第24話 紅い復讐者


 それはヒカリと別行動をとったすぐ直後の事。


 千堂水城みずきは教会から五百メートル程離れた森の中の木の上に立っていた。

 普通の弓矢の飛距離では到底届くはずもないこの位置でも、水城ならば余裕で射程距離に入る。寧ろ、近い部類ですらあるのだ。


「それにしても本当にいい天気だ。絶好のアーチャー日和でもある。ほぼ無風なんて、矢を放ってくださいって言っているようなものです。まぁ私の場合は嵐でも外すことなどあり得ませんが」


 作戦開始まで暇すぎて、水城はそんな軽口を叩く。ヒカリたちに言ったように、教会周辺の地形なんかは既に把握しきっている。そして、誰がどこにいて、すら正確に。

 本来であれば、水城はこの場で制圧することもできるのだが、今回はヒカリのその無策同然の作戦にのってみようと悪ノリすると決めたので、敢えて手を出さない。


「おや、動きましたね……」


 それはヒカリたちが教会の地下深くに潜っている頃。離れの家にいた二人組が教会の方へ向かっているのだ。事前に聞いていた神父とシスターだと水城は確信する。

 ヒカリが最下層に着いた頃に、その二人組は何やらその場で停滞し続けており、少しして地表で爆発が起こり、地下の出口が封鎖されていってることがわかった。


「だと思いましたよ。あの性格の悪い粛清隊が万が一のことを考えていない筈がない。夢幻は気づいていたっぽいですが、小雪はおそらく気づいていなかったようですね」


 知っていながら教えない夢幻の意地悪さと、愚直な小雪の愚かさに苦笑しつつ、水城は矢筒から一本の黒い矢を取り出し、弓を構える。


「どちらにせよ、みんな不合格です。ここは痛い目を見て学んでもらいましょう」


 狙いを定める。


 この一矢で瓦礫の上にいる二人組ごと撃ち抜いてもいいのだが、それではおもしろくないとばかしに狙いをずらす。そうだ、メインディッシュは最後にとっておかなければ。その後のがしっかり出てきてもらわなければ狩りの楽しさが減る。


 "奇跡"を使う。


「だから言ったでしょう?イレギュラーを想定していないと」


 水城は小雪に『絶対防御』が付与された金属を渡しておいて本当に良かったと思った。こんな使い方をされるとは流石に思ってもいなかったが。











「うぅ………全身が痛い……」

「もうっ!なんでこうなるのよぉー!」

「………無念」


 ヒカリと小雪、夢幻の三人はやっとおさまった爆発から態勢を立て直し、小雪は檻を解除する。すると、地下から地上への道が瓦礫と共に開けているのがわかった。

 ヒカリは抱いているレインとジュリーの二人を確かめる。元々血だらけなのでどう変わったのかわからないが、少なくとも息をしていることはわかった。とりあえず安堵する。


「み、水城さんって弓使いだよね……?なんでこうなるのさ……」

「そっか、ヒカリはまだ知らなかったわね。とりあえず出口に向かいながら話しましょ?」


 僕らは瓦礫の上を歩きながら話す。


「まず他の色と比べたアーチャーとの違いって何かわかる?」

「うーん、遠距離攻撃が主体とか?」

「それもあるけれど……矢を使うのよ。つまり、消耗品なわけ」

「あぁ」


 確かに。他の色は刀剣、鎌、斧、毒、槍、黒は……まぁ例外として、基本的に矢という使い捨ての武器を使う。だから、弾ぎれになったら基本は戦えない。


「だから、アーチャーは矢の弾数とか、矢の種類とかを気にしながら戦うものなんだけど……"異端狩りの千堂"はちょっと違ってね」

「?」

「矢が特殊なのよ。千堂は。これは主に黒色である、私達の仕事なんだけどさ。すべての矢が千武なの」

「あ」


 そうか。千堂の黒色は生産職。そして、その生産技術は世界一。


「だから性能が抜群なの。『概念付与』された矢を放ったらもう威力はとんでもないことになるでしょうね」

「じゃあさっきのも……」

「ええ。『概念付与』されてるものよ。でも本当にすごいのは矢筒」

「矢筒?なんで?」

「矢筒に『概念付与』されてるの。『爆発付与を付与』が」

「は?」


 それって矢筒にいれた矢は全部爆発付与されるってこと?そんなのあり?


