第37話 最果てに至る


「歪みねぇからちゃんと聞いてくれよ?」


 隻腕の安具楽は話し出す。それは、『アヴェンジャー』の基地を突き止め、襲撃をかけていた後の話。時系列的には昨日の夜。ヒカリが教会を襲った日の夜であり、水城が小竜を森から学校へと移動した後の話。






「っつーか、こいつら話になんねぇなぁ! マジでこいつら弱すぎじゃねぇの?」


 大鎌を担ぎ、地面に呻きながら横たわっているアヴェンジャーの人員らしきものを見下ろす。


 ここは千の宮町の工業地区。今では使われていない港付近の倉庫に安具楽はいた。ヒカリたちを祓い人のお寺で別れた後、安具楽は片っ端から町の施設を飛び回り、怪しいと思われる場所に潜入していたのである。


 以前千の宮町には来たことがあるため、その地形を把握していたことからおおよその見当はついていたためできた芸当でもある。その時に初めてヒカリとあったのだから奇妙な縁でもあるが。


 構成員は男女や年齢問わず様々。変わった能力はないものの、持っている武器が重火器や刃物であり、一般人であればかなりの武装ともいえるが、千堂にそんなものが効くはずもなく、簡単に制圧できてしまったのである。


「う、うぅぅぅ…………」


 倒れた構成員の一人がうめき声を上げる。あまりにも弱いので手加減して、殺すのはやめておいたのである。情報を聞き出す為という面も勿論あるが。


「よぉ、てめぇらの目的は何だぁ?」


 片手で上着を掴み、無理やり立たせる。その構成員は若い男で、本当にただの一般人に見える。


「お、お前にいう事など……!」

「そうかそうか!元気いいなぁ!いいぜぇ?俺はお前みたいなやつは嫌いじゃねぇ!」


 安具楽は嬉しそうに笑う。そして、近くに横たわっていた構成員の一人を足でトン、と叩くとその構成員はものすごいスピードで倉庫から海まで飛んで行ってしまった。


 シュン!  バシャァァァ!


「な、何てことを!」

「あん?お前と違ってそいつらは元気が無いからなぁ!水に浸かって元気を取り戻してもらおうと思ってよぉ!」


 はっはっは!と安具楽は笑う。もはや完全に安具楽は悪役サイドだった。


「次はどいつがいいかなぁ?なぁ、お前が選んでもいいんだぜ?」

「た、頼む……やめてくれ……」


 男は顔面をぐちゃぐちゃにしながら安具楽に懇願する。しかし、安具楽は手を緩めない。


「やめてくれねぇ……。お前、名前は?」

「さ、佐藤ですぅ……」

「じゃあ、佐藤。よぉーく聞けよぉ?俺は正直お前らが何をしようが関係ねぇ。ここに来たのもなんでお前らが祓い人を襲ってるのか気になったから来ただけなんだぁ……」

「は、はいぃ……」

「だから、別にお前らの目的がたとえ人殺しだろうと何だろうと基本的には関与しねぇ。俺たちに迷惑がかからなければなぁ。わかるかぁ?」

「……(コクコク)」

「安心しな。警察に言うとかそういう事じゃねぇんだ。いいから早くゲロっちまえよ」


 佐藤は観念する。この男が言うことが本当であれば、別に話したところで問題ない。それに、横たわっている仲間を見捨てることはできない。話さなければみんな海に投げ捨てられてしまう。だから……


「お、俺たちは『アヴェンジャー』の構成員だ……。この社会に見捨てられた者たちが集う反社会的な組織と言ったところか……」

「あん?じゃあなんで祓い人を襲う?」

「いくら俺たちが反抗したところでこの国は変わらない……。だが、この世界には妖魔とかいう異形の怪物や、粛清隊や祓い人なんかの異能を持った組織がたくさんある……。それを利用してこの世界の人間を襲う……それがこの組織の目的……復讐者たちの集まりなんだ……」


 (ほう、復讐か。まんまだな)


 安具楽はその答えを聞いても得心が得られなかった。だとしたら、祓い人を襲うことになんの意味がある?こんな弱いのに?


