第36話 千堂会議


 どれくらい時間が経ったのだろう。


 ヒカリと海藤は剣を構えたまま一歩も動かない。それは互いがカウンターを狙っているからであり、自分から動くことはすなわち負けを意味するので当然といえば当然だ。


 本来、剣道とは先の先。相手が動く前に動き、相手を仕留めるのが常套手段ではあるのだが、海藤はその剣道の構えでありながら、剣道の極意を無視した考えを独自でもっていた。


 そもそも剣道とは実戦向きの競技ではない。面と胴と小手。高校からは突きもあるが、その部位を正確に、残心までしっかり行って初めて有効打突となる。だから、足を狙ったり、側頭部に当たっても一本となることはなく、実戦で通用することが、剣道では通用しない。寧ろ、反則を取られることもあるのだ。


 海藤はそれが気に食わなかった。


 剣道とは剣の道。それは、実戦で通用してこそ意味があると思っていても、やっていることはただの竹刀の当てあい。ルールや制限ばかりが設けられ、どうも相手と真剣勝負をしているような気にはならなかった。


 海藤が剣道を始めたきっかけは小学四年生の頃。


 それは、ある夏の日の事だった。海藤は家の近所に住んでいた友達と近くの高校へ忍びこんで遊んでいた時の事。通りかかった体育館から奇声や怒声が聞こえてくるのが気になって覗いてみると、竹刀を持った高校生が激しく打ち合っている光景を目にした。


 それは小学生から見ても圧巻の光景であり、自分とは違う体格の人が、竹刀という武器を手にして本気の打ち合いをしている姿に感動すら覚えたのだ。それは一つの芸術であり、夏の暑さを気にせず裸足で地面を蹴る様に彼らの意気込みというものを感じたのだ。


「カイドー! 何してんだよー!」


 海藤が体育館の下の隙間から熱心に中を覗き込んでいるのが気になったのか。友達が近くにやってくる。


「…………僕、剣道やりたい」 

「はぁ?カイドー剣道やりたいん?あんなのジゴクだよー。こんな暑いのに厚着して動きまわるんだろ?ショウキじゃないよー……」

「……うん、でもやりたいんだ」

「ふーん……」


 友達は興味がなさそうだったが、海藤はその時から決めていたのだ。剣道がしたいと。生涯この遊びを、真剣勝負を全力で続けていこうと。間違った本心をやりたい事と信じながら……





 そして、高校生になった。


 海藤は小学生から始めた剣道を高校まで続けていた。しかし、稽古を重ねる毎に、海藤の胸には謎のざわつきが大きくなりつつあった。自分がしたかったことはこれなのだろうか。これは競技であって、剣の道なのかという疑惑という名のざわつきが。


 そのざわつきのせいで、試合にはいつも負けていた。昔はよかった。何も考えずに竹刀を振るうだけで強さを得られていた気がした。戦って、勝って、そしてまた竹刀を振るう。その繰り返しがたまらなく快感だった。けれど、今はそんな快感が微塵も感じられない。勝とうが負けようが何にも。だから、稽古にも身が入らず、試合もただ何となくこなすだけになってしまった。


 それが良くなかったのだろう。仲間うちからの罵倒や暴力。ついには親や顧問からまで叱責を受け続けた。もうやめろ。やる気がないなら帰れ。お前なんか何をやってもダメだ。ついには死んでしまえという究極の言葉まで投げかけられた。それでも何も思わない。何も感じない。もう、どうでもいい。


 そんな時だった。あの人に声をかけられたのは。


 その男は盲目でありながら、自分の心中を理解し、本当にしたいこと。望みを正確にいい当て、更にはそのための力も与えてくれた。それはこの世の物理法則を越えた、超常的な力。だから、海藤はその男のいう事には何でも従った。それがたとえ犯罪であろうとも。


 よって、海藤は剣道の構えを行いながらも、剣道とは違う、本当の意味での殺し合い、真剣勝負の為の技術を我流で行っている。全てはただ相手を斬り捨てる。それだけの為に。


 そして、至ったのがカウンターだ。相手は移動してきながら剣を振るうのに対し、こちらは相手の動きを見極めながら、落ち着いて隙をつくだけでいい。動きは最短。剣速は最速。そして、もっとも効率的な手段。それが海藤の十八番なのだ。





 だから、この場では自分からは動かない。相手が千堂となれば尚更。油断して勝てる相手ではないのだ。本気で行かねば。これは試合ではなく、命を懸けた殺し合いなのだから。


 ガッ!


