第28話 復讐者



 小竜とカインは困惑しながらも戦闘態勢を崩さない。


 とりあえず無力化したがしゃ髑髏の事はひとまず置いておいて、この異様なほどにアホ丸出しな灰椿という男を何とかしなければならない。


 灰椿は黒いパーカーに黒いズボンと、街中で着ていたら黒すぎて注目を集めそうな恰好をしているが、この夜中の森という条件下では、それが隠密に向いた服装であることがわかる。だが、灰椿の装備と言えるものはその服くらいしかなく、丸腰同然でこの場にいる。

 他の連中共も、灰椿と同じ恰好をしており、背格好はほぼ灰椿と同じで、唯一違っていることと言えば、バイクで使う黒いヘルメットを被っているくらいだろう。


 『いいですか、小竜。相手の武器の形状から相手の攻撃方法を推測するのです。もし、相手が戦場にいて、丸腰だった場合は……』


 小竜は水城の言葉を思い出す。とりあえず相手の不意を突いて攻撃してみるか、不用意に近づかず、遠距離で撃ちまくるか、だね……


 お遊び気分で戦おうとしたが、やはり丸腰が危険と判断し、『燃焼』の矢は使わずに、『拘束』の矢を使うことにする。その前に。

 小竜は矢をつがえずに弓のみを灰椿に構え、弦を引き絞って、びぃぃぃん、と音を鳴らす。その光景をおかしなものを見る目で灰椿は黙ってみていた。


「……今、僕は目に見えない透明な矢をあなたに刺しました」


 灰椿は、はぁ?と口に出しながら馬鹿にした目で小竜をにらむ。


「ダッタラ、俺には刺さった痛みがある筈だろう?」

「いいや、これは刺さっただけでは効果が発揮しない。僕が任意で発動することでその矢は実体化し、あなたにダメージを負わせることができる……」


 ハン!と灰椿は尚も舐めた態度を崩さずに言い返す。


「だったらナンデ実体化しねぇ?本当だったらデキンだろ?」

「それをしてしまったらお前から聞きたいことが聞けない。今僕はあなたの胸に矢を刺してる。発動すると確実にお前は死ぬよ?」


 灰椿は首をかしげながらあれ?と考え込む。


「え、えーっと、トウメイな矢は今俺の胸に刺さっテテ、それを証明するためにはオレは死んでシマって?でもそれはウソだと思うけど、ショウメイするには?…………」


 灰椿は混乱している。小竜は、こいつマジか?と思いながらも矢筒から矢を取り出す。しかし、流石に今弓に矢を番えたらバレてしまう。だから小竜は弓を使わない。使わずに手に持っていただけなのだが、その矢はヒュゥゥ!という音と共に灰椿に襲い掛かる。


『風の一矢』


 それが小竜の"奇跡"。要するに風を操るという最もシンプルな"奇跡"。この能力は正確には風の向き、速度を操るため、本来は弓無しでも攻撃できる不意打ちに特化した奇跡でもある。


 灰椿は矢が放たれたというのにまだ考え込んでる。とった!と小竜は確信したが、事態は予想外の展開を迎える。


 なんと灰椿はノールックで矢を片手で掴むと、にやぁ、と不気味に笑い、周りにいる部下らしき人物に声をあげる。


「……やっぱウソなんじゃねぇか!おい!オマエら!ヤッチマエ!」


 灰椿の指示で周囲にいた黒づくめのヘルメット集団が一気に襲い掛かる。目算で三十人はいる。実際はもっと多いかもしれない。

 小竜はその事態に少したじろいだが、カインは冷静なまま斧を地面に向けて振り上げる。


「……じゃあ次僕ねー」


 その大きな斧を一気に地面に叩きつける。勿論、ただ目の前の地面を叩きつけただけなので、敵に当たる筈もない。通常であれば。


『全てにぶち抜く衝撃』


 そんな物騒な名前の"奇跡"がカインの能力である。この能力も単純なもので、地面に叩きつけた衝撃を任意の場所に伝えさせるという強力な"奇跡"だ。たとえ、相手の足が地面についていなくても、この衝撃は地面から垂直五メートルの空間まで衝撃を届けさせることができるため、基本、その範囲外に出ない限りは避けることはできない。よって。


