第48話 新しい仕事体制

 翌朝。

 美味しい食事を食べた後この高級宿を引き払う。

 それにしてもこういういい宿に泊まるのもいいものだな。

 風呂もあるし部屋のつくりなんかも今後の参考になる。

 カタリナが、

「この大きなふかふかベッド、お風呂の家にも欲しい! 3人で一緒に寝るの!」

と言っていたりもしたし。

 でも俺の仕事が終わる事にはカタリナも成長してそういう事を言わなくなっているかもしれない。

 だとしたら少し寂しいけれど。


 今日は3人で歩いて冒険者ギルドへ。

 まずは事務所でサリナ達の仕事の内容確認と契約だ。

 俺も一応オブザーバーとして同席。

 担当はリーザさんだから気楽だけれど。


「それでは勤務内容をまず確認してもらうわね」

 シデリアのギルドと同様のつくりのカウンターでリーザさんが一式書類を広げる。

「まず期間と報奨金について確認するわよ。

 期間は概ね半年から1年を目処にしているわ。具体的にはカナル村に隣接する開拓村あるいは街が出来て、正規の冒険者ギルドが立ち上がるまでの間。

 報奨金は前にも言ったとおり1人1日当たり正銀貨1枚半。それにプラスして住居の無償提供、魔獣や魔物の買取はこの勤務の報奨金とは別計算。他に魔法でお手伝いしてもらった際も別計算にするわ。だから今より大分安くなるけれど、それでもなんやかんやでプラスされて毎月にするとそこそこいい額になると思うわ。

 魔獣や魔物の報奨金は基本的には南部標準の金額。あと細かいお手伝いとか、新しい街用の土木魔法とかについてはその都度ギルドの基準に従って適正な額を提示する予定。ここまでいいかしら」

「わかりました」

「大丈夫です」

「わかった」

 リーザさんは頷く。


「では次、勤務内容ね。勤務そのものは常駐型。つまり基本的に誰か1人はカナル村にいること。でも魔獣狩りで留守にするとかちょっと買い物に行ってくるとかは別にかまわないわ。普通に住んでいる村人だって畑に仕事に行くしたまには街に買い物に行くでしょう。その程度の意味での常駐ね。

 仕事内容は近くの魔獣魔物討伐、村の防衛、あとは土魔法や水魔法、氷雪魔法、治癒魔法でできるお手伝い。ただお手伝いの方に関しては基本的に向こうに設けるギルド出張所で受け付けてお願いする形に統一するわ。そうしないと無料でこき使われたりしたら大変でしょ。その辺はいいかな」


 リーザさんは3人が頷いたのを見て続ける。

「今も言ったけれど、向こうにやはり常駐で冒険者ギルド及び商業ギルドの合同出張所を設けるわ。基本的な指示はその出張所の担当からお願いする予定。あとで見てもらうけれど3人のおうちも合同出張所の真裏よ。だから何かわからない事なんかがあったら出張所の方へ聞いてみて」

 こっちがサリナ以下3人なので色々ギルドの方で面倒をみてくれる体制になっているようだ。

 俺達としては非常にありがたい。


「あとこちらからのお願いだけれども、晴れた日は一日一回は空を飛んで付近の魔獣魔物を確認して、いれば討伐して。飛んでいるというのと討伐しているというのが村の人にもわかるように。そうすれば村の人も安心できるしね。

 討伐した魔獣や魔物は解体した後冷凍して出張所渡し。冷凍する分手数料を多めにしているからお願いね。こうすれば討伐結果もわかるしいざという際の食糧にも使えるから。この辺が新しい村の安心にとって大切なの。いいかな」

