第55話 妹にして姉
結局。
「初めまして。ジョアンナの姉のロザンナですわ。どうぞよろしくね」
夕刻、カナル村の家のリビング。
ロッサーナがにこやかにサリナ達と挨拶している。
そう、俺はこの事態を避ける事が出来なかった。
何処をどうすればこうならないで済んだのだろう。
結論は出ない上に考えてももう遅い。
「ロザンナお姉ちゃんも魔法使いなの?」
「ええそうよ。水、氷雪、あと闇系統を少し
「サリナお姉ちゃんは氷雪、私は水だからおんなじ」
「なら今のお仕事が終わったら一緒にお仕事しましょうね」
その頃にはラシアやリーザが止めてくれないかな。
無理か、俺がジョーダンだと知っていてあえて無視していた位だし。
このままだと一生付きまとわれそうな悪寒までする。
なまじ有能なだけに手に負えない。
「ロザンナお姉ちゃんってジョアンナお姉ちゃんと似ていないね」
「ちょっと複雑な家庭でジョアンナとはお母さんが違うの。まあその辺は色々あるけれどね」
「ごめんなさい」
「いいのいいの。別に大したことじゃないしね」
何か3人ともう上手くやっている。
何だかなあ。
なおここに来ることはラシアには言って来た。
更に万が一を考えて簡易転移門をこの家と直結状態にして設置してある。
だからまあある程度はゆっくりできるのだけれど、流石に森の家に行くのは駄目だろう。
本当は森の家で皆と風呂に入りたかったけれど、それは残念ながらお預けだ。
なおサリナ達はこの家から交代で風呂に入りに行っているらしい。
ああ、俺も仕事が無ければ行くんだが……
「お姉ちゃんたち、お仕事はどれくらいかかるの?」
「予定ではまだあと3か月近くかかるかな。でも今の処順調だから大丈夫よ。ジョアンナと一緒に春の終わりころまでには帰ってくるからよろしくね」
「ぜったい?」
「勿論よ」
ロッサーナ、カタリナを抱き上げてほおずりなんてしていやがる。
ああ羨ましい。
ああいう愛で方もあったか。
今度俺も真似しよう。
「それで今日の夕食はどうしますか。お姉ちゃん達2人の分はまだ作っていないから、ちょっと時間が掛かりますけれど」
サリナに迷惑をかけたらまずいな。
「大丈夫。2人分ならお弁当があるから一緒に食べよ」
シデリアの
勿体ないが仕方ない。
俺とロッサーナの分を2つ出す。
「あ、カタリナこれ好き」
ロッサーナの弁当がよりによってミンチ焼き&パンだった。
「ならお姉ちゃんと半分ずつ食べましょうね」
「うん!」
完全にカタリナはもうロッサーナに慣れてしまったな。
何だかなあ。
妹を強奪されたような気分だ。
◇◇◇
ご飯を食べた後、ロッサーナと2人で王宮へ戻る。
「何か3人とも凄くお兄様に懐いているようで可愛いです。私もあんな家庭に育ったら良かったのにと思いますわ」
「カルミーネ君はちゃんと母親がシデリアにいるし、サリナやカタリナは両親がいないんだぞ」
「でも完全にお兄様と家族のようじゃないですか。家があんな感じだったらどんなに良かったかと思います。まあ今度長女として加わりますけれどね。謹んでよろしくお願いいたします」
おい!
