第56話 第2王子略取
深夜。
俺とロッサーナは任意移動の魔法で一気にロンバードのメディオラ侯爵館へ。
なお館の地図は既に入手している。
ここにも
これってつまり
今は
まあラシアによれば、
「人間の政治にわざわざ介入しようとする
という事らしいけれど。
まずは現メディオラ侯爵の居室へいきなり出現。
「闇の誘い」
ロッサーナがいきなり大魔法を繰り出す。
睡眠魔法にも似た魔法だがもっとタチが悪い。
意識は無くならないが全ての事に能動的な反応ができなくなる魔法だ。
無論相当に強力な魔法使いなら抵抗出来ない事も無いだろう。
ただ
「去れ、保護場所第2」
取り敢えず現メディオラ侯爵はさっさと保護場所送り。
「次行くぞ」
「お願いしますわ」
任意移動魔法で貴賓室へ。
ここにエンリーコ第2王子とレティシア第2王妃がいる筈だ。
まずレティシア第2王妃は問答無用で保護場所へ送る。
「さて、エンリーコとはちょい相談だな。時間はありそうだし」
ロッサーナの魔法に耐抗出来た者の気配は今の処無い。
「エンリーコだけ解除しますわ。ついでに目覚まし魔法も追加ですね」
数回瞬きした後、エンリーコ第二王子は目を開ける。
「第二王子殿下、お久しぶりですね」
こっちを向いた次の瞬間、飛びあがりベッドの向こうで身構える。
「不覚、ここまで攻められて気付かないとは」
「私自身は王位争いに興味はありませんわ。おそらくエンリーコもご存知の通り」
「わかっている。だが今は戦時。望まなくとも戦い抜くまで」
何か随分と変わったような。
身体も大分ごつくなっているし、今の動きは王族とも思えない。
妙に鍛えた感じの動きだった。
「私は戦いに来たわけではありません。もういいでしょう、お兄様」
ロッサーナめ、俺に説得という事だな。
まあ立場上仕方ない。
ロッサーナと
仲介するのは俺の役目だろう。
「10年ぶりだな。大分変っていて驚いた」
エンリーコの視線が俺を捕らえる。
浮かぶ驚愕の表情。
どうやら俺の事を覚えてくれていたようだ。
「ま、まさか。確か……」
「これ以上内戦が続くとこの国も危ういからな。仕方なく出て来た。久しぶりだがエンリーコも俺の顔と魔法紋は憶えていたようだな」
おっと、見かけによらず肝は小さいようだ。
動揺が止まっていない模様。
ならば俺のターンと言う事で続けさせてもらおう。
「ベニート叔父とテーヴェレ侯爵、メディオラ侯爵、そして君の母親でもあるレティシア第2王妃は保護させてもらった。なおここの兵は健在だが魔法で動けない状態になっている。
さて、元皇太子であり長兄として俺、ジョーダンはエンリーコの返事が聞きたい。このまま国を疲弊させつつ戦うか和解するか。和解するなら一緒に来い。戦う事を選ぶならこの場で身柄を保護させてもらう。国も民も疲弊が甚だしいからな、時間が惜しい。
さあ、第二王子の名前にかけて選べ」
「事実上の降伏勧告じゃないのか」
声が震えている。
「降伏なら敗戦処理をしなきゃならない。今は別れているとは言え国の軍隊だ。貴族どもはともかく兵や国民に遺恨を残したくない」
俺の台詞は実のところほとんどノリと即興だ。
我ながらよく出てくるよなとは思う。
若干芝居くさいのはまあ勘弁してくれ。
でもエンリーコ相手なら何とかなりそうだ。
「もちろんエンリーコには王位は諦めてもらう。だがそれはロッサーナも同じだ。俺も死んだことになっていた身、今更王位につこうとも思っていない」
「ならどうする気だ。王位は、国王家は!」
こいつも芝居臭い反応をするよな。
きっとこういう定型的な言葉しか思い浮かばないのだろうけれど。
俺としてはやりやすくて助かる。
「その辺は色々政治体制から変えるつもりだ。国王という地位は残るが今回のような事になっては困るからな。
さて、先ほどの問いの返事を聞かせてもらおう。和解か戦いか」
「和解を選んでも身の保証はしてくれるんだろうな」
「当然だ。先ほど保護したと言ったレティシア王妃も全てが終わった後は解放するつもりだ。ただ国を割った関係者はもう
「わかった。和解しよう」
あっさり。
まあそうしてくれると助かるからありがたい。
芝居じみた台詞をこれ以上言わないで済む。
「なら一度移動する。明日には和解した旨を国民に告知するからな。その辺の手順も一応知っておいてもらわないとならない。
こちらの軍は私やロッサーナよりエンリーコの言葉の方が従うだろうからな」
さて、帰ったらあとはラシアに任せてひと眠りするとしよう。
部屋の件は言っておいたから確保してくれているだろう。
エンリーコに朝からの手順を伝えるのはラシア以下に任せればいい。
「任意移動魔法!」
俺はエンリーコにもわかるように口に出して魔法を起動する。
到着したのは王宮、第2小会議室だ。
「お疲れさまでした」
ラシアが俺達に頭を下げる。
「ここは確かに王宮、本当に移動魔法なのか」
「ああ」
俺はそれだけ軽く答えてからラシアに告げる。
「明日の段取りをエンリーコに話しておいてくれ。俺達は一度休む」
「了解いたしました」
「部屋は貴賓用寝室3部屋確保してあるよな」
「大丈夫です。荷物は第1に運んであります」
「ありがとう。なら第1を使わせてもらう」
さっさと休もう。
俺は勝手知ったる王宮を第1貴賓用寝室へ。
何故かロッサーナもついてくる。
「今度は全員用の部屋を確保してある。だからロッサーナも第2を使ってくれ」
「その前にお兄様と少しお話がしたいのです」
ならまあ仕方ないか。
第一貴賓用寝室に入る。
「それにしてもエンリーコ、随分と肝が小さい感じだな」
「エンリーコは幽霊とかお化けとかが苦手なのですわ。以前訓練で入った
なるほど。
俺を見てから震えていたのはそういう訳だったのか。
単に肝が小さい訳ではなくて。
「それで明日、ロンバードで演説した後はどうされますか」
「事務的処理は専門官がつくから問題ない。だから俺達がやる事は民心の確保と広報だな。その辺のスケジュールもラシア達に作って貰っている」
「あのラシアさんと言う方はどういう方なんでしょう」
「ああ見えて
ロッサーナはちょっと安心したような表情で頷いた。
「それではお兄様の恋人とかそういう関係では無いのですね」
「今の俺は女だぞ」
「それでも意識は男ですわ」
そう言えばこの灰色の
これを着ているとどうも意識が男であるジョーダンに近くなる。
「さて、着替えるか。ロッサーナも自室で休んだ方がいい。明日も早い」
「それでは失礼して休ませて頂きますわ」
ロッサーナ、いきなり脱ぎ始めた。
「おい待て。ロッサーナの部屋は第2だ」
「私はいつでもお兄様と一緒ですわ」
おいおいおい。
「これでも1人で10年近く辛抱したのですわ。今更一人になるのは怖いのです」
そう言われると仕方ない気もするけれど……
せっかく部屋をわざわざ分けたのに、なんでこうなるのだろう。
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