第62話 次の段階

 あるときは国王代行筆頭として、ある時は冒険者ジョアンナとして。

 日々こき使われ、もとい頑張って働いた結果、俺の冒険者ランクはついにBランクになった。

 これでよほどの事が無い限り全ての依頼を受けることが出来る。

 ただ俺の知らないところで密かに冒険者ロザンナがCランクまでランクアップしていた模様。

 リーザが教えてくれたのだが、どうもロッサーナとして行った国民に対する演説だの選挙出馬予定者への激励だのでポイントを稼いだらしい。

 これでますます将来的につきまとわれる要素が増えたような気がする。

 魔道具作成や配布、設定等を終えて久しぶりにカナル村へ行った際、完全に3人を手なずけてしまっているのを確認したし。

 なおカナル村の家はリーザもちょくちょく様子をみてくれているようだ。

 俺としては大変有り難い。

 それにリーザは今後とも色々お付き合いいただきたいのだ。

 特に風呂とかで。


 なお俺とロッサーナ以外のもう一人の国王代行、エンリーコも日々真面目にお仕事をしているようだ。

 彼の場合どちらかというと軍隊を中心に色々見て貰っている。

 軍隊と言っても今は戦闘ではなく色々な場所の復興支援作業がメインだ。

 戦闘で荒れた街や田畑を整備し直したり、道路や橋の修繕をさせたり。

 エンリーコは見かけはなかなかガタイが良くて見栄えもいいので軍を廻って激励させるにはちょうどいい。

 そんな感じで作戦が始まってから約2ヶ月。

 俺達国王代理3人に対し、ラシアから計画の進捗状況の説明があった。


「経済の回復状態は予想以上です。難民の復帰や新開拓地への定住、内戦終了による流通網の回復、インフラ整備の影響も大きいですが、最も影響が大きかったのは転移門による国内交通網改革でしょう。比較的内戦の影響が小さかった南部からの農作物等が中部や北部へと流通し、北部の鉱産資源や中部の加工工業などが南部に流れる等今までになかった流れがみられます。また国民もこれらの流れを大いに歓迎している

模様です。

 また住民登録作業もほぼ終わりました。そこでそろそろ改革最後の仕上げを行うと思います」


 俺より先にロッサーナが口を開く。

「政治改革及び選挙の実施ですわね」

「ええ、そうです」

 ラシアは頷く。

「国の基となる憲法案は既に出来ております。憲法についてはまもなく国王代理3名による連著という形で発布する予定です。

 また同時に憲法で規定された新たな機関である貴族院と民衆院についても発表されます。貴族院は準爵以上の貴族から構成されますが、民衆院は普通選挙で選ばれる国民の代表です。この民衆院の選挙についても同時に発表になり、立候補者の募集が始まる予定です。

 既にある程度有力な立候補予定者に対する働きかけを実施しています。その辺についてはロッサーナ殿下に大変ご苦労をおかけしました。またエンリーコ殿下にも元軍人をはじめ何人かの候補者に激励していただいております」

 俺が別に遊んでいたわけじゃ無い。

 単に他の仕事で色々忙しかったのだ。

 特に住民登録作業の終盤戦では冒険者ジョアンナの高速荷物集配便でこき使われたからな。

 国内の主な街は全て2回以上廻ったような気がする。

 何せシデリアはおろかフィアンの村まで仕事で廻ってしまった位だ。


「選挙の方の作業、つまり名簿突き合わせや投票・開票・集計作業等主な作業は商業ギルドを通して行う予定です。これは商業ギルドが国直轄の作業所であり税務も受け持っている事、それにより各地方領主からの圧力をかなりの程度かわす事が可能な事、更に計算及び集計事務に長けた人材が集まっている事から決めたものです。

 またこれからは地方独自で徴収していた税務等も商業ギルドが一括で行う予定です。地方領主の税収は徴収した税金から国税分を引いた分を商業ギルドから領主へ交付する形となります。地方独自の税金等も一度必ず商業ギルドを通す形に変更します。これによって一部の領地でみられた高すぎる税金等を抑制する方針です」

 つまり商業ギルドが国政関係の事務をかなり受け持つ事になる訳か。


「でもそれだと商業ギルドが大変になるのでは」

 エンリーコの台詞にラシアは頷く。

「ええ。ですから商業ギルドの機能の一部を冒険者ギルドへ移行する予定です。具体的には商業ギルドで行っていた中長期の雇用者募集事業、主に商家等で事務や金銭管理等の名目で行っていたものをまとめて冒険者ギルドに移行します。これで雇用者募集に関する事業は短期から中長期、事務や金銭出納から討伐関係まで一切が冒険者ギルドに属することになります。

 また商業ギルドによる脱税、不正商慣習等の取り締まりも冒険者ギルドへ移行させる予定です。これらは衛視庁からも一部人員を派遣した上、冒険者ギルドに部署を設ける事になります。

 また転移門の管理も冒険者ギルドになります。また裁判関係も領主の仕事から分離させて、当面の間は冒険者ギルドに専門の部屋を設け、独立した魔法審判判定員を設置する予定です」


「何か領主がやっていた仕事が随分と両ギルドへ渡る形になるのですね」

「ええ。国の機関で各地方まで行き渡っているのは両ギルドしかありませんから。各領主の仕事は税金や雇用関係を除く各地方行政事務に一本化させる予定です。権力的な業務と金銭的な業務を地方領主から切り離す事で、権力の国への集中と政治体制を効率化する事が狙いです」

 今まで好き勝手やっていた地方領主にはかなり痛い改革だろうなと思う。

 まあ実際大貴族の皆さんなんてここ十数年政争にあけくれるばかりでほとんど役に立っていなかったのだから仕方無い。


 ただ税収が明確化されたので運営を上手くやって領地を発展させればその分領主も収入が増え易くなった訳だ。

 開拓事業やインフラ整備事業には国から補助金だって出る。

 その辺真面目な領主のところはかえって助かるだろう。

 また一般の国民にとっては意味不明な臨時税金徴収等が無くなるし、累進税率を導入するので貧困世帯も相対的に減少する。

 これでかなりこの国も良くなると思うのだ。

 少なくとも『密室と陰謀、政争で決まる政治』からは大分脱却できると思う。

 まあ最初はきっと大変だろうと思うけれど。

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