第27話 千堂小竜はうつむかない


 小竜しょうりゅうは嘆いていた。


 妖魔どもは基本、夜にしか現れない。それは人の目につかないように行動するのが彼らの習性であり、人気のないところが彼らの住処となっているからだ。

 だからあの会議の後にすることといったら祓い人の寺で聞き込みをするくらいなのだが、それも大体終わってしまってはすることが無い。だから……




「カッカッカ!流石千堂じゃのう!」


 五条幸宗はその馬鹿でかい大盾を構えながら少年に向けて話す。その少年、千堂礼二れいじは両手に安具楽の大鎌とは違い、一回り小さいタイプの鎌を両手に持っており、幸宗に向けて戦闘態勢をとる。


「さっすが祓い人の長っすねー。まぁまぁやるじゃないっすかー!」

「子供には負けてられんわい!」


 子供、という単語が気に食わないのか。礼二は目を細め、さっきとは違いやる気ムードを醸し出す。


「はぁ……、子供だからってあなどると痛い目を見るっすよー?僕らは若いとはいえランク持ちなんすから。祓い人なんか余裕で倒せないと師匠に顔向けできないっす」

「💢」


 それを聞いた幸宗もその大盾で、体のほとんどを隠した状態でもわかるほどに構えが真剣になる。


「ほうほう、ランク持ちか。それじゃあわしにそのランクとやらの力を見せてもらおうかのう!」



 幸宗は大盾を構えながら突進する。実はこの大盾は千武。の、失敗作ではあるが、それなりの効果を持っている。概念付与さえされていないが、その体積とは裏腹に、所有者には重さが感じられにくいという不思議な設計をされているのだ。ゆえに、その大盾は機動力を損なわず、見たまんまの威力を発揮する優れものとなっている。


 その幸宗の突進を避けることなく礼二は両手の鎌をクロスして構える。普通に考えれば体格さ的にも、武器の性能的にも礼二は劣っているように見える。しかし、礼二は千堂。吹っ飛ばされるようなことはなく


「吹っ飛ぶっすよぉー!」


 ギィィィィィィィィン!


 幸宗の大盾が礼二の鎌に当たった瞬間、物凄い衝撃が幸宗を襲う。そして、あたかも漫画のように後方へ吹っ飛ばされてしまった。


「ウぉォぉォぉォぉォ!」

「はっはっは!ほんとに吹っ飛んだっす!」


 幸宗は上手く着地をしたが、その強大過ぎる力に一瞬放心してしまった。思えば千堂と手合わせをしたことは今までなかったのだが、それにしても子供でこの力とは、正直思ってもいなかったのである。


 小竜はため息をつくと、その二人の戦いを辞めさせる。


「幸宗おじさん。もういいでしょう?終わりにしてください」

「ま、まだじゃ!まだ力で負けただけで勝負は……」


 実は幸宗は実力の半分も出していない。祓い人には妖魔の血肉を食べてその能力を奪う『魔喰まぐい』という外法があるため、それなりに力は持っている。

 幸宗の場合は只人には出せない大きな力を出せる『怪力』、気配を一時的にものすごく薄めることができる『隠密』。そして、持っている武器の性能を一段階上げることができる『武装強化』。祓い人の中でもこんなに複数持っている幸宗はかなり珍しい方。その力の一端しか発揮できていない幸宗は消化不足で気が収まらない。


 それも見抜いていた小竜は尚も止めに入る。


「……あのね、幸宗おじさん。このままやったら礼二が本気だすよ?」

「望むところじゃわい!」

「……おじさん、死にたいの?」

「!!」


 幸宗は感じ取った。およそ子供が出すべきではないほどの殺気というものを。さらに、鎌を構えている少年からも異質なオーラが漂っていることを察し、幸宗は大盾を構えるのをやめ、肩に取り付ける。


「……すまなんだ。つい熱くなってしまってのう。わしの負けじゃ。礼二様じゃったかな?礼を言う。稽古に付き合ってくれて」


 幸宗は礼二に歩み寄って手を差し出す。礼二もその二対の鎌を背中に収めると手を差し出す。


「……こっちも悪かったっす。つい里の外での戦闘訓練に熱が入っちゃって……。未熟でした。こちらこそありがとうございましたっす」


 二人は和やかに握手をする。その光景は武人同士の礼節を表現したかのような光景ではあったが、小竜にはそうは思えなかった。


「…………」


 ちらり、と小竜が後ろを振り向く。そこにはさまざまな甲冑を着た二十人くらいの祓い人が地べたに転がりまくっていたのである。

 

