第68話 依頼完了報告
場所は研究室の『遺伝子書換・テロメア長回復装置』装置内。
閉空間から俺成分だけ抜き出して、残った閉空間をそのまま装置内に展開、蓋を閉めて装置を起動する。
装置には肉体再生中に散逸しかける意識を保持して維持する装置もつけている。
だから散逸しかけたロッサーナの意識が戻って維持できる可能性がある。
その可能性に俺はかける。
装置のパラメータを設定し直す。
ロッサーナが狂い始めたと言ったのは8年前、ロッサーナが10歳の時だ。
だから若返り完成年齢を10歳に設定。
そのはじめからもう一度やり直せば大丈夫な筈、そういう計算だ。
10歳では今のカルミーネ君より小さい位だよな。
でもきっと魔力と思考力は現在の俺並みかそれ以上だろうな。
何せ元がロッサーナだから。
そう務めていい方の想像だけをするよう心がける。
そうしないと俺がちょい精神的にヤバいから。
どっちにしろ結果はいつかは出るけれど。
そうだ、以前は装置の魔法力が少なかった為に俺が目覚めるまでかなり時間が掛かった。
ならちょっと魔石をプラスして装置の性能をあげてやろう。
白竜はこれ以上狩ると絶滅しそうだから黒竜がいいな。
俺は任意移動で
何せじっとしていると悪い想像ばかりしてしまいそうだから。
こういう時はとにかく動くに限る。
黒竜ならまあ相手に不足は……ちょっとあるか。
あの時のロッサーナよりは弱いよな間違いなく。
でもまあ気晴らしに充分な材料になるだけ捕獲しておこう。
絶滅しない程度に。
◇◇◇
装置は大分原型より大きくなっている。
ロッサーナが入っている場所そのものは前のままだけれども。
設計を再検討して材料を狩って集めてもう一度設計を見直して材料を組み立てて。
色々狩って材料も集めまくって装置を更に改造して。
ただそれだけを夢中で連続でやっていた。
ぶっ通しで寝ずにただひたすら。
これでほぼ改良点は無いな。
そう思って、そしてふと思った。
この部屋に来てからどれくらい時間が経っただろうと。
そんなに長い期間では無いだろう。
せいぜい3~4日ってところだ。
それでも何故かずっと長い事ここにいたような気がする。
その割にほんの短い間だったような気もするのだ。
窓の外は夜。
ちょっと外へ出てみようか。
俺は扉を開け、部屋の外へ。
何回かサリナ達が通った気配がある。
俺の様子を見に来たのだろうか。
風呂へ来るついでに俺が研究室にいる事に気づいたのかな。
サリナ達ならもう気配だけで俺がいる事がわかるから。
だが研究室には立入禁止の札がかかっている。
だから遠慮して中はのぞかなかったのだろう。
ひょっとしたらリーザさん辺りから色々聞いているのかもしれない。
明日には会いに行った方がいいかな。
そう思う。
ふと家の外に気配を感じた。
知っている人の気配だ。
だが本来ここには来ない筈の人の気配。
俺は玄関から外へ出る。
「もう大丈夫ですか」
「やれる事は全てやりました。あとは時を待つだけです」
「そうですか」
ラシアさんは小さく頷いた。
「どうやってここに?」
「リーザに移動して場所を確認してもらった後、設置していただいた転移門でシデリアの街まで出て、そこから走ってきました。私ではこの家の中には入れないようなので、ここで待っていました」
おいおい。
「相当な時間がかかりませんでしたか」
「シデリアからここまで、本気で走れば3時間程度で来ることが出来ます。これでも足に自信がありますし、
何だそのチートは。
そう思ってそして思い出す。
「そう言えばシデリアからネイプルまで転移門を確認しにいらしたんですよね」
「あの距離を日帰りするのは流石に結構疲れました。転移門の魔法も解析できなかったので一層疲れました」
どういう足の速さだよと思う。
シデリアからネイプルまでおよそ
俺が下手に飛行するより速いのではなかろうか。
まあラシアさんはこう見えて
きっと色々チートを極めているのだろう。
俺とは違った方向で。
「それでここまでわざわざ何の御用ですか」
「冒険者ギルドの
「それでは簡単な方の用件からどうぞ」
「はい」
ラシアさんは頷く。
「それでは依頼完了の報告から。
スティヴァレ王国の新体制への移行は全て完了いたしました。既に全ての組織が予定通り発足し、業務を開始しています。裁判院については今まで存在しなかった組織ですので当座は冒険者ギルドの一角を借りる形になりますが。
指名依頼した冒険者もそれぞれ、元の冒険者や業務に戻るなり、元々やっていた軍や役所等に戻るなりして移動を完了しました。
なおお借りしていた転移門等についてはシデリアの冒険者ギルドで保管しております。いつでもお返しできる状態になっています」
「ありがとうございました。そしてもう一件の方、個人的な用件とは」
「私を恨んでいるでしょうか」
そのラシアさんの台詞で俺は察する。
「ロッサーナの事、
「確証はありませんでした。でもおそらくそうだろうとは思っていました」
「何故そう思ったのですか」
「ロッサーナ殿下が闇系統魔術使用できる事、及び使用できるようになった時期。貴族や王族しかわからない襲撃された領主の行動日程が漏れていた件。
「どこまで気付いていましたか」
「ロッサーナ殿下が
なるほど。
「この事は他に誰か知っていますか」
「私だけです。リーザ達は知りません。気付いてもいなかっただろうと思います」
「そうですか」
もしこの事をラシアさんに聞いていたら何か変わっただろうか。
そう考えて、そして俺はその考えを打ち切る。
もしという可能性はきっと無い。
この世界の原因と結果の関係はそういった可能性を許さない。
空間系魔法使いである俺はそのことをよく知っている。
きっとロッサーナがパーマの戦闘に行っていたのも必然だった。
自警団の団長と出会い、
もしと言って責めるならこの事を教えてくれなかったラシアさんではない。
8年前に間に合わなかった俺を責めるべきだろう。
「既に閉じてしまった因果関係は変えられません。出来るのはまだ因果関係が閉じていない、ロッサーナのこれからについて期待するだけです」
「殿下は今どうしていらっしゃいますか」
「装置の中で眠っています。時がくれば目覚めるでしょう。目覚めるのがロッサーナなのか、記憶の残っていない肉体なのかはその時でないとわかりません」
そう言って、そしてふとある事を思い出す。
「もし記憶がある状態で目覚めてもロッサーナでは無いですね。冒険者で私の妹のロザンナです。私がジョアンナであるのと同じように」
「そうですね」
ラシアさんは頷き、そして俺の方へ向き直る。
「それではこれで失礼いたします。色々ありがとうございました」
「送りますよ。こちらの転移門を使った方が楽ですから」
「いえ、大丈夫です」
ラシアさんは首を振る。
「少し独りで夜風に吹かれたい気分です。幸いギルドは半月程お休みをいただいていますから」
そう言ってラシアさんは道の無い森の中へと歩き出す。
その姿が森の中の闇に完全に消えるまで、俺はラシアさんを見送った。
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