 謎のヘルメット群はその衝撃で夏の夜空を天高く舞う……筈だったのだが……


「!?」


 カインの表情が驚愕に染まる。ヘルメット集団は全く効果なし、という風に小竜とカインに向けて向かってくる。

 このままでは不利だと感じた二人は一旦、がしゃ髑髏の背中の上に退避する。


「ナ!なんで背中にのル!」


「ちょっと黙っててよ」

「潰すよー?」


 がしゃ髑髏は骨しかないというのに涙を流した。それこそ物理的には存在しない涙を。二人はその様子におかしさを感じたのか、向き合ってクスクスと笑った。

 しかし、小竜の心境は穏やかではなかった。不意打ちを狙った矢はいともたやすく止めれられ、カインの"奇跡"は少しとはいわず、全く効いていない。これはどう考えても異常だった。


『……予想外の事が起きた場合、まずは起きたことを冷静に判断してみるのです。推測が憶測に偏っていないか、起きたこと視覚だけに頼っていないか。考えることはいくらでもあります。ですので、まずは冷静に。冷静に相手を殺す手段を考えるのです』


 小竜は師匠に言われた言葉を思い出し、更に苦笑する。それを見てカインは首をかしげたが、小竜は考えに没頭する。


 (不意打ちの矢が受け止められたのは何かの能力か?いや、それはない。あれは能力で対応している取り方ではなかった。純粋な身体能力だ。それは確定していると思う)


 小竜とカインががしゃ髑髏の上に乗ってしまって灰椿はどう追い詰めようか考えていた。単純に一斉に攻撃してもいいのだが、それだと灰椿の能力的に良くはない。だから、二人が諦めて降りてくるのを待つ。


(だが、カインの能力が全く効いていないのはどう考えてもおかしい。一人と言わず、全員が効いてないのは異常。まるでそこにいないかのように……そこにいない?)


 小竜は灰椿を見る。灰椿はさっきと変わらない位置にいて、ヘルメット集団はがしゃ髑髏の周りを取り囲んでいる。何故攻撃しない?


(……いや、できないんだ)


 小竜はその考えに至り、カインに指示を出す。


「カイン。視界を塞ぎたい。出来る?」

「…………そういうことかぁー。やるよー。『概念昇華』!」


 小竜の考えていることを察したカインは斧を振り上げる。そして、振り上げたまんまがしゃ髑髏から飛び降り、さっきと同様、思いっきり斧を地面に叩きつける。


 ドォォォォオン!


 ものすごい爆音が辺り一帯に渡って響き渡る。『全てにぶち抜く衝撃』は概念昇華により、『全てをぶち抜く衝撃』へ。任意の場所ではなく、半径百メートルにわたって衝撃を満遍なく伝わらせる全体攻撃の技へと昇華した。


「ウぉォぉォぉォぉォぉォ!?」


 灰椿はその予想外の衝撃をダイレクトに食らい、数秒間、彼は地球上からお別れをする。カインの攻撃は辺り一面の地面の土をかなりの高さまで巻き上げ、この森の広場の空間を暗闇より更に黒く染めた。そしてついに、その攻撃で謎のヘルメット集団はズザザザザァ、と音を立てて跡形もなく消えてしまった。


「カイン、周りにいるヘルメットたちは幻覚だったんだよ」

「みたいだねー」

「敵の種は割れた。でもそれだとおかしい。奴は攻撃手段が幻覚だというのなら決定打になるような攻撃方法がないと敵を倒せない。けど、あいつは余裕の態度で僕たちを取り囲むだけに留まっている。つまり……」

「伏兵ー。それか、援軍ー?」

「だと思う」


 当たりだ。灰椿はこの場に一人ではなく、複数の妖魔どもを連れてきており、その妖魔どもにも多くの部下がいるため、こうして時間を稼いで二人を足止めしておいたのである。

 そして、果たして時間稼ぎは成功した。数多くの異形の存在。人ならざる者。異端と定められた人に仇名すバケモノの群れが二人を取り囲むようにぞろぞろと森からはい出てくる。