 ヒカリがしびれをきらしたのか。一気に距離を詰めてくる。それは、並みの身体能力ではなく、流石千堂といえるほどの最速スピード。音速に至る速さでヒカリは海藤に向かっていく。


 それを、海藤は冷静に相手の動きを見極め、音速で来る敵の突進を、神速に至る剣速で撃退する。下からの斬り上げを、紙一重で横に躱しつつ、横なぎの一閃がヒカリの胴体を捉える。


 (とった!)


 バシュゥゥゥウ!


 血しぶきが舞う。


 それは赤よりも赤い、紅い色の液体で。ヒカリの刻印の色と同じ綺麗な輝きを放っていた。


 海藤は剣を鞘にしまう。千堂をヤった達成感と、求めていた真剣勝負を勝ち切った歓喜に胸を躍らせながら。もうあの頃のざわつきは感じられない。自分は自分らしく生きている。その開放感に酔いしれる。


「…………千堂とはいえ、こんなものか」


 海藤は地面に転がった血まみれのヒカリを見下ろす。"奇跡"が使えなかったとはいえ、この男は赤の刻印。それは、刀剣に部類に秀でているということであり、それを倒したということは、海藤の剣術が千堂の剣士に負けていないという証明にもなる。これは快挙ではないか、と海藤は心が舞い上がる気持ちだった。


「…………うん?」


 しかし、何かおかしい。確実に手ごたえはあった。絶対にこの男は死んだ筈だ。なのに、なにか得体のしれない恐怖がじわじわと込み上げてくる。


 おかしいと言えばこの空間が解けないのもおかしい。相手が死ねば自動的にこの空間は解除される。勿論、海藤の意思でも解除できるのだが、それでも勝手に解除される空間が維持され続けているというのはどういう事なのだろうか。


「…………」


 じっとヒカリを見つめるがピクリとも動く気配がない。確実に腹は裂いたのだ。仮に息があったとしてももう虫の息だろう。


 海藤は念のためと思い、再び鞘から剣を抜き、ヒカリに対して止めの一撃を放とうと剣を振り上げ……




「…………俺ではないとはいえ俺を殺すとはな」

「!?」




 海藤は驚きながらも一旦距離を取る。声はヒカリから発せられている。弱っているとはいえ、油断はできない。海藤は気を引き締めて倒れたヒカリに相対する。


「…………というかここはどこだ? 何故俺はここにいる?」

「は?」


 意味が分からない。斬られて頭がおかしくなったのか?


「まぁいいや。とりあえずお前は敵で、俺はお前を倒さなければいけないようだ。千の道は剣の道。"異端狩りの千堂"。"一の剣"。千堂影道。問答無用でお前を殺す」

「へ?」


 その瞬間、私は私でなくなった。目の前から男が消えたと思ったら、視界が真っ暗になって、そしてすべてが終わっていた。音すらなく、気配すら感じず、私は暗闇に呑み込まれる。


「……こんなものに俺はやられたのか。うん?でもなんで俺はこいつにやられたんだ?俺は俺なのに、俺じゃなくて……」


 声だけがかろうじで聞こえる。本当に意味が分からない。こんなわけのわからない奴に殺されるなんて、死んでも死にきれない。でも、そうか。これが実戦というものなのかもな……。理不尽で不条理な殺し合い。それが求めていたものだとしたら……私は……やっと……










「…………へ?」


 気づけばグラウンドに横たわっていた。


「あれ……?僕はさっき……斬られたんだっけ……?」


 そうだ。確か海藤と一騎打ちをして、そのまま負けたんだった。カウンターを狙っていることはお互いわかっていた。だから動いたら負ける。そんなことわかっていたのに、小雪さんと夢幻君の事が気になりすぎて勝負を急いでしまったんだった。


「そりゃあ負けるって……。僕昔は凄くても今はそんなに強くないんだよ?でもあれ、じゃあなんで僕は生きてるんだ……?」


 周囲を見渡す。空の様子からあれからそんなに時間は経っていないようだ。昼過ぎの穏やかな風がヒカリに安らぎをもたらしてくれる。


「……?」


 それに、校舎の様子もなんだか変だ。人の声は聞こえるものの、争っている感じではない。もう戦闘は終わったのか?もしかして制圧された?