「反則よね。まぁこんなものを作れるのは"一の黒"である修栄さんぐらいなんだけど。私はまだ『概念昇華』もできないから『概念付与』すら成功させたことないしね」


 でもその矢筒があれば矢さえあればいつでも最強の矢ができるのか。なんて千武だ。


「あの人まだその類の矢筒を数種類持ち歩いてるみたいだし、矢だって木があれば自作で作れるらしいから……」

「実質無限の武器を持ってるわけか。弾切れしない遠距離攻撃なんて敵にしたら悪魔以外の何ものでもないね」


 絶対に敵にしたくない。敵になることは皆無だろうけど。

 すると、夢幻が不意に叫ぶ。


「! 敵補足。五十メートル上空」


 見上げると、上には教会の屋根を突き破ったであろう大きな穴があった。そして、地表付近からこちらを覗いているであろう二人の頭らしきものが見える。


 僕らはそれを見ていながらも、ゆっくりと近づいていく。そして、お互いの顔が見える距離になった時。


「おや?ヒカリ君ではありませんか」

「ひ、ヒカリ!それにレインにジュリーも!早くこちらへいらっしゃい!すぐに手当てを!」


 なんて白々しいのだろう。僕を油断させて近づいたところを記憶操作するに違いない。

 僕は突然、少し前の安具楽さんのセリフを思い出す。


『実際に襲っちまえばいいんだよ、あんなもん。そしたらあいつだってそれを受け入れるしかなくなる』


 それはイヴに発情させられていた戦闘の記憶。安具楽さんは抵抗するから支配されるのだと言った。では抵抗せずに近づいたらどうだろうか?


 これはチャンスだ。向こうが誘っているから近づいても不自然ではない。今しかない!


「し、神父様!ゆかりさんも!ふ、二人を助けてください!」


 僕は二人に駆け寄る。レインとジュリーを抱いたまま。そして地表に辿りついて、二人に話す。


「ど、どうか二人を!」

「そ、そうね!でもまずはヒカリに怪我はない?大丈夫?」


 ゆかりさんが僕に触ろうとする。ここだ!





「まだ甘いですよ」





 それはまたもや水城さんの声だった。その声が聞こえた瞬間にゆかりさんのいる場所に向けて一本の矢が頭上から降ってきた。


 バシュ!


「くっ!」


 ゆかりさんは矢が当たる瞬間に後退してそれを避けた。

 甘い?でも僕は逆に襲おうと……


「あなたも攻撃しようとしたのでしょう?悪くは無い手ですがね。この場合は相手の方が一歩上手です。足元を見てください」


 足元?


 そこにはいつの間にか小瓶が落ちていて、蓋が空いていた。これは何?


「その中には何やらよくないものが入っていたようですね。おそらく死刻虫しこくちゅう。一言でいえば寄生虫です。その虫が体内に入ると様々な作用が起きると言われています。あなたの『弱点に至る一撃』でも防げるのかは微妙なところでしょう」


 確かに。細菌兵器はその効果が『死』にまつわるものであれば、自動で防御することができるが、ただの寄生虫であれば、意識的に防御しなければ防げるのかどうかは五分五分といったところか。

 でもなんで水城さんはそこまでわかるんだ?


「いいですか、ヒカリ。戦闘とは相手より強く、賢くあらねばいくら自分の能力が高かろうと簡単に裏を突かれて負けてしまいます。その女は見るからに性格の悪い顔をしているでしょう?このくらいは平気でやってきますし、まだ奥の手を平気で残している筈です」


 ゆかりさんが性格悪い?ただの美人なおねぇさんという見た目なのに……。でもそうか。今まで僕を騙してきた粛清隊のメンバーでもあるんだ。逆にこういう顔だからこそ意地が悪いパターンもあるだろう。


「あらあら。ヒカリ。それに声だけの人も。そんなに私を悪者にしたいのかしら?」

「そうですよ、ヒカリ君。ゆかり君に謝りなさい。家出の件はもう怒っていませんから」


 今更……今更何だってんだ! 僕に追手をたくさん送っておきながら、レインとジュリーを拷問しておいて、更には怒ってないから謝れ?ふざけんな!


