第54話 主役交代?

 怖い!

 黒の魔法強化衣装コスチュームを着装したロッサーナ、色々有能過ぎて無茶苦茶怖い。

 闇系統魔法の洗脳は強力だしけれどそれだけではない。

 王宮内の事も色々知っていて頭も回る。

 王宮に入城して政権を奪取するのもほぼロッサーナ任せだった。


 ロッサーナと会うまでの本来の計画はこんな感じだ。

  ① ベニート叔父とロッサーナという王族側の中心人物を王宮から排除する。

  ② 朝それに気づいて王宮内が混乱したところで、魔法紋を公に発しつつ俺が『死んだとされたジョーダン元皇太子』として正門から王宮に乗り込む。

  ③ 王宮内の兵や官僚に俺の指揮下に入るよう呼び掛けるとともに、場合によっては魔法で圧倒的な実力差を見せて王宮内を制圧する。

  ④ 待機していた皆さんを中に入れて改革開始。


 正直な処③でテーヴェレ侯爵の部下とか元ベニート叔父の私兵とかと一戦あるかなと覚悟はしていた。

 負けるとは思っていなかったけれど。


 それが黒の魔法強化衣装コスチュームを着装したロッサーナの力によってこんな感じになってしまった。

 ① 同じ

 ② 同じく王宮が混乱したところで、俺、ロッサーナ、指名依頼した皆さんまとめて正門から王宮へ。

   ロッサーナの闇系統魔法『一時洗脳』によって衛士の抵抗等も全く無し。

 ③ そのまま『一時洗脳』によりテーヴェレ侯爵の部下とか元ベニート叔父の私兵とかを全員排除、テーヴェレ侯爵私邸やベニート叔父本来の住居である離宮へお帰り頂く。

 ④ 前庭に主な官僚や兵指揮官を集めて俺とロッサーナから全体指示。

 ⑤ 内政改革開始。

 予定以上にあっさり終わってしまった訳だ。

 しかも④のおかげで以前からいた官僚や兵も士気が上がっているらしい。


 特にロッサーナの洗脳魔法の力、味方としてならば無茶苦茶便利。

 多少は残っていたテーヴェレ侯爵派やベニート王弟派の反抗を洗脳魔法で鞍替えさせてしまったのだ。

「洗脳魔法と言っても万能ではありませんわ。皆さんの心の中に『今の体制はおかしい、新しい政治を迎えたい』という願望があるからこそ効いたのです」

 そうロッサーナは言うけれども。


 更にだ。

 入城して俺達が国王代理執務室や第2小会議室に落ち着いて直ぐ、ロッサーナは俺やラシアさん達がたてた計画書を読んで駄目出しを始めた。

「これですと最後は私が国王位を引き継ぐことになりますわ。そこは出来れば変えて欲しいです。私自身王位につくなんて望んでおりません。それにせっかくお兄様と会えたのですから今後とも一緒の方がいいですわ」


 おい待て!

 お前は何処まで俺についてくる気だ。

「俺はもう家族がいるからさ。それに下手に貴族の後ろ盾があると権力を分立させるのに都合が悪いだろ」


「父上はあのような方ですから候補は大勢おりますわ。私のお勧めは第三王子のアベラルドです。後ろ盾の貴族がせいぜい伯爵クラスで強くないですし、男であるという点も都合がいいですわ。王は血筋を残すためにも男子である方が都合がいいですから。まあ父のような悪い例もありますけれど。

 それにアベラルドならそう無茶な事はしなでしょう。エンリーコと違って王妃が権力欲の塊という事も無いですし。元々王位を継ぐ予定が無かった分、文武両道それなりに出来ております。一応第三王子なのでそれなりの教育もされています。価値観もおかしくないですし頭も悪くはありませんわ。

 何より今回の分裂騒ぎに関わっていないのが大きいです。色々な意味でちょうどいい存在だと私は思いますけれど」


「でもその場合だと本来第二王子の方が継承順位が高いだろ」

「国を分裂させてしまった罪は重いです。それだけで王位不適格ですわ。本人達以外誰もが納得して頂けると思います。勿論同じ理由で私も不適格ですけれど」

 色々正論だけに反論できない。


 そして今は明日のロンバード攻略に向けて作戦会議中。

「明日のロンバートでの作戦ですが、やはりレティシア第2王妃やメディオラ侯爵と離せばエンリーコはそのまま私たち預かりで大丈夫と思います。エンリーコ自身にはあまり主体性というものがありませんから。

