第52話 作戦開始
灰色の
次の瞬間には王都ラツィオのチェーザレ公爵私邸別館2階の中会議室へ。
かつては代々宰相を歴任した家だけあって王宮にほど近い一等地にあり便利だ。
事案決行後にラツィオでの作業を行う行政部門等担当者はここに集合していた。
なおチェーザレ公爵一族は内乱勃発後すぐにラツィオを脱出し自領であるネイプルへと帰還している。
今この館にいたのは僅かな部下だけ。
その中にどうも
詳しい事は聞いていないけれど。
「それでは最初の作戦を実施してくる。実施して客を隔離場所へ移送した後、またここへ戻ってくる」
最初の作戦とは王弟ベニート叔父とロッサーナ第一王女の保護だ。
「わかりました。それではお待ちしています」
此処での指揮を担当しているラシアさんにそう挨拶をした後、俺は任意移動呪文で移動する。
場所は勝手知ったる王宮の国王家私邸部分。
国王寝室だ。
やはりベニート叔父はここを自分の寝室にしていたか。国王気取りだな。
まあいい。
既に俺が王宮に侵入した事は魔法で検知されている筈だ。
周囲の気配を確認しつつ、熟睡しているベニート叔父へと魔法を起動する。
「去れ、保護場所第1」
ベニート叔父の姿は消える。
殺してはいない。
移動魔法で保護予定の場所へと移しただけだ。
今の魔法で警備担当も俺の魔法紋を採取できただろう。
さて警備がここへ踏み込んでくる前に次の場所だ。
ここにいたのがベニート叔父なら第一王女……ロッサーナは何処だろう。
探ってみると後宮、昔からの自室のようだ。
これは俺としては意外だった。
仮にも国王として擁立されているのだ。
王宮内のもっと立派な部屋に移っていてもおかしくない。
ただ反応から見ると間違いなく昔からの自室だ。
しかも睡眠中では無く起きている模様。
どうしようか、そう一瞬考える。
昔のロッサーナは自分から前に出る事はあまりしない、第一王女としては控えめな性格だった。
ただ他の王子王女と比べて頭は良かったと思う。
魔法も他と比べて抜きんでていた。
さて、今はどうだろう。
何せ王宮での俺の記憶は10年前で止まっている。
もしロッサーナが本気で魔法戦を仕掛けてくると面倒だ。
十年前のままあのまま育っていればかなり強力な魔法使いになっている筈。
ロッサーナの魔法属性は氷雪と風。
これらの魔法で自衛に徹すれば保護出来ない事はないにしろ面倒だ。
でもここでの名目上のトップである彼女を対象外にする事は出来ない。
そして動くならば警備が完全な体制を取る前だ。
意を決して任意移動呪文で移動。
「お兄様、お待ちしていました」
窓辺から外を見ていた今の俺よりやや年長の若い女性がこちらを向く。
面影ですぐロッサーナとわかった。
綺麗に成長したな、そう思う。
そして俺の正体に気づいているようだ。
既に俺がやろうとしている事もある程度掴んでいるようだ。
「それではどうぞ、私を手にかけてくださいませ」
えっ。
予想外の反応に俺もちょっと戸惑う。
「どうしました。急がないと警備の兵が来ますわ。覚悟は既にできております」
いや待て。
「倒す気は元々無いのだけれど」
「でもこの国を救うには、お兄様が私とエンリーコを倒して王権を奪取するのが一番早いでしょう。そうするおつもりでは無いのですしょうか」
なるほど、そう思っていたか。
確かに一番早い解決法ではある。
「もし最後に文句を言わせてもらえば、お兄様が来るのが少し遅かったと思う位です。もう待ち続けて10年近くになりますのに。
さあどうぞ、為すべきことをして下さいませ」
よし決めた。
計画を若干変更しよう。
その方が色々上手く進みやすい。
「悪かったな、遅くなって。ただ俺には可愛い妹を手にかける趣味はないし作戦も少しばかり違う。
だが国を救いたいのは同じだ。だから協力してくれ、頼む」
「えっ」
ロッサーナの動きが止まった。
どうも彼女の想定が狂ったらしい。
「……本当ですか?」
「ああ、ロッサーナを手にかけるつもりはない。だから一緒に行こう」
「可愛い妹と言うのは本心ですか?」
そっちの方かよ!