「アッぶねぇー!でもコノ程度の攻撃なんかキカネーっての!」


 灰椿は吹っ飛ばされた後、綺麗に着地して余裕そうな笑顔を見せる。カインの攻撃は相手の動揺を誘うためのものであり、本来の力を発揮していれば今頃灰椿の体はめちゃくちゃになっていたのだが、そのことに灰椿自身は気づいていない。


 更に待ちに待った妖魔の軍団が到着したことによる高揚感で、もはや灰椿は付け上がりすぎていた。


「ドウセ祓い人の。しかもガキなんかはコンナ攻撃しかできねーもんなぁ?弱っちスギてオレ一人でも良かったんだがよぉ?やるなら集団でカクジツにって言われちまってるからシンチョウを期したってわけ!オサッシ?」


「…………」


 この灰椿という男はどうやら自分たちを祓い人だと思っているらしい。確かに、自分達千堂は気が向いた時にしか妖魔は狩らない。敵からしたら遭遇率はかなり低いだろう。

 そこで小竜は気づく。地面に立っている相棒からただならぬ気配が漂っているという事に。


「ヨエーくせに二人だけでクンなよなー。ガキはガキらしく親に泣きついていればいいってのにヨー。がしゃ髑髏程度をイタメつけたくらいで調子ノッテンじゃねーぞ?」

 

 カインの顔がいつものほんわかした雰囲気ではなく、殺伐とした雰囲気に変わる。たれ目だった目は大きく見開き、額には青筋が立ち、その腕に握られている斧がギリギリと、音を立てて震え始めた。


「ワルイが俺も仕事なんでね。ここでシネよ。クソガキ共」


「…………てめぇ、さっきからなんだ?」


「は?」


 今までまともに話さなかったカインが喋ったことで灰椿は反応する。そんな感じの話し方すんの?と思ったが、色々と煽ったことでキレちゃった?と察した灰椿は更にヒートアップする。


「……イイねぇ!やっぱ中坊はソウでなくっちゃ!ドウセ親の教育がヨクナイからこんな時間まで森の中にイルんだろ?非行少年ってやつだぁー!」


「ば、バカやめろ!」


 カインがぶちギレるのを察した小竜が敵である灰椿に対して挑発を止めるように助言する。今回、小竜の任務は妖魔の駆逐ではなく、百鬼夜行の調査が主であり、殺してしまうのはマズい。よって、普段温厚なカインがキレると小竜のいう事も聞かなくなる可能性がある。

 そんなこととは露知らず、灰椿はもう止められないというようにカインにどんどん近づいていき、それに合わせて他の妖魔どもも更に二人に迫っていく。


「いい加減ダルくなってきたわ。もうオシマイにしますかねぇー。一応キイトイテやるよ。お前らのナマエ。最期のコトバもな」


 カインは無言で前に立つ。小竜はもはや手遅れと悟って深いため息をつき、やけくそ気味に言う。


「……そうだね。僕も頭に来てたし。カイン。やっちゃって」

「了解、感謝する」


 カインは斧をバットを構えるように振り上げる。そして、千堂流の挨拶を、終わりの言葉を灰椿に突きつける。


「……千の道は斧の道。"異端狩りの千堂"。"十二の斧"。千堂カイン。ここがお前の眠る場所。引きちぎられて土になれ」


「へ?」


 灰椿は呆気にとられ、ポカーンと口を開ける。それは、今まで祓い人と思っていたのが最強種族の千堂を名のったこと。そして、それはすぐに証明されたことに。


 カインは斧を再度地面に大きく叩きつける。今度は手加減抜きで。


『千堂流黄式 ハンク直伝 最期の試練』 


 妖魔を囲うようにして円形状の巨大な土の壁が形成していく。土の壁はだんだんと空高く伸びていき、ついには高さ五十メートルに届くような檻が完成した。


「がぁぁぁぁぁ!」

「ぎぃぃぃぃぃ!」


 妖魔たちはその壁を叩き壊そうとするが一切壊れる気配がない。横がだめなら上からと、鳥型の妖魔が空へ羽ばたこうとするが。


 ドゴォォぉン!