「わかりました」

「了解です」

「わかった」

 リーザさんは頷く。


「それじゃ向こうのおうちを確認してもらうわよ。ジョアンナさんも向こうのおうちで仕掛けるものがあるでしょ。だから一緒にどうぞ」

 色々わかっている相手がいると気が楽だ。

 そんな訳でギルドから飛行して難民事務所前へ、そして通路を通って新しい開拓村ことカナル村へ。

 門を出てというか村に入ってわりとすぐの場所にある小さな商店街風の通りから1本北側に入った通りの最初の家に入る。

「ここが住んでもらう予定の家。裏口でギルド出張所と繋がっているわ。家そのものはこの開拓村標準の作りよ」

 俺が作った家の1つだ。

 寝室2部屋、リビング&台所、倉庫という間取り。


 まずは各部屋を確認。

 窓には雨戸もつけられているし、部屋には最小限の家具も入っている。

 寝室のうち小さい方はベッドが1つと服用ロッカーが1つ。

 もう一つの大きい寝室の方はベッド2つとロッカー2つ。

 サリナ達にはちょうどいい配置だな。

 ここで寝るとしても悪くない作りだ。

 もともと魔法で作った土製の家は隙間風がほとんどない。

 壁や床、天井の隙間が全く無いからだ。

 勿論窓ガラスを入れ魔石で空調管理と照明までやっている森の家に比べると劣るけれど、普通の家よりは過ごしやすい筈。

 サリナ達なら魔法である程度部屋の気温も変えられるだろうし。


 さて、リビングにはいすやテーブルの他に、いかにもという感じの洋服ロッカーがあったりする。

「このロッカー、わざとですか?」

「この開拓村用の標準家具よ。扉と床板はちょっと細工してあるけれど」

 扉の蝶番が必要以上に頑丈そう。

 扉そのものもちょい厚めで、かつ内側からの覗き穴っぽい穴まで作ってある。

 ロッカーの床板も頑丈そうな厚い板。

 これ、どうみても転移門設置用に作っただろう。

 リーザさんの仕業に違いない。

  

「それじゃお約束通り、この中に仕込みますね」

 簡易型転移門を仕込んで起動すればOKだ。

 あとこのロッカーそのものにちょっと魔法で細工をしておこう。

 使用可能者をふわふらたんぽこの4人とリーザさんに設定。

 さらに万が一の時用に、この5人と手をつないでいる範囲はOKとしておく。

 ついでにこの家そのものにも魔法をかけておくか。

 この家の中で話している内容等が外に漏れないように。

 この手の魔法の効果は放っておいた場合は長くて半年程度。

 でも3人が住んでいる分には魔力も自然補充されるのでもっと長く持つだろう。


「移動は行き先が決まっているタイプじゃなくて、念じる方にしたから。シデリアの事務所の転移門も場所を選べるタイプに戻しておくよ。これで各拠点どこでも行き来できるから」

「そんなにあちこち移動先があるの」

 リーザさんなら聞かれてもかまわない。

「拠点がここの他に3か所あるので」

「反則技よね、いつもながら」

 リーザさんは苦笑して続ける。

「それじゃ家の方はいいかな、これで」

「大丈夫です」

「はい」

「うん」


「それじゃ出張所の方へ案内するわ」

 裏口から出ると目の前に別の建物の入口。

 そこを開けるとカウンター構造の部屋のカウンター内側、事務室風の場所に出た。

 男女3人が立ち上がってこっちを向く。

「ここの出張所を担当する3人よ。まずはここの所長チーフのサブリナ。商業ギルドからの派遣で基本的にここに常駐しているわ。主にこの村の資産管理や金銭関係の担当」

 優しそうな30前くらいの女性だ。

 この人も一緒にお風呂に入ると目と手の保養になりそうな感じ。

「よろしくお願いしますね」

 俺達も頭を下げる。

「次はこの村の危機管理や冒険者への対応を主に担当するカーレル。冒険者ギルドからの派遣。魔獣や魔物を発見したり退治したりした際の担当は彼になるわ」

「どうぞよろしく」

 好青年風の若い男性だ。

「最後に医療や農業支援を担当するエリザ。やはり冒険者ギルドからの派遣よ。この3人の中で唯一魔法が使えるわ。基本的には生命系統の魔法がメインだけれども。治療関係は基本的に彼女がするけれどもしエリザが不在だったり対象が多かったりする場合は協力してもらう事になるからよろしくね」

「よろしくお願いします」

 この人は20そこそこ位の若い女性。

 でも胸はサリナ並み程度。

 こういうのもまたそそるよな。


 次にリーザさんによってこっちも全員紹介される。

 なお俺は今回『3人の保護者』扱いだ。

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