第43話 水害対策実施中

 翌朝。

「あれお姉ちゃん、髪を切ったんですか?」

 顔を合わせたとたんサリナに気づかれた。

「ちょっと気分転換にね」

「今のも似合っています。綺麗です」

「ありがとう」


 灰色の強化服コスチュームについては取り敢えず言わなかった。

 あれを使う時は1人だけの時でいい。

 このメンバーの時は使うつもりは無い。

 脱いだ時に思ったのだが、あれを着装するとどうも微妙に違う自分が変わってしまうような気がしたのだ。

 少し攻撃的な自分に。

 勿論昔、若返る前の俺ほどじゃないけれども。

 鬱屈でねじ曲がって自分以外全てを冷めた目で見ていたあの頃の俺ほどじゃないけれども。

 今の俺は冒険者のジョアンナだ。

 冒険者パーティふわふらたんぽこの代表者でサリナとジョアンナの姉の。

 そう自分に言い聞かせる。

「さて、それじゃ朝食に行きましょうか。今日も豪華だと思うわよ」

 そう3人に言って、そして食堂へ。


 ◇◇◇


 やっぱり豪華な食事を食べ、しばらく待っているとリーザさんが現れた。

「どうですか、冒険者ギルドや難民事務所の方は」

 リーザさんは苦笑する。

「皆さん絶句していたわ、やっぱり。

 でもこの際使えるものは有難く使おうという方針。ただ何人かはどうしても信じられなくて何度も行ったり来たりを繰り返していたけれど」

 うんうん気持ちはわかるというようにサリナとカルミーネ君が頷いている。


「そして今日、建具職人や家具職人等の木工その他関連業者があの通路を通って現地確認を行う予定。材料等もあの門を経由して運び、今週中できるだけ早いうちに住環境を固めてしまおうとの方針。明日からは農業指導班と難民の先行隊が向かうことになってるわ」

「その辺の手配も早いですよね」

「昨日から既に依頼をしてたしね。ただ本来は川に荷船や木材を浮かべ、馬で引いていく計画だったの。まさかあんな通路が出来るとは思ってなかったけれどおかげで更に移住計画が早く進むわ。

 あの村を完成させれば難民の移住計画もほぼ終わり。農民以外の難民については近隣の各街などに既にお願い済みで、今日から移動を開始する予定だから」

 この辺の手筈も見事だよな。

 ここの事務所は有能だなとつくづく思う。


「ならこちらも今日であの村の作業を終わらせましょう。あとは堤防と浚渫、掘作りですね」

「まあ今までとんでもない魔法ばかり見ていたから出来ると思うけれどね。でも冷静に考えるととんでもない事をしているのは確かだわ」

 そんな事を話しながら事務所の前まで飛行して下りる。

「ちょっと待って。事務所にお弁当が届いている筈だから見てくる」

 リーザさんがだーっと事務所に入って行き、大きな包みを抱えて戻ってくる。

「届いていた。私の保管庫だと保温機能とか無いからそっちでお願いしていい?」

「私が預かります」

 サリナが自分の収納庫へと仕舞う。

「そういえば昨日のお弁当食べそびれたけれどどうだった?」

「美味しかった!」

 味にうるさいカタリナがそう言うなら美味しいのだろう。

 楽しみだ。


「さて、移動する前にリーザさん、私と同じ呪文を唱えて下さい。『飛装着装! 土装着装!』。あとサリナはこれを読んで」

「飛装着装! 土装着装!」

土妖精ノームさんお願いします! 土装着装!」

 今度の装備、俺とリーザさん用は比較的簡易な形だ。

 飛行装備は両腕の腕輪のみ、土魔法装備は指輪だけ。

 ただ増幅の関係上、サリナの土魔法装備は指輪2つ&やや太めのベルトとちょい多めになっている。

「サリナの土魔法装備はカルミーネの強化衣装コスチュームとほぼ同程度の土魔法の力を持っているわ。私とリーザさんのは使用できる魔法属性を増やす方をメインにした簡易型だけれど」

「私の土魔法のは?」

「カタリナは今日もお水の仕事がいっぱいあるから後でね」

「うーん、わかった。でも後で欲しい。お姉ちゃんみたいに家を作りたい」

「わかったわ。ちょっと今の仕事が終わってからになるけれど」

 なんて会話をしている横でリーザさんが絶句している。


「どうかしましたか、リーザさん」

「……怖いもの知りたさで聞くけれどね。ジョアンナさんこんな国宝級の魔道具、どれだけ在庫持っているのか聞いていいかしら?」

「これは昨夜作ったんです。ただサリナ達のと比べると増幅機能は弱めで、飛行魔法や土魔法を使えるようにする事を重点に作っていますけれど」

「そんなのって……まさかと思うけれど、この衣装コスを含めひょっとして全部ジョアンナさんが作ったなんて事は……」

「実はそうです。でもあまり口外しないでください」


 ちょっと無言の間。

 そしてリーザさんは大きな大きなため息をつく。

「……もう何だか問題外の世界ね。人間より遥かに進んだ魔法を持っていると自負しているエルフの長老が聞いたら泣いちゃうわよ、思い切り」

「泣くんですか」

「長老と言っても見かけは20代の女の子だから。本人も普段はそのつもりだし」

 おい待て長老だろう仮にも。

 何だか長寿族エルフもたいがいだと思うぞ。

 見かけだけでなくて精神的にメンタル


 さて、通路を通って開拓村予定地へ。

「今日は皆空を飛べるから、みんなで川の上を飛行しながら作業をするよ。まず底の土を掘って堤防を高くする作業。掘る部分は川の流れの中央部分を幅2腕4m、深さ2腕4m。堤防は両方ほぼ同じ高さになるように盛ってね。

 まずはカルミーネ君が上流に向かって中央から右の川底を掘って右の堤防へ。サリナが中央から左を同じように掘って左の堤防に盛ってね。

 カタリナは堤防の上に盛った土から水を抜いて川へ戻す作業。私がカタリナが作業をした後の堤防を整形する作業。リーザさんは私が整形した堤防に熱を通して固める作業をお願いします。

 それじゃいいかな」

「わかりました」

「了解です」

「わかった」

「私もいいわよ」

 よしよし。


「それじゃ作業開始!」

 そんな訳で川の浚渫と堤防作成の作業が始まる。

 流石にこの人数でかかれば楽に早く完璧な堤防が出来る。

 堤防そのものは以前より約1腕2m程度の嵩増しにすぎない。

 でもリーザさんが焼いて固めてくれるので堤防全体が一枚岩に近い強度の構造物になっている。

 しかも川底をしっかり掘ったので流せる水量は格段に多くなる筈。

 これなら相当凶悪な洪水が来ても耐えきるだろう。

 下流側から始めて上流のカーブの先まで約3離6km

 少し川筋を曲げてカーブをゆるやかにしたりしつつ、何とか昼前に堤防工事は完成した。


 流石に3人は魔力あとちょっと状態だ。

「とりあえずお弁当にしましょう。食べたら休んでいいわ。あとは私とリーザさんで掘兼用水を作るから」

 こちらの水は川からではなく山側から流れる沢水を使う。

 作業としては今の浚渫&堤防づくりより遥かに簡単だ。

 だからお弁当を食べた後、2人でそう苦労する事無く完成するだろう。

「なら村の方へ行ってみない? 家の方の作業がどんな感じか見てみたいから」

「そうですね」

 そんな訳で飛行して村の方へと戻る。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る