第50話 依頼は受理された

 今回の説明はほぼリーザさんがした。

 俺はたまに補足したくらいで。

 支部長マスターは頷く。

「⑤番の一部である普通選挙については少し時間が必要です。この国には厳密な国民の名簿はありません。税金等も諸領地からの概算で受け取っているのが現状です。それにこの内乱でかなりの人々が移動しています。また国政の情報を選挙人に広く知らせるシステムも必要になります。ですので国や地域の立て直しをして、その辺の人口動静が安定してからという事になるかと思われます」

 なるほど、確かにそうだな。

 それにしても支部長マスターの口調や態度がいつもと違うような気がする。

 いつもはもっと見かけに合わせたというか、若い女の子風なのだけれども。

 まあそういう感想は後でだな。

 今は依頼についてだ。

 支部長マスターの意見でちょっと気になる部分を問い返してみる。


「確かに住民調査にはある程度時間が必要でしょう。でもあまり時間をかけてしまうとその期間、王族や貴族から妨害を受ける可能性が高くなるでしょう。それを防ぐ何らかの手段が欲しい処です」

「そうですね」

 支部長マスターは頷いて、そして続ける。

「一番効率がいいのはまさにその専制政治です。復興もふくめ、ジョーダン・シーザー元皇太子の独裁で一気に押し切るのが最も効率がいいと思われます。非常時という事で独裁体制をある程度続ければ、他の王族や貴族の力も自然と弱まるでしょう」

 確かにそうだ。

 でも俺としては個人的な希望というか要望がある。

「出来ればジョーダン元皇太子の関与は最小限にしたいんです。無論今の内乱を出来る限り損害を少なく終わらせるにはその存在を使うのが一番早いし、その為に表に出るのは仕方ありません。ですがそれ以降の新しい体制には極力彼の存在を排したい。彼の独裁もまた国王による専制政治と同じ古い形ですから。ジョーダン元皇太子の専制政治も無論ある程度の期間は必要でしょうが、それは出来る限り最小限でお願いします」

「それは公としての願望ですか、個人としての願望ですか」

「俺個人としての願望です」


「面白いですね」

 支部長マスターはそう言って続ける。

「権力の頂点にあまり長い間立ちたくないと」

「その通りです」

「なるほど」

 支部長マスターは頷く。

長寿族エルフの長老会を思い出しますね。

 長寿族エルフの政治体制はジョーダンさんの今の希望と逆で、長老会による専制です。長老及び長老会の権限でほとんどの事が決まります。これが一番効率的で無駄がありませんから。

 ですが長老になりたがる長寿族エルフは滅多にいません。何故だと思いますか」

 おいおい何故に長寿族エルフの長老なんて話が出てくるんだよ。

 そんな事を思いつつ俺は正直に答える。


「そういう業務をする事に魅力を感じないから、ですか」

 支部長マスターはうんうんと頷く。

 支部長マスターとしては少し感情を感じる動きだ。

「その通りです。権力者なんてのは正しくやろうとすればするほど単なる労役サーヴィスに近づく。正しければ正しいほど個人として旨味の無い作業なんです。それなら好きな事をやっている方がいい。それが大方の長寿族エルフの意見です。

 本当はそういう貴方にこそある程度長期にわたって権力を持たせてみると面白いと思うのですけれどね。しかし今回はあくまで冒険者ギルドへの依頼です。依頼者の意志は最優先で尊重しなければなりません。

 さて、結論です。今回の依頼を承りましょう。依頼者の希望もありますし。あまり長いと他の問題が出るでしょうから期間は短期、3か月間に設定します。この期間をもって南部の冒険者ギルド及び長寿族エルフ長老会の総力を挙げてご期待に添うようにいたします」


 おい待て。

 ちょっと台詞が強烈過ぎないか。

 何故に一介のギルド支部長マスターが『南部の冒険者ギルド及び長寿族エルフ長老会の総力を挙げて』なんて恐ろしい事を言えるのだ。

 まあ今までの色々から何となく想像はつくのだけれど。

「申し遅れました。私ラシアはシデリアの冒険者ギルド支部長マスターの他、この大陸の長寿族エルフ長老の1人でもあります。他にも色々兼務しておりますからその辺の手配はお任せください」

 ああ、やっぱり怖い人だった。

 それも想像以上に怖い人だった。

 というかその見かけで長老というのは反則だろう!

 言えないけれど。


「さて今回の依頼はそれなりに大きな仕事になります。ですので依頼金もその分高額になります。

 最初にジョーダンさんが提示された正金貨35枚では残念ながら足りません。そこでこちらから依頼金を提示させていただきます」

「残念ながらこれ以上ですとあまりこちらも持ち合わせが無いのですが」

 残った小金貨以下をかき集めても正金貨5枚分程度だと思う。

 だが支部長マスター、いやラシアさんはにこりと笑みを見せる。


「お金は正金貨10枚で結構です。それだけあれば今回指名依頼をお願いする各冒険者及び協力者の皆さんの支度金にはなりますから。その代わり別のもの、貴方が作った魔法道具で支払って頂きたいと思います。

 具体的には貴方がパンゲの街とカナル村に設置した転移門、これを複数、出来れば10個は頂こうと思っています。

 ところであの転移門は、例えば3点を3つの転移門で結ぶことが可能ですか。例えばA,B,Cと街が3か所あり転移門をそれぞれに設置するとして、

 ① Aの転移門に入るとBの転移門に出る

 ② Bの転移門に入るとCの転移門に出る

 ③ Cの転移門に入るとAの転移門に出る

のように設定することは可能ですか」


「可能です。でも『転移門に入る時、ある場所を念じて入れば念じた場所に一番近い転移門に出る』というのが本来の機能なのですけれど」

「この方法の方が移動を監視しやすくていい場合もあるのですよ。念じる等余分な操作が必要ない分わかりやすいですし。それでは10か所分の転移門を残りの代金の為に頂きたいと思います。無論設定はジョーダンさんに御願いするつもりです。他の方には出来ませんから。

 具体的には国内移動用に大都市間の6カ所、あとは難民移動用に4カ所です。


 国内の大都市6か所はラツィオ、フロレント、ロンバード、ウェネティ、ネイプル、プーリャに転移門を置きます。これでスティヴァレ王国内ならどの場所であろうと100離200km以内で結ぶことができます。

 次に難民の移動が多かった地域。具体的にはネイプルの街とカステヤの街。あとは北部、パーマの街とベルナの街の間。パーマの市民や付近の農民はベルナで収容している様子ですから。

 これで10か所になります。このうち難民移動用は情勢が落ち着いたら撤去する予定です」


 なるほど。

「移動にかかる期間を最小限にしてその分正常化を早める方針ですね」

「ええそうです」

「でもそれでは利益は無いのでは?」

「難民や被害回復以外の民間等で大都市間の移動用転移門を使用する際、ある程度の料金を徴収すればいいでしょう。それに先ほど言いませんでしたでしょうか。権力者なんてのは正しくやろうとすればするほど単なる労役サーヴィスに近づくと」

 確かに。

 でもこちらとしたらありがたい。

 ならば俺も出し惜しみしないでおこう。

「材料はこの前採取してきたのでもう少し転移門を出せますけれど、どうしますか」

「なら難民移動用をあと2か所増やして、残りは南部の主要拠点を結ぶのに使おうと思います。南部地域はまだ道路や水路が未整備な場所が多いですが、これで補う事が可能ですから」

 なるほどな。

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