「目的と行動が一致してねぇじゃねぇか!」

「ヒ、ヒィィ! そ、それはどれだけ祓い人に俺たちの力が通じるか確かめるものであって……、そもそも、俺たちは戦闘部隊じゃないんだ……」

「あぁん? どういうことだぁ?」

「俺たちは戦闘部隊とは別の支援部隊……、戦闘部隊の補佐と襲撃後の治安維持の部隊なんだ……」

「話が見えねぇ! つまりお前らはあれか?一般人を襲撃した後にそこを統治する部隊ってことかぁ?」

「そ、そういう面もある……」


 (復讐するにしてはそこまで考えてんのか……、だが、襲撃が上手くいく前提で話してやがるな。気に食わねぇ!)


「社会に対する復讐がこんな辺鄙な町を制圧したところで変わるわけねぇだろうがよぉ!」

「だ、だからこの町は最後なんだ……」

「最後ぉ? どういう事だぁ?」

……この町が最後なんだ……」

「なんだとぉ!?」


(既に完了してるってのか?この国の乗っ取り準備が。だとしたら千堂としてはどう対応するべきか……)


「なぁ……あんたもしかして千堂か?」

「!! だったらどうだってんだよ」

「やっぱりな……そりゃあ強さが異次元なわけだ……。なぁ、千堂は昔から俗世に関与はしないって聞いたぜ?だったらこの件にも関与しないんだよな?」


 佐藤はひきつりながらも笑みを浮かべる。それはさっき言ったことは本当だろうな?という意味合いも込められている。確かに、安具楽は千堂に迷惑がかけられなければ関与しないとはいった。しかし、全国レベルの規模で人が襲われるとなると話はちょっと違ってくる。

 それに……


「……にくわねぇ」

「はい?」

「気に食わねぇなぁ! 確かに関与しねぇとは言ったがそのにやけ面が気に食わねぇ!潰す理由としてはそれで充分だぁ!」

「そ、そんな理由で潰すのか!?」


 安具楽は佐藤を掴んでいた手を放し、そして、大鎌を構える。


「確かに俺もお前らの社会は気に食わねぇとこもあるがよぉ!それでお前らは苦しめられた犠牲者なんだろうなぁ!だが、俺は道理なんてどうでもいいぃ!システムなんて関係ねぇ!気に食わなければ殺す!ムカついたら殺す!それが異端でなくとも!只人であろうとも!」

「あ、あぁぁっぁぁ……」


 佐藤は安具楽が本気で殺そうとしていることに怖気づき、その場に尻もちをついてしまった。なんだかんだでその大鎌を振るっていないことから、命だけは助かる。そう思ってはいたのだが、アテが外れてしまった為、死の恐怖が。死神がそこにいる恐怖が一気に押し寄せてくる。


「とりあえずお前は殺す!」


 安具楽はその大鎌を佐藤の脳天に振り下ろそうとする。佐藤はもはや何もできないでいた。逃げようと思っても逃げられるものでもないし、戦っても当然負けるのがオチだ。よってできることは白目を剥いて思考を停止することだけ……


「…………なんだてめぇらは!」


 しかし、安具楽は大鎌を振り下ろさない。それは、この倉庫の周囲に何者かの気配が数多く感知できたからだ。


(いつの間にこんなに来やがった……?この距離になるまで俺様が気づかねぇなんて只者じゃねぇな……それにこの人数……)


 一人や二人ではない。何十人もの正体不明の集団が安具楽を中心として取り囲んでいる。距離にして五十メートルくらい離れているものの、それまで安具楽が気づかなかったというのは異常な事態。


「ふぅん……この距離で気づくんだ……。ボクの”奇跡”なら目の前にいてもわからない筈なんだけどなぁ」

「うっせぇよ。流れ的に戦闘部隊ってとこかぁ?」


 声の主はその距離をゆっくりと縮めてくる。それに合わせ、周りにいる集団もその輪を狭めはじめていく。


「やぁやぁ、今宵はいい月が出ているね。こんばんは。ボクはアヴェンジャーの千の宮襲撃チーム。神無月英俊かんなづきえいしゅんって言うんだ。よろしくね?」


 安具楽の前にその姿を現す。それは一見、高校生くらいに見えなくもない見た目をしてはいるものの、大人のような落ち着きのある雰囲気を漂わせていた。しかも、その声音は男とも女ともとれる中性的な声であり、つかみどころのない性格を模している。

