第12章 最後の仕上げ
第64話 犯罪組織の影
民衆院の選挙は村や街等、地区毎に候補者を擁立する方式。
なので最初は無投票はおろか立候補者がいない地区が出ないか、俺達としては結構ひやひやものだった。
何せ選挙なんて行為そのものがはじめてで、しかも発表から実施まで約一か月という超短期。
そもそも政治とか政治運動とかわかっていない方が多い状態だ。
いったいどうなるか、はじめて見なければわからない点が多い。
だから出来るだけ地域の有力者等には出馬するよう話をもちかけ、更に議員の待遇等や意義、仕事内容等を記載したパンフレットを金属版画で作ってまいたりした。
幸いこの国は識字率そのものは低くない。
9割以上は文字が読める。
義務教育なんて異世界にあるような制度こそ無いが、大体親から子へ文字くらいは教えるという教育が出来ているようだ。
サリナやカタリナ、カルミーネ君も文字が読めるしな。
表音文字で文字数が16文字と少ない事が幸いしているのだろうか。
さて、候補者受付の段階で俺達は予想以上の事態を迎える。
立候補者多すぎだろ問題だ。
どこの選挙区も倍率が10倍を超えている。
西部にある某村など定員1のところに村の成人ほぼ全員が立候補していたりする。
うーん想定外通り越して俺にはよくわからない。
結局全員受け付けたようだけれどどうなるのだろうか。
まあ俺が関与する事は特に無いけれど。
事務方さん、頑張ってくれ。
さて、この段階まで来ると俺達も結構余裕が出てくる。
というかぶっちゃけ暇だ。
この場合の俺達とは俺とロッサーナ、それにリーザさんを指す。
ラシア達事務方は選挙期間に入って更に忙しそうだし、エンリーコは立候補したので選挙運動関連の演説会だので忙しい。
だが国王代理としてやる仕事はこの期間ほとんど無い。
運輸仕事も多数の転移門と飛行魔道具のおかげで俺が必要な事はほぼなくなった。
リーザさんは最近はほぼ俺達国王代理担当なので俺達が暇なら暇。
立候補中のエンリーコは退役軍人主体の後援会の皆さんと行動しているし。
そんな折、リーザさん経由である情報が入って来た。
「これはラシアさんからではなくラツィオの冒険者ギルドから入って来た情報よ。ジョアンナさんとロザンナさんは
何だそれ、俺は知らない。
でもロッサーナは知っていたようだ。
「犯罪組織の事でしょうか」
「ええ」
リーザさんは頷いて続ける。
「
アレドア伯爵家襲撃の件については俺も覚えている。
何せ俺が観察に行く直前だったしロッサーナも近くにいたしな。
「それでその一大作戦とは何でしょうか」
「新政権発足の日の武装蜂起。情報によるとね」
なるほど。
この日は政権の重要人物が全員王宮に集まる。
そこを叩いて出来上がった政治体制そのものを潰せば
確かにそうなれば犯罪組織には都合がいいだろう。
「
「組織そのものは8年位前に出来たのではないかと言われているわ。戦争で荒廃したパーマの街の自衛組織だったともいわれている。でもあっという間に規模を拡大し、今では中部ほぼ全域と北部の中部寄り地域に広がった状態。
ただ組織そのものについてはほとんどわかっていないのが実情よ。秘密保持体制が強力で衛視庁や冒険者ギルドも組織の下っ端しか把握できていない。
「なら何故武装蜂起の情報が入ったのでしょうか」
「組織が故意に流しているのでしょうね」
「新政権と民衆に対する脅しか」
「ええ」
なるほど。
「何か手掛かりみたいなものはないのでしょうか」
「一応
これが資料を複写したもの」
うーむ。結構分厚い資料だ。
「これ複写するの大変だったんじゃないですか」
「自動複写魔法で何とかなるわ。時間と紙は必要だけれども」
「そんな魔法あるんですか」
「最近開発された熱系統と風系統の複合魔法よ。風魔法で紙をめくって熱魔法で紙を薄く焦がす感じ。薄い紙だと穴があいちゃうからそこそこ厚い紙でないと出来ないけれどね」
うーむ、知らなかった。
俺とロッサーナはとりあえず資料を読み始める。
ちょっと読んでみてわかった。
確かにこれ、手掛かりが無さすぎる。
何せ犯罪の実装行為を行い拘束された者は全員拘束された時点で死亡。
騒擾事案の場合は主だった群衆は何も覚えていない状態だ。
何せ魔法で表層記憶までは調べられるので間違いない。
更に読み進めてみてわかった事がある。
「ある意味典型的な義賊ですね。これは」
襲撃対象は買い占め等不正な利益で民衆を苦しめた商家。
もしくは内戦で侵攻してきて臨時徴収と称して略奪等を行った軍隊。
あとは私腹を肥やした貴族に対する恐喝も結構あるらしいが、これは貴族側も知られたくない事項が多々あるから表には出ていない模様。
「でも襲撃犯は重犯罪者がほとんどよ。捕縛に成功した者は、だけれど」
「捕縛した者は全員その場で死亡。暴動に参加した民衆は催眠魔法の痕跡以外には記憶も何も残っていない。故にそれ以上背景がつかめない訳ですわね」
パーマにおけるベニート軍襲撃。
ラツィオのボノゴレン商会打ちこわし事案。
同じくミノガサル商会打ちこわし事案。
テーヴェレ侯爵領内の大規模騒擾事案。
スベイン伯爵領での大規模騒擾事案……
襲撃犯うんぬんを除けば民衆に支持されそうな事ばかりやっている感じだ。
でも、それならば。
「今回の武装蜂起の理由がわかりませんわね。それなりに今の新体制は民衆にも支持されていると思いますけれど」
「国王家をはじめとする権力に根強い不信感があるのかもしれない」
「それにしても
「民衆に支持されているせいでしょうか」
資料を読みつつ俺は微妙に嫌な予感。
ただその予感の正体はこの時はまだ俺にもわからなかった。
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