「……あ!ヒカリ!」

「およ?小雪さん?それに夢幻君と……誰?」


 校舎の方から千堂小雪に千堂夢幻。そして、夢幻君より少し背が高いくらいの制服の女性がこちらに近づいてきた。


「よかったー!ヒカリは無事だったのね!まぁ、ヒカリなら負けることはないと思ってたけど」

「いや、負けたよ」

「へ?そういえばお腹血だらけじゃない!」

「あ、ホントだ」


 気づかなかったが、お腹の辺りは血で服がびしょびしょになっていた。黒い制服だから、色はわからないが自分の血の色が緑ではない筈なので赤い血で間違いないだろう。


 ペラっと服をめくるが、斬られた痕もなく、肌色の素肌がそこにあるだけだった。


「あれー?おっかしぃなぁ……。僕間違いなくお腹斬られたんだけど……」

「な、なんか冷静ね……。というか、あいつは?海藤は逃げたの?」

「うーん。わかんない。そういえばどこにもいないね……」


 仮に無意識的に倒していたとしても、そこには死体が……あれ?残るのか?


「ところでそちらは?」

「ああ、ヒカリは初対面だったわね。この方は千堂小夜。夢幻の師匠よ」

「え?夢幻君の?」


「初めましてー♪ 千堂夢幻の姉の千堂小夜でぇーす☆」


 なんとまぁ若々しいことで……確かこの人二十代後半じゃなかったっけ? というか、なんでうちの高校の制服着てるんだ?


「師匠。我。兄」

「えぇー、私の方がおねぇちゃんよ!」


 お母さんの間違いじゃ……


「あ、ぼ、僕は千堂ヒカリです。よろしく……」

「はいはい~。ってあれ?あなたなんで影やんと同じ魂持っとるん?」

「え?魂?」


 この人そういう系の人?


 小雪がそれに対し、助言をする。


「あー、なんかヒカリは影道さんなんですけど……。記憶がなくて……でもなんか体も若返ってるっぽくて……」

「??」


 フォローになってないよ……。でも、なんていえばいいんだろうね。


「まぁ、今はヒカリです」

「うーん、よくわからないけどオッケー!」


 軽いなぁ……


「ヒカリ、あなた眼帯は?」

「ああ、そういえばそれも斬られたからないんだった」

「また作れるからいいけど」

「ごめん……」

「それよりも、あのあと何があったか説明してくれる?」

「うん……」


 僕は覚えている範囲の事を三人に伝える。


「うーん……。ヒカリは確かに斬られたのよね?」

「そのはずだよ」

「でも血は残っていても傷跡は無いと……。もし海藤が生きていたら学校の制圧に動くはずだから海藤は何らかの事情で死んだと考えるべきね。それに、落ちている筈の眼帯もないから、ヒカリがいたその空間に海藤の死体と眼帯が取り残されているとみて間違いないかも」


 そうか。海藤が生きていたら校舎の方に行くはずだ。撤退する理由があれば撤退するだろうが、それだとしても一度は校舎に向かうはず。


「…………水城。心配」

「そうねぇ~。まぁみっちゃんなら大丈夫でしょ。あっくんもいるんだし」


 呼び方がかわいいなぁ……


「それに千堂会議もするしね~」

「千堂会議?」

「ええ、千堂会議。千堂全体の問題に直面した時に私達"一"の位の千堂は会議をすることになっているの。滅多にないんだけどね~」

「でもどうやって連絡を取るんです?」

「これを使うのよ」


 小夜さんはポケットから銀の板を取り出す。スマホのようだが、一般社会で出回っているタイプのものではない。だって、千武のマークがついてるし。


「これは『千通板せんつうばん』。有事の際にこれを使って連絡を取るの。只人たちのスマホと違って、電波ではなく"奇跡"によって通信するからどこでも使えるし、たとえ地球の裏側だろうと誤差なく使えるわ」

「一般社会に流通させたらとんでもなく儲けそうですね……」

「そうねぇ~。電力は要らないし、永久的に使えるもの。でも、これを作ったのはかなり昔の千堂だから数が少ないの。だから、"一"の位の千堂しか持たされてないのよ~。あ、でも影やんは持ってなかったわね~。『英治さんが持っててくださいよ。自分はどこに行くかわからないんですから……』って言ってたわ」


