第43話 過去であろうとも
この時代がいつの時代なのか、という事は聞いてもわからなかった。というのも、この時代の中でもこの場所は世間から隔絶しているようで、時間の感覚というのがかなり大雑把だったからだ。朝は朝。昼は昼。夜は夜。もはや時間とは何?という感じ。
山の奥の更にまた山奥の里というようなので、人の出入りが少ないらしく、唯一、某さんがこの里以外の情報を持ってきてくれるので、某さんは里以外の情報屋さんというわけだ。
某さんは里の住人からも某さんと呼ばれているようで、本名も住まいも誰も知らないらしい。よくそんな人を信用できるなと思ったが、某さんは不思議なオーラを纏っているためか、なぜか憎めないのだろう。一応、この里以外の世俗は戦乱の世らしく、本当にごく稀に僕たちみたいな遭難者がこの村に訪れるようだ。
そして、今。僕たちは入浴中。それはいいのだが……
「まさか九寺さんと一緒に入ることになるとはね」
「こ、こっち見ないでくださいね?」
入浴はお湯が冷めてしまうから二人で入って欲しいと言われてしまった。この村では男女が一緒に入浴することよりも、お湯が冷めてしまう事の方が良くないようだ。価値観の相違!
お風呂は昔ながらの五右衛門風呂で、外から友禅が薪を火にくべてくれている。蛇のくせに多才な奴だ。口にしたら喧嘩になるから言わないけど。
「早く体洗ってくださいよぉー」
「もうすぐだから。てか僕の体も見ないでよぉ!」
お湯に浸かりながら九寺さんは僕の方をジィッと見ている。キャー、九寺さんのエッチィィ!
「まだ高校二年生のお子様の裸なんか興味はありませぇ~ん」
「ふん、僕だって大学生の女性には……」
おっと、これはマズいですね。
「何かなぁ~? ええぇ~? ヒカリ君は私の裸に興味があるのかなぁ~?」
クソ! 男は抗えないんだよ! その性には!
巫女姿でも十分美人と言える九寺さんだったが、裸はマズい。大人になりかけの容姿は純粋な高校生には刺激が強すぎる。こういう時はお経だ。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……。これは何か違うな。
「そういえば、ヒカリさんって右目に刻印があるんですよねー」
「うん。あるよ。もっと言うなら両手の手のひらにもあるよ」
「何か意味があるんですか?」
「いや、僕にもわからないんだ。気づけばなんか増えてた」
「そうですかー。でも、千堂って不思議ですよね」
「どの辺が?」
「まぁ、全部なんですけど。でもそれでも千堂の歴史を千堂が知らないってのは異常だとは思いますよ」
「いや、僕は最近千堂の事を知ったから……」
「いえ、ヒカリさんだけじゃなく、千堂の人も千堂の歴史を詳しく知らないようです」
は? いやいや、千堂だって里には文献とかが……あるのか?
「私達の社会では歴史って普通にあるじゃないですか。でも、千堂の人たちは自分達の歴史。成り立ちを本当に大まかにしか知らないみたいなんです」
「そ、そうなんだ……」
「だからわかるといいですね」
え?
