第44話 サリナ達の成長
住宅の方は色々動きがある様子。
道路部分で木材を加工したり扉を作ったりと結構な人数でやっている。
既に窓や扉が出来た家もあるようだ。
俺達はそんな景色が良く見える出来たばかりの堤防の上へと腰を下ろす。
「昨日は食べられなかったからな、このお弁当」
「昨日のは美味しかった。今日のはどうだろ」
弁当の箱を開いてみる。
やっぱり美味しそうだ。
今日のメインは焼いたアヒル肉と野菜を挟んだサンドイッチ。
パンは普通のパンではなく白くてちょっともっちりした感じ。
それにちょっとだけ甘いタレが入っている。
他にチーズサンドとハムサンド、ポテトサラダサンド。
こっちの方は普通の田舎パンのサンドイッチだ。
やっぱりこういう場合はメインをまず味わいたいよな。
そんな訳でアヒル肉の方をガブリ。
うん、皮の香ばしさと野菜の葉っぱのちょっとした辛み、タレの甘酸っぱさが混じって非常に美味しい。
「昨日もこれだったんですか」
「昨日はカツサンドがメインだったわ」
ああそっちも食べてみたかった。
そう思った時だ。
俺の感覚が良く知っている気配を捉えた。
狼魔獣の小規模な群れだ。
しまった、もう少し注意しておけば良かった。
でもまだ開拓村内で作業している皆さんは気づいていないようだ。
ならちょっと言って片付けてくるかな。
そう思って食べかけのサンドイッチを置いたら。
「ジョアンナお姉ちゃんはここで食べていて下さい。私が片付けてきます」
サリナも既に気づいていたようだ。
まだ距離は
並みの冒険者ならこんなの絶対わからない距離だ。
「わかったの?」
「狼魔獣、おそらく7匹ですね」
間違いない。完全にわかっている。
なら任せてみるか。
今のサリナの実力的には問題ないと思うし。
「ならお願い。住宅作業中の皆さんが怖がらないよう、ささっと片付けてきて」
「わかりました」
サリナが立ち上がり飛行開始。
それにしてもサリナ、この距離で狼魔獣を感知出来るところまで成長していたか。
思った以上だ。
「カルミーネとカタリナは気づいた?」
「すみません。今の会話でやっと気づきました」
「私はわかんなかった」
なるほど。
「じゃあカルミーネ、内訳わかる?」
「うーん、狼魔獣のうち灰色が2頭、黒が5頭です」
「正解よ」
カルミーネ君もこの距離で内訳まで感知出来る模様。
思った以上に進歩しているんだな。
カタリナも簡単な魔法の気配は感じるようだし。
これなら俺がいなくても普通の魔物討伐なら充分対応出来るだろう。
Dランクの冒険者としての能力は充分だ。
1時間くらいは飛行も出来るし並みのDランクよりは上かもな。
見かけ上は普通にサンドイッチを食べつつサリナに何か起こりそうならすぐに飛んでいける体制で待つ。
だが全く心配する事はなかった。
サリナは狼魔獣に気づかれないよう一気に高速で高空へと上昇。
作業員のみなさんも気づかない位の高空から魔獣の方へ。
そろそろ魔獣の上空付近かなと思った辺りで強力な寒冷魔法の気配がした。
同時に狼魔獣7頭全部の気配が消滅。
気づかれない位の高空から魔法で一気に倒したらしい。
あっさりというか何と言うか。
確かにサリナの魔法は狼魔獣向きだけれどそれにしても鮮やかだ。
この辺についてもう俺が口出しする事はなさそうだ。
むしろ俺が窒息魔法を使って倒すよりも鮮やかかつ早い気もするし。
それに魔獣の解体、サリナは出来るようになったけれど俺は解体現場に近づくのさえ未だに苦手だ。
だから魔獣退治に限れば俺よりサリナの方が総合的には上かもしれない。
サリナは一気に下降してさっと低空飛行したまま獲物を回収。
そのまま建物の屋根よりやや高い程度の高さまで上昇、今度は普通にまっすぐ飛行して戻ってくる。
何があったのか全く気づいていない住宅作業中の皆さんに空中で手をふったりしながらだ。