 そう。礼二は幸宗と戦うまでにこれほどまでの数の祓い人をノックアウトしていたのだ。最後の砦とばかしに幸宗が来て、ようやく収まったという具合である。







 始まりは些細ささいな出来事だった。小竜(弓)、礼二(鎌)、紅蓮(槍)、カイン(斧)の四人が夜まで何か暇つぶしがしたいなーと寺を散策をしていると、祓い人の修練場(森の中)に行き当たり、それだったら僕らも混ざろうとなったのがきっかけだった。


 本来であれば、祓い人の修練場にはいつもは二、三人くらいしかいないのだが、先日、安具楽たちが周辺の妖魔を狩ってしまった為、祓い人はすることがなくなったので修練場は大盛況。三十人以上の祓い人が稽古に訪れるという前代未聞の事態となっていたのである。


 その盛り上がりの中で勝ち抜き戦をすることになったのだが、先鋒の千堂礼二がやられる筈もなく、今に至る。そして、次に控えていた紅蓮、カインは勿論、


「次は俺っち紅蓮様の出番だってのに来ないじゃんかー……」

「僕の出番……」


 見るからに落ち込んでいた。稽古のつもりが礼二の圧勝ぶりをまざまざと見せつけられ、モチベーションは最悪。もう帰っていい?とまで言いそうな雰囲気だ。


「……第四番隊……でしたっけ?僕らと…訓練してくれない?」


 小竜が更に後ろで控えていた第四番隊。通称、巫女隊の巫女たちに話しかける。 さっきまで戦闘をしていたのは全て第五番隊の男性陣のみ。つまり、男性だ。女性にいきなり激しい戦闘をさせるべきではないという配慮のもと、後回しになっていたのだが、こうなっては仕方がない。転がっている第五番隊の代わりにと声をかけたのだが……


「わ、私達は第四番隊同士で訓練があるから……」

「そ、そうね。女性同士の方がやりやすいし……」

「ほ、ほら、私達って妖魔の中でも霊関係の方が得意分野じゃないですか?だから……」


 基本、霊が出るのは人が密集した地域のみ。千堂は基本の戦場が山である為、霊関係とは戦わない。よって、霊に対しての知識はほぼなく、その稽古の仕方というのも想像もつかなかった。だから彼女たちの言い分もわかる。しかし……


「はぁ、まだまだ暴れたりないっすねー」

「お、巫女さん達暇そうー。僕らと付き合ってくんない?」

「やろー」


 ここにストレスが溜まりまくった三人がいるのでその願いは聞き届けられないだろう。本来であるならば小竜も混ざりたいのは山々だったのだが、師匠の水城から小隊のリーダーに任された手前好き勝手に行動できない。


 ここに居る巫女隊のメンバーは十人いる。数では倍近くいるものの、圧倒的な実力差を見せつけられたことにより、それぞれの表情は絶望に染まっている。彼女らは顔を見合わせると、一目散に別々の方向に逃げ出した。


「……なるほど。私達を捕まえてみなさい?というやつ?」


 違う!そうじゃない! と巫女隊の面々は心の中で思ったがそんなツッコむ暇すら今は惜しい。捕まればそこらへんに転がっている死屍累々としたメンバーの仲間入りを果たすことになるのだから。


 小竜は矢筒から十本の矢を足りだす。その矢は真っ白に染まっており、形は普通の矢ではあるが、青い弓と相まって異様な配色だった。矢を一度に二本ずつつがえ、そして連続で五回、空中に向けて放つ。


 バシュ! バシュ! バシュ! バシュ! バシュ!


 矢はそれぞれ巫女たちが逃げ出した方向へと向かっていき、そして、綺麗に巫女服の服だけを撃ち抜いた。


「う、嘘!物理的におかしくない!?あの軌道はなんなのよ!」

「ゆ、弓の技術っていうよりは"奇跡"の類ね!なんて厄介な!」

「や、やだぁぁぁぁっぁ!ごろざれるぅぅぅぅ!」


「…………」

 

 小竜は謎の罪悪感に包まれてた。里にいた頃は自分たちが指導を受ける側であり、稽古をつけてくれるというのはこの上なく楽しく、光栄なことであった筈なのだが、ここの人たちはなんでこんなにも嫌がるのだろうと。


 確かに、第五番隊の人達にはやりすぎた感は否めないが、女性陣に対してはそんなにキツイことを要求するつもりはない。だからなんでこんなにも怯えているのかが小竜にはわからなかった。


