第46話 夕食会で色々と

 2時間後。

 高級宿最後の夕食会がはじまった。

 勿論リーザさんを招いての会食だ。

 やっぱり場所は食堂では無く自分たちの部屋。

 オードブルからデザートまで全部並べた上での会食となる。

 形式としては本当はいまいちなのだろう。

 でもこうやって部外者が入らないようにした方が楽だ。

 色々気にせずに話せるし。


「みんな本当にありがとうね。おかげで難民対策も予定の数倍上手く行ったわ。それに今日招いてくれてありがとうね。ここの食事は美味しいんだけれど、自分で食べる事は滅多にないから嬉しいわ。実際もう何年振りかしら。ひょっとしたらラツィオからここに来た時以来かも」

 リーザさん、割と饒舌だ。


「そういえば何故魔法騎士団をやめて此処へ来たんですか? 無論言いたくない理由ならいいですけれど」

「内戦になる寸前に軍や政府機関からの撤退勧告が出たのよ、長寿族エルフの長老会から」

 おいおい。

 そんな事をあっさり言っていいのか。

 俺はリーザさんが長寿族エルフだって知っているけれど、3人は目を丸くしているぞ。


「リーザおねえちゃん、長寿族エルフなの?」

 一番怖いもの知らずのカタリナが質問する。

「ええ、そうよ。でも他の人達には内緒にしておいて頂戴ね」

 カタリナさん、綺麗に決まったウィンクとともにあっさり肯定。

「でも耳、普通だよ」

「普段は魔法で隠しているの。本当はこんな感じ」

 髪の中から先がとがった耳がぴょん、と出て来た。


「でもそれを見せたり話したりしていいんですか」

「見せたり話したりしては駄目という決まりはないわ。色々面倒だから各人がおおっぴらにしないだけ。でも口外はしないでね。面倒な人に付きまとわれたりする事もあるみたいだから」

「わかりました」

「絶対に言いません」

「わかった」

 3人の返答にリーザさんは頷く。


「実際長寿族エルフって割と社会に溶け込んでいたりするのよ。

 長寿族エルフの里なんてのも何カ所かあるけれど、だいたいにおいて変化が無くて退屈。だから300歳位までの若い長寿族エルフは大体こっちの社会に出てきているわ。そして結構いろんなところにいる訳。役所にも商店にも軍にももちろん冒険者にもね。

 年齢を取らないというので身近な人には割とバレるけれど、大体は職場も友達も黙認してくれるしね。長寿族エルフしか持っていない技術とか知識とかはそれなりに役に立つと見られている面もあるし」


 確かに俺が王宮にいた頃も結構長寿族エルフは王宮や軍のあちこちにいた。

 厳密には『年をとっても外見が全く変わらないのできっと長寿族エルフだろう』とみられていた人達というべきだろうか。

 自分が長寿族エルフであるという事を公言している人はほとんどいなかったと記憶しているし。


「ただ10年くらい前、王位を巡っての争いが起こりそうだという事でね。エルフ同士が戦う事を防ぐ為、この国の軍や中部以北の冒険者、役所勤めのエルフ全員に南部へ撤退するよう勧告が出たのよ。その前に情勢に嫌気がさして脱出したエルフもいたしね。

 私もそんな訳で9年前にここに来て、少し冒険者をした後、ここのギルドに拾ってもらった訳。そのころには冒険者ギルドも商業ギルドも国全体という組織を離れて南部だけで独立した独自運営になっていたから。