「この時代にも千堂がいるとすれば、千堂のルーツが聞けるかもしれませんよ?それこそ、千堂の始祖様とか」
なるほど。過去に飛ばされたのを嘆いてはいたが、この時代はこの時代で調べてみると面白いものが分かるかもしれない。というか、何か僕たちは忘れているような……
「あ、安城さん」
「あ。あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょ、急に立たないでくださいよぉ!」
僕もたっちゃう。
「安城! 安城はどこにいるのかしら!」
「わ、わかりませんけど!今夜はもう遅いんですから!明日また探しましょう!だから僕に体を見せないで!」
ヒカリの必死の抵抗でようやく九寺は落ち着く。友禅が風呂場の窓から薪を一つ飛ばして無言の抗議をしていた。
「イテっ! そ、そうですよね……ごめんなさい。取り乱しました……」
「ほんとですよ。反省してください。あなたは大学生で三人の中で年長者なんですよ?威厳。威厳を示しましょうよ」
「うぅ……高校二年生に説教された……今日は飲みたい……ビール飲みたい……」
この時代にビールがあったとしても、ここにはビールなんて嗜好品はないだろう。落ち込んだらとりあえずお酒飲むのは大人あるあるって奴かな。
入浴後。
僕と九寺さんとベルトに擬態した友禅は村長の家の居間で夕食をいただく。その内容は、あの川で捕れたあろう川魚に、白米。そして、みそ汁という質素なのか豪勢なのかわからないメニューだった。
「さぁさ、遠慮なく食ってくれ! 豪勢だろう?俺の家の料理は!」
「え、ええそうですね。ありがたくいただきます」
「はい、いただきます」
そういえばこの時代は戦争が起きてるんだったな。このくらいでも豪勢な部類に入るのだろう。しかし、この家には豪気さんしかいないのか?
「失礼ですが、豪気さん。この家にはあなただけですか?」
九寺さんが言ってくれた。ナイス。
「おう……実は去年妻が他界してな……。俺一人だけになってしまった……」
そうなのか。心なしか、その禿げ頭の輝きが色あせたように感じる。
「そうだったんですね……すいません。そのような不躾な質問をしてしまって」
「構わねぇさ。もういい加減吹っ切らねぇといけなかったんだ。それに、今日はお前さん方が来てくれたおかげで賑やかになった。俺はうれしいよ……」
「豪気さん……」
心なしか、その禿げ頭に輝きが戻ったように感じる。
「そんな日はお酒をぐぃっと……は出来ないんでしたね……」
「あるぞ」
それは友禅の声だった。僕と九寺さんにだけ聞こえる声で話す。
「俺様の能力の一つに『万物吸収』があると言っただろう?吸収したものは消滅もできるし、保存もできる。そして、俺様の中には影道が残したものもあってだな」
「お酒もあるの?」
「ある。というか、色んなものが腐る程な。千武も生活必需品も何もかも」
そこで九寺さんがキュピーン!と目を光らせる。もう、お分かりですね?
「せ、千武欲しい!」
「絶対にやらん。影道が許してもな」
「な、なんでよ!」
「これは俺様にとっても思い出の品なんだ。祓い人なんかにくれてやるものではない」
ゆ、友禅……、君って奴は……僕の事をそんな風に思っていたのかい?
僕は腰に巻いたベルトをさする。
「き、気持ち悪いことすんな、バカ道!」
「えへへへへ……」
「まぁいい。千武は渡せんが酒はくれてやる。バカ道は酔わないからといって大量の酒を飲んでたからな。俺様に吸収させた物の四分の一が酒だ」
