第9章 次の仕事の前に
第42話 ジョアンナは夜なべをして
サリナとカタリナ、2人とも寝てしまった。
カルミーネ君も隣の部屋でもう寝てしまっているようだ。
だが俺はなかなか眠れない。
元々眠る時間は短くても大丈夫な方だ。
しかも今日はぐっすり昼寝をしてしまった。
そのせいでまったく眠気が襲ってこない。
よし、久々に一人で活動するか。
俺は起きて、隠してある転移門を使って森の家へ。
「メタモルフォーゼでメイクアップ!
風の
いや、これじゃない。
今は俺1人だ。
そして俺は過去の記憶も取り戻している。
ならば一番俺にふさわしい
「メタモルフォーゼでメイクアップ!
着装と同時に力が湧き上がってくる。
しっくりとくるこの魔力。
そう、空間操作を主体とするこの魔力こそが俺本来の魔力であり魔法だ。
閉じ込められ逃げようのない日々の鬱屈が生み出した歪みの魔力。
歪め閉じ込め盗み見て切断する、見えない空間そのものを操る異形の魔力。
これこそが本来の俺の魔力だ。
無論今の俺は過去の俺ではなく冒険者のジョアンナ。
だが俺であることは変わらない。
感覚的には最大時の魔力の9割程度は戻っている。
無論以前は
でも一応今の力を試しておこう。
必要になった際に使えるように。
『移動』
この状態の俺には可愛くとかそういう付帯強化は必要ない。
あっさりと付近の景色が気温が全て変わる。
この状態の俺に転移門も必要ない。
あれはまだここまで力を持っていなかった時代、何とか他の場所へ移動するために作った道具だ。
今の俺はそんなものなくとも自由に移動できる。
必要なのは軽く移動を意識するだけ。
ここはスティヴァレ王国の最北部にそびえる通称『
この付近一帯の最高峰だ。
この地にはある生き物が棲んでいる。
伝説ではかつて神に逆らったが故にここに封印されたという強大な怪物、四大竜のひとつ白竜が。
吹雪とともに金属を擦り合わせるような凶悪な咆哮が聞こえる。
奴らが俺の魔力に気づいたようだ。
「我が魔力の形を覚えていたか。怪物らめ」
そう、単数形ではなく複数形。
伝説と違い白竜は単独ではなく、この山脈の高峰頂上近くに小規模の群れを作って棲んでいる。
神に逆らったとかそういう理由ではない。
単に極寒の地でないと長時間いられないからだ。
大きく強力になり過ぎたが故に放熱が通常の場所では追いつかないから。
無論食料を狩りに出るときはこの極冠の地からやや温暖な場所へと出向く。
だが1週間は持たずに極寒の地へ再び戻る。
そうしなければ生きられないからだ。
大昔、卓越した魔道の力で作られたという話があるが本当かもしれない。
魔獣としても魔物としても異形過ぎ、大きすぎ、強大すぎる。
残念ながら確かめる術は無いけれど。
だが俺にとってはその辺の理屈は今はどうでもいい。
俺が復活したかの力試しにふさわしい化け物という点と、その強大な力故に素材として色々役に立つ点。
その2点だけが今は重要だ。
ジュワッ!
奴らの放つ熱線が永久氷河をえぐる。
狙った筈の俺は既にそこにはいない。
いくら奴らが化け物と言えど、自由に動ける軸が3つしかない世界に閉じ込められている以上俺の敵ではない。
自由に軸を曲げられるばかりか、場合によっては他の軸すら使える俺の敵では。
ジュワッ!
ジュワッ!
