第61話 予定外の在庫

 白々と夜が明け始めた頃。

 俺はハイからさめ、茫然と研究室内を眺めている。


 俺は何かを作り始めると止まらない状態になる。

 しかも製作途中に色々思いついてしまったたり、新しく思いついたものをいきなり作ってしまったりするから始末に負えない。

 いわゆるハイな状態に入ってしまう訳だ。

 結果気付くとこうやって凶悪な魔道アイテムが増えてしまい、かわりに在庫の材料が激減してしまう。


 今回は在庫の数を途中で確認した際、

「あれ、もう少しで『遺伝子書換・テロメア長回復装置』の稼働に足りるんじゃないだろうか」

と気づいてしまった事が更に混沌を加速させた。

 まだ装置を使う予定は無い。

 でも在庫が足りるならここは一応使えるようにしておくべきだろう。

 ならば必要なものをさっさと取ってこようか。

 月に照らされた妖精の泉の水と童貞のユニコーンの角だな。

 任意移動魔法があればこんなの簡単だ。

 さっくり行ってキープしてこよう!

 そんな訳でハイの状態のまま狩りにでかける。


 さっくりと狩りを終え、帰ってきて色々装置の手入れをして、更に余ったユニコーン素材等で色々作って。

 色々作り切ってふうと息をついた瞬間、我に返った。

 机上には予定数より遥かに多い飛行用魔道具の腕輪と簡易転移門用魔法ユニット。

 他には新魔法強化衣装コスチュームも10着程。

 他にも思い付きで作った魔法杖等、自分で見ても怪しく強力な魔道具が色々と……

 勿論『遺伝子書換・テロメア長回復装置』は消耗部品を補充されいつでも稼働可能な状態になっている。


 その代わり部屋の散らかり様と材料在庫数はもう惨憺たる状況。

 ラシアに貰った魔法金属は両方とも全滅。

 白秋の魔石も装置に使って全滅。

 白竜のウロコすら新魔法強化衣装コスチュームに使って在庫わずか。

 床は削ったり切ったりした後の材料片等で酷い状態。

 ああ俺はハイになって何をしてしまったんだ。

 最近物を作っていないからついやり過ぎた。


 でもまあ、落ち込んでも仕方ない。

 まずは前向きに考えよう。

 差し当たって飛行用魔道具と簡易転移門については交渉の余地があるだろう。

 運がよければもう少し魔法金属を貰えるかもしれない。

 そんな訳で飛行用魔道具200個、簡易転移門の魔法ユニット50個、そのほか色々を全部収納庫ポシェットへ入れ、王宮の会議室へへ魔法移動する。


 いつも通りラシアは筆頭席にいた。

 まだ明け方という時間なのにだ。

 思うのだけれど、いつこの部屋に来てもラシアだけは必ず筆頭席で業務をしているよな。

 他の人は時間によって入れ替わったりもするけれど。


「ラシア、いつもそこで仕事しているようだけれど大丈夫なのか?」

 思わず疑問をそのまま口にしてしまう。

「問題ありません。後でまとめて休みますから」

「この作戦が始まってからずっと仕事をしているように見えるけれど」

「これでも長寿族エルフの長老なので覚醒と休息は半日単位である必要はありません。最大で年単位サイクルでの覚醒・休息サイクルが可能です」

 何だそれは! 本当に人間かよ!

 まあ長寿族エルフの長老だけれども。


「ところで何の御用件でしょうか。何か魔道具制作上でアクシデントでもあったのでしょうか」

「アクシデントと言うか何というか……」

 非常に言いにくいのだが仕方ない。

 魔法金属の為だ。

 俺は意を決して口を開く。

「つい作り過ぎてしまったので、簡易転移門の器をもう少し作って貰おうと思って。あと飛行用魔道具もとりあえず200個作ってしまって魔法金属の在庫が無くなったけれど、どうしようかと」