 白いパーカーに黒いズボン。モノクロな服装はこの状況とミスマッチ感が否めない。


「どうでもいいがよぉ。俺はてめぇらが気に食わねぇ。まとめて潰すことにしたから覚悟しなぁ?」


 安具楽は大鎌をブンブンと振り回し始める。それに反応したのか、周囲の気配が殺気を帯び始めてくる。


「怖い怖い。君は千堂みたいだけど、どのくらい強いのかな?」

「おお? 千堂を知りながらそれを聞くのか? てめぇ……死ぬぜぇ?」


 緊迫した空気に変わる。安具楽は今の状況を冷静に分析する。敵は能力の事を"奇跡"と言った。それが本当かどうかわからないが、確かに安具楽にこの距離まで気づかせない能力といえば"奇跡"くらいのものだろう。だとしたら敵は千堂という事になる。しかし、過去に千堂が千堂を襲うなんてことは聞いたことがない。


「うーん、鎌を持っているということは、それに関係する"奇跡"ってことなんだろうけど……。ねぇねぇ、君の"奇跡"って何?」

「はん! 馬鹿正直に答える義理はねぇよ! それよりもお前、さっき"奇跡"っつったな?」

「うん。言ったよ」

「じゃあお前は千堂なのか?」


 神無月は眉をひそめて何やら考えるようなそぶりを見せる。


「うーん。どういえばいいんだろうね。君達の言う刻印は確かにあるし、"奇跡"も使えるから千堂とは言えるんだろうけど、君たちの仲間かと言われればそうでもないんだよ。一応うたい文句としては千堂を殺す千堂だから」

「千堂を殺す千堂ぉ? なんだりゃ」

「でしょう? ボクもそう思うんだけどさ。でもこれがボスの方針だからね」


(千堂を殺す千堂……。それがアヴェンジャーの目的なのか? だが、佐藤は復讐とが目的と言った……この町に対する……。だとしたら……)


「……この国をどうするつもりだぁ?」

「どうだろうね。そこに転がってる人達は本気でこの国を変えるつもりだろうけど、ボクは正直そんな事どうでもいいんだ。ボクの願いは遊ぶこと。ボクという駒で国という盤面を自由に生きてみたいんだよ」

「わけわかんねぇなぁ。おめぇくらいのガキは家でちまちまゲームしてればいいんじゃねぇのかぁ?」

「心外だなぁ。そんな引きこもりじゃないんだよ?ボク。アウトドア派だからね。こう見えても」


 神無月はプンプンとわかりやすく怒っている。安具楽は小夜が聞いたら発狂しそうだなと思ったが、今はそんなことはどうでもいいと思考を切り替える。


「なんかよくわかんねぇ組織ってのはわかったわ。もうめんどくせぇ。まとめて来いよ」

 

 キュイィィィィンと大鎌がものすごい音を鳴らし始める。周囲の空気がそこに集まって切り裂かれているような錯覚さえ感じさせるものであった。


「……そうだね。ボクも細かいことはどうでもいい主義だから。だから、名乗ろう。全ての道は悪の道。千堂を殺す千堂。神無月英俊。この場にいる千の宮襲撃チームのリーダーとして改めてご挨拶を」


「……千の道は鎌の道。"異端狩りの千堂"。"一の鎌"。千堂安具楽。歪んだお前らの存在を刈り取る」


 安具楽は少し真剣な口調で名乗る。相手が"奇跡"を使う以上、手加減もできなければ、油断もできない。それに、人数は圧倒的に向こうが上。いくら安具楽といえども不利なのかわからないのだ。


 デュルルルルルルル……


 !!