二方向から熱線がやってくる。
だが見えている。避けられる。
俺が脅威を感じるような攻撃ではない。
白竜3匹が飛び立って俺を囲もうとする。
俺は軽く魔法を発動するだけで移動する。
理解した。
既に俺の力はこいつらで試せる
ならばさっさと終わりにしよう。
「収監」
認識している5匹の白竜すべてが光学的視界から消える。
単に閉空間を作って閉じ込めただけだ。
それでも奴らはもうなすすべが無い。
有限だが終わりのない世界でただ途方に暮れるだけだ。
それほどの知能があればの話だが。
まあ慈悲をもって直ちに殺処分するけれど。
そうしないと
全てあっさり終わらせて森の家に戻る。
面倒なので白竜は
角をこのまま簡易転移門に加工するにはちょっと魔力が強すぎる。
でも角部分を適当にカットして木製の容器に入れれば簡易転移門の機能を果たす代物は簡単に作れそうだ。
屋上に置いたままになっている丸太を次元魔法でカットしてそのまま目の前に異動させる。
多次元的方法で穴を表面に開けずに中に角の一部を埋め込み、更に内側に多次元魔法と高熱魔法を使って特殊魔法陣を描けばいいだけ。
形は門らしくないが一応これであの簡易転移門と同等の機能はある。
あの簡易転移門は職人に同じ形を確か30個作らせ、その中に角を埋め込んだんだよな。
結構使ったので今は残り10個少々。
だが職人さんに御願いする時間が無いので当座はこれでいい。
あとはこの
この灰色の
白竜と闘ってそう感じた。
無論あの頃の真っ暗な感情は今はあまり無いけれど。
男性的な
確かズボン形式の型紙は残っていたよな。
この灰色の布地もまだ在庫はある筈だ。
衣装そのものは別に作成して強化機構だけを移植すればいいだろう。
サイズはどうせ魔法的に可変させるから肝心なのはデザインだ。
確か何処かの異世界の男性用衣服の型紙があったな。
それをそのまま流用させてもらおう。
保管庫から型紙10枚をと布地を取り出し、魔法でばっさりカット。
ミシン2種類でかがったり縫ったりすれば完成だ。
このミシンという道具、何気に非常に便利だ。
動力も足踏み式だし作成するための材料もほぼこの世界で揃う。
いずれどこかの鍛冶工房で量産すれば金もうけが出来るだろうか。
でもそうしたら服屋の半数は廃業になるかな。
そんな事を思いながらミシン作業。
俺が着装していた灰色の女子衣装から機構を外し、縫い合わせば完成だ。
作業の都合上現在俺は全裸だが、別に見ている奴がいないのでどうでもいい。
最近は魅せるのもまた快感に変わりつつあるけれど。
カルミーネ君が恥ずかしがるのを見てだんだん癖になって来たから。
さて、試着しよう。
「メタモルフォーゼでメイクアップ!
前の
鏡で見て確認する。
確か異世界で『スリーピーススーツ』と呼ばれているデザインだがなかなかしっくりくる。
内側に白のブラウスを重ねると特にいい感じだ。
だがこれだと今の俺の髪型が似合わないな。
なのでちょい短めに魔法でカットする。
うん、このくらい中性的だとどっちの
ついでだから下着やブラウスも呪文で同時装着するように設定。
うん、こっちの方がこの
そうだ、強力な魔石を手に入れたから飛行用の着装具をもう少し作っておこう。
少なくとも俺用とリーザさん用があれば便利だよな。
あと土魔法用の着装具も作っておくか。
毎回カルミーネ君を脱がすのも申し訳ないし。
そうすれば飛行用は1つでいいかな。
でもどうせ作るなら1個も2個も手間は変わらない。
なら飛行専用を3個と土魔法用を2個作っておこう。
今回手に入れた白竜の魔石を全部放出だ。
いや今度の着装具は1個を除けばそんなに強力な魔石でなくてもいいよな。
俺とかリーザさんなら本来の魔力が充分あるから。
なら在庫があるもっと安い魔石で作ってもいいか。
サリナの土魔法用だけ白竜の魔石を使った強力版にして。
窓の外を見るに朝までもう少し時間がある。
これくらいなら皆が起きるまでに充分作れるだろう。
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