第63話 俺の未来の光と影

 憲法の公布については一応国王代理筆頭として署名とか読み上げとかそれっぽい仕事をした。

 でもそれ以外の俺の仕事は任意移動魔法を使用した巡検や監査、単なる荷物運びなんて仕事も多い。

 今回の憲法が古い大貴族に大変評判が悪いので、また見せしめとして巡検や監査をびしばしとやらせてもらった。

 まったく大貴族達あいつらは国を何だと思っているのだろう。

 領民を含め私腹を肥やす種くらいにしか見ていないのではないだろうか。

 だがそういう意味では悪いが現在の専制政治の頂点は俺様なのだ。

 権力には権力と魔力で殴らせてもらう。


 古い大貴族の中にはとんでもない奴もいる。

 今回の憲法に腹を立て内乱を起こそうとしたなんて奴が。

 ちなみに事前に各世界の書物等で俺が調べた限り、内乱予備罪は何処の法律でも大体最高刑まで。

 ただ今は忙しいのでいちいち刑の執行なんてしていられない。

 今度はリーザとロッサーナの2人を伴って彼らの本拠地を赴き、ロッサーナの魔法で行動不能にした後、本人及び一族、重臣らを全員魔法で判定。

 有罪と認められた者は毎度おなじみ保護施設送りとした。

 彼らは新体制になった後、新たな司法制度によって裁いてもらう予定だ。

 今はまだその機関も設立中だから後程憲法および法律、更に判定官と裁定官によって判断して貰おう。


 まあそんな感じで古い大貴族とそこそこ古い中貴族あわせて数家をお掃除した結果、大分皆さん大人しくなった。

 となると国王代理だけではなく冒険者としてのお仕事も入ってくる。

 やれ設置型簡易転移門の場所変更だの書類運搬だのだ。

 ただ以前行った転移門の増設と飛行魔道具の配布のおかげで、運搬作業は大分減って来た。

 何せこの組み合わせを使えばある程度の魔法使いなら1日以内に国内の何処でも往復可能になっている。

 最も早い文書配送方法が飛脚だった頃に比べると一気に進化した訳だ。

 まあこれが無ければ3か月で大改革なんて出来ないけれど。


 そんながやがやした日々だが最近は必ず夕方すこし前には家に帰っている。

 先の見えない仕事が無くなったおかげだ。

 だから森の家でゆっくりお風呂なんてのも日課に戻って来た。

 タイミング次第ではサリナやカタリナ、カルミーネ君も入ってきたりする。

 更にリーザさんも俺と同行する業務が多いからそのたび誘っていたりするのだ。


「この家はまだまだ部屋があるわよね。なら1部屋借りて私も住もうかな。冒険者ギルドの副支部長サブマスターやめて冒険者に戻って」

「リーザさんは冒険者もやった事があるんですか」

「ほんの少しの間よ。でも一応Cランク」

「リーザさんなら本来はAランク行けますよね」

「そこまで仕事しなかったしね。難民が気になったから結局ネイプルの冒険者ギルド勤務に落ち着いちゃったし。でもまた冒険者に戻るのもいいかな。もう難民も気にしなくていいしね」

「だったらうちのパーティはどうですか。大歓迎しますよ。サリナもカタリナもカルミーネもリーザさんなら大歓迎ですし」

「ありがとう。今の仕事が落ち着いたら考えてみるわ」

 このたわわな胸を今後も味わえると思えば大歓迎だ。


「私も歓迎いたしますわ」

 浴槽内、隣からロッサーナのそんな台詞が聞こえる。

 でもロッサーナ、お前は正直いらない。

 俺は妹には興味は無いのだ。

 『妹萌え』が存在する世界もあるらしいのだが俺はどうしても理解できない。

 妹はあくまで妹だ。

 しかも今はロザンナという名前で姉化までしやがっているし。

 ただロッサーナの闇魔法は洒落にならないからそう表向き言う事も出来ない。


「そう言えば今度の民衆院の選挙、エンリーコも出馬するってお兄様ご存知ですか」

 えっ、何だと!