 安具楽の足元のコンクリートが急に液状化してドロドロになる。靴底が埋まったタイミングで安具楽はそれに気づき、空中へとジャンプする。


「…………隙あり!」

「…………バカが!」


 黒いマントを着た二人組が空中の安具楽に襲いかかってくる。一人は腕を鋼鉄のブレードに変えており、もう一人は背中から黒い翼を生やしながら、手に持った斧で安具楽を叩き斬ろうと迫ってくる。


 しかし、たとえ空中であろうとも安具楽の"奇跡"は『飛翔する万物』。受け身が取れない状況でも関係無しに発動することができる。


 二人が安具楽にたどり着くまでに大鎌を空中で大きく振る。その無色透明の斬撃は二人の胴体をしっかりと捉え、胴体の上と下がきれいに泣き別れになる。


 ぐしゃぁぁぁぁぁぁ!


「ごふぅ!」

「がばぁ!」


 口から血反吐を吐き出しながら名前も知らない襲撃者はその生命活動を終える。安具楽は斬撃を放った後、倉庫の上にある足場へと飛び、様子を伺う。


「……こんなもんかぁ? えぇ?」

「なるほど。斬撃を飛ばすのか……。それに、自分自身をも飛ばせると……。それ別に鎌じゃなくてもいいんじゃない?」

「うっせぇなぁ! 俺が良ければいいんだよ、そんなもん! 次はどいつだぁ?」


 返答はないが、行動でそれは示された。安具楽の周囲から黒い鎖が飛び出してくる。上から下から、横から斜めから。全方位から迫る鋼鉄の蛇は絶対不可避の逃れられない運命の糸そのもの。


「……芸がねぇ!」


 じゃぎぃぃぃぃぃぃぃ!


 金属同士がぶつかり、爆ぜる音が響く。安具楽の大鎌は全方位の攻撃を回転という単純な動作で弾き、そして破壊する。


「……だがこれならどうだ?」


 どこから聞こえてくるかわからないが、その言葉通りに次の襲撃が迫る。


 安具楽は視界に映らないがそれを感知する。それは、安具楽がいる倉庫の遥か上空。天空より飛来する謎の巨大物質が飛来してくるのを肌で、本能で感じ取った。


「……質量で押すかぁ! 悪くねぇ! 俺じゃなければなぁ!」


 ゴゴゴゴゴゴ……


 倉庫が揺れる。中にいた襲撃者は異変を察知し、外の港へと脱出するが、安具楽は残る。相手が物量で挑むというのであれば、こちらもそれに応えるまで。倉庫を丸ごと飛来させ、降り注ぐ隕石を打ち砕く!


「……一のクラスはバケモノだなぁ。こんなことができるなら彼だけでこの国を滅ぼせるよ」


 海の横の港から神無月とその他の襲撃者たちは空に飛んでいく倉庫、いや、倉庫というよりは巨大なロケットを見上げながら嘆息する。その規格外の能力にやっぱり鎌関係ないじゃんと全員が思っていた。


 ヒュォォぉォぉォぉォ!


 安具楽は倉庫の屋根に上り、空を見上げる。謎の巨大物質はただの岩石だった。だが、ただの岩石とはいえ、地上に降り注げばとんでもない衝撃になる。何もしなければあの付近の港はきれいさっぱり消滅して、大きなクレーターを形成するだろう。


「……本当はこの岩石を飛ばせて奴らにぶつけたいんだがなぁ! それは勘弁してやるよぉ! 『概念昇華』!」


 安具楽は大声で空中を振動させるように叫ぶ。『飛翔する万物』は『光速に至る万物』へ。このままだと重力や質量の関係で安具楽のロケットが撃ち負けてしまう。ならばと。唯一勝てる速度でその存在を打ち砕く。


「食らいやがれぇ! 千堂流緑式ぃ! 我流ぅ! 隕石を打ち砕く一撃ぃ!」


 安具楽は倉庫の屋根から飛び降りると、地面に落下する。そして、飛び行くロケットと入れ違い様にタッチして"奇跡"を発動させる。


 ………………シィィィィィン………………


 それは音すら置き去りにした一撃だった。


 パッとロケットが光ったかと思ったら、それは空高く飛んでいき、迫りくる隕石ごと宇宙の彼方へと飛んでいってしまった。爆発すら許さない超高速の砲弾。それはもはや人類の持つどんな兵器よりも最速で最高の攻撃力を持つものだった。