 あーもうだめ。ダメだよこれは。今まではさ。なんとか我慢してきたんだ。冷静にならなきゃって。僕は孤児なんだからって。偽りの家族でも行為は本物だったって。だから少しは我慢しないとって。


 でももういいや。ここまでされたら何も思わねぇ。何も感じねぇ。こいつらはクズだ。自分たちが一番正しいって思い込んでる。こんな奴らが人を導くなんてありえねぇ。


「…………もういい。もういいよ、二人とも……。いや、


 赤嶺善導と赤嶺ゆかりはヒカリの様子が変わったことを感じ、さらに距離を取る。その隙に小雪と夢幻は穴から脱出する。


「お前らはもう完全に敵なんだ。これ以上御託ごたくを並べてんじゃねーよ」


「ヒカリ。反抗期」

「ひ、ヒカリの口調が安具楽さんみたい……」


 夢幻と小雪はその変化に若干引いていたが僕はもうそんなことを気にしない。邪魔な眼帯を外し、僕は宣言する。


「あんたら、もうウザいんだよ。いい加減家族面すんなよな。千の道は悪の道。"異端狩りの千堂"。ランク未定。千堂ヒカリ。はお前らを拒絶する」


「「!!」」


 善導とゆかりは驚愕する。今まで二人はなんだかんだでヒカリに記憶操作した分、自分たちに甘い部分が残るよう、実際に交流を深め、敵意を削いだつもりだった。だから、何が起ころうともヒカリ自身の甘さでどうにかなると思っていた。


 しかし、今。目の前の少年は敵意をむき出しにし、千堂独自の必殺の誓い別れの挨拶を口にした。これはもう完全に教会を捨て、千堂に寝返ったことに他ならなかった。


「ゆかり君、ここはマズいです。千堂が何人もいるとあっては私たちはどうあっても勝てません」

「そうですわね……。ではレインとジュリーにも頑張っていただきましょうか」


 ゆかりはそう言うとニヤっと笑う。しかし、いつまでたっても何も起こらない。


「ど、どうして!?」

「失笑。解毒完了」

「な、なんですって!?」


 そう、レインとジュリーにかけられていたのは暗示だけではない。もしもの時の為、死刻虫やその他あらゆる虫や毒を二人の体内に忍ばせておいたのだ。けれど、それが目の前の少年によって、解毒されたのだという。


 普通の人間にはできない芸当だ。一種類だけでなく、何種類もの仕掛けを全部見極め、解毒・解除するのはこの短時間では不可能に近い。

 ゆかりは焦る。


「い、一体どうやったんですか?」

「? 疑問。義務無し」

「はぁ?」


 ヒカリはイライラしてゆかりに言う。


「なんで敵に言う必要あんのかっ言ってんだよ!バカじゃねーの?あんた」

「ば、バカですって!?」

「あたりめーだろ?そもそもやること為すこと全てが陰湿で小賢しぃんだよ。家族ごっこしたけりゃ粛清隊なんかやめちまえ!」

「わ、私はただ普通の人々の生活を守るために……」

「だから何してもいいってか?人以外なら殺そうが利用しようが関係ないだって?そんなわけあるかボケェー!」


 ヒカリは足元の小瓶を蹴り上げる。小瓶はゆかりに向かって飛んでいったが、直前で躱されてしまった。

 クソがっ!


 水城さんの声が聞こえる。


「いい宣誓です。やっと立派な反抗期が来ましたね。では指揮官。指示をお願いします」


 ヒカリは考える。この二人がレインとジュリーだけを奥の手で用意するはずがない。もしもの為の逃走ルートと伏兵が潜んでいる場合が高い。よって……


「水城さんは二人の脱出を阻止。夢幻はレインとジュリーを頼む。俺と小雪は二人を追い詰めるが、おそらく伏兵がいるだろうから警戒を」

「いい判断です。少しまだ甘いですが、もう立派な指揮官ですよ」


 水城さんが褒めてくれる。しかし、今はこの二人を追い詰める。いや………殺す!