 何してんのさ、昔の僕……


「昔の僕ってどんな感じでしたか?」

「え? ただの子供だったわよ?」

「はい?」

「だって、無敵の能力を持ちながらごっつい鎧を着てるのよ?それも真っ赤っかの。私がいうのもなんだけど、あの人かなり子供思考だったわね」

「…………師匠。ブーメラン」

「あ~!夢幻そんなこと言っていいのぉ~?もう私帰るわよ~?」


 夢幻が無言で小夜の裾を掴む。


「あ、嘘ウソ~! もぉー、夢幻はまだ子供なんだから……」

「…………(ブンブン)」


 めっっっっっちゃかわいい。でもそうかー。僕ってそんなガキだったのか……。ショックだ。小雪さんを見るとなんだか複雑そうな顔をしてる。確かこの人昔の僕に憧れてたんだよね……。ごめんね、不甲斐なくて……


「と、いうワケでぇ~。千堂会議をこの場でするってわけなのよぉ~。勿論、もう連絡してあるわ~。あと少しでみんな到着するって言ってたから準備するわよ~。小雪。お願い~」

「はいはい」


 小雪は地面に手をつくと、ゴゴゴゴと地面が隆起し、円形の砂の壁を作り始める。その真ん中には大きな丸いテーブルが浮き上がり、あっという間に青空教室が出来上がる。


「これがほんとの円卓会議ってねっ☆」

「私が作ったのに……小夜さん何もしてないじゃないですか」

「テヘっ☆」


 茶目っ気あるなぁ。この人の身長がもっと高ければ絵面は酷いんだろうけど、身長が低いせいでかわいく思えてしまう。


 そうこうしているうちに、空からシュン!という音と共に誰かが降りて来た。親方っ!空から千堂がっ!


「……ふぃー!遅れて参上!千堂蓮也!ただいま到ちゃ……あれ?オレ二番手?」


 額の中央部に白い刻印が刻まれた若い男が素っ頓狂な顔をして周囲を見回す。背中にはこれまたごつい槍が装備されており、服装も関節部に白と金色の模様が入った鎧みたいなものが取り付けられている。


「おっひさ~!レンちゃん~!」

「おー、小夜。そういえば久しぶりと言えば久しぶりだなー。オレは遠出してたし、小夜は里に居てもなかなか会えないレアキャラだしなー」

「レアキャラ言うなっ!」

「はっはっは!相変わらず小夜は面白いなー!それで?そこの奴らは誰よ?」

「あ~、それはみんな揃ってからね~」

「そうだな。みんな……って来るな」


 え?


 シュタタタタタ!


 蓮也の言う通り、他の千堂と思しき人達が空からたくさん降りてくる。デカい大剣を装備した赤い服の大男。体の二倍はあるんじゃないかと思われるハンマーを担いだ黄色い鎧の黒い肌の男性。暑いのに黒いコートを着た知的そうな男に、白髪頭の年配の老人。そして、千堂水城。


「千堂会議かぁー!懐かしいのぉー!」


 大剣の男が叫ぶ。


「年寄り臭いぞ、英治よ」


ハンマーの男が渋い声で話す。


「おや、小雪もいたんですね」

「修栄さん!」


 黒いコートの男が小雪を見て朗らかに笑いかける。


「うむ。みんな揃った……おや?安具楽は?」


 白髪頭の老人が円卓にいる全員の顔を見渡しながら不思議そうに首をかしげる。そういえば安具楽さん何してんだろ?


 シュタ!


 と、話題の男が空から降ってくる。


「歪みねぇ!」

「来たか安具楽。と、お主その腕はどうした?」


 老人が安具楽の到着と同時にその異変に気付く。安具楽の左腕は肩の所からバッサリと無くなっており、黒い包帯で肩口の所は巻き付けられていた。


「おうよ!敵にやられちまったぜ!」


 !!!!