「……やっぱり本家は強いなぁ。ボクじゃ話にならないよ」


 空から落下する安具楽を見ながら神無月はぼやく。きっと、今彼に攻撃しても返り討ちに遭いそうだなと思いながら。他の襲撃者たちも口を開けて茫然としている。それもそうだろう。圧倒的な破壊力を見せつけられた彼らはほとんど戦意喪失に近いものを感じていた。


「オラオラぁ! 次はどいつだよぉ!」


 安具楽の叫ぶ声が港中に響く。


「これは参ったね。どうしようもない。勝てるかどうか以前に逃げれるのかどうかも怪しくなってきた。だからここは……ボスの出番だよね」


 神無月はその気配を、存在を、確かに感じ取っていた。港の奥の方から感じる圧倒的なまでの黒のオーラ。自分達に力を授けてくれた王者の眼を持つ最強の千堂その人のものを。


 タン…… タン…… タン……


「……敵はやはり千堂か」

「はい、ボス」


 一堂影虎。学生服を着た男。両目を閉じた復讐者は状況を把握する。


「どのくらい強い?」

「"一の鎌"だそうだよ。千堂安具楽。なんでも飛ばせるみたいだ」

「ほぅ。鎌使いとは思えない"奇跡"だな」


 シュタ!


 そのタイミングで安具楽が地面に降り立つ。相対するは二人の頂点。千堂最強の鎌使いと、千堂を殺す千堂。アヴェンジャーの総指揮官その人。


「……千堂安具楽か。いい名だな」

「……お前が親玉か。盲目なのか?」


 安具楽は男が纏う雰囲気にこれまであってきたバケモノとは違う異質さを感じ、警戒を強める。しかし、当の一堂はそれをどこ吹く風とばかしに気にもしていないようだった。


「いやいや、ちゃんと見えているよ。君のその顔に巻き付いている帯と同じようなものさ」

「ほぅ……しっかり見えるものは見えてんのか。面白れぇ。で、ここからどうする?」


 敵の能力は未知数。能力不明の"奇跡"程厄介なものはない。


(どうする……一旦引くか? 何もここで決着をつける必要はねぇ。一度戻って……)


「俺の部下をここまで痛めつけてくれたんだ。逃がしはしない」

「はっ! それはこっちのセリフだってのぉ!」


(そうだ。こんな奴らにへっぴり腰じゃ水城の野郎に笑われちまう。大将戦といこうじゃねぇか!)


「では、一対一でやろう。異存はないな?」

「おうよ! じゃあ改めてぇ! 千の道は鎌の道!"異端狩りの千堂"!"一の鎌"!千堂安具楽!歪んだ存在を刈り取る!」

「全ての道は悪の道。"千堂を殺す千堂"。"復讐者"。一堂影虎。復讐に至る傷跡をここに残そう」


 両者ともに戦闘態勢をとる。安具楽は大鎌で。そして一堂は……


「…………刻む」


 両目を開く。その瞬間、周囲の色がその両目の黒い刻印に集まっていく。それと同時に周りの景色が相反して明るくなるような感覚に陥る。


「!! な、なんだこれは!?」


 安具楽は焦る。両目の刻印。集まる色。絶対にヤバいことはわかっているのだが、どう動いていいのか判断できずにいた。


「…………『最果てに至る』」

「な、なにぃぃぃ!」


 安具楽の視界がぼやけ始める。色だけじゃない。目に映る全てが歪んでいく。目を閉じればいい話ではない。感覚ごとその目が放つ能力に狂わされていく。

 

 それに、最果てに至るとこの男は言った。千堂究極の能力の象徴。『最果て』。これがあればどんな能力であろうとも千堂を越える千堂になれる。


「…………さらばだ、千堂安具楽。刈り取られるのはお前の方だったな」


 すべてが黒に染まる。


 その目の黒い輝きが全てを覆いつくして、そこから……





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