 礼二、紅蓮、カインが捕まった巫女たちの所にいき、両肩に乗せ、元にいた場所まで連れてくる。もはや逃げられぬと観念した巫女たちはいっそ殺せとばかりに苦悶の表情を浮かべている。なんでなのだろう……


「何故そんなに怯える?ただの稽古で」


小竜が恐る恐る聞くと、巫女隊の一人が言いづらそうに口を開ける。


「いやいや、あなた方の稽古はシャレになりませんって!」


「だが稽古は稽古。きつくない稽古なんてない。それに第五番隊のようなキツイ稽古は求めない」


「え?そうなの?」

 

 拍子ひょうし抜けしたような巫女隊の面々。最初から言ってくれればいいのにー、とほがらからかな表情になる。誤解したのはあなた方の方ですよ……


「ではどうしようか。僕らは巫女の戦い方というものをよく知らない。よければ教えてくれない?」


「そうですねぇ……普段、私達は弓を使う事が多いですかねぇ」

「矢は妖魔にも霊にも効きますからね。祓い人の矢は神聖な矢なので基本的になんでも効くんです」

「中には槍とか薙刀とか使う人もいますが、使用率でいえばみんな弓を使う人が多いんですよ」


 なるほど。だから巫女の方は矢筒をかるっている人が多かったんだな、と小竜は思い出す。確かに、弓矢であれば他の武器よりも扱いやすいし、遠距離攻撃である為、精神的にもゆとりが持てる。近接攻撃は妖魔相手だとなかなか怖いものがあるからだ。初戦で死ぬ新人の大半は恐怖ゆえに体が動かなくなり、死に至るケースがほとんど。


「……じゃあ僕ら四人はこの修練場を十分間逃げ続けるから矢で撃ち抜いて」


「は?」

「へ?」

「ほ?」


 巫女たちは素っ頓狂な声をだす。そんなおかしい?


「僕らの攻撃はあなた方には致命傷。ならあなた方が攻撃するのが賢明だ。僕らは回避。あなた方は精度。お互いに訓練になる」


「で、でも万が一当たったら……」

「怪我しちゃうかもよ?大丈夫?」

「鎧も着てないんだし、考え直した方が……」


 確かに四人は鎧なんてものは着ていない。しかし、それぞれの服は『概念付与』されている立派な千武だ。そこら辺の鎧よりは防御力はある。あるのだが……


「おねえさん、当てれるの?」


「!!」

「ふーん、余裕ってわけね……」

「じゃあもし一発でも当てられたらなんでもいう事を聞いてもらうわよ……?」


 自分たちに一切のペナルティがないとわかった瞬間これである。見事なまでの回復ぶりに小竜は呆れながらも了承する。


「わかった。じゃあもう始めていいよ」


「「「??」」」


 十人の巫女は困惑していた。それもそうだろう。四人の千堂はその場から全く動く気配がない。むしろ、まだ始まってないんじゃないかと思わせられるほどだ。


「え?なんで動かないの?」


 当然の疑問を巫女の一人が聞く。小竜は


「? こっちが聞きたいんだけどなんで矢を放たないの?」


 質問に質問で返される。一人の巫女がとりあえずと言った感じで弓で矢を射る。その距離なんと五メートル。

 しかし、その距離で放たれた矢だというのに小竜は体の重心をずらしただけで矢を避けてしまった。


「「「!?」」」


 次々に巫女たちは四方八方から矢を放つ。しかし、狙いは小竜に絞っているというのに全く当たらない。さらに、小竜はその場から動いてすらいない。


「はぁ……これはダメだね。訓練内容変更。僕らをこの場から少しでも動かさないと稽古終わらないから。お姉さんたち気合を見せてよ」


「「「!!?」」」


 もはや何も言えなかった。得意中の得意である弓矢ですら圧倒的な力の差があり、それを中学生くらいの子供に呆れられるという屈辱の中、矢を射続ける。それはもはや精神的な拷問に他ならなかった。


「僕らは夜まで時間あるから。一応タイムリミットは暗くなるまでという事で」


 今は昼を少し過ぎたところ。当てなければ終わらないという事はつまり……


「手が動かなくなるまでに終わればいいね」


「「「…………」」」


 結局、巫女隊の訓練は夕方まで続いた。暗くなるまでがタイムリミットだったのだが、避けるのに飽きたことと、お腹がすいたからという千堂たちの要望で。

 十人の巫女たちは体が全く動かなくなってしまい、その介抱に礼二(鎌)と紅蓮(槍)が付きそう羽目になった。小竜はいきなり小隊に欠員が出たことで落ち込んだ。









 小竜(弓)とカイン(斧)の二人は暗くなった森に向けてお寺で準備を整える。


「じゃあカイン。二人になったけどよろしく」

「よろしくー」


 社会に出ればやる気が無いと怒られそうなこのカインという少年は体に似合わないほど大きな斧を持ち歩いている。

 その斧は刀身以外は全て黄色で装飾されており、目立つカラーではあるものの、その威圧感はすさまじかった。カインの身長的に相対して斧が大きく見えるという面もあるが、それでも斧のイメージというのは強烈だ。小竜はいつも通りのカインに少し安心しながらも森へ向かおうとする。


