で汚れてしまっている。敵はあの白狼タイプの妖魔だ。大きさは普通だが、その数がヤバい。数えきれない。
「安城さん! 下がって!」
「! わかったわ!」
もう出し惜しみしている場合じゃない。僕の持ちうる限りの全力で迎え撃つ!
「『概念昇華』!」
『弱点に至る一撃』から『死に至る一撃』へ。少なくなったT字の針を白狼に投げまくる。
「ぎゃぅぅぅぅぅ!」
「がぅぅぅぅぅぅ!」
悲鳴を上げて白狼たちは絶命していく。体のどこに刺さろうとも、かすろうともお構いなし。当たったのであれば、それは全て即死の攻撃へとなりえるのだ。一気にニ十体の白狼を絶命させるが、それでも数は全然減らない。
「クソ!クソ!」
もう針はない。刀も某さんにあげてしまった。でも、武器が無くても僕はまだやれる。地面から砂の塊を握り、それを広範囲に投げ付ける。
「ぎゃぅぅぅぅぅ!」
「がぅぅぅぅぅぅ!」
砂の一粒一粒が即死攻撃。それに、砂の粒を全て避けるなんてことは白狼にとって不可能に近い。だから、向かってきた白狼はどんどん倒れていく。それでも数が減らない。寧ろ、奥の方から増えてきているようにさえ思える。
「ひ、ヒカリさん!」
「ヒカリ!」
僕は大丈夫なんだ。『死に至る一撃』は最強の防御でもあるのだから。でも、彼女たちは違う。巫女装束なんてあの白狼の牙の前では何の役にも立たない。いくら僕が砂の塊を投げるにも限度がある。全方位をカバーできるわけでもないし、彼女たちに当たれば一たまりもない。そして、じわじわと白狼の包囲網が出来上がってくる。見上げると木の上にも白狼がよじ登って僕らを見下ろしてきた。もはや、逃げ場などない。
「くっ……僕だけは絶対に助かるのに……」
「「えっ!?」」
そういえば僕の"奇跡"の事は伝えてなかったな。そうなんです。僕は助かるんです。
「…………某は関わるつもりがなかったのですが、興味が出てきました。この状況でも自分だけは生き残れるというあなたは特に」
それは僕たちがもう一度会いたいと思っていたその人。某さんの声だった。しかし、どこから聞こえているのかわからない。
「さぁて、とりあえずお前たちには退場してもらうよ」
キュイーーーーーーーン!
そんな音と共に、白狼の集団は何かに圧縮されるようにして小さくなりそして、ぷちゅんという弾ける音と共に消えて無くなってしまった。…………一匹も残らず。
「また会ったね。君達。新顔もいるみたいだけど、久しぶり」
山の奥、木の影から本名不明の能力者が、あの不思議なオーラ全開で僕らをおどけたような顔で見ていたのだった。
「それで、君たちは何者なのかな?」
某さんが、木によりかかりながらそう僕たちに言ってくる。九寺さんは安城さんの手当てをしている。友禅から応急キット取り出したの見られてないよね……
「ぼ、僕たちは僕たちであなたの事が気になるんですが……あなたのあれは"奇跡"ですよね?」
「……某の力の事を少しは知ってるみたいだなぁ。やっぱりその目の刻印は伊達ではないようだね」
「!!」
奇跡、刻印。それを知っているということはつまり……
「千堂ですか?」
「おや?某の名前まで知っているなんて。これは意外だなぁ」
「ぼ、僕も千堂なんです!」
「そ、そうかい。それは偶然だねぇ」
うん?何かおかしい。
「せ、千堂の里ってどこにあるのか知ってますか?」
「千堂の里? いやぁ、某の里なんかないけど……」
「へ? い、いやいや!千堂の里!仁の里ですよ!」
「仁の里? へぇ、奇遇だね。某の名前も仁なんだよ」
「え、ま、まさか……」
千堂で名前が仁。という事は……
「某の名前は千堂仁。今度は君たちの名前を教えてくれないかな」
う、うそぉ! 千堂の始祖様じゃん! 始まりの人じゃん!