吸収させた総量はわからないが、四分の一は多すぎないだろうか。と、ベルトから色んなメーカーの酒がどんどん出てくる。
「ご、豪気さん。お金は渡せませんが代わりにお酒を……」
「さ、酒なんかあるのかい!? いいねぇ。じゃあありがたくいただくよ」
パックに入ったお酒や瓶に入ったお酒に興味がありそうだったが、深くは聞かずに豪気さんはお酒を飲む。
「ほぉぉぉ! これはいい酒だ! こんないい酒をもらっちゃっていいのかい?」
「ええ。この時代では貴重だとしても、僕たちの時代ではバイトすれば何本も買える値段なんで」
「?」
不思議そうな表情の豪気さんだったが、お酒を飲むにつれ酔いが回ったのか、段々と陽気になってきた。そして、九寺さんもビール瓶を浴びるように飲み始めた。そして…………潰れた。
「あーあ……この人成人してたから、当然飲めるんで飲んできたんだろうけどさ。この飲み方は酷い」
「この小娘は酒を
潰れた二人を見下ろしながら僕はビールを一気飲みする。未成年なのにいいのかって?いやいや、僕体は若返ってるだけで多分成人してるから。そんなの現代社会じゃ通じない?はん、ここは過去だし、千堂に法律なんて関係ないね。
豪気さんを寝室に運び、九寺さんを客間へと布団を敷いて寝かせる。今日も僕は屋根の上で甲冑着て寝ましょうかね。三階建てだから落ちたらヤバいけど。
「お前は高いところから落ちても死なん」
「うっさい」
翌朝。鳥のさえずりと共に僕は起きる。正確には甲冑に乗った鳥につつかれて起こされた。
「よう、バカ道」
「おはよう、友禅」
腕に巻き付いた友禅が目の前で舌をチョロチョロと出す。近い。
屋根から自殺ダイブするように飛び降りた僕は"奇跡"で衝撃を殺し、綺麗に着地する。そして、甲冑を脱ぎ、縁側に置いた後に客間へと向かう。
「おはよぉーございまぁーす…………」
寝起きドッキリのテンションで僕は部屋へと入る。部屋の中は薄暗い。しかし、千堂にそんなことは関係ない。細部まで見える。
豪気さんの奥さんが着てたものを着ている九寺さんは着物姿だったはず。しかし、今はその着物をはだけさせており、艶めかしい姿がそこにはある。
「……まぁすっぴんとはいえ、まぁまぁ美人なんだよな」
「そう言えば、あの小娘共。彼氏とかはおるのか?」
「いや、知らないよ。てか、友禅そういうの興味あるの?」
「無いわ。だが、バカ道はそういうの鈍感でな。心配になった俺は俗世の一般的な恋愛というものを調べておった時期があるのよ」
こ、こいつ僕の為にそんなことをしていたのか?なんだかんだいっても昔の僕とは上手くやっていたようだ。
「まぁ、祓い人だから恋愛とか難しそうだよね。千の宮の巫女さんもなんだかんだでそんなにいなそうだったし」
「そうか。こやつらも色々と苦労はしておるんだな」
意外だな。友禅がそんなこと言うなんて。でも、その尻尾に持っているペンは何をするつもりかな?
「バカ道も手に炭を持っておるだろ」
「えへへ。焚火の残りの炭を拝借しまして……」
「ほぅ、お主も悪よのぉ」
「お代官様こそ」
邪悪な笑いを二人でこぼす。僕は今わかった。こいつは僕の千獣だと(遅い)
「うぅん……もう朝ぁ……?」
おおっと。ターゲットが起きてしまいました。今回はここまでですね。
「おはよう、九寺さん」
「おはよう、ヒカリさん……ここは……。ああ、そうだったわね」
この状況を夢だと思いたかったのだろう。しかし、そんなに世の中甘くない。寝て起きたら元の世界なんてことはないのだ。そういえば、あの時リンエイは僕たちをここに送った時なんて言ってたっけ?