「お主ら。二人だけで大丈夫か?」


 幸宗がお寺の本堂から声をかける。昼間とは違い、甲冑ではなく、作務衣に着替えている。

 小竜は答える。


「うん。僕らは百鬼夜行を調べる」

「二人だけでか?なんなら巫女の世話はわしらがするぞ?」

「いいよ。僕らがしたことだから僕らが責任をとる。勘違いしないでよね。僕らは協力関係を敷いてはいるけど、家族じゃないんだ。敵対してないだけで、必要以上に仲良くはしない」


 ほう、と幸宗は感心する。この数日で千堂を少しは篭絡ろうらくするつもりではいたのだが、こんな子供でもその辺はしっかりしているのかと。もはやかける言葉はないと思い、幸宗は二人を見送る。


「お主らがそう言うのであればもはや何も言うまい。だが、それでも一言だけ言わせてくれ。気を付けてな」

「それこそ愚問だよ。おじいちゃん」


 小竜がそう言うと二人はものすごい速さで真っ暗闇の森に向かっていった。ほほほ、と幸宗が笑うと、本堂の奥から五条綾子が出てくる。


「あなた。あの子たちが心配?」

「いいや、心配ではないわい。わしよりも強い奴を心配したところでそれは失礼じゃからのう。それでも油断は命取りになる。だから、そのことを伝えようとしたんじゃがのう……」


 ふふふと綾子は笑う。


「それこそいらない気づかいですわね。子供とはいえ千堂。たとえ百鬼の妖魔であろうが妖魔は妖魔。遅れなど取りませぬわ」

「相手が妖魔だけ、だったらのう……」

「?」


 幸宗は昼間聞いた話を思い出す。百鬼夜行を率いているのが人かもしれないという事を。それは一歩間違えば殺人をする可能性もあるという事に他ならない。


夜は尚も更けていく。風が冷たくなっていくのを感じながら幸宗は本堂に入ろうと歩き始めた。











「…………ずいぶん遠くまで来たね」

「そうだねー」


 集めた情報を元に小竜は森の中を駆け巡る。ここは祓い人の寺から十キロ以上離れた場所。安具楽たちが周囲の妖魔を狩りつくしてしまった影響がここにもでていた。


 その十キロを過ぎた時点でポツポツと妖魔の姿が見えるようになったが、小竜たちは基本、隠密行動を心掛けていた。それは今回の百鬼夜行のリーダーを押さえるためである。いちいち妖魔どもを倒していたら本体にたどり着くまでに時間がかかるし、そもそも、百鬼夜行が行われている場所や時間が分からない事には普段の妖魔狩りと変わらないからである。


「…………とりあえずボスっぽいのがいればそいつに話を聞こう」

「了解ー」


 森の中とはいえ、本来、妖魔というのは人をなかなか襲わない。何故なら妖魔は人を見かけたら即座に襲うという事は滅多にしないからだ。


 祓い人のような妖魔を狩る集団の存在も妖魔は認知しており、襲うつもりが襲われるという事にならないよう、妖魔はまず人を見かけたら観察から入る。そして、相手が只人だと確信してからようやく襲撃に入るのだ。


 だが、今回、小竜たちは森の枝から枝へ飛ぶように移動しているため、妖魔が小竜たちを発見する前に、小竜たちが妖魔をまず先に発見する可能性が高い。よって、襲撃の主導権はこちら側にあるのだ。


 しばらく油断満載の妖魔たちをスルーし続け、ようやくそれらしき妖魔を発見する。


 それは全身が骨でできたがしゃ髑髏の妖魔。全長が三十メートルほどあり、かなりのでかさだ。そこにいるだけでかなりの存在感を放っている。


 小竜たちは一旦、少し離れた位置で動きを止める。


「……どっちがやる?」

「僕やりたーい」


 確かに斧のほうが一撃の威力は高そうだ。しかし、その斧では加減を間違うと一撃で倒してしまう。今回は情報を聞き出さないといけないのでそれでは困るのだ。


「加減……できる?」

「……………………うん」


 ものすっごい間があった。小竜は不安になる。しかし、なんでもかんでも命令と称して押さえつけるのはよくない。ここはいつもので。


「じゃんけんで」

「あいよー」


「じゃんけんぽん」


 結果は小竜の勝ち。返事を待たず、小竜は一本の矢を構える。それは黒い矢。水城さんが愛用している『爆発』が付与された千武の矢。


 バシュ!