「じ、仁さん! ずっと会いたかったです!」
「え、そ、某に?でも、某は君の事を知らないのだが……」
「そ、そうなんですけど!僕は!あなたの!ファンです!」
「???」
ヒカリは国民的アイドルの握手会のように仁へと詰め寄る。仁は仁で混乱しながら握手を受け入れ、それを奇妙なものを見る目で九寺と安城は眺めていた。
「と、とりあえず君たちの事を聞かせてくれないか?」
「は、はい。取り乱しました……いやぁ、会うまではそんなに惹かれなかったんですけど、実際に会うと興奮してしまって……」
伝説の千堂の始祖だもんなー。オーラが違うよ、オーラが。
そうして、僕は知りうる限りの出来事を仁さんに話す。仁さんは黙ってそれを聞き、時折聞き返しながらも僕の話を理解しようと努めてくれた。
「へぇ、じゃあ君達は未来の人ってことになるのかな?」
「はい、そうなります」
「でも大変だったね……。そのリンエイとかいう妖魔にこの時代に飛ばされて辛かったでしょう……」
「し、信じてくれるんですか?」
「ああ、勿論。でないと某の事を知っている理由がないからね。それに、某は人を見る目はあると自負しているつもりだよ?」
かっこいい……流石始祖様。
「で、その話の通りだと気になることがあってね。まず、仁の里。千堂の里だったかな。そう言われているものはない」
「え? じ、じゃあ……」
「某がまだ作ってないということだろう。それに、某が作らなくても某が死んだ後に某の後継者が仁の里と名付けた可能性も考えられる」
そんな……。安城さんは見つかったけど、帰る方法もわからないし、どうしたら……
「君たちは元の世界に戻りたいんだよね?」
「勿論です!」
「そうだよなぁ。自分の居場所に帰りたいよなぁ……」
「何かわかりますか?」
「うーん、某には何とも言えないなぁ。未来から過去へ送る妖魔なんか聞いたことないし、僕にはそんな"奇跡"は無いからねぇ」
「そう言えば仁さんの"奇跡"って何なんです?」
「某の?『果てに至る境界』だね。わかりやすく言えば結界術さ」
「結界術?」
「そう。どんな結界でも作り出すことができるのさ。物理的な結界であろうと、精神的な結界であろうとも、そして……この世界の果ての結界なんかもさ」
この世界の果て?なんだそれ。
「ヒカリ君だったかな。この世の果てには何があるのか、考えたことはあるかい?」
「いえ、無いですけど……」
「某はね、ずっと考えていたのさ。この世界の果てには何があるのだろう、どんな景色なんだろう、何がいるのだろうって」
仁は空を見上げながら夢を語る子供のように目をキラキラとさせながら話す。ヒカリは少しは共感できたが、九寺と安城は冷めた目で見ていた。男にしかわからんのです。これは。
「ロマンチックですね……」
「わ、わかってくれるのかい!」
「なんとなくですけど……、でも、果てというのはこう……キリがないように思えます」
「キリがない?」
「はい。多分、果てっていうのは本人がいきつくところが果て。最果てになるんだと思いますよ」
地球は丸いんだ。どこまで行っても平行線だしね。
「果て……最果てか……」
「! そういえば最果てに至ってるんですか?」
「? 最果てに至る? どういう事だい?」
知らないようだ。つまりまだ、至ってない。
「い、いえ。なんでもありません」
「そうかい? でもまぁ、君達は山の麓の教会から来たんだろう?一度戻った方がいいんじゃないか?」
あ。
「大丈夫さ。ここまで来たら乗りかかった船だよ。某も同行するさ」
「じ、仁さん!」
なんだか安心するなぁー。千堂が一人いるだけで全然違うよ。もうこの時代に残ってもいい気がしてきたぞぉ?
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