第58話 見せしめも必要です
作戦開始から1か月。
行政事務方の方は仕事は順調に進んでいる。
場合によっては荷物や人員運び等に国王代理たる俺が活用されてしまうような忙しさだけれども。
既に税金および選挙の為の住民登録も始まった。
ただそろそろ貴族の抵抗が目に見える形で始まってきている。
具体的には住民調査のサボタージュとか調査結果の改ざんとか。
人口だの税金だのを正確かつ明確にすると自らの懐が寂しくなる模様だ。
ついでに俺達王族3人が独裁的に権力を行使しているのも気に食わないらしい。
更に新制度で貴族が国政に与える影響が小さくなるのも許せないようだ。
まあこんな動きが出てくるのは予想の範囲内。
だから予め住民登録等の新しい業務を命じた際、国による監査や違反した場合の罰則についてきっちりお触れを出している。
そろそろ駄目な処はばっさりやらないと他も腐ってしまう。
そんな訳で特にふざけた馬鹿貴族を幾つかピックアップ。
まずは家柄が古いだけで住民からの評判も悪い侯爵家へ、国王代理自ら巡検使に出向いて奴なりの任務を果たさせてやろう。
見せしめという光栄な任務を。
「第1業務監査部隊10名はスタンバイ頼む。おそらくすぐに呼ぶことになる」
「了解です」
「それではリーザ行くとするか」
「了解です」
最初の段階で俺に同行するのはリーザだ。
リーザはあのネイプルの冒険者ギルド
名目上は護衛で、実際は光魔法を使用して真偽判断等をお願いする予定。
その都合で今回も白い光魔法の
また第1監査部隊の長はドメニカだ。
シデリアの商業ギルドで支部長代理をやっていたあの女性である。
何か知り合いが多いと思うが止むをえない。
何せ指名依頼をしたのがラシアさんだし。
なお監査部隊と名付けてはいるが実際は現地での事務指導や業務効率化のアドバイスがメインの業務だ。
何せ短期間で色々改革をしようとしている以上無駄な時間は取れない。
なおこの任務は秘密保持の為ラシアと俺以外には必要最小限の人数しか知らない。
同じ国王代理であるロッサーナやエンリーコさえもだ。
『任意移動!』
俺達が出現したのはエルドヴァ侯公邸、会議室室前の廊下である。
色々面倒なので門とか正規の入口はすっ飛ばした。
更に言うと今この時間にこの場所に移動したのも偶然ではない。
目の前の扉の向こう側で現在、エルドヴァ侯が部下の皆さんとこの国の新しい体制について話し合っている最中だったりする。
この辺の情報、やっぱり
全くこの国大丈夫なのかとは以前も思ったけれど、まあ今はよしとして。
「ドンドンドン」
取り敢えず扉をノックさせてもらう。
返事が来る前に開けて入るのはお約束だ。
「な、なんだ無礼な」
右末席の下っ端家臣さん、お約束通りの台詞を言ってくれてありがとう。
「どうもこの領地の調査が思わしくないようなのでな。国王代理が自ら巡検にやってきた。ちょうど皆さんこの件について会議中のようで大変に都合がいい」
「何を無礼な!」
「私が本物であるか、少なくとも上席3名はわかっているようだぞ」
それくらいの真偽判定魔法は俺でも出来る。
「う、嘘だ。こんな処に殿下が来る筈はない」
「既に国内都市10カ所を結ぶ短絡路の事は知っているであろう。更に言うとわざわざ各領主に出した書状に書いておいたはずだ。調査の妨害及び故意の偽情報の作出等不審点があれば即座に巡検史を向かわせるぞと」
「う、嘘だ」
諦めが悪くて大変宜しい。
君は見せしめなのだからこの辺で諦めてもらっては困る。
「ラシア、光魔法で真偽判定をせよ」
「畏まりました。判定、偽。この者は嘘をついています」
「続いて住民調査や税収調査に対して調査妨害等を行っているか、それがエルドヴァ侯自らの指示か、判定せよ」
「自らの利益の為に住民数を過少申告しようとしている模様です。調査そのものが正しく行われていません。これは侯の指示によりアレクサ卿が立案し指示したものと判定されます」
「皆の者! 何をし……」
