第49話 俺からの仕事依頼

「さて、それじゃここからはここに残るメンバーで意見交換してね。私とジョアンナさんは次の仕事のお話をするから」

「ジョアンナお姉ちゃん、行っちゃうの」

「今日はちゃんと帰ってくるよ。夕食は4人で食べよう。買ってくるから」

「わかった」

「それじゃお願いします」

 頭を下げて、裏口から先ほどの家に戻る。


「まずはここで話しましょうか。ここなら他の人に話を聞かれないようになっているみたいですしね」

「ええ」

 リビングのテーブルに向かい合うように座る。

 さて、いきなり本題と行くか。

「今回はまず仕事依頼という形でお願いしようと思います。依頼金額は正金貨35枚。本当はこれでも少ないですけれどね」

 森の家にあった正金貨全部である。

 既にサリナ達も半ば自立しかけているしこれを使っても大丈夫だろうと思ってだ。

 俺自身はお金が無くなったらまた冒険者業をやればいいだけだからな。


「いきなり大金ですね。それでどんな依頼ですか」

「スティヴァレ王国の内乱を終わらせる作業、及び政治体制を一変させる作業の依頼です」

 そう言ってふと思い出す。

 そうだ、この依頼は冒険者ジョアンナの姿でするべきではないな。

「あ、ちょっと待ってください」

 俺は立ち上がり、そして呪文を唱える。

「メタモルフォーゼでメイクアップ! 灰色のグレー幽霊ゴースト

 灰色のスーツ姿へと着替え。

 やはり感じる魔力の違い。

 この灰色、空間属性の強化服こそが俺の本来の力を引き出していると実感できる。

 冒険者のジョアンナではない俺の力を。


「今回の依頼はこっちの姿でお願いするのが正しいでしょう」

「それはジョアンナさんではなく、ジョーダン・シーザー元皇太子としての依頼と受け取っていいですか」

「依頼者はジョーダン・シーザー元皇太子の幽霊です。そう受け取って下さい」

 この辺はあくまで形式だ。

 でも形式もきっと時には必要だろう。

 特にこういった場合は。


「それで依頼内容の詳細を教えて頂けますか。それを聞いてから判断しますので」

 リーザさんも仕事の口調で尋ねてくれる。

 今はこの方がありがたい。

「具体的には次のような内容です」

 俺は資料その1を出してリーザさんに提示するとともに読み上げる。

「概ねこのような形で進めていこうと思っています。

  ① 王弟ベニート及びテーヴェレ侯爵の拿捕

    同時にロッサーナ第一王女及び王宮所在の王族の保護

  ② レティシア第2王妃及びメディオラ侯爵の拿捕

    同時に在ロンバートの王族の保護

  ③ 北部軍および王弟軍への原隊復帰の呼びかけ

  ④ 官僚機構の応急的な立て直し

  ⑤ 新しい政治体制の確立

  ⑥ 拿捕及び保護した王族・貴族の解放

 なお政治体制は最終的にこのような形になる事を目指しています」

 資料その2、昨日まとめた異世界の政治体制についての概略レポートを出す。

 確か立憲君主制と言ったな。

 王政と貴族による議会、民衆による議会の3勢力を併存させる制度だ。


「具体的には①番と②番の拿捕・保護作業は私自身で行います。③番以降も私が表に立つつもりですが、私1人では官僚組織や軍組織をまとめ、働かせることが出来ません。また⑤番はそれなりに官僚経験がある方に指揮をして頂かないとうまく事が運ばないと思います。

 ⑥番までの達成が今回の依頼です」


「ひとつ質問よろしいですか」

「何なりと」

 俺は頷く。

「全てが達成された後、貴方はどうされるつもりですか」

「私はあくまでジョーダン・シーザー元皇太子の幽霊です。幽霊は未練が無くなったら消え去るのみ。違いますか」

「立て直した責任を取って最後まで見届ける、そうはしないのですか」

「あくまで幽霊ですから。ジョーダン・シーザー元皇太子は死んだのです。公式にも政治的にも」


「わかりました」

 リーザさんは頷いた。

「ただこの件は私の一存で受けられる案件では無いようです。ですので一度持ち帰った後、判断させていただきます。ただその上で1件お願いがあります」

 何だろう。

「出来る事でしたら」

「私を連れてシデリアまでお願いしたいのです。大丈夫でしょうか」

 何故ここでネイプルでなくシデリアの話が出てくるのだろう。

 微妙に嫌な予感がする。

「大丈夫ですけれど」

「ありがとうございます。それではシデリアの冒険者ギルドまでお願いします」


 うわあっ。

 ここまで聞くと間違いない。

 こんな処でシデリアの冒険者ギルド支部長マスター、ラシアさんの登場か。

 まあ何となく予感はしていたのだけれども。

 まあ行くのは簡単だ……待てよ。

「ちょっと待ってください。向こうの出入口の設定をちょっと変えてきますので」

 確か向こうの事務所はふわふらたんぽこの面子以外を立ち入り禁止にしていたな。

 その辺も含めて解除してこよう。


 ロッカーから事務所に出る。

 まだここを離れてそんなに経っていないのに随分と懐かしい気がするな。

 扉や部屋を含めて魔法設定をガシガシ書き換える。

 元々俺の魔法で設定したので書き換えも簡単。

 さっさと書き換え、リーザさんの手を引いてロッカー経由でシデリアへ。

「わかってはいるんだけれどどうしても感覚的に違和感を感じるわね」

というリーザさんを連れて冒険者ギルドへ。


 支部長マスターはやっぱり受付席にいた。

「あらジョアンナさん、それにリーザさんお久しぶりですね。昨日はお会いできませんでしたけれどどのような御用件でしょうか」

「今回は私と言うよりこちらの方から仕事の依頼を受けたので相談に来たの」

 ジョアンナといわずこちらの方と紹介したところで支部長マスターがふっと目を細める。

「奥の部屋でお聞きしましょう。ここでは色々話せない事もあるようですから」

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