「俺は許可していないぞ」
「お兄様、私が嫌いですか」
「そうじゃないけれどさ」
「ならいいじゃないですか。あのお家にもう1個ベッドを運んで……でもベッド4つは流石に狭いから1つは二段ベッドでいいでしょうか。お兄様は上と下どっちがいいですか」
何でそうなる。
「ああいう暮らしって憧れだったんです。後宮では毎日気を抜ける時がありませんでしたから、私もお母さまも。それでも結局お母さまは病死と言う事になってしまいました。実際は多分何か即効性の毒だと思いますけれど。私を活用するのに母の存在が邪魔だったのでしょうね」
ああそうか。
この国は国王継承順位は単純に生まれた順だ。
だから母親の地位に関係なくロッサーナは王位継承権第二位になる。
その分立場は色々難しかったはずだ。
更に俺が死んだとされてからは王位継承権第一位だ。
ベニート叔父が他の王位継承者を立てればロッサーナも離宮送りだっただろう。
なまじ有力な後ろ盾がいないおかげでベニート叔父に祭り上げられたが、その際邪魔となった王妃は多分消されたのだろう。
俺の母と同じように。
「まあ仕方ないな。ロッサーナ分の部屋くらい用意してやる」
「お兄様と一緒で充分ですわ。何ならベッドも」
おいこら待て。
それは調子に乗り過ぎだ。
でも待てよ。
「この辺の仕事が片付いた後、俺は死人という事で消えるけれどロッサーナはどうするんだ。消える訳にもいかないだろ」
「私とエンリーコは国を割った罪で、王家から籍を抹消された後、捨扶持を与えられつつ離宮暮らしという事にするのですわ。もちろんベニート叔父やお父様も同様です。王家の籍を永久に抹消された時点でもはや私に注目する人もいないでしょう。身寄りも無いですし、晴れてロザンナとして自由の身ですわ」
「戸籍制度を作る予定なんだけれどな」
「お兄様だって同じでしょう。ですからあの家に長女としてロザンナを入れて頂ければ問題解決ですわ」
全部その辺考慮済みかよ。
やっぱりこの辺の頭の回転はロッサーナには勝てない。
「ただそういう楽しい計画は後回しにして、まずは今夜の作戦ですわ。そして明日朝、ここラツィオとロンバードで3人の共同声明を読み上げるお仕事も待っています。その辺は3人の筆頭であるお兄様のお仕事ですよ。無論私も闇魔法で加勢しますけれど大丈夫でしょうか」
その辺についてはちょっとばかり恨み言を言いたい。
「今朝、前庭でいきなり演説しろと言われた時よりはましだ。大急ぎでラシア達に原稿を書いて貰って、伝達魔法で読んでもらいながら何とかやったけれどさ」
確かにあれでそこそこ士気が上がったのは事実だ。
でも用意もないのにいきなり演説しろなんて提案された時は本当に参ったぞ。
なお勿論これはロッサーナの提案である。
ラシア以下、俺以外の皆さんも賛成してしまったけれど。
「さて、それではお仕事に備えて少し休みましょう。確かお兄様の魔法には時間きっかりに起きる事が出来るという便利な魔法がありましたわね。横になりましたら私にもそれをお願いいたしますわ」
おい待て。
「今の俺は王子だし同じ部屋に寝るのはまずいだろう」
「でも実態はお姉さまですわ。それに死んだはずのジョーダン殿下はどうせ後に天に帰る芝居をするのでしょうし、問題は起こりませんわ」
そう言ってロッサーナは服を脱ぎだす。
「脱ぐことは無いだろう」
「寝るときは着ないのが私の習性ですわ」
「でも最初俺が王宮に来たときは寝間着を着ていただろ」
「お兄様が部下と一緒でしたらまずいので一応それらしい服を着ていたまでです」
繰り返すが妹だという意識があるので性欲は感じない。
でもいけない事をしているような感じで感情的には色々やっぱり問題があるのだ。
ただそう言ってもどうせロッサーナに言いくるめられるのだろうなと思う。
口で勝てるとは思っていないし。
明日までに俺、ロッサーナ、あとエンリーコの部屋を用意して貰っておこう。
来賓用の部屋を3部屋続けてキープして貰えばいい。
今の国王代理予備室ではちょっとロッサーナを防ぎきれない。
それにしても、なんだかなあ。
何故にこうなったのだろう。
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