 まあその辺の事もあって、今この国の南部には結構長寿族エルフがいたりするわ。私に限らずね。まあ大体は皆長寿族エルフであることを隠しているけれど」

 その辺の事もあってシデリアの街には怪しい人がそこそこいた訳か。

 出来たばかりの開拓街になら北部から逃れて来たばかりでも居つきやすかっただろうし。

 長寿族エルフでは無いけれどあの服屋のおばさんも同じような理由でシデリアに来たのだろうな。


「あと、私がこの街にいるのもそれなりの理由もあるのよ。理由と言うか未練に近いんだけれどね。

 向こうで暮らしていた期間がそれなりに長いから、今でも友人や知人が向こう側、特にラツィオに残っていたりするの。

 正直な処中部や北部は酷い状況よ。税金はどんどん重くなるし犯罪組織の勢力なんてのも大きくなっている。まあ犯罪組織といっても自衛の為しかたなくなんて処から単なる大規模強盗団まで色々だけれどね。内戦で荒れて無政府状態な場所もあるし。

 南部でそれらの地域に一番近いこの街の冒険者ギルドに居れば、何かあった時少しでもあの人達が逃れて来た際に助けられるかなって」

「リーザおねえちゃん、偉い」

 カタリナの台詞にリーザさんは微笑む。

「ありがと。でも結局何もできていないんだけれどね」


 また少し俺は考えてしまう。

 長寿族エルフのいない王弟派軍や第2王子派軍を俺が倒すことは可能か。

 倒すだけなら可能だろう。

 別に驕っている訳でも自分の力を過信している訳でもない。

 単純に俺の持つ魔法の特殊性故だ。


 この世界では俺の本来の魔法である空間属性魔法は重要視されていない。

 せいぜい持ち運び自在な収納を作る魔法として認知されている程度である。

 重要視されていないから研究もほとんどされていない。


 だが幽閉されていた時代の俺にはこの魔法しかなかった。

 だから鍛えて鍛えて鍛えた。

 そしてある日、この魔法で偶然に異世界の書物を手に入れる。

 初歩の翻訳魔法で何とか解読したその本の知識が俺の空間属性魔法を変えた。

 単なる収納魔法から移動魔法、時間操作魔法、絶対切断魔法、消滅魔法へとつながる考え方を手に入れたのだ。


 更にこの魔法で異世界の物をある程度収集する事も出来るようになり、他の魔法についても新しい考え方を色々手に入れ、魔法全体を強化。

 挙句の果てに集めた知識と実力で『遺伝子書換・テロメア長回復装置』なんて作って生まれ変わった。

 実は装置に入った際、遺伝子レベルで魔力の強化なんて事までやってある。

 だからこの国の軍の魔法部隊であろうと、王宮直衛親衛隊であろうと、俺の魔法は理解できないし戦ってもおそらく勝負にすらならない。

 精鋭である長寿族エルフに抜けられた上分裂した状態の今ならなおさらだ。


 だが倒しただけでは駄目だ。

 余計混乱するだけだろう。

 倒すと同時に事態を収拾しなければならない。

 更に出来ればこのような事態が二度と起きないような方策をとれればベストだ。

 政治体制を変えるとか。

 魔法以外にも集まってしまった異世界の知識でそれなりの政治体制なんてのも思いつかないわけではない。

 ただ俺1人ではそこまでやるのは無理だ。

 何か方法は……


「ふうっ。おなかいっぱい」

 カタリナのそんな台詞で俺は思考から引き戻される。

 取り敢えず今考えた事は一度保留にしておこう。

 何故なら俺にはその前にやらなければならない事がある。

 

「リーザさん、よろしければお風呂に入っていきませんか。ここの宿のお風呂でなくうちのお風呂ですけれど。広さはここのお風呂よりもやや狭いですが、髪を洗うのに便利な道具もありますし、石鹸も髪を整える薬も揃っていますよ」

 そう、お風呂だ。

 リーザさんの胸の感触を確かめる事こそ今の最重要事項だ。

「気持ちよさそうね。でもお邪魔していいかしら」

「どうせ皆でこれから入りますし、1人くらい増えても平気な程度には広いですよ。タオルもお客様用がちゃんとありますから」

「それじゃお願いしようかな。最近忙しくて街のお風呂にも入っていないのよね」

 よし!

 俺のここ数日の野望、今ここに!

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