 あえて出来るだけ軽い口調で。


 おっと。

 作戦に入って以来あまり表情を変えず司令塔に徹していた長寿族エルフの長老に、久しぶりの困惑の表情が浮かんだぞ。

 何ともいえない沈黙の後、ラシアは静かに尋ねる。

「簡易転移門の器はあと幾つ必要でしょうか」

「簡易転移門内部の魔法ユニットはとりあえず50個作った。だから出来ればあと30個程。

 あと飛行用魔道具もつい200個作ってしまったけれど幾つ必要かなと。もし100個より多く納入するならもう少し魔法金属をいただきたいと思って」

「確か簡易転移門には大竜の角か同等程度の魔力を持つ物が必要だったと分析した覚えがありますが」

白い山マンタビアンケの白竜は絶滅しない程度まで狩った。あとユニコーンの角もちょい使ったかな。今後は材料に白い山マンタビアンケじゃなくて孤高の山サガルマタ天の山脈カルコラム辺りに行った方がいいかもしれない。あそこの黒竜はまだ数が多いと思う」


 ……

 微妙な沈黙の間が何か痛い。

 そして、ラシアは珍しく大きくため息をひとつついて、それから口を開いた。

「わかりました。それではこうしましょう。

  ① 簡易転移門の器はあと30個作らせます。

  ② 簡易転移門そのものは30個納入をお願いします。

  ③ 飛行用魔道具は200個全て納入をお願いいたします。

  ④ 魔法銀ミスリル10重60kg魔法金オリハルコン5重30kg追加でお渡しします。

  ⑤ 簡易転移門の残りと魔法金属はそのままご自分でお持ちください。

 これで宜しいでしょうか。

 なお転移門の器は本日夕刻中に間に合うよう増産させます」


 おお、流石ラシアだ。

 俺にとっても大変にありがたい。

「ありがとう。それではとりあえず、これが飛行用魔道具200個」

 出そうとする俺をラシアは手で止める。

「それぞれは後程、冒険者のジョアンナさんによって各地に配っていただく予定です。また同時にジョアンナさんに簡易転移門を配布し設定する作業もやっていただきます」

 つまり俺が持っていろと言うことか。

 了解だ。


「それにしてもジョアンナさんを相手にすると疲れます。ちょっと常識を大きく外れる事が多くて」

 ラシアはそう言ってため息をひとつ。

 俺は当然反論する。

「俺としては最大で年単位サイクルでの覚醒・休息サイクルが可能という方が驚異に思えるのだけれど」

「代謝を最大限に落とし、思考活動も含めた余分な行動を最大限に控えるだけです。おかげで感情等の処理もかなり節制した形になります。ただこれは方法論的には大したことではありません。

 一方ジョアンナさんの作る魔法具やその知識は長寿族エルフの共有する過去千年単位の知識の中でも飛びぬけて異常です。感情量9割削減中の今でも充分驚かされます」

 異常と言われるほどではないだろう。


「単に俺の魔法の性質上、この世界には無い知識を少し使えるだけだがな」

「本当はその知識について色々とお伺いしたいところです。ですがそれらの知識は明らかにこの世界のバランスを崩すことになるでしょう。ですからジョアンナさんだけのものにしておくことを強くお勧めいたします」

「わかりました。気をつけます」

「お願いいたします」

 まあ長寿族エルフと事を構える気は無い。

 今回も色々とお世話になってしまっているし。


「あと、この様子ですと明日朝にはおそらく転移門も予定数を仕上げ終わっている事でしょう。出来るだけ早く設置をお願いしたいので、明日朝からの設置作業をお願いいたします。この作業は運送担当のジョアンナさんに御願いして、補助にリーザをつける予定です」

「わかりました」

 明日は忙しい模様だ。

 なら今日こそ風呂、それも出来ればサリナやカタリナ、カルミーネ君とのんびり入りたい。

 俺の中のロリショタ成分が不足し始めているのだ。

 幸い何処へ行っても通信可能な指輪を装着済みだし問題ないよな。

 でも明日、一仕事終えてリーザさんとお風呂に入るのも悪くない。

 なおロッサーナはいらない。

 妹には興味ないし触られるのは好きじゃないから。

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