「おぉーい。朝食ができたぞぉー」
豪気さんの声が聞こえる。無賃で泊っているというのにどこまで優しい村長なのだろう。これは何かお返しをして出なければ。
と、そんなこんなで昨日の夜と同じメニューの朝食を摂り、最後のお礼として薪割りや部屋の掃除をした僕らは村長の家を後にする。一日しかいなかったけど、いい村だったなぁ。
村を後にした僕らは、とりあえず飛ばされたであろう場所に行くことにした。
「友禅は仁の里って行ったことあるの?」
「勿論ある。どうしてだ?」
「いや、仁の里の場所が変わってなければこの時代にもあるかもだろ?だったら神成山を基準にしてそこから里に行けば千堂がいるかもなって」
千堂であれば同じ千堂同士助けてくれるはずだ。
「いや、ここまで地形が変わっていたらわからん。千堂の地形把握能力さえあれば別だろうが、俺は千堂じゃないからな」
そうか。時代が変われば地形も変わるのは必然。そう甘くないか。
「ヒカリさんは里に行ったことなかったんですね」
「うん。前にも言ったけど、千堂の事を知ったのは最近なんだ。里に行こうとしたことはあるんだけど、アヴェンジャーとかの件で色々あって……」
「そうなんですね……でも、私も里に行きたいなぁ……」
こっちを見ないで。もうなんでもアリだな。
しばらく歩くと、僕たちが飛ばされたであろう場所にたどり着く。僕も千堂の力の使い方を覚えてきたからね。地形把握能力はある程度使えるのさ。
「僕たちの優先順位としては安城さんを見つける事。二番目は元の世界に帰ること。そして、もし出来たらなんだけど千堂の里の発見。もしくは、千堂の歴史を知る。ということでいいかな?」
「ええ、いいわ」
「構わん」
九寺さんの表情が凛々しくなっていた。安城さんを探すという事で気を引き締めたようだ。欲を言うならもっと早く引き締めて欲しかった。
「で、目的を立てたはいいけど、方法が皆無っていうね……。友禅。何かいい案はない?」
「ないな。でも、理由のない直感でいえばある」
「へぇ。何さ」
「某に聞く」
自分に聞く、みたいな言い回しだった。でも、勿論ここでの某は某さんのことだろう。
「某さん?なんで?」
「直感だと言っただろう。あの男。なんか気になる。ここに来てから一番謎の多い男だからな。それに、あの男の事を考えるとなんか不思議な気分になるんだ」
「あ、それ僕も」
「私もです」
そうなんだよなぁー。こう、その人が持つオーラというべきか。そういうものが異常なレベルで僕たちに影響を及ぼしているような、そんな感じなのだ。
「今この瞬間もこの場に居たりしてね」
「ほぅ、確かにそうだな。俺様がやってみよう」
「え?」
そう言うと、友禅は僕から離れる。そして、どんどんと大きくなり、巨大化した友禅が僕と九寺さんを見下ろす。
「そ、そんなに大きくなれたの!?」
「寧ろ今までが小さかったんだ。三大妖魔が小さいわけないだろ」
確かに。全長五十メートルほどになった友禅は木を越える高さまで大きくなり、空から某さんを探す。
「どう?見つかった?」
「いや、見つからん。しかし、それ以外なら見つかった」
「?」
それ以外?それ以外と言えばこんな山奥に誰が……
「こんな時代に山奥に住み着く人間。そんなもの、数えるほどしかおらんだろう。その中でもお前らの起源ともいえる奴らだ」
「ま、まさか……」
友禅はその人間のような瞳を煌めかせ、舌をちょろちょろと出しながら得意げに言う。
「山賊だ」
それから小さくなって腕に巻き付いた友禅の案内で僕たちはその場所へと向かうことにした。本来であれば、山賊なんてものに進んで関わりたくはないのだが、今は何より情報が欲しい。それに、もしかしたら安城さんが捕まっている可能性もある。
「ここから声が……っと、あれだな」
草木の茂みを抜けると、そこには確かに武装した二十人くらいのむさくるしい男たちがいた。装備は戦国時代の武者鎧に刀と、武士に見えなくもない恰好をしている。しかし、友禅が山賊だと判断したのは、十人くらいの死体と荷車がその中央にあったからである。
「安城さんは……いないみたいだね」
「はい。いなくていいのか悪いのかわかりませんが」
九寺さは複雑な心境でこの光景を見る。自分は運よく安全な場所で過ごすことが出来たが、安城はそうではないかもしれない。今この瞬間、このような山賊に襲われていると考えただけでも気が気でなかった。
「どうする?友禅」
「そうだな。出来ればこの時代の人間に不用意に関わるのは推奨しないが、こうなったらヤケだ。無力化して色々と聞き出す。それがいいだろう」
「それでいいですか?九寺さん」
「ええ。今できる事はそれくらいしかないでしょうし」
よし、じゃあちゃっちゃと……いや待て。
「誰か来てる……この気配、只者じゃあないっぽい……でも一人?」
山賊たちに近づく反応を感知した僕は襲撃を一旦中止する。山賊の仲間かも知れないが、その人物からただならぬオーラを感じたからだ。
「え、も、もしかして某さんではありませんか?」
「いいや、違うね。でもこういう感じの人の気配を僕はもう知っている」
「?」
少しして、その謎の人物の姿が徐々に見え始めた。白と黒の衣装に十字架のネックレス。その独特過ぎる気配と異端を排除する集団の一人。それは……
「粛清隊だ」
「こ、この時代にもいたんですね……」
粛清隊の歴史はわからない。ただ単に僕たちが知らないだけなのかもしれないが、この時代にも粛清隊がいるのだとしたら、山賊は彼らにとってどういう認識になるのだろう?