矢は一直線にがしゃ髑髏へ向かっていき、その大きな右足に命中する。


 バー―ン!


 それなりの音をあげてがしゃ髑髏の右足は吹っ飛び、その場に崩れ落ちる。それを好機と見た二人はがしゃ髑髏の目の前まで高速で移動し、小竜は弓を。カインは斧を構える。


「いきなりごめんね。このあたりで百鬼夜行があるって聞いたんだけど君知らない?」

「ナ、なんダ、お前たちハ!」

「いいから答えてよ」


 小竜は弓を持つ手に力を入れる。ギリギリとその弓の弦が音を立てているのに焦ったがしゃ髑髏は怯えながら話し始める。


「シ、知らン!ワシはこの森にずっと昔からいるだけの妖怪ジャ!そんな話は聞いたことすらなイ!」

「長くいるんならそれなりに情報入るでしょ?僕らも暇じゃないんだ。時間は取らせないで」


 小竜は今度は左足に向けて矢を放つ。


 バー――ン!


 またもや矢は左足に当たり、がしゃ髑髏のは両足を爆破されたことで立てなくなってしまった。今は両手を地面につけ、無様な恰好をとることしかできない。


「ヤ、やめてくレ!本当に知らないんダ!」

「じゃあ今度は……」




「おいおい、やめてくんねーカナ?ソレでもそいつはオレたちの仲間なワケよ」


 後ろから声をかけられ、二人はバっと後ろを振り向く。そこには暗闇で顔が見えないが人型のなにかがそこに立っていた。


「……誰?あんた」

「フツー人に名前を聞くときはジブンからじゃね?」


 人、というワードから小竜は相手は人である可能性が高いと判断する。千堂は敵であったら人であろうが殺すが、只人であった場合はむやみに殺したりはしない。


「ここは妖魔がうろつく森だよ。早く帰った方がいい」

「フフフ、ハッハッハッハッハ!テメー、オレに向かってカエレって言ってんの?」


 何がおかしいのか。その男は笑いながら近づいてくる。

 そして、男の他にも数人の人型のなにかが小竜たちを囲むように近づいてくるのを気配で感じた。

 その異様な集団に小竜は不気味さを感じながらも改めて警告を促す。


「いいから帰れ。こっちは取り込んでる」

「だからイッタろ?オレのナカマなんだ。そいつは。いい加減キヅケよ。オレたちはお前らのテキなわけ。オサッシ?」

 

 その鼻につく男の物言いに小竜はイラつきながらも冷静であろうと努める。


「何故人が妖魔と群れる?」

「ヨクゾ聞いてくれたナー!オレたちは『アヴェンジャー』!この世の全ての傲慢なる異形退治の集団に仇名あだなす復讐者の集団。それがオレラらだ!ワルイが少年!ドウホウを傷つけたんだ!生かしてカエスわけにはいかんぞ?」


 男はそう言うとどこに隠し持っていたのか。両手にはいつの間にかトンファーが握られていた。

 小竜は考える。こいつは調子に乗っててすぐに自分の情報をぶちまけるアホ丸出しの相手だと。こういう敵なら今まで散々見てきた。自分を子供だと思って勝手に油断してくれる愚か者共を。だったらどうすべきかは明白だ。


「……わかったよ。君の話は君が地べたを這いつくばってからゆっくり聞くからさ……一応聞くけど君の名前は?」


 その男は子供が粋がっていると判断したのか。尚も余裕の態度を崩さずに名乗りを上げる。


「イイねぇ!今宵はサイコーだ!イキがってるガキを殺せるんだからなぁ!オレの名は灰椿!灰椿幹也はいつばきみきや!メイドの土産に覚えていけぇ!」


 灰椿かぁ……だったら『燃焼』の矢かなぁ、と小竜は赤い矢を取り出して構える。カインも灰椿が気に食わないのか。眉がへの字になっていた。


 時刻は夜の八時過ぎ。時間的にはヒカリたちが打ち上げをしている時間。月明かりだけが森の中の様子をきらびびやかに映し出す。二人対大人数。これから強者による蹂躙が始まる。

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