「!?」


 突如、土の壁から直方体の馬鹿でかい土の槌が鳥型の妖魔を叩きつける。鳥型の妖魔はその不意打ちの攻撃を食らい、地面へと墜落していった。


「……逃がさねぇよ。てめぇらは」


 カインの檻は形成するだけではなく、敵を逃さない為の檻を形成し続ける檻。敵が逃げようとすればするほど檻は強固なものになり、それは屈強なものへと変化していく。唯一脱出できる手段があるとするならば……


「俺を倒しに来い。ぶっ飛ばしてやるから」


 そのカインの言葉は引き金となり、数多の妖魔が一斉に襲い掛かってくる。


 カインは斧を振り上げ、その妖魔の集団へと自ら飛び込んで行く。


 ブシュ! ドゴォ! バキィ!


「ハハハハハハハハハハ!」


 カインは斧を振り回しながら妖魔たちを形無き肉片へと変えていく。妖魔たちもカインを襲うとするが、全く相手にならない。爪が、牙が、カインの体に向けて放たれるが、カインはそれを躱すどころか、斧で真正面から叩き潰し、妖魔ごとぶち抜いていく。

 それは一つの嵐、一つの暴力。力の権化がその猛威を振るう。


「な、ナンデ千堂がここにいるんだよぉー!?」


 灰椿は目の前で繰り広げられる蹂躙劇をみていることしかできなかった。圧倒的な力の差。能力云々うんぬん以前に自力が違う。思えばおかしいことはいくつもあった。祓い人にしては能力が物理法則を無視しているかのような攻撃ばかり。さらに、持っている武器も圧倒的にその性能が段違いなものであった。


 灰椿は今まで祓い人を何人か殺した経験はあるものの、千堂と対峙した経験はなかった。


 千堂に関する情報は最近知ったものである。それは、『千堂に会ったら名前は聞くな。聞いてしまったら諦めろ。』が、『アヴェンジャー』の中での共通の認識だった。このルールを聞いた時、そもそも千堂というのが名前を聞かないとわからないし、聞いたら諦めるなんて意味わかんなくね?と思っていたのだが、確かに、この光景はそれを納得させるに相応しいものであった。


 千堂といえ相手は子供。それでもこの強さというのはかなり異常だ。この子供が大きくなったらバケモノ以上のバケモノになる。しかし、灰椿はこの子供を殺す手段を持たない。


 灰椿の能力は『集団幻覚』。相手がどんなに多人数であろうが、同じような幻覚をみせることができるというもの。しかし、この能力には制限があり、見せられる幻覚には限りがある。

 さっきの幻覚、ヘルメット集団に、妖魔の群れ、そして、甲冑を着た戦国時代さながらの武装集団の三つの幻覚しか相手にみせることはできない。無論、幻覚である為、相手を直接傷つけることはできないが、傷つけたところは相手に痛覚のみ再現することが可能であり、精神的に追い込むことはできる。


 その幻覚ももはや手遅れ。いくら幻覚で小竜とカインを混乱させようと、檻は出来上がってしまった。物理的な檻が出来上がってしまった以上、二人を倒す以外助かる道はない。


 ブチィ! グシャッ! ドゴォン!


 数えきれない程いた妖魔ももはや数十体しか残っていない。妖魔とはいえ、弱いものから強いものまで揃えておいたのだが、そんなの関係無しというように一撃で葬りさられている。別にカインの動きが早すぎるわけではない。緩急が凄いのだ。 移動するときは緩やかに。そして、攻撃されそうな時にはそれに反応して素早く動く。戦闘におけるセンスが群を抜いている。その大きな斧を手足のように自由自在に操り、踊っているかのように戦う。それはもう芸術的なまでの武術であった。


「や、やめろ……ヤメテくれーー!」


 灰椿はカインに向けて叫ぶが、カインはそんなもの知らんとばかりに残りの妖魔を惨殺する。


 シュゥゥゥゥゥゥ……


 最後の妖魔が倒されると、土の檻はその形を崩し、辺りには元の形がわからない妖魔の死体たちと、灰椿。そして、カインに小竜に、両足のないがしゃ髑髏だけが残された。


「君はもういいや」


「ヘ?」


 がしゃ髑髏の最期の言葉は素っ頓狂な言葉で終わった。

 小竜は手に持った『爆発』が付与された矢を弓も使わずにがしゃ髑髏に投げ付けることでゴミを捨てるかのように殺す。


 バーーーン!