 それにエンリーコがこちらに加われば、お兄様と分裂した2つの国王候補が連立するという形式になります。この臨時体制に説得力も増すと思いますわ」


 ロッサーナの意見に頷いてラシアが尋ねる。

「夜間に身柄を確保するのはレティシア第2王妃殿下、メディオラ侯爵、エンリーコ王子殿下の3名で宜しいでしょうか」

「レティシア第2王妃とエンリーコ王子の2名で宜しいですわ。レティシア第2王妃は確保後速やかに保護場所へ移してエンリーコの方は私とジョーダン殿下に任せていただければ。エンリーコは王妃と侯爵がいなければ必ず私達にすがろうとするでしょう。そうなればエンリーコからロンバードの部隊の原隊復帰命令を出させるのは難しくありません。ただ部隊の移動をより迅速にしかつ出奔部隊の監視及び戦力化を図る為、あの簡易転移門でしたっけ、あの装置を臨時でこちらとロンバードに繋げていただけると助かりますわ。移動そのものには準備もありますから2日はかかるでしょうけれども」

 もうラシアでさえ俺よりロッサーナに色々聞いている状態だ。

 こんな感じで会議中俺の出番はほとんど無い。


 確かにロッサーナ、母の立場で色々苦労している分、王宮内の人間関係を色々観察しているし頭も回るようになったかもしれない。

 10歳ころまでは最高に恵まれた立場でボンボン暮らし、その後幽閉の俺と比べてその辺は鍛えてもいるのだろう。

 でも今のこの俺の立場の薄さは何なんだ。

 実質拉致実行担当位の重さしか残っていないぞ、今は。

「それでは明日の作戦は次のような形で宜しいでしょうか」

 おっとラシアがまとめに入った。

 結局ロッサーナの意見を中心として変更された計画が決定される。


 会議が終わると俺は休憩時間だ。

 明日の夜中に活動開始というのもある。

 それに出来れば夕方には一度家に帰ってサリナやカタリナの顔を見たい。

 ただしそれには邪魔者がいる。

 勿論ロッサーナの事だ。


「お兄様はこの後どうされますの」

「ひと眠りして夕方に家族に会ってくる。帰ってこれない日も多いとは言ってあるが、出来るだけ顔を見せておかないとな」

「お兄様の家族とは初耳ですわ。どのような方々でしょうか」

 仕方ないのでサリナとカタリナの事についてささっと説明する。

「ならこれで4姉妹ですわね。私も魔法は得意ですし本日紹介して頂けるとちょうどいいですわ」

 おいちょっと待て。


「サリナ達は俺が元王子で男だったなんて事、まったく言っていないんだぞ」

「ならその辺は全部伏せて、お兄様は私の妹と言う事にすればいいですわ。お兄様が妹と言うのもなかなか楽しいですわね。ふふふふふ。

 ところで女性の場合のお兄様は何という名前ですの」

「ジョアンナ、冒険者で魔法使いのジョアンナと名乗っている」

「なら私はジョアンナさんの姉で、同じく冒険者で魔法使いのロッサーナですね」

 おい待て。

「本名で魔法もそのままじゃまずいだろ」

「なら少し変えてロザンナと名乗りましょうか」


 おかしい。

 完全にロッサーナのペースになっている。

「とりあえず今晩は一仕事するから休むぞ」

 こういう場合はこれ以上議論をしないに限る。

「そうですわね。エンリーコを保護する際は私もいた方がいいでしょうから私も同じく休むことにしましょう」

 ああ、徹底的に付きまとわれている。

 ロッサーナの方が俺より頭が回る分、どうしても振り切れない。

 しかもこの作戦で既にロッサーナの存在が重要になっている。

 だから除外するという選択肢もない。

 俺はどうすればいいのだろう。

 答えが思い浮かばない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る