そう思いつつもその辺はまあ否定する事も無いだろう。
それにこういった場合優先すべきは多分勢いだ。
「もちろんだ。ロッサーナは俺の兄弟姉妹で一番出来もいいしな」
言っておくがこの台詞は俺の本心だ。
ただあくまで10年前の記憶によるとだけれども。
ロッサーナは頷く。
「わかりました。お兄様について行かせていただきます」
「それでは移動する。はぐれないよう手を握ってくれ」
「こうでしょうか」
ロッサーナは出した俺の右手を握る。
妙にぎゅっと握っているような、そして握っている手が熱いような。
任意移動呪文を無詠唱で唱えると景色が変わる。
チェーザレ公爵私邸別館2階の中会議室だ。
建物全体に気配隠匿の魔法陣を張っているから見つかる心配はない。
「お疲れさまでした。ところで第一王女殿下と思われますが、何故こちらへ」
ラシアが俺に一礼した後、尋ねてくる。
「全面的に協力してくれるそうだ。それなら明日朝の王宮掌握が楽で済む。王宮への呼びかけはロッサーナと私が同席して行おう。計画変更よろしく頼む」
「了解いたしました。王弟殿下は」
「予定通り保護場所第1へ送った」
「了解です」
さて、報告事項は以上だな。
「それでは私も明日の作戦開始まで一休みしよう。あとは頼む」
「わかりました。王女殿下はどうなさいますか」
「積もる話もある。俺の部屋で休んでもらうことにする」
「承知いたしました」
「じゃあロッサーナ、こちらへ」
俺用の部屋は用意してある。
ベッドは1つだが一晩だけならロッサーナと2人でも大丈夫だろう。
なおロッサーナは美しく育ったし胸もそこそこ大きいががローザさんの時のような欲望は感じない。
やはり妹だからだろうか。
まあ妹と言っても母は違うのだけれども。
王宮にある来賓用寝室の一室を俺用にキープしている。
俺単独ならそれこそ何処にでも行けるのだが、そうすると俺が必要な時に呼び出す事が出来ない。
なので作戦中は出来るだけ事実上の指揮官であるラシアと連絡が取れる場所にいる予定だ。
なおラシア達に対しては、作戦中は出来るだけ皇太子らしい態度で接するようにと言われている。
俺は作戦中はジョーダン元皇太子にして王権代理なのだ。
幸いこの灰色
ジョアンナとしてはラシアさんこと
とりあえず個室に入ってちょっと落ち着く。
「色々苦労をかけたようだな。悪かった」
「いえ、お兄様に来ていただけましたからそれで充分です。それに本当は残された方が何とかするべきでした。でも私単独では結局何もできませんでしたわ」
「でもロッサーナの立場ではそうも動けないだろう」
ロッサーナは第一王女ではあるが母の身分は高くはない。
父が御付きの女中に手をつけて……という結果生まれたのが彼女だ。
一応その女中はライバッハ伯爵の養子扱いになり王妃扱いにもなったのだが、そういった経緯もあってめったに表には出てこない。
結果ロッサーナも第一王女でありながら万事控えめにしていた訳だ。
それでも当時は第一王子で皇太子である俺がいたから特に問題は無かったのだけれども。
そんな訳でロッサーナには後ろ盾はほぼない。
だが他の貴族の色がついていない事から王弟やその背後にいるテーヴェレ侯爵に使える存在とされたようだ。
結果、国王候補として担ぎ出されて今に至るという訳。
その辺は俺も色々仕入れた情報で知っている。
「ところでお兄様は今までどうされていたのでしょうか。表向きはフラビアの離宮で病気で亡くなられたと聞いております。王宮内では誰も信じていませんでしたけれど。テーヴェレ侯もメディオラ侯も王家の血が入った王子を自らの命令で殺せる程の度胸は無いと皆さん思っていましたから」
王妃なら手にかけられるのにやはり王家の血というのは重いのだろうか。
奴らの気分的には。
さて、俺の今までについてロッサーナにどう話そうか。
魔法を鍛えて逃げたところまでは話してもいいだろう。
だが閉じ込められた数年間の間に現状認識がひん曲がって、結果女体化してしまった辺りはどう話すべきだろうか。
うーん、難しい。
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