「あいつ立候補の資格あったっけか」

「今の国王代理3名は内戦の責任を取って王家の籍を離れます。ですので問題は無いですわ」

 おいおい。


「でも大丈夫なのか、本当に」

「レティシア王妃から離れれば割とエンリーコもまともですわ。考え方もそれなりにしっかりしていますし、一応第二王子としての教育も受けていますから」

「しかし何で立候補なんてするかなあ」

「あれでも軍内では結構人気がありますのよ。それで軍の立場を代表して是非立候補してくれと各方面から頼まれたみたいで」

 なるほど。


「でもあの王妃は大丈夫なのか」

「本人はもうレティシア王妃から離れると言っていました。レティシア王妃の意見で無理やり動かされていい加減愛想が尽きたそうです。離れてみて一層そんな思いが強くなったと言っていましたわ」

 なるほどな。

 ならばだ。


「なんならロッサーナも立候補すればどうだ。ロッサーナおまえだって結構官僚のみなさんとかから支持があるだろ」

 ちなみに国王代理の3人で一番支持が少ないのが俺である。

 やっぱり指示とか演説とか応援とかを身近で何度も聞いていると支持したくなるものらしい。

 俺はそういった事をする機会が少ないからな。

 むしろ監査とか保護施設送りとか怖い仕事を率先してやっているし。

 この件が終わったら姿をくらます予定だから必要最小限以上は表に立ちたくないというのもあるけれど。


「私はやっぱりお兄様と一緒がいいですわ。ですので立候補等したくありません」

 ちぇっ、厄介払い失敗したか。

「それともお兄様は私と一緒は嫌ですの」

 あ、まずい。

 最近ロッサーナ、闇系統魔法の使い過ぎか時にヤンデレ化するのだ。


 ◇◇◇


 あれは昨日の昼下がり。

 会議が終わった後、3人でこの体制が終わったらどうしようかなんて話をしていた時の事だ。

 あの時はエンリーコは、

「地方都市にでも行ってのんびり暮らしたい」

なんて言っていた。

 それに対してロッサーナが

「お兄様と一緒に冒険者をしたいですわ」

なんて台詞を吐いた。

 なので俺が、

「でも俺はサリナやカタリナ、カルミーネ君で手いっぱいだしな。ロッサーナの面倒までは見れないぞ」

なんて言ってしまったのだ。


「お兄様、私の事が嫌いですの」

「嫌いじゃないけれどさ。でも兄妹だし元国王代理だし一緒じゃない方がいいだろ」

 その時だった。

 ロッサーナから一気に魔力が噴出した。

 部屋の気温が一気に低下。

 側でロッサーナの魔力の波動を受けたエンリーコが気絶してぶっ倒れる。

 真っ暗な闇が発生して周りに広がりはじめた。

 中心は勿論ロッサーナ。

 闇がゆっくり広がりながら周辺の全てを喰い始め、食われた部分は色を失い粉々になって散っていき……


 俺は気付いた。

 これはロッサーナの心の闇だ。

 ヤバい、これはヤバい。

 このままでは少なくともこの部屋とエンリーコが闇に喰われてしまう。

 俺は必死にリカバリー策を考えて、そして。

「まあでも大丈夫か。元王家の人間が冒険者なんてしているとは誰も思わないだろうしな」


 何とか言えたその台詞で闇の浸食が止まる。

「本当ですか。私もご一緒しても大丈夫でしょうか」

「勿論だ。サリナ達もロッサーナに懐いているしさ」

「ならいいですわ」

 闇が完全に消え、気温も元に戻っていく……


 ◇◇◇


 結局あの時は、

  〇 絨毯と床の一部が灰化して損傷。

    床は俺が土魔法等で応急修理。

    絨毯は今はそのままだがいずれ要交換。

  〇 エンリーコが気絶して倒れる。

    毛足の長い絨毯の上だったので幸い怪我等無し。

    椅子に座らせて魔法で記憶処理。

という措置で誤魔化した。

 ここは危険を避ける為にも少し機嫌をとっておこう。


「そんな事は無いな。サリナ達もロザンナの事は好きだしさ。この仕事が終わったら一緒の部屋を作ろうな」

「そうですね。カタリナちゃんが『一緒の部屋がいい』って言っていますものね」

 どうやら危機は回避されたようだ。

 念のため更に次の手を打っておく。

「あと出先で美味しそうなベニエを買ってきたからさ。風呂上がりに食べようか」

「それは楽しみですわ。ならサリナちゃん達が来てお風呂からあがる際に一緒に食べましょうね」

 よしよしこれで大丈夫だろう。

 俺はふーっと一息つく。


 それにしてもこの仕事が終わった後もこんな苦労は続くのだろうか。

 何か解決方法は無いのだろうか。

 何かもう、希望が見えない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る