 頭に矢が当たってその部分が派手に吹っ飛ぶ。寧ろなんで今まで生かされていたのかわからないくらいにあっさりと殺されてしまった。


「ヒ、ひぃぃぃぃぃぃ!」


 灰椿はその場に崩れ落ちる。もう逃げられない。実力差ははっきりしている。たとえ身体能力が同じだとしても、二人から。それも、弓を持つ千堂がいては助かる見込みは薄い。それくらいの事は推測できる。

 灰椿の顔が絶望に染まる。


「カイン。もう気は済んだ?」

「うんー。もういいやー。ありがとうねー。小竜ー」


 カインはふー、と一息つくと元の温厚そうな少年へと戻る。小竜は安堵する。あのまま戻らなかったら灰椿から情報が聞けない。師匠から託された任務が達成できないのは小竜にとって何よりも落ち込むことだからだ。


「じゃあ、灰椿だっけ?君に聞きたいことが……」




「ほぅ?灰椿に聞きたいことがあると?それは『アヴェンジャー』に関することかな?」




 その声は若い男性の声だった。しかし、その声音は氷のように冷たく、人を人とは思わない、冷酷そのものを体現したような恐ろしいものだった。

 その声は灰椿の後方の森の中から聞こえてくる。土を踏む音がこちらの方へ近づいてくる。


「あ、アア!ダンナ!」


「……見苦しいな、灰椿。お前には難しいことは言ってない筈だが?いや、相手が千堂ともなればそれも仕方ないか」


 男は更に近づいてくる。小竜とカインは無意識に構えをとる。この男はヤバい。認めたくないが、自分達よりも強いのではないか?と思わせるほどに本能が逃げろと警告してくる。


 ザッ ザッ ザッ ザッ


男の容姿が段々とあらわになってくる。長身で顔は綺麗に整っており、両眼は閉じられている。服は上下黒のどこの学校かもわからない学生服を着ており、その歩き方から只者ではない雰囲気が漂っている。


「だ、誰だ!お前は!」


 小竜はそれ以上近づけたらまずいと感じたのか。大声でその男に向かって叫ぶ。すると、男は小竜から二十メートル程離れた位置でやっと停止しこう言った。


「こんばんは、千堂の子供よ。私は『アヴェンジャー』を指揮する者。今灰椿を殺されるのは困るんだよ。手を引いてくれないかな?」


 その態度とは裏腹に下手に出る。しかし。小竜たちは毅然として警戒を解かない。まだこの男の真意がわかるまでは。


「『アヴェンジャー』って町で祓い人を襲ってる集団だよね?それがなんでこんな森にいるの?百鬼夜行を率いてるのはあんたら?」


「……なるほど、そこまで知っているとは。千堂にしては詳しいようだ。あなた方は気分で妖魔を殺す種族ですが、今回は組織だって動いている……。なかなかどうして、全て上手くはいかないようだな」


 男は両目を閉じたまま、少し考え込むと、再度その口を開く。


「いいだろう。少し計画に乱れは出たが、狂いはしない。君達にはここで死んでもらおう」


「…………」


 小竜とカインは千武を構える。この目の前の男は自分たちを本気で殺しに来ると。そう宣言したのだ。今は実力差がまだはっきりしていない。まずは様子見。そう方針を立てる。


「……では改めて。全ての道は悪の道。"千堂を殺す千堂"。"復讐者"。一堂影虎いちどうかげとら。お前たちの存在を許しはしない」


「「!?」」


 小竜とカインは驚愕で目が大きく見開く。"千堂を殺す千堂"。そのワードはあまりにも聞いたことが無く、ありえない事だった。しかし、今目の前にいる男が嘘をついているような感じはしない。不思議と確かな説得力というものがその言葉にはあった。男は止めていた足を再開させ、ゆっくりと二人に近づく。


「私の部下を惨殺したんだ。今度は君たちが殺される番になる。覚悟しろ。私の復讐は甘くはないぞ?」


 男は閉じていた両目をゆっくりを開く。その両目には黒よりも黒い。真っ黒な逆十字の刻印がはっきりと刻まれていた。






「…………刻む」


 






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