「終わりました」
本当に大した事無かったとう感じで普通にさっきまで座っていた場所へと戻る。
「何かもう、サリナちゃん1人いればこの付近の魔獣退治に他の冒険者は必要無いような気がするわ。この距離で気づいてこの時間で倒すなんてDランクじゃないでしょ、もう」
「でも多分カルミーネも出来ると思います。それに狼魔獣の討伐については何度もやって教えて貰いましたから」
「もう私よりサリナの方が上手よ。私だともう少し時間がかかるわ」
そこでリーザさんがにやりと怪しい笑みを浮かべる。
「この開拓村が出来た後もしばらく常駐して貰えると助かるわよね。勿論カルミーネ君もカタリナちゃんも。そうすれば魔獣の心配をしなくていいし、塀や掘、家の修理なんかがあっても安心だし」
「でもカルミーネ君は自宅がシデリアにありますしね」
「どうせあの装置でシデリアにも行けるようになっているんでしょ。何なら一軒この開拓村での拠点として使ってもいいわ。そうすれば実質行き来自由でしょ」
図星だけれどさ。
お世辞じゃ無く本気で言っているように聞こえるのが洒落にならない。
頼むからリーザさん他人のパーティを分断させないでくれ。
◇◇◇
昼ご飯を終えたら最後の作業、掘作りに入る。
狼魔獣が出たという事はやっぱり作っておいた方がいい。
住宅地域だけでなく畑まで含めてぐるりと周りを掘ってやる。
猪魔獣なんて出てくると畑が酷い事になるからな。
ただの猪は泳げるのだが猪魔獣は泳げない。
持ち魔法が雷撃等と電撃系統だからかもしれない。
掘って出た土を防護壁にして熱で固めて、最後に沢筋を変更して水を流してやれば完成だ。
熱担当のリーザさんがいるから楽ちんこの上ない。
結構広大な地域を囲んだのだけれど1時間もかからず作業は終了した。
「これでこの開拓村も一応完成ですね」
「ハードはね。難民の皆さんが移住前の暮らしに戻れるかどうかは何とも言えないわ。一応援助は領主の方からある程度あるけれど。
それにここの村の農業が軌道にのったとしても、生活そのものは結構ギリギリになると思う。南部一帯はまだまだ道路や水路なんかも整っていないし産業だって農業くらい。交通路の魔獣対策なんてまだまだ先。本当はお金をかけてこれから色々整備しなければならない処よ。でも今はとてもそんな余裕は無い。難民対策だけじゃなく内乱に備えた対応もしなければならないしね。
それでもまだ内戦最中の北部や中部より少しはましかな」
確かにそうだな。
戦乱になっていないだけまだましか。
内戦が無くてもう少し南部も余裕があれば、フィアンの村の人達ももう少し豊かだっただろうか。
そういえばあそこも開拓村だよな。
サリナやカタリナの両親も北の方から流れてきたと言っていたし。
ひょっとしたら2人とも難民だったのだろうか。
だったらサリナやカタリナも内戦が無ければ……
「まあ難しく考えても仕方ないわ。私達は私達がやれることをやるだけよね」
やれる事をやるだけか。
それが意見としては正しい事は間違いない。
でもそれには俺には何か他の人よりやれる事があるような気がするのだ。
俺にしか出来ないやれる事、やるべき事が。
「リーザさん、もし俺がしばらく留守にするからあの3人をお願いしますと言ったらなんとかしてくれますか」
「あの3人はここやシデリアで充分やっていけると思うわよ。勿論私やラシアもそれとなく目を配る位の事はするけれど。
私から俺に戻って何かをする気なの?」
言われて今の台詞の一人称が俺になっていた事に気がついた。
「まだわかりません」
何をするか、何処までするか、まあ何も具体的に考えていない。
ただ俺が救えなかった場合のサリナやカタリナを増やさないためにも、俺にやれる事があるような気がするのだ。
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