 神父とゆかりは顔を見合わせると全力でその場を離脱しにかかった。

 俺はレインとジュリーを地面に置くと、小雪と二人で追いかける。


「夢幻!二人の治療と保護を優先!」

「了解。ご武運を」


 これは制裁でもあり、復讐だ。今まで俺を騙してきたことの報いを受けさせなければ気が済まない。ああ、どう殺すのがいいだろうか。


 もはや二人に対して情はない。散々俺を下に見てたんだ。今度は俺が貴様らを見下ろし、世界の果てまで堕としてやるよ。









 案の定、外に出ると森の外から、地面から。何体もの鬼や天狗、狼の群れが飛び出してくる。しかも、その手には斧が、槍が装備されており、体にはこれでもかと鉄の鎧が巻き付けられていた。


 善導はそのまま森の中に消えていったが、ゆかりはヒカリと小雪を迎え撃つ。


「ふぅ、あなた達二人を足止めするなんて、まったく。こんなの勝てるわけないじゃない」


 ゆかりは焦る。一人は何でも相手より強い攻撃を放てる『弱点に至る一撃』の持ち主。時間は稼げても、こちらから攻撃するのは無意味。ただの消耗戦だ。それに、横の女は何の能力者なのかすらわからない。これではいくら何でも分が悪すぎる。

 ヒカリは小雪に向かって言う。


「手を貸せ」

「! わかったわ」


 ヒカリは自分の手を地面につける。それを見た小雪もヒカリの手に重ね合わせる。


「行くわよ!」


『千堂流黒式 即興合体技 千の死針』


 小雪が手を地面につけたところからいくつもの小さい針が敵に向かって飛び出す。本来、そのような小さな針では傷一つ付けられないのだが、そのすべてに『弱点に至る一撃』が付与させる。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 いくつもの悲鳴が聞こえる。当たったところは溶けたり、粉々になったりして、いくら鎧があろうとも関係なかった。


「めんどくせぇ!『概念昇華』!」

「!?」


 小雪は驚くが、ヒカリはそんなこと知らねぇとばかりに能力を一段階上げる。

 『弱点に至る一撃』から『死に至る一撃』へ


 この瞬間、少しでも敵に当たったら強制的に『死』に至る。いくつもの妖魔が悲鳴すら上げずにバタバタを倒れる。すでにそこら中に死体が転がっている。死屍累々だった。


 それをみたゆかりも流石にこのペースでやられたらまずいと思ったのか。ダッシュで森の中に駆け込む。


「! 小雪。残りの雑魚は頼む!」

「え?で、でも一人で大丈夫!?」

「ああ。これは俺の問題だ!俺が片を付ける!」


 そうしてヒカリはゆかりを追い、森の中に入る。ゆかりがいくら祝福を使おうが、千堂の身体能力相手に逃げられるはずもなく、すぐに追いつかれた。


 ゆかりは諦めたように息を整え、ヒカリを見る。

 ヒカリはその様子を黙って観察する。よく見ると、ゆかりの手には五本の突起が付いた槍が握られている。


「ひ、ヒカリ。話し合わない?私達、まだやり直せると思うの」

「何彼女面してんだよ。それにわかってんだよ、あんたがまだ諦めてねぇって」


 諦めてないから明らかな無駄話をするし、槍だって握ってる。そんなもの、見れば当然の事だった。


「ひ、ヒカリは昔私の事好きだったでしょ?私、知ってるのよ?まだ気持ちがあるのなら、私を好きにしていいわ」


 そう言うと、ゆかりはその修道服をゆっくりと脱ぎ始める。その肢体はこの状況でなければ男であれば反応するほど艶めかしい行為だった。しかし、今のヒカリには通用するはずもない。