 その場にいた全員が驚きで目が見開く。鎌使い最強の千堂の片腕を傷つけるほどの敵の存在に一同気が気でなかった。


「だ、誰にやられたんだぁ!安具楽!」

「安具楽よ!詳細を!」

「と、とにかく腕の手当てを!」


「静まれぃ!」


 老人の一喝でシーンと円卓は静かになる。


「……安具楽の様子からもう応急処置は済んでおる。今慌てたところでどうにもならん」

「そうだぜぃ!」


 なんで安具楽さん腕がないのにテンション高いんだよ……


「今は今後の方針を決めるべく、千堂会議を行うのが先決。故にこの場は議長であるワシが取り仕切らせてもらう。異存はないな?」


 全員頷く。


「では、これより千堂会議を行う。見たところ新顔もおるようなので自己紹介から始めようか。では英治。お主から」

「承った!」


 大剣の大男が一歩前に出る。


「千の道は剣の道!"異端狩りの千堂"!"一の剣"!千堂英治!先ほどは動揺して失礼した!では、ハンク。次を頼む」


「うむ。千の道は斧の道。"異端狩りの千堂"。"一の斧"。千堂ハンク。以後よろしくお願い申す」


 斧!? ハンマーの間違いじゃないか!?


「では、次は修栄。お主が」


「はい。千の道は黒の道。"異端狩りの千堂"。"一の黒"。千堂修栄。今度ともよろしくお願いいたします。では蓮也」


「了解!千の道は槍の道ぃ!"異端狩りの千堂"!"一の槍"!千堂蓮也!推参仕る!」


 なんだか戦国武将みたいだなぁー。


「では、そこのお方。よろしくぅ!」


「は、はい。千堂ヒカリ。はぐれ千堂だったところを小雪さんに指導されてそれからこの件に関わっています……で、いいかな?」

「なんで私を見るのよ」


 な、なんとなく?


 そこで水城が口を挟む。


「私と安具楽は全員知っているので自己紹介は必要ないでしょう。小夜ももう自己紹介は済ませましたか?」

「ええ。勿論よっ☆」

「では自己紹介はここまでということで。議長。進行を」

「うむ。では続けるぞ。小夜、今回の千堂会議に至るまでの経緯を頼む」

「わかったわぁ~。しゅうちゃん。あれ持ってきた?」

「はい。勿論。では開きますね」


 修栄が円卓の中央に馬鹿でかい黒い板を置く。というかどっから取り出した!?今!?


 ブゥン、という謎の起動音と共に、黒い板から立体の地図が浮かび上がり、そこの至るところにバツ印と黒丸印がつけられている。


「これがこの国の地図で、バツ印が襲撃が今現在行われている所。黒丸は陥落したところね」


 こんなにも襲撃が行われているのか!? パッと見、四十以上はある。陥落したところは少ないものの、場所が……


「見ての通り、この国の中枢機関は既に陥落してるの。真っ先に狙われたようね。有り体に言えばもうこの国は機能してないわ」


 小夜さんが真顔で説明している。それだけにこの事態の深刻さが際立つ。


「襲撃者の正体はわかっているのか?」

「『アヴェンジャー』と名乗っているようね。でも、その実態は妖魔、粛清隊なんかの混成部隊が主に占めているわ。中には只人なんかもいるようだからホントにまぜこぜ集団ってわけ」

「それについては私からも」


 水城が手を挙げる。


「アヴェンジャーの指揮者は一堂影虎という若者で、自身を千堂を殺す千堂と名乗っています」

「うむ?千堂を殺す千堂?」

「はい。私はその能力の一端を見ましたが、確かに"奇跡"のような能力を使っていました」

「じ、じゃあ僕からも」


 僕が言っていいのかわからないけど、黙っているよりはいいだろう。


「敵の中には"奇跡"を与えられた人もいるみたいです」

「!! "奇跡"を与えられた千堂が?」

「はい。黒い刻印で、能力は白い結界内に対象を閉じ込め、刃物だけが相手にダメージを与えられるという制限を設けるタイプのものでした」

「うーむ、黒か……」


 そういえば黒って生産職系だったっけ? 結界とかもその部類なのかな。


「俺様が戦った相手は全員黒い刻印っぽかったけどなぁ!」

「ほぅ、安具楽。ではお主の話を聞いてみようか。その腕の事も含めて」

「おうさ!」


 さっきから気になって仕方ないよ。祓い人のお寺で別れて以来だしね。


「詳しい経緯は省くが、俺はアヴェンジャーに関しての情報を追ってた。そこから話して行くとするか!」


 右腕一本で背中に背負った大鎌を担ぎなおし、大きく胸を張りながら続きを話し始める。


「歪みねぇからちゃんと聞いてくれよ?」









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