山賊もその人物に気づいたのか。一斉にその男。粛清隊に視線が集まる。
「……なんだ貴様は。そんな恰好で何してやがる?」
「これは私めの正装でございます。私めからみたらあなた方も変わってらっしゃいますよ?」
男だというのに随分と女っぽい話し方をするもんだ。しかし、服装の上からでもわかる筋肉質な体つきはかなりの強さを兼ね備えていることがよくわかる。
「誰だろうと構わねぇがな。ここは今立て込んでんだ。よそへ行きな」
山賊としても、怪しげな恰好の男を襲うつもりはないらしい。服装が地味だったことがある意味幸運だったともいえる。しかし、山賊に用事がなくとも、謎の男にはあったようで。
「見たところ、あなた方は罪もなき只人たちを襲ったように思われます。それは、私達粛清隊にとって非常に困ることであります」
「あぁ?只人?粛清隊?」
この時代にも只人とか粛清隊という言葉はあるようだ。しかし、山賊はそんな言葉聞いたこともないというような顔をしている。きっと、只人たちには馴染みのない言葉なのだろう。僕たちの時代と変わらないともいえるが。
「私達粛清隊は普通の人々の生活を守ります。あなた方も只人ではあるものの、人が人を襲うことは普通ではありません。よって排除いたします」
そう言うと、謎の男は服の中から小型の十字架を何本も取り出す。その十字架の長い方の先端には鋭利な突起がついており、刺さったらひとたまりもないような形状をしていた。
「排除?排除するつもりなのか?お前が俺たちを?」
「はい」
「ま、マジか。面白れぇやつだなぁ!大人げねぇがお前ら!全員で囲って嬲り殺すぞ!」
うぉぉぉぉ!とかうえぇぇぇぇ!とかいう歓声がそこら中に響き渡る。流石山賊。たとえ相手が一人であろうとも油断せずに全員で襲うとは。卑怯だが現実的だ。
「私めは悲しい。こうも人が人を襲うなどとは。では、粛清隊。司教クラス。マイルストン・ゼンドルがお相手いたします」
「かかれぇぇぇぇ!」
それが号砲となって一対多数の戦闘が開始する。まず先に攻撃を仕掛けたのはマイルストンという男。両手の指と指の間に小型の十字架を挟んだと思ったら、それをあろうことか山賊たちに投げ付けた。
シュババババババ!
その高速ともいえる投擲術は山賊の反射神経では躱しきれなかったようで、山賊の眉間に寸分たがわず命中し、瞬時に絶命へと至らせる。たった一度の攻撃で十人もの山賊が死んでしまった。それに怯むことなく山賊は尚もマイルストンへと迫る。戦闘で怖気づくことが死に直結することを山賊も知っているのだろう。なかなかやるな。
「まだ来ますか。愚かです」
マイルストンは今度はその十字架をナックルのようにし、近づいてくる山賊をただの殴打で対処する。刀を持った相手によくもまぁ怖くないもんだ。
ドゴォ! バキィ! ドン!