 また安具楽の言葉を思い出す。


『俺は意識的にあの女を敵だと認識した。百パーセントな。だからあいつに対しては一切性欲なんて湧かなかった。敵ならそいつが女だろうが子供だろうが関係ねぇ。ただ殺すだけだ』


そうだ。俺には攻撃は効かないが、こういう刺激は受けることがある。これから先、俺に弱点があるとすればこういったものばかりだろう。だったら俺はこれを意識的に制御する。安具楽さんがやってたんだ。俺にできない道理はない。


「ゆかり。俺はお前を殺す。裸になっても殺す。謝っても殺す。泣いても殺す。反抗しても殺す。そして…………

「ひぃ!」


 それは何か月も前に聞いた言葉だった。『死に続ける一撃』。具体的な説明はされなかったが、言葉でわかるだろうと。それを今からするとこの青年は言うのだ。


ゆかりはその場に力なくへたり込む。


「お、お願いよぉ!ヒカリ!命だけは!命だけはお願いだからぁ!」


 それをヒカリは何の表情もなく見下ろす。そして、静かに口を開いた。


「言っただろう?謝っても殺すって」

「あ、あぁぁぁ………」


 ゆかりの座った地面から何やら水があふれだす。ヒカリはそれを尿だと思うとゆかりを蹴飛ばした。


「おいおい、汚ったねぇなぁー!仮にも大学生のシスターがよぉ!失禁してんじゃんぇーよ!」


 ドゴォ!


鈍い音を立ててゆかりは地面に横になる。もはや立つ気力すらない。


「ひ、ヒカリ。あ、あなたは記憶が戻らなくてもいいの?」

「はぁ?」

「あ、あなたの記憶操作は私がしたこと。だ、だったら私が記憶を元に戻せると思わない?」


 そうだ。この手がある。これがある限り自分はまだ殺されない。そう思っていたのだが。


「………俺はずっと疑問だったんだ。あんたのしてたことは記憶の消去でなく、記憶の操作。記憶の改変だ。それをするにはあんたあまりにも時間をかけていないように思える」

「!!」

「正確にいつ、どんな風に記憶操作してるのかはわからないが、おそらく一日単位でやってたんだろ?何日分もの記憶操作を。それは普通に考えたらおかしいんだ」


 一日の記憶を操作する場合、一日以上の時間を必要としないとおかしい。記憶の編集をするには、元の記憶を全部見て、そこから記憶の辻褄つじつま合わせをするのだからどうしても時間がかかる。それを一日でするというのなら……


「あんた基本的に?」

「!!」


 記憶の編集ではなく、記憶消去からの記憶の改ざん。だから、細かい記憶ではなく、大雑把おおざっぱな記憶しか覚えていない。そして、記憶の消去は基本、復元は難しい。だから……


「お前に復元なんざできる筈もねぇー。ただの言い逃れだ。それに俺の過去はお前に消されたようなものなんだ。絶対に楽には死なせねぇーよ」


 ヒカリはゆかりの首を掴む。


「……!!?」


 声を出したいが出せない。それは、首を絞められていることもあるが、それ以外の理由で出すことができない感覚だった。


「『死に至る一撃・部分殺し』だ」

「…………」


 それは『死』の概念を『部分』的に付与する技。この場合は『声』が『死』んだため、ゆかりは今後一切の声を出すことができない。


じゃあな、ゆかりバイバイ、シスター今までありがとうもう生きなくていいよ這いつくばって死にやがれ永遠にさようなら


 ヒカリは最後にその能力を発動させる。


 『死に続ける一撃・地獄堕とし』


 それは相手の五感全てを殺す、回復不能の技。『視覚』『聴覚』『味覚』『嗅覚』『触覚』を永遠に奪う。

 しかし、ヒカリはある感覚だけは残しておいた。それは……


「『痛覚』だ。それだけは残しといてやったぜ。、まぁもう聞こえてないだろうけどな」


 そう言うと、ヒカリはその場を後にする。おそらく大丈夫だと思うが、小雪の身を案じて。


 後に残されたのは顔をぐしゃぐしゃにした哀れなシスターの体のみ。 

 森の獣たちがその体に興味を示さんと、ゆっくりと近づいていった。

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