邪魔なので煩い奴には黙ってもらう。
単に氷雪魔法で上唇の下とした唇の上を凍らせただけだ。
しばらく喋れないが後に治癒魔法をかければ治るだろう。
さて、俺の台詞の続きだ。
「本来は弾劾会議にかけた上で処罰を下すところだがな。この国も内戦で余裕が無い。したがって現国政の最高責任者である私自らが国家の代表として判決を下しに来たわけだ。
そうでなくともこの領地、税が重いと領民から色々苦情があると聞いている。領主としての能力が無い者に領主の資格が無い。まして自ら国家に反逆するとはもっての他だ。そんな訳で暫く邪魔者には退場してもらうとしよう。
エルドヴァ侯コンラッド卿及び筆頭相談役アレクサ卿。去れ! 保護場所第10!」
部屋がどよめく。
何せいきなり2人が消えたのだ。
空間系魔法としてはそれほど強力な魔法では無いが、何せ空間系魔法そのものがまだまだ未開発な魔法。
だから皆の衝撃は大きい。
「侯爵家が断絶するかどうかは今後の働きにかかっている。さて、それでは正規の監査及び業務推進部隊を呼ぶとしよう」
「了解。部隊員いつでも大丈夫です」
「なら召喚!」
今度はいきなり10名現れた事に部屋がどよめく。
今の時点でもう既に俺に反抗しようとする輩はいないようだ。
それでは最後の指示と行くか。
「エルドヴァ侯コンラッドの保護預かりにより当面の事務は次席相談役のベルナール卿が指示せよ。これはジョーダン・シーザー国王代理の決定である。また監査及び業務推進部隊はベルナール卿を助言し早急な業務執行の為に必要と思われる行為を行え。なお報告は随時頼む。いいな、ドメニカ」
「仰せの通りに」
「よし、ではリーザ、次へ」
「はい」
任意移動魔法を使用して王宮、国王代理執務室へ帰還。
ロッサーナが待っていた。
「お兄様お帰りなさいませ。今回も遠方へお仕事ですか」
「まあな。ロッサーナは何をしている」
「エンリーコは軍の方の見回りですし、暇なのですわ。もう少ししたらアレドア領のクレイトルへ選挙候補者への根回しに参りますけれど」
アレドア伯爵は今日最後の予定に入っていたな。
仕事場所は近いとはいえ俺が行くのは領主館だけなのではちあう事は無いだろうけれど。
「それじゃ第2会議室へ行ってくる」
「お疲れ様ですわ。私ももう少ししたら出ますから」
ロッサーナに見送られつつ部屋を出て、指令中枢の第2会議室へ歩いて向かう。
3カ所も回るのだから結構忙しいのだ。
◇◇◇
本日二度目の見せしめ業務を終え国王代理執務室へ。
ロッサーナはいない。
もう出たようだ。
「それにしてもジョーダン殿下、よくあれだけ台詞が出ますね。少々芝居がかっているのが欠点ですけれど」
「仕方ないだろう。こんな場面小説や芝居でしか見た事が無いからな」
「あと結構ノリノリでやっていますよね」
「これは国王代理として仕方なくだ」
そんな会話をしつつちょっとだけ休んでから指令中枢の第2会議室へ。
俺達2人を見たラシアは小さく頷いて口を開く。
「本日3件目の巡検使は中止になりました。既に第3部隊は解散させて元の業務に戻しています。ですから本日の業務は終了です。お疲れさまでした」
えっ。
「何かあったのですか」
ラシアは頷く。
「アレドア伯爵家が襲撃された模様です。現在治安の回復処理とともに情報収集に努めています」
なんだって!
確かあそこには……
「ロッサーナは大丈夫か」
「既に安全は確認されています。またクレイトルの街そのものは伯爵家周辺以外は治安も維持できている事がほぼ確認できております。ロッサーナ殿下がいらっしゃる場所は安全な地域ですのでご安心ください。ただ領主館付近はまだ多数の群衆により落ち着いていない状況です」
それでも俺は落ち着けない。
本当なら今すぐ現地に飛びたい処だ。
でもそうするとかえって色々邪魔になるだろう。
俺はただ待つだけしか出来ない。
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