鈍い音を立てながら山賊は吹っ飛んでいく。千堂の僕にはその軌道が見えたが、九寺さんにはよく見えなかったようで
「な。粛清隊のくせにやりますね……」
「九寺さん、あの人相手にしたら勝つ自信は?」
「く、悔しいですが格が違いますね」
そうかー。僕は余裕だけどね(ドヤ顔)
そうこうしているうちに残るは山賊の親玉一人となってしまった。
「て、てめぇは何者なんだよ……」
「私めはもう名乗りましたが。あなたは仲間が全員やられてもまだ立ち向かってくるのですね」
「戦うって決めたんなら最後までやらねぇとダメだろ。それに、バツが悪くなったからって逃げ切れるなんて思ってもいねぇ」
か、かっこいいなぁ……山賊って聞こえは悪いけど芯があるね、あいつらは。隣の九寺さんがこっちを見てひいてるけど、僕は気にしません。
「そうですか。では」
手に持った十字架を山賊の脳天へとぶち抜くと、名前も知らない山賊はそのままお亡くなりになってしまった。後に残るは三十人くらいの死体の山。返り血もついてないマイルストンはこれからどうするのだろうか。っとあれ?なんかこっち見てない?
「あなた方はこの方の知り合いですか?」
「い、いいえ、違います!」
九寺さんが茂みから何かに追い立てられるとうに飛び出して行ってしまった。仕方なく僕も茂みから出る。
「僕たちはええっと……偶然見てしまって。様子を見てただけなんです」
「そうですか……確かにあなた方はこの方たちと装備が違い過ぎていますからね」
赤い甲冑に巫女だもんなぁ。不審者であることは間違いないけど。
「では改めて自己紹介を。粛清隊という組織に努めております。マイルストン・ゼンドルと申します。以後お見知りおきを」
「私は……ええっと、九寺魅音です」
祓い人だとは言わない方がいいと思ったのだろう。となると、僕の場合は名前が千堂だからそのまま名乗るのはマズい。偽名でいくか。うーん……ここは……
「九寺ヒカリです。よろしく」
ピクっと九寺さんが反応したが、察してくれたのだろう。こういう時は頼りになる。
「おやおや、二人は夫婦でしたか」
「え、ええ。私達新婚でして」
この時代ではこの容姿でも新婚だと思われるのか。結婚年齢が低いのだろう。
「あなた方はどうしてこんな山奥へ?」
「僕たち、実はお互いの両親が戦争で亡くなってしまって……。それで、行き場を失ってしまったから山奥で暮らそうと……」
この身なりの言い訳としてはベターなところではないだろうか。しかし、それを聞いたマイルストンは血相を変えて僕の肩を掴む。
「こ、この山でですか!? いけません。あなた方のような善良な方々がこのような山で暮らすなど……。身寄りがないのでしたら、ぜひ私め達の教会へいらっしゃい!」
「い、いいんですか?」
「ええもちろん。私達は全ての普通の人々の安寧を守ることが義務だと自負しているのです。遠慮なさらずに来てください」
「で、ではお言葉に甘えて……」
こうして僕と九寺さんは粛清隊のマイルストンと一緒に教会へと赴くことになった。そう言えば、僕の右目には刻印があるのに、見えなかったんだろうか?あ、そういえば、以前レインがこの刻印を粛清隊の人には見えないようにするって言ってたっけ。それかな?
「なぁなぁ、友禅」
「どうした。もっと小声で話せ。マイルストンに聞こえる」
「う、うん。一応念のために眼帯に擬態できない?」
「眼帯?ああ、そういう事かわかった」
そういうとベルトから眼帯へと変化した友禅を僕は装着する。デザインも蛇のマークがあしらわれており、中々かっこいい。気が利くじゃないか。
「? 眼帯ですか? 目に怪我でも?」
「え、ええ。少し目の周りを打ってしまって」
「そうですか。それは災難でしたね」
まさかこの僕が再び粛清隊と共に行動することが来るなんてな。もはや呪いではないだろうか。空を見上げる。ああ、真っ青な空が僕の心をブルーにさせるよ。
